やはり俺の艦隊ラブコメはまちがっている。   作:いろはす@

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第29話:南の島の冬祭り(前編)

~ショートランド前進鎮守府 提督私室~

 

 

「提督、比企谷提督・・・」

 

 

穏やかな午後のひととき。入り口の向こうから聞こえる優しげな声。ん・・・このウィスパーボイス・・・は、はやみん?まさかはやみんなのか?!激務に追われる新人提督を癒すため、こんな最前線まで・・・(感涙)つか、よく事務所の許可が下りたわな。(現実)

 

 

しかし、そんな期待は一瞬で潰えた。

 

 

「こんな時間まで二度寝とはずいぶん偉くなったものね、惰眠谷提督」 

 

 

ぐはっ!

 

 

あの声でこんな暴言を吐くのはただひとり。本日の秘書艦、加賀改二戊(雪ノ下雪乃)だけだ。

 

 

泣ける。

 

 

だが、諦めるにはまだ早い。今日の午後は休む日と書いて休日。しかも大本営から正式に認められた公休日なのだ。つまり、マッ缶をお供に昼寝を満喫するという、最重要デイリークエストが待っているのである。

 

 

だからこそ、俺は全軍に厳命を下した。敵襲以外は起こすな、と。てかこれ、絶対ビュコック提督に怒られちゃうヤツだよね。え?艦隊の指揮?そんなもん、大淀と一色に任せときゃ何とかなるだろ。

 

 

ともかく、ここは居留守と決め込もう。固い決意とともに、そっと入り口の施錠を確かめる。いま入ってこられちゃ堪らないからな。え?べ、別に見られたら困ることをしてたわけじゃないからね?(なぜにツンデレ)

 

 

「気配はあるのに応答がない・・・はっ?!ま、まさかまた私をオカz・・・ケホケホ!いかがわしい行為の真っ最中なのね?部屋ごと急降下爆撃で破壊しても構わないかしら」

 

 

いいえ構うかしら?

 

 

提督の決断はあっさりと吹き飛んだ。物理的に吹き飛ばされる前に最大戦速でドアを開け、佇む加賀さん(雪ノ下)へ話し掛ける。なるべく自然な口調で。これ大事。いるす?はてナンノコトヤラ?

 

 

「やあ加賀さん、いい午後だね」

 

 

うむ、我ながら上手いセリフ回しだ・・・っていま喋ったの俺?!なんか時雨たんみたいな話し方だったんですけど、この転生パターンは以前やったよね?!(再確認)

 

 

「あら、ずいぶん可愛らしい声になったのね、ロリ魂提督」

 

 

冷え冷えとした笑顔で答える雪ノ下。瞬時に辺りの空気が凍り付く。おかしいな、ここは熱帯雨林気候のはずなんだが・・・そう、俺は悪くない。同じネタを使い回す作者が・・・

 

 

「それより、どうしてここに時雨さんが居るのかしら」

 

 

「さあ、どうしてだろうね?」

 

 

へ?

 

 

またもや明後日の方角から聞こえた返事に振り向くと・・・

 

 

部屋の真ん中に立っていたのは、乱れたおさげ髪をいじる時雨たん。ちょっと拗ねたような上目遣いが、なんというかそのエロ・・・ゲホゲホ!!憲兵さん俺です!(自爆)いやそれより、なんでお前がここに居る?

 

 

「なぜって、ボクがきみのもの(艦娘)だからに決まってるじゃないか」

 

 

そのふりがな(ルビ)、絶対わざとだよな。

 

 

「長い付き合いだったわね、H提督」

 

 

なにげにその略称は正しいけどメンタルに堪えるからやめて!あとそれを言うなら『短い付き合い』じゃね?

 

 

無駄な俺のツッコミも空しく、壁際の緊急連絡用電話機に手を伸ばす加賀さん(ゆきのん)。待て待て待て!貴女どこに連絡しようとしてるんです?

 

 

「魚雷、爆弾、憲兵隊、どれがお望みかしら?」

 

 

それ全部ダメだから!あと部屋の中で艤装を展開するな!

 

 

「冗談だよ。今日はボクが秘書艦補佐だから、提督の様子を見に来ただけさ」

 

 

すかさずフォローを入れる時雨。そうそう、ボク(ヤツ)は様子を見に来ただけさ・・・ん?じゃあここの鍵はどうやって開けた・・・?

