やはり俺の艦隊ラブコメはまちがっている。   作:いろはす@

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※時系列的には、第1話の後になります。


第21話:やはりいろはすが艦娘なのはまちがっていない。

「出迎えのひとりも無しか・・・」

 

 

改札口を出て立ち止まり、ゆっくりと辺りを見回す。最前線で地獄を見てきた俺にとって、半年振りの千葉駅は眩し過ぎた。乾いた心の中を、平和な街の風が吹き抜けてゆく。ふっ、戦いは飽きたのさ・・・

 

 

「おっそーい!」

 

 

そんな戦場帰りの哀愁を一瞬で粉砕したのは、ぜかまし、ではなく、目の前で不満げにほっぺたを膨らませるあざとい艦娘だった。正確には准艦娘だが、まぁこれだけ可愛ければ誤差の範囲だろう。

 

 

ブレザータイプの制服に連装砲ちゃんバッグを肩から斜め掛けした姿は、とても可憐だ。やはりいろはすが艦娘なのはまちがっていない。面と向かっては絶対に言わんけど。

 

 

「なに昼間からひとりで黄昏れてるんですか。スケジュール押してますから急ぎましょう!」

 

 

ピシッと人差し指を立て、何やら有能な秘書艦っぽく振る舞う一色いろは。実際、最近は大淀顔負けの優秀さを発揮し始め、もはや鎮守府運営に無くてはならない存在となりつつあった。俺に対する言動も、しっかり節度は弁えているし、さすがは元総武高校生徒会長ってことか。

 

 

「だいたい、出迎えなんてあるわけないじゃないですか。そこまでしてくれる知り合いも居ないんですし」(節度ゼロ)

 

 

と、俺の独り言を捉えた容赦無い一言。うぐっ!こいつまた、サラッと残酷な事実を・・・ハチマン泣くよ?泣いていい?

 

 

「まぁ、その代わりこんなかわいい部下とふたりっきりでお泊まりできるんですから、そこはトレードオフってことで♪」

 

 

一色さん、それ全然フォローになってないから。あと念のため言っておくけど、これ提督業の一環だからね?

 

 

そう、いま俺は着任以来初めての休暇を取り、故郷千葉へと帰って来たところであった。大本営への戦況報告も兼ねた里帰りだ。一色は護衛として帯同していたのだが、この人選にあたっては水面下で激烈な攻防が繰り広げられたらしい。まあ、みんなあれだけ嫌がってたからな。たらい回しの末に、運悪くこいつが貧乏くじを引かされたんだろう。なんか色々とすまん、いろはす。

 

 

やっぱ泣ける。

 

 

(それにしては、やたらとご機嫌に見えるのは解せんが・・・)

 

 

心の中で詫びていると、にわかに辺りがざわつき始めた。

 

 

「やだ!あれって提督じゃない?」

 

 

「うそ!まじヤバいんだけど!」

 

 

あ〜ホント、伊達眼鏡も変だし誰なんでしょうねアレ。あ、俺か。はい、白い第二種軍装がヤバいくらい似合ってないんですね分かります。て言うか、休暇中なのに提督服着用ってどんだけブラック社畜なのよ。今すぐ慣れたジャージの上下に着替えさせて!

 

 

ひたすら蔑みと嘲りの視線に耐えるしかない俺の周囲では、わらわらとギャラリーが集まりヒートアップしてゆく。こらそこ!だからスマホで撮るなって!え?なんで直接言わないかだって?ぼっちにそんな芸当が出来るとお思いですか?

 

 

「隣に居る美少女は艦娘だよ、きっと!」

 

 

「やっぱ超かわいいじゃん!!」

 

 

艦娘大国日本では、当然の如く彼女らへの注目度は高い。無責任に揺れる笑顔の群れと、重なるシャッター音の嵐。まあ、素人コスプレ状態の俺はともかく、一色はあの容姿だ。人目を引くのは仕方ない。が、こんな偽りの好意など、一瞬で悪意に変わる。俺は、俺たちは嫌というほど経験してきた。もうまちがえたりしない。ついでに言うと、この状況を打破する能力もない。(断言)

 

 

てか、どうすんのよ、この騒ぎ。

 

 

「申し訳ありません。現在任務遂行中ですので、どうかご容赦下さい」

 

 

すると、さり気なく前に出て、ぺこりと一礼する一色。毒気を抜かれたように怯むギャラリーを尻目に、彼女は何故か微かに憮然とした空気を纏うと、俺の手を取って足早に歩き始めた。自然と割れる人垣。

 

 

「スゲーな、お前。大人だわ」

 

 

少し歩いてから素直な感想を漏らすと、当たり前だと言わんばかりにジト目で答える一色。

 

 

「護衛なんですから。これくらいしなきゃ、あとで大淀さんや加賀さんに叱られます」

 

 

その加賀さんて言うのはどっちの加賀さんだ?なんて聞くのは野暮ってもんか。

 

 

「場合によっては実力行使も許可されてるんです。なるべくそうならないことを望んでますけど」

 

 

心なしか低い声で続ける。あれ、なんか怒っていらっしゃる?

