やはり俺の艦隊ラブコメはまちがっている。   作:いろはす@

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第20話:加賀さんがふたり

水煙の中から飛び出して来た横須賀の旗艦は、果敢に艦載機を放ってきた。炎の中から流星改二(六〇一空熟練)が姿を現す。雷撃狙いか・・・

 

 

まさか、仲間が全滅してもまだ諦めないとは・・・この状況での反撃は、さすがに予測できなかった。ここは反応が遅れた加賀さんたちを責めるよりも、相手の執念を讃えるべきだろう。

 

 

それでも制空権はこちらにある。超低空飛行で迫る敵機は、我がショートランド艦隊の直掩機と対空砲火の前に、ペイントまみれで次々墜ちてゆく。しかし、彼らはまるで母艦の執念が乗り移ったかのように突撃を止めず、ついに最後の1機が魚雷を投下した。だが射点が遠い。味方の空母たちは、余裕をもって回避運動に入っている。あれなら大丈夫だろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瑞鶴!直上!」

 

 

加賀さんの叫びと同時に水柱が上がり、翔鶴が吹き飛んだ。

 

 

「翔鶴ねぇ?!」

 

 

自らを庇って被弾した姉に、瑞鶴が悲鳴にも似た声を上げる。

 

 

「翔鶴改二大破!轟沈判定!」

 

 

「なん、だと・・・?」

 

 

思わず立ち上がり、双眼鏡を左右に振る。

 

 

「くっ・・・!そういうことか・・・」

 

 

低空からの突撃は囮。本命は上空からの急降下爆撃だったのか。雷爆兼用の流星改二を活かした、見事な戦法だ。流星シリーズは雷撃機、という固定観念を完全に逆手に取られちまった・・・結果的に隙を突かれた瑞鶴の身代わりで、翔鶴ねぇが直撃を食らったって訳だ。

 

 

こちらの注意を雷撃隊に引き付けておいて、がら空きの上空から艦爆隊で一矢報いる。あの戦い(ミッドウェー海戦)を地でゆくとは、さすがは学年首席のゆきのん、ってことか・・・

 

 

だが、これであっちは完全に「詰み」だ。すぐさま立ち直った加賀さんが、的確に指示を飛ばす。

 

 

「待機中の全攻撃隊に下令!残敵を撃滅すべし!目標は・・・正規空母加賀!」

 

 

攻撃対象として自らの名を口にするのは、たとえ演習であっても複雑な思いがあるのだろう。毅然とした加賀さんの声に僅かな躊躇いが混じるが、その手際に乱れは一切ない。

 

 

一方、自身の運命を悟ったのか、横須賀の旗艦は静かに空を見上げていた。そこへ、翔鶴ねぇの仇とばかりにこちらの攻撃隊が殺到してゆく・・・

 

 

・・・すでに勝敗は決した。反撃手段を失った彼女にこれ以上追い討ちをかけるのは、徒にその誇りを傷付けるだけだ。それはもはや、演習と呼べるものじゃない。

 

 

「攻撃中止!」

 

 

そう叫ぼうとした俺は、危うく言葉を呑み込んだ。彼女はなおも凛として前を向き、敗北の瞬間を待っていたのだ。その姿はまるで、横須賀鎮守府と自身の誇りを傷付けまい、としているかのようだった。ここで下手に情けをかけるのは、却って失礼だろう・・・

 

 

そして俺は、大量の魚雷と爆弾を浴びる彼女を最後まで見届けた。

 

 

「加賀改二戊、大破!轟沈判定!横須賀鎮守府、全艦行動不能!」

 

 

だが、女の子座りで海面に両手をつき、自慢の黒髪を乱しながらも、その目はまだ光を失っていない。

 

 

その瞬間、俺が彼女に感じた嫉妬と羨望は、間違いなく本物だった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けたよ、比企谷。敵ながら素晴らしい作戦だった。まさか南雲機動部隊で来るとはな」

 

 

爽やかな笑顔で右手を差し出してくる葉山。

 

 

「よせ。いまさら友情ごっことか、ハードル高過ぎるわ」

 

 

俺の言葉に今度は苦笑いを浮かべる、横須賀のイケメン。傍らの秘書艦は、その横顔をうっとりと見詰めている。っていうかさっきからこの子、何もしてないよね?