 

 

「でも少し妬けちゃうな。やっぱり、提督と加賀さんは相思相愛なんだね」

 

 

「「なっ!?」」

 

 

とんでもない一撃を放つと、飄々とした態度で部屋を出てゆく時雨。あとに残されたのは、駆逐艦にワンパンされた正規空母と司令官。気まずい雰囲気が広がり、どちらともなく目を逸らす。

 

 

ここショートランドに着任して、そろそろ1年。艦娘たちから寄せられる好意には気付いている。俺は捻くれぼっちだが、決して鈍感系ではない。むしろぼっちだからこそ、他人の心の機微には敏いのだ。

 

 

でも、誰かを選べば他の誰かを切り捨てなければならない。本物を手にした瞬間、それ以外の全ては偽物になってしまう。奉仕部に関わって以来ずっと、そんな強迫観念に苛まれ続けて来た。そして何の因果か提督さんになってからも、その思いは薄れることなく、いつも心の片隅に存在し続けている。それゆえ、俺は最初の一歩を踏み出すことができずにいたのだ。それがどれほど残酷で無責任な行為か、自分でも分かっていながら・・・

 

 

ちらりと見れば、雪ノ下は真っ直ぐに視線をこちらに向け、俺の言葉を待っている。心なしか、いつもより距離が近い。あと近い。艷やかな黒髪に、白と青のツートンカラーで纏められた和装。短袴から伸びるすらりとした足。たすき掛けした矢筒と手にした弓懸は程よく使い込まれ、持ち主の練度の高さを窺わせる。

 

 

そんな彼女と狭い私室にふたりきり。濡れた黒い瞳に吸い寄せられるように、俺は彼女の肩に触れた。小さく震えてから胸の前で両手を握り合わせ、そっと目を閉じるゆきのん・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぽい?」

 

 

ん?

 

 

またも予想外の場所から聞こえた、間の抜けたひとこと。

 

 

「ぽい?」(俺)

 

 

「ぽい?」(雪ノ下)

 

 

ふたり同時にゆっくりと振り返る。そこには、俺のベッドで寝ぼけ眼を擦るソロモンの悪夢。はだけた胸元に捲れたスカート。眼には涙・・・素晴らしい大破グラフィック。

 

 

はっ?!まさかとは思うけど君は単にひとのベッドで勝手にお昼寝してただけだよねぽいぽいさん?あと最悪のタイミングで欠伸して涙を浮かべるとか提督さんが色々と大変なことになるので止めて下さいっぽいごめんなさい。

 

 

「ふ~ん・・・何それ?新しい遊びっぽい?」

 

 

うん!新しい遊びっぽい!などと答えられるはずもなく。傍らでは、雪ノ下が明らかに最終形態へと変化しつつあった。BGMも『提督との絆』から『加賀堕ちる海』に変わる。( ゚д゚)ハッ! 深海加賀さん姫とか、トリプルゲージリセットどころかショートランド基地が一瞬で壊滅するまである。

 

 

「提督さん?ハンモック・・・テント張ってる?」

 

 

ぼふっ!!

 

 

俺は知った。無垢ほど恐ろしいものはない、と。

 

 

「夜戦なら、さっきみたいに夕立も交ぜて欲しいっぽい!うずうずするっぽい!ぽーい!!」

 

 

ヲワタ。

 

 

「ふ・・・ふフフ・・・さスがに頭にキたわ。時雨さんだけデは飽き足ラず夕立チャンまで・・・いい度胸ネ〜。その腐り具合に免ジテ、なるべク派手に仕留めてアゲるワ」

 

 

冷たい怒気を孕みながら、矢筒に手を掛ける加賀改二戊(壊)。てか、なにげに貴女深海化し始めてるし、ちょっと金剛お姉さまも入ってないですか?もはやその姿は一航戦の青い百万石。もう自分でも何を言ってるのかよく分からん。でも確か艦娘って、人間を攻撃出来ない設定・・・ゴホン!存在じゃなかったっけ?てことはつまり俺って人間じゃない?(新事実)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・分かったわ。ちょうど良い爆撃訓練になるかと思ったのだけれど、次の機会に取って置くわね」

 

 

取り敢えず誤解は解け、矛を収める雪ノ下。今日も榛名とショートランドは大丈夫です。え?夕立?テント張って逃げてったぜ。(誤用)あと雪ノ下さん、次の機会は無くていいからね?

 

 

いまや空母勢の中でもトップエースの座に君臨する彼女だったが、最近はその舌鋒も幾分マイルドになり、周囲への気遣いも感じられるようになってきた。要するに、こいつも多少はオトナになったんだろう。特定部位の装甲だけは相変わらずだが。(残念)

 

 

「提督?あなたいま失礼なことを・・・」

 

 

「なぁ、いまさら俺って必要なの?ぶっちゃけ行かない方が良くね?」 

 

 

みなまで言わせず、強引にカットイン。聞かずとも用件は分かってるしな。

 

 

「そう・・・やっぱり爆撃目標になりたいのかしら?」

 

 

「さっきから言ってることおかしくない?俺って確か、ここの司令官だったよね?」

 

 

「初耳だわ。腐ったお魚みたいな眼をしてるから、てっきり新手の深海棲艦かと思っていたのだけれど」

 

 

特徴的なサイドテールを揺らしつつ、持ち前の攻撃力(毒舌)を存分に発揮するゆきのん。出撃前の準備運動みたいなものらしいが、毎日言われる身にもなってほしい・・・まぁ、これも提督業の一環ではあるんだが。

 

 

やっぱ泣ける。

 

 

「冗談よ。でも飛行妖精さんたちが暇を持て余しているのは事実ね」

 

 

やっといつもの調子が戻って来たのか、腰の矢筒を撫でながら話す雪ノ下。その言葉通り、最近ショートランドを含む南方海域は平穏無事そのものだ。絶賛開催中の冬イベントも本土近海が舞台だしな。つか、お冬さんまだ?

