「世話になったな、比企谷」
さすがに疲れた様子で、別れの挨拶をする葉山少将。それもまた絵になるのが気に食わないが。
「それと、さっきは済まなかった。部下の失態は俺の責任だ。謝罪させて欲しい」
律儀に頭を下げるやつの後ろでは、秘書艦殿が縮こまっていた。さすがに、ことの重大さは分かっているようだ。
「やめてくれ。少なくとも俺に関しちゃ三浦の言う通りだしな。教室の日陰者が提督さんとか、なんなら自分がいちばん驚いているまである」
「それでも筋は通させてもらうよ。これは優美子・・・いや、俺のためでもあるんだ」
ふっ・・・やっと認めたか。この捻デレさんめ。
さて・・・
「その、申し訳ありませんでした、
この期に及んでなお、提督呼びしないところがあーしさんらしい。やっぱこいつら
頭を上げ、今度は雪ノ下へと向き直る三浦。恐らく、罵詈雑言の雨が降り注ぐことだろう。さあ、見せてもらおうか!ブチ切れした
「加賀さん・・・度重なる無礼、お詫びします。ごめんなさい」
「いいえ、気にしないで。あの状況なら思い違いをしても仕方ないわ。それに・・・」
へ?
一度目を閉じてから、柔らかい微笑を浮かべるゆきのん。まさか貴女、壊れちゃった?
「三浦さんの物言いは辛辣だったけど、嘘偽りのない『本物』だと思ったから」
その言葉に、信じられないものを見たような間抜け面を浮かべるイケメン。対照的に冷静な表情を崩さない俺だったが、まあ、ぶっちゃけ驚きすぎて反応出来てないだけだったりする。
「雪乃ちゃん、君は・・・」
暫しの驚愕のあと、複雑な表情で雪ノ下を見詰める葉山。三浦は言葉もなく立ち尽くすばかりだ。あれ?なんか俺だけ蚊帳の外?
「そうか・・・彼女を変えたのは、やっぱり君なんだな?」
そう呟きながら、何故だが俺へと意味有りげな視線を向ける葉山閣下。その眼差しに妙な圧を感じ、思わず後退りする。はっ?!まさかガチで
ふはははは!どうだ!この比企谷八幡、人生で初めて振ってやったぜ!(ゲシュタルト崩壊)
「これが君の言う『本物』・・・」
そして勝手に納得したらしいやつは、さっぱりした顔付きになって続けた。自己完結かよ。
「改めて言わせてくれ、比企谷。君がいなければ俺の命はなかった。有難う」
「俺は何もしちゃいない。礼なら伊良湖に言ってやれ」
本音で返せば、ため息混じりの苦笑いを浮かべる葉山。
「君は相変わらずというか・・・芯が通っているな」
「は?俺がか?冗談だろ?最近はキャラがブレまくりで、自分でも把握出来なくなってきてるわ」
「ふっ・・・そういうことにしておくよ。まあ、おかげで色々と印象深いリアルイベントになったしね」
「確かに、本物のヲ級に襲われる経験なんて、なかなか出来ないからな」
もう少しで爆発するリア充も見れたんだけど。
言葉の後半は飲み込んで、敬礼する。ん?要するに、早く帰れってことさ。
「ところで比企谷・・・もしあの時、うちの伊良湖が飛び出さなかったら、君はどんな指示を出すつもりだったんだ?」
だが、こちらの意図を汲まず、なおも会話を続ける横須賀のイケメン。やれやれ、引き際を弁えないKY野郎には、トドメの一発が必要らしい・・・
「決まってんだろ。もちろん『撃て!』だ」
そして葉山たちを乗せた輸送船団を見送り、鎮守府冬祭りは終わった。で、いまさらだけど、俺の挨拶って結局どうなったんですかね?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やっぱり、あなたのやり方・・・はぁ、もういいわ」