 

 

「ところで比企谷・・・もしこちらが潜水艦娘を出していたら、どうするつもりだったんだ?」

 

 

確かに、そうなっていたらお手上げだった。正規空母に対潜能力はないからな。だが・・・

 

 

「この辺りの海は浅くて透明度が高い。つまり潜水艦が行動するには最悪の環境だ。常識派のお前が、そんな危険を冒すはずがないだろ」

 

 

「・・・君を見ていると、自分が惨めになってくるよ・・・」

 

 

は?三拍子揃った御曹司が何を言っていやがるんだ?何を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰投した両軍の艦娘たちが桟橋に並ぶ。その様子は、演習結果をそのまま表していた。横須賀のメンバーは全員ペイントまみれで俯き、特に集中攻撃を受けた加賀改二戊は酷い有様だった。一方、我がショートランド艦隊は、被害担当艦になった翔鶴ねぇを除いて、ほぼ無傷。まずは完勝と言ってよいだろう・・・ん?

 

 

うっ!?い、イカン。視界の隅に大破した時雨たんの姿が!今すぐガン見したい俺ガイル。い、いや、ダメだ!破壊力が強すぎる!まともに見たら確実に俺の12㌢単装砲が暴発必至なのです!さようならショートランド!こんにちは憲兵さん!

 

 

色んな意味でカチンコチンになっていた俺の横で、葉山がマイクを握る。ってかそれ、どっから持ってきたんだよ?

 

 

「お疲れ様。みんな素晴らしかったよ。俺も勉強になった、有り難う」

 

 

爽やかなコメントに敬礼で応える艦娘たち。何でヤツが綺麗に纏めてやがるんだ?確か勝ったのって俺だよね?ホントに解せぬ。

 

 

と、横須賀の加賀さん(雪ノ下)が進み出てきた。ん?なに、俺みんなの前で罵倒されちゃうとか?

 

 

「このような姿で失礼します。本日付で横須賀鎮守府よりショートランド前進鎮守府へ異動となりました、航空母艦加賀です。以後、どうかお見知りおきのほどを」

 

 

大破状態をものともせず、完璧な敬礼を見せながら着任の挨拶をする横須賀の加賀さん。ほぅ・・・そいつは加賀さんご苦労さん・・・って、駄洒落を言ってる場合じゃねぇ!

 

 

「比企谷、約束通り艦娘を1名、君のところへ異動させる。うちのエースだ。大事にしてやってくれ」

 

 

はい?・・・って時雨たんはどうした?!艦娘チェンジで!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・で、ところ変わって帰投する葉山たちのお見送り。横須賀行き二式大艇ちゃんのプロペラが回り始める。結局、時雨たんの大破姿は拝めなかった。解せぬ。

 

 

「比企谷、その・・・雪乃ちゃんを宜しく頼む」

 

 

「・・・そんな名前の艦娘を預かった覚えはない」

 

 

俺の返しに苦笑した後、葉山は真顔になって続けた。

 

 

「彼女の・・・雪乃ちゃんの努力は並大抵のものじゃなかった。艦娘養成学校始まって以来のスピード卒業だったらしい」

 

 

突然、問わず語りを始めるイケメン。やっぱナルシストなの?

 

 

「彼女が艦娘になると聞いて・・・俺はあらゆるコネを使って横須賀鎮守府に着任させたんだ」

 

 

いきなりどうした?死亡フラグか?悪いが他所でやってくれ。

 

 

「着任してからも、雪乃の頑張りは凄かった。あっという間に練度カンストさ。だから結婚を申し込んだ」

 

 

念のため聞くが、それ『ケッコン』の方だよな?で、これ以上、俺にどうしろと言うのです?友人代表でスピーチしろとか?あ、そもそも友達じゃなかったわ。泣ける・・・

 

 

「それなのに、彼女はどうしても行かなければ・・・って。この演習も彼女の希望だった・・・何故俺じゃないんだ?!どうして君なんだっ?!」

 

 

「・・・南の島で紅茶でも飲みたかったんだろ・・・」

 

 

僅かに顔を歪めるイケメン提督。なかなかいい表情だぜ、葉山。

 

 

「比企谷・・・俺は君のことが嫌いだ」

 

 

初めてヤツの顔に本音が宿る。

 

 

「そうか、珍しく意見が一致したな。俺もお前が大嫌いだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さくなってゆく大艇ちゃんを見送ってから振り返ると、彼女(雪ノ下)が立っていた。入渠してきたらしく、仄かに石鹸の香りがする。面と向かって話すのは、修学旅行以来か。思えばずいぶん遠回りをしたもんだな。

 

 

「ひ、久し振りだにゃ」

 

 

いきなりヲワタ(噛んだ)

 

 

「ええ、久し振りね」

 

 

今のを()()()()()とは、大人になったな、ゆきのん。そして・・・

 

 

「やっぱり貴方のやり方、嫌いだわ」

 

 

まぁ、そうなるな。

 

 

「あんな戦術・・・実戦では通用しないわ!立案した貴方も、実行した艦娘たちも、机上の空論に酔っているだけよ!」

 