 

 

「怒ってなんかいません。黄色い歓声に鼻の下を伸ばしてた提督なんかには」

 

 

「は?てか、あれはお前に向けられた歓声だろ」

 

 

「はぁ、これだからせんぱいは・・・」

 

 

なんでか小さくため息をつく、我らが護衛艦殿。最後の方はよく聞こえなかったが。ん?て言うか今更だが、こいつ護衛って出来るのか?確か准艦娘って事務職専門だから戦闘能力ゼロだよね。てことは・・・

 

 

「え?まさかお前、武装してんの?」

 

 

「もちろんです。私をいったい何だと思ってるんですか?」

 

 

えっと、あざとい後輩?あ、うそですごめんなさい。しかしパッと見、何も持ってないみたいだが、実は『いろは神拳』の達人とか?いや、無いな。

 

 

思わず無遠慮に上から下まで一色の立ち姿を眺める。うん、やっぱなかなかのグラフィックだわ。(変態)

 

 

「はっ!?な、なんですか舐め回すようなその視線提督と艦娘という絶対的な上下関係を武器に有無を言わさずってシチュエーションもありというか寧ろ願ったり叶ったりなんですけど初めてなんで優しくして下さいごめんなさい」

 

 

いつものいろはすカットイン炸裂。やっぱ振られちゃうのかよ・・・って振られてない、だと?!なんか、以前とは微妙に表情も内容も変わってきてるような気がするんだが・・・

 

 

「もうっ!これでもれっきとした准艦娘なんです。だからもっと私に頼っていいんですよ?て・い・と・く♡」

 

 

前言撤回。やっぱ何も変わってないわ、こいつ。

 

 

「はい、あざといあざとい。あと雷ちゃんに謝れ」

 

 

「ぶぅー!なんか扱い雑じゃないですか?」

 

 

またもやぷくぅっと膨れる一色を捨て置き、再び歩き出した俺の背中を深海魚雷が直撃した。(隠喩)

 

 

「あ!比企谷くんだー!」

 

 

「げっ!」

 

 

明るい声と共に、背後から肩に置かれた白い手。危うく漏れそうになった呻きを、すんでのところで飲み下す。そしてゆっくり振り返れば、そこに居たのは陸上型深海棲艦千葉棲姫・・・じゃなくて、我らが魔王こと雪ノ下陽乃その人だった。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね。お姉さんちょっとだけ寂しかったかな」

 

 

うわこれ絶対めんどくせぇやつだ。今から装甲破砕しなきゃいけないの?いくつギミック解除すればいいのよ。マジでかなり時間押してるんですけど。

 

 

相変わらず強化外骨格の仮面を張り付けた彼女を見ながら、内心ため息をつく。もちろん、口には出さない。いや、出せるはずがない。

 

 

あ、素敵な笑顔に目が据わってます。ヤバい。陽乃さんに無断で提督に着任したんだった。そりゃ、さぞお怒りだろう。いやでもおかしいだろそれ。なんで彼女が怒る?着任の報告義務を怠ったから?この人、俺の上司かナニカなの?

 

 

湧き上がるいくつもの疑問。が、とにかくまずは謝罪ッ!心からの圧倒的謝意を表明!!(どこぞの理事長か)

 

 

「ちゃんと説明してくれるよね?比企谷く〜ん。うりうり〜」

 

 

強張る俺の頬をつんつんしてきた陽乃さんが、まるでたった今気付いたと言わんばかりに続ける。

 

 

「あれれ?お供は雪乃ちゃんじゃないんだ」

 

 

てか貴女、さっきから一色のこと完全にシカトしてますよね。頼むからこれ以上状況をややこしくしないで。道中大破は嫌なので警戒陣に極振りしたいと思います。

 

 

「すみません。任務中なんで先を急ぐんですよ」

 

 

暗に多忙を匂わせて離脱を図る。うむ、我ながら実にクレバーな作戦だ。

 

 

「そっか、じゃあ歩きながら話そう」

 

 

ぐぇっ!いきなりワンパン大破。おい、いろはす仕事しろ!道中支援プリーズ!

