「・・・さん・・・かがさん・・・!」
ん?ここは・・・
思わず辺りを見回す。休暇から戻った俺は、その足で期間限定イベント作戦を攻略中だったはずなんだが。目の前には、心配そうにこちらを窺うサラサラヘアーの美少女・・・ってかルミルミ?何してんだお前?
彼女の容姿は明らかに知り合いの小学生、鶴見留美のものだった。しかし、どうもおかしな既視感がある。サロペットスカートタイプの制服に赤いリボン。そして黒のニーハイソックスから覗く絶対領域・・・
あ、朝潮たん!?
いきなりの艦娘登場に驚いた俺だったが、口をついて出たのは何故か、凛とした女子の声だった。
「ルミ潮さん、貴女ここで何をしているのかしら」
え?女子?ってか、いま喋ったの俺?それにしてはなんか聞き覚えが・・・
青い空、白い雲、広い海。そして長10cm高角砲を手にしたルミ潮の不安げな眼差し。あかんこれ、艦これの世界だわ。
「あ、あの、どうして私の本名を?」
ルミ潮が大きな瞳をさらに見開く。しまった!つい・・・こういう時は、サラリと流すに限る。
「驚かせてごめんなさい。なんとなく、外見からそんな感じがしたの。気に障ったなら謝るわ」
「い、いえ、そんな!私こそ申し訳ありません!」
「有り難う。ところで、改めて状況を説明して貰えるかしら」
ボッチの俺を置いてけぼりにして、なんか女子だけで自然に会話が成立しているんですけど、この声、まさか一航戦の青い方とか言わないよね?
内心かなり動揺している俺へ、律儀に説明を開始するルミ潮。
「はい!現在、横須賀鎮守府から加賀さんの新たな任地へ向けて、巡航速力18ノットで航行中!現地到着まであと2時間の予定です!」
やっぱゲーム通りの生真面目な性格なのか、彼女は不信感を表すこともなく現状を報告してくれた。
「分かったわ。つまり貴女は私の直衛艦なのね」
頷くルミ潮を見ながら、状況を整理する。ここは艦これの世界で俺は加賀さん(仮)。典型的な中2病の痛すぎる展開だ。もうちょっとましな設定なかったのか?だいたい、中身が俺なら艦娘じゃなくて艦息だろ。
そこまで考えてはたと気付く。ま、まさかな・・・恐る恐る自分の身体を弄ってみる。特徴的なサイドテールにスラリと伸びた手足。黒い胸当ての下には、確かな胸部装甲の存在が感じられる。そして青い短袴の中は・・・モゾモゾ
な、なん・・・だと?!!驚愕&ちょっと快感・・・(完全アウト)(@_@;)
(以下、自主規制中)
うむ、なるほど!俺はいま、正真正銘の艦娘さんなんですね分かります・・・要するに、加賀さんの身体を弄ってみたいだけの転生だった。(変態認定)
ってか、艦これを原作にした記憶持ち男子の異世界TSモノって、たいてい提督に転生するのが定番なんじゃないのか?加賀八幡って、誰得よ?しかしまぁ、ずいぶん御利益がありそうな名前だな。
「あ、あのぅ・・・加賀、さん?」
し、しまった!全部声に出てたらしい。ルミ潮が物問いたげに見詰めてくる。
「何でもないわ。先を急ぎましょう」
この身体にも、喋り方にも違和感ありまくりだが、取り敢えず問題を先送りする。相変わらず成長してないわ、俺。(泣)
そう言えば、目的地を聞いてなかったな。
「ところで、行き先は何処なのかしら」
いちいち、加賀さん言葉?に変換されるのがまどろっこしいが、仕方あるまい。だって加賀さんなんだもん!
「はい!行き先は沖ノ島前進鎮守府。開設間もない、新進気鋭の最前線基地だそうです」
・・・はぁ、ものは言いようだな。要するに、出来立てホヤホヤの捨て石拠点ってとこか。てか横須賀からそんな僻地に転属って、絶対訳ありだろ。なんかやらかしたのか、俺。
「え!そ、そうなんですか?!」
いかん、また声に出てたみたいだ。
「気にしないでちょうだい。それより対潜警戒をお願いね」
「あ、はい!お任せ下さい!」
朝潮と言えば、対潜特化タイプの改二丁が最終形態のはずだが、ルミ潮はまだそこまでの練度には達していないようだった。て言うか、どうやら俺は初見で他人の練度を把握出来るらしい。ドラゴンボールのスカウターかよ。
しかし、単艦で横須賀鎮守府から放り出された、チート持ちの加賀さん。どう足掻いても、面倒な未来しか見えねぇ・・・
澄み切った青空の下、正規空母加賀さんこと比企谷八幡は、小さなため息をつくのだった。
* * * * * *
突然の艦娘転生。名もなくありふれた艦これファンとしての日常が終わり、俺は旅立っていた。
・・・とか言ってる場合じゃない。まずは情報収集だ。そう考えてルミ潮に質問を重ねようとした時・・・
「対水上電探に感あり!せ、戦艦ル級です!随伴の水雷戦隊も確認!」
え?マジ?この辺りって味方の制空権下じゃなかったの?思わず加賀さんらしからぬ挙動不審に陥りかけた俺は、瞬時に初歩的なミスを自覚した。空母が哨戒機も出さずに真っ昼間からお散歩とは、沈めてくれと言ってるようなものだ・・・
「ど、どうしましょう?私、輸送装備しか持ってません・・・」
慌てるルミ潮。やがて水平線の向こうから、ゲームで見慣れた深海棲艦が現れた。でも、これは現実だ。当たれば痛いどころの騒ぎじゃない。アウトレンジが基本の空母が懐に飛び込まれた時点で半ばアウトだが、転生初日に轟沈は嫌なので攻撃力に極振りしたいと思います。
「大丈夫よ、直ぐに終わるわ」
何やらフラグめいたセリフを吐きながら、素早く背中の矢筒を探る。ここでまさかの空っぽでした、とか言うオチじゃないよね・・・?ってか流星改二(一航戦)熟練度MAX?!激レア最高級艦載機じゃんかよ?!
ハイレベルな装備に驚きつつも、手際良く矢を番える。我ながら、練度の高さを感じさせる無駄のない動きだ。そう言えば、俺のLvっていまどのくらいなんだろう・・・?
「一航戦加賀、攻撃隊発艦!」
お手本のような美しい姿勢で艦載機を放つ。蒼空に舞う濃緑色の機体。
「第1、第2小隊は左右からル級を挟撃!第3小隊は20㍉機銃で随伴艦の対空火器を制圧しなさい!」
「す、すごい・・・」
唖然として立ち尽くすルミ潮。やはりSSホロ艦攻の威力は伊達ではなく、戦闘は一瞬で終わった。あとはあの台詞が有ればいい。ゲームじゃ散々聞き慣れたひと言だが、まさか自分で口にする日が来るとはさすがに気分が高揚します。
「鎧袖一触ね」
結局、これが言いたいだけの転生だった、らしい。(轟沈)
次回予告:沖ノ島前進鎮守府に着任した加賀さん(仮)を待っていたのは、『彼女』だった。
第24話:やはり彼女が俺の提督なのはまちがっている。