 

そうきたか・・・

 

 

「何と言われようが、俺は構わない。確かに作戦を立てたのは俺だからな。けど・・・」

 

 

雪ノ下の瞳を真っ直ぐ見詰めながら言う。

 

 

「全力で戦った艦娘たちを悪く言うのは、止めてくれないか」

 

 

それは俺たちだけじゃなく、横須賀の艦娘たちをも侮辱することになる。

 

 

すると、はっとしたような表情で恥ずかしげに顔を伏せるゆきのん。

 

 

「ご、ごめんなさい・・・私、どうかしていたわ・・・」

(な、なんて威力の不意打ちなの!?これはやはり私が側にいなければ・・・)

 

 

こっちも何となく照れくさいので、話題を変える。

 

 

「雪ノ下、そういえば生徒会長はどうしたんだ?まさか誰かに丸投げしたとか言わないよな?」

 

 

前も誰かとこんな遣り取りをした覚えが・・・気のせいだよね?きっと・・・

 

 

「へ・・・?も、勿論よ!誰も由比ヶ浜さんなんかに押し付けたりなんてしていないわ!」

 

 

嘘をつくのが苦手なゆきのん。しかし、何が彼女をそこまで駆り立てたのか。やはり解せぬ・・・

 

 

「そ、それに、やはり私が生徒会長をやるのはまちがっている、とか?」

 

 

それ、一色と同じじゃねぇか!

 

 

「まぁ、ここには一色やルミルミもいるし。他のみんなも是非頼ってくれ」

 

 

「でも、私は後入りだし・・・」

(貴方さえ構ってくれたら、それでいいの)

 

 

他人との関わり方が不器用な雪ノ下だが、余計な気遣いは無用だろう。ここじゃ深海棲艦の沈め方は教えても、代わりに深海棲艦を沈めてやることはしない。ん?どっかで聞いた理屈だな、これ・・・

 

 

「俺にとってはみんな同じ、大切な艦娘だ。個人的感情は抜きにして、提督としての一線は引かせて貰うが」

 

 

「ええ、当然だわ」

(私としては、いつ一線を越えてもいいのだけれど?)

 

 

ん?何か言ったか?

 

 

「それと・・・修学旅行のことは、本物にごめんなさい。私がまちがっていたわ」

 

 

「え・・・?今更よせよ・・・もう終わった話だ」

 

 

「いいえ、これを言わなければ、私は貴方の隣に立つ資格すらない。だからお願い・・・」

 

 

雪ノ下の白い手が、俺の両手を包む。その潤んだ黒い瞳に映る間抜けなぼっち(比企谷提督)。これは本物なんだろうか?やはり俺の艦隊ラブコメはまちがっていないのでは・・・

 

 

バックに流れる『提督との絆』オーケストラアレンジバージョン・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、お茶をお持ちしました」(棒読み:CV 井口裕香)

 

 

「のわっ?!」

 

 

いきなりの加賀さん登場。声に抑揚がない。まずいわ、これ。

 

 

・・・って一色とルミルミ、お茶のお盆持って待機するのやめて!それ、とっくにネタバレしてるから!あと大淀とぼのたん、笑顔怖すぎ!((((;゜Д゜)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今日も始業のチャイムを聞きながら、執務室へと向かう。いつの間にか勤勉な提督に成り下がった俺。専業主夫の夢が遠退いてゆく・・・(号泣)

 

 

で・・・ふたりになった加賀さんには、個人識別のため、それぞれ左右逆にサイドテールを結んで貰うことに相成った。でも、呼び方どうすんだよ・・・加賀1号さんと加賀()()()()?あ、これ、言った瞬間に俺の提督業が終わるヤツだわ・・・

 

 

ま、ホントはあのふたり、一目瞭然な見分け方があるんだけどな。ってか改二(加賀さん)より改二戊(ゆきのん)の方が装甲薄くなるってどういうこと?あぁ、これ個人差の問題か・・・

 

 

「おはようございます、提督。今、何かとてつもなく失礼なことを考えていなかったかしら?」(ゆきのん:CV 早見沙織)

 

 

「ひゃいっ?!」

 

 

あう!思わず認めちゃったよ、俺。あと、こんな時に限って目線が胸元に・・・(轟沈)

 

 

居並ぶ艦娘たちの挨拶に敬礼を返しながら、席に着く。いつもと同じ朝の執務室には、微かに紅茶の香りが漂っていた。




次回予告:休暇で千葉に里帰りした八幡。護衛として同行したいろはとのふたり旅、何も起こらないはずもなく・・・

第21話:やはりいろはすが艦娘なのはまちがっていない。
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