 

 

「いまさら浮気はいけないな。雪乃ちゃん、愛しい提督を追って南の島まで行ったんだから」

 

 

ちょっ、何を口走ってんですかこの人?!そんな紛らわしいこと言ったら、誤解した護衛艦殿が最終形態に変化しちゃうでしょうが。ま、まぁ美女 vs 美少女のキャットファイトならちょっとだけ見てみたい気もするが、このふたりじゃゴジラ vs コングに・・・

 

 

狼狽える俺から離れ、ちらりと一色に視線を投げてから言葉を継ぐ魔王。

 

 

「それとも、雪乃ちゃんは『本物』じゃなかった?」

 

 

「なっ?!なぜっ・・・」

 

 

貴女がその言葉を知っている?と続けようとして、やっと気付く。いやちょっと待て。俺のプライバシーはともかく、どうして艦娘の配属先を民間人のこのひと(陽乃さん)が・・・いくら家族でも機密情報だろ、それ。

 

 

うち(雪ノ下家)の情報網、伊達じゃないんだよ」

 

 

今度は俺の眼鏡に手を伸ばしながら、静かに微笑む雪ノ下姉。あ、伊達繋がりですね分かります。てかナニソレ怖い。

 

 

「で、君は責任とってくれるのかな?」

 

 

もちろん『何の?』などと躱せる状況ではない。

 

 

「まあ・・・て、提督としては」

 

 

「じゃ、比企谷君個人としてはどうなの?」

 

 

苦しい言い訳を許さない追及に、ふと零れ落ちる本音。

 

 

「今の俺は、傘下の艦娘全員に対して責任が有ります。一応、彼女たちの命を預かってる身なんで」

 

 

一度紡がれた言葉はもう止まらない。いつもは隠している心の内が溢れ出す。

 

 

「だから、提督である限り、誰かひとりにってのは無理です。それこそ責任放棄になっちまう。俺はヘタレなぼっちですけど、不誠実な人間にだけはなりたくない」

 

 

「!!」

 

 

一瞬彼女が見せた呆け顔は素の表情か。背後の一色も微かに息を呑んだ気配がした。あら?なんか俺またミスった?

 

 

「そんなこと言われると、私もその責任とやらの中に入れて貰いたくなっちゃうな〜」

 

 

そう言いながら再び距離を詰めて来た陽乃さんが、不意に動きを止める。微かな金属音に目をやると、一色が黒い小型拳銃をこちらに向けていた。たちまち凍り付く辺りの空気。てかお前、それどっから出した?彼女が手にしていたのはワルサーPPK。1931年に登場し、現在も製造が続く傑作自動拳銃だ。ストレートブローバック方式を採用し、7発の32ACP弾を・・・

 

 

「あ、そういうムダな豆知識とか要らないんで。そもそも、この手の蘊蓄ってほとんどの読者は読み飛ばしていると思いますよ?」

 

 

ヲタクの夢とプライドを、容赦なくズタズタにしてくるいろはす。

 

 

「馬鹿野郎!ここで書かなきゃ、この無駄に貯め込んだ知識をどこで披露しろって言うんだよ?!つーか、お前もコンシールドキャリーウェポンとしての優位性とジェームス・ボンドの愛銃って歴史的背景があるからこそPPKを選んだんだろ?」(早口&息継ぎなし)

 

 

「言ってることが100%意味不明ですしちょっと唾液も飛んで来るんでやめてくださいごめんなさい。だいたいピストルなんて、バキューンって弾が出ればそれでいいんですよ」

 

 

「夫婦漫才はそこまでにしてもらえるかな?」

 

 

冷え冷えとした声に振り返る。あ、ヲタクスイッチが入っちまって、すっかりあの人のこと忘れてたわ・・・(汗)狼狽える俺の横では、瞬時にお仕事モードへ切り替えた一色が拳銃を構えなおしていた。あら優秀・・・

 

 

「直ちに比企谷提督から離れて下さい。聞き入れない場合は実力行使します」

 

 