 

 

ふと、目の前に佇む空母娘との関係性を思う。巡り巡っていまは提督と隷下の艦娘という間柄だが、他にも同級生、部長と部員、文系科目限定のライバル、ぼっち仲間等々、何かとお互いを結び付けるキーワードには事欠かない。最後のは絶対向こうが認めないだろうけど。

 

 

あと、こいつに夜間演習を見られちまったし、こいつで夜戦もしたし。おひとりさまがふたり。(遠い目)

 

 

着任以来、歴戦提督さんキャラを自演し続けてきた俺。いまでは艦娘を前にすると、条件反射でそれらしく振る舞えるようになっていた。パブロフの犬かよ?はい犬ですが何か?

 

 

だが、どうしたことか雪ノ下に対しては、今でもこうして時折()が出てしまうのだ。やはり俺の艦隊ラブコメの相手はコイツなんだろうか・・・

 

 

「ひゃんっ!?そ、そういうことは渡すべきもの(指輪)を渡してから言うべきよ、ひ、捻谷提督!」

 

 

あと、心の声がだだ漏れする癖もどうにかしないとな・・・(切実)

 

 

「はぁ・・・」

 

 

あたふたするゆきのんを生暖かい目で眺めつつ、そっとため息をつく。さっきから聞こえてくるのは、最前線基地らしからぬ喧騒だ。窓の外に目を遣れば、思い思いに着飾った艦娘たちや()()()()、そして第二種軍装を着込んだ()()()()の群れ・・・

 

 

どうしてこうなった?

 

 

「と、とにかく行きましょう、比企谷くん」

 

 

「お、おぅ・・・?」

 

 

一瞬、艦娘ではない表情を垣間見せた彼女に隙を突かれ、思わず俺は頷いていた。こうなった経緯(いきさつ)を思い出しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 二週間前 〜

 

 

「鎮守府冬祭り?」

 

 

聞き慣れない言葉に、俺は大淀を見上げた。

 

 

「はい!大本営主催の公式任務群です♪」

 

 

日頃の彼女らしからぬテンションで答える、筆頭秘書艦大淀。最近は一色にやや押され気味とは言え、その能力は影の提督とも称されるほどの優秀な艦娘だ。あれ?じゃあ俺って要らなくね?

 

 

そして、そんな大淀をここまで浮つかせている原因は・・・

 

 

【冬祭り任務群:冬の一日に大規模なお祭りを開催し、艦隊の士気を高めよう。ここは譲れませんね、加賀さん?】

 

 

大本営から送られてきた1通の指令書。文面からして食べる気満々である。艦娘の大好物と言えば、甘味、お祭り、提督さん。てか食べられちゃうのかよ、俺。(意味深)

 

 

なんでも、遥々本土から声優さんやレイヤーさんまで呼び寄せて、本格的なお祭りを開催するんだとか。どうやら戦局が落ち着いているこのタイミングで、最前線基地にも娯楽を、ということらしい。つーか、もっと他にやることあるだろ。季節感もめちゃくちゃだし。だいたいここは南半球だぜ?それに、態々輸送船団を仕立ててご来場とか、胡散臭いにもほどがあるわ。

 

 

「え?そ、そうなのですか?!」

 

 

浮かれた様子の大淀が、驚いたように目を見開く。あ、いかん。また声に出てたわ。

 

 

「気にするな。だが、念のため警戒しておくに越したことはないだろう。常在戦場というやつだ」

 

 

「以前のあなたからは想像もつかないセリフね」

 

 

俺の言葉にさらっと毒を吐く雪ノ下。

 

 

「あら、後入りの貴女が以前の提督を知っているはずがないでしょう?」

 

 

棘のある言葉でやり返す加賀改二。クールビューティー同士、どうにも上手くいかないらしい。これ以上、どうしろと言うのです?

 

 

またもや雲行きが怪しくなってきたふたりの加賀さんに頭を抱えてから、気付く。指令書の最後に記された一行に。

 

 

船団護衛担当:横須賀鎮守府

 

 

まさかな・・・

 

 

面倒事の匂いを嗅ぎ取った俺は、一気に警戒レベルを引き上げた。こういうところ、ボッチは敏感なのである。じゃなきゃ女の園(鎮守府)で生き延びることなんて出来ないからな。ソースは俺。え?俺なの?

 

 

「大淀。その後、横須賀の提督は交代したのか?」

 

 

無駄な足掻きと知りつつ、確認をとる。

 

 

「いえ、以前演習でいらっしゃった葉山提督が、引き続き指揮を執られていると聞いていますが」

 

 

Critical hit!提督轟沈!(泣)

 

 

当たらなくていい予想ほど、よく当たる。艦これの世界線なんだから、もっと運ゲーにしてくれても良いのよ?南の島にリア充イケメン提督(みんなの葉山君)と艦娘たち。何も起こらないはずもなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、まちがいだらけの宴がはじまる。




次回予告:南の島の冬祭り(中編)
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