抑えた口調が、却って威圧感を強調している。その銃口に全く迷いはなく、真っ直ぐ敵艦(陽乃さん)に狙いを定めている。そこに居たのは間違いなく、俺が初めて見る『准艦娘一色いろは』だった。今なら確実に駆逐イロハ各級くらいは余裕でワンパン出来るだろう。()()()なだけにな。ふはははは!(轟沈)

 

 

「ふ〜ん、艦娘になるとそんな玩具まで持ち歩くようになるんだね」

 

 

魔王がジャブを放つも、一色は動じない。

 

 

「提督は、対深海棲艦作戦の鍵を握る大切な存在です。もう、貴女の玩具なんかじゃありません」

 

 

へ?そうなの?いつの間に?俺聞いてないんですけど。あとそれ褒めてんのか貶してんのか、訳わからんのですが。

 

 

「それぐらいにしておけ、一色」

 

 

堪らず口を挟もうとした俺の声に、陽乃さんの高笑いが重なった。

 

 

「あは!あはははは!一色ちゃんホント最高・・・!わかったよ、お姉さんの負けかなぁ」

 

 

ひとしきり笑うと、目尻の涙を拭いつつその場でくるりと1回転する陽乃さん。あざとさを通り越したその仕草に、危うく勘違いしそうになる。

 

 

「私も艦娘になったら比企谷提督の鎮守府がいいなぁ。色々と責任取って貰えるみたいだし」

 

 

上目遣いで意味深に微笑む表情を見て、ふと、ある可能性に思い当たる。

 

 

「まさか、雪ノs・・・陽乃さん、艦娘適性が有ったんですか?」

 

 

「さぁ、どうだろうね。どっちだと思う?」

 

 

嗚呼、どうかうち(ショートランド)に配属なんてオチになりませんように。(盛大なフラグ)

 

 

「じゃあまたね!一色ちゃんも泥棒猫(艦娘)には気を付けるんだぞ?」

 

 

その笑顔は、暴虐なラスボスにしてはあまりにも魅力的なものだった。(海域突破成功)

 

 

 

 

 

* * * * * * * * 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・行くか・・・」

 

 

僅か数分の邂逅でごっそりHPを削り取られた俺は、小さく呟くと目的地へ足を向けようとした。いい加減、タイムテーブルがまずいことになっているのだ。

 

 

が、しかし。

 

 

「どうした、一色」

 

 

袖を引かれて立ち止まる。緊張した面持ちで、まっすぐこちらを見つめてくるいろはす。いつものあざとさが、ない。

 

 

「その・・・提督の言う責任の中には、私も入ってますか?」

 

 

ん?まだその話?

 

 

「あぁ、もちろんだが。お前もショートランド基地のメンバーなんだから当然だろ。むしろ、なんでそんなこと気にするんだ?」

 

 

「さっきせんぱ・・・提督は『傘下の艦娘全員』って言いましたけど、私はその、単なる支援要員の准艦娘なので・・・」

 

 

さすがに自己評価低過ぎるだろ、それ。

 

 

「戦場に出ることだけが全てじゃない。後方任務も立派な戦いだ。もっと自信持って良いんじゃねえか?実際、大淀も一色の働きは評価してたし、俺も感謝してる」

 

 

その言葉に偽りはない。それでも晴れない彼女の表情を見て、さらに言葉を重ねる。

 

 

「要するに一色はちゃんと『准艦魂、ここに在り!』を体現してるってことだ。ま、知らんけど」

 

 

なんか聞かれてもないのに、ひとりで語っちゃってますね俺。口にしてから、頬を掻いて誤魔化す。

 

 

「ありがとうございます・・・」

 

 

「お、おぅ・・・」

 

 

胸の前で拳をキュッと握りしめ、なにやらホッとした声色で呟く一色。改まって言われると恥ずかし過ぎる。こ、これって、新たな黒歴史更新じゃないよね?!

 

 

「・・・でも、そこで他の艦娘の名前を出すのは、いろは的にポイント超低いですけど」

 

 

ん?なんか言った?

 

 

「いえいえ、何でもありません!ささっ!次は1300(ヒトサンマルマル)から懐かしの母校訪問です!35ノットの最大戦速で行きますよっ!」

 

 

「あ、はい・・・」

 

 

一色に促され、そそくさと歩き出す。もう、どっちが提督なのか分かったもんじゃねぇな。(TдT) でもこれだけは言える。やはりいろはすが艦娘なのはまちがっていない、と。

 

 

小柄な後ろ姿を追いながら、俺は密かに確信したのだった。




次回第22話:やはりせんぱいが私の提督なのはまちがっていない。
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