呆れたようにため息を漏らす
「いいえ、私はもっと詳しくお聞きしたいわ。出来ればふたりきりで」
なぜか食い気味に話すのは、加賀改二。
祭りのあと、妖精さんたちも動員した撤収作業も終わり、静寂を取り戻したショートランド基地。満天の星空の下、俺はふたりの加賀さんを連れて執務室へと歩いていた。これぞ両手に花ならぬ、両手に加賀。
「まあ・・・善処する」
完全先送りの受け答えをしてから、話を変える。ふたりもその辺りは分かっているんだろうし。
「それにしても、まさかあの間宮さんだったとはな」
やはり話題はそこに行き着かざるを得ない。
「ええ、初めは何が起こったのか分からなかったわ。緊急電を聞いて飛んで行ったら、横須賀の提督がヲ級に捕まっていたんですもの」
加賀改二の言葉は、あの場に駆け付けた艦娘たちの驚きを代弁していた。まぁ、そうなるな。
「そして、提督の
うぐっ!一瞬で話題が元に戻っちゃったよ。てか何も言えねぇ。作り上げてきた歴戦提督キャラも完全崩壊しちまったし、明日からどんなキャラ付けで行けと言うのです?
キョドりながら口ごもる俺に、雪ノ下からまさかのフォローが。
「でも、結果的にひとりの、いいえ、ふたりの艦娘を救ったのだから、今回ばかりは貴方の行動が正しかったと思うわ。甚だ遺憾ではあるけれど」
「今回・・・?まさかこれまでにも?」
やけに拘りを見せる加賀改二。やっぱこの話題、もう終わりにしません?
「ええ、何度も。でもこれ以上は守秘義務があるから言えないわ、ふふっ」
優越感に満ちたドヤ顔を見せるゆきのん。だからもう止めましょうって!
「くっ!ショートランドで比企谷提督といちばん付き合いが長い艦娘は私です。だから彼のことは全て知っておく必要があるわ」
「あら、なにを焦っているのかしら?別に
だから喧嘩を止めて!
「いいわ。こうなったら空母艦娘らしく、正々堂々と艦載機で勝負しましょう」
高らかに宣言する加賀改二。いや、そういうの決めるのは俺なんですけど。
「分かったわ。じゃあ早速始めましょう?ただし、貴女に夜戦能力が有れば、の話だけれど」
負けず嫌いの
「ぐっ!貴女も元戦艦なら正々堂々と砲撃戦で勝負なさい!」
つか
ふたりの加賀さんの同士討ちにげんなりしつつ、今日の騒ぎを振り返る。そう、もうお分かりだろう。あのヲ級さんの正体は、行方不明になっていた横須賀鎮守府の間宮さんだったのだ。そしてそれをひと目で看破した伊良湖ちゃん。例のヲでんを試食した瞬間、確信したそうだ。これは先輩の味だ、と。ほぅ、間宮さんの味か。ちょっと卑猥に思う俺ガイル。ゲフンゲフン。
で、あのヲ級間宮さん。聞いたところでは、通信傍受で横須賀の艦隊が来場することを知り、懐かしさのあまり屋台を準備して、お祭りに潜入したんだとか・・・
いやでもちょっと待って。それって確実にこっちの暗号破られてるよね?あと、うちの警備もザルだったってこと?(責任問題)
「貴女は先輩・・・間宮先輩、ですよね?」
あの時、抗う間もなく伊良湖に抱き締められたヲ級は、淡い光りに包まれて艦娘化した。ふたりの間には、同じ給糧艦娘として浅からぬ縁が有ったらしい。この8年間、
あれもまた『本物』なのだろうか・・・
え?葉山?あぁ、腰を抜かしてひっくり返ってたよ。実に漢らしかったぜ。(嘲笑)
本土に戻った間宮さんにどんな未来が待っているのか、それは誰にも分からない。でもあの絆がある限り、きっと・・・
夜空に輝く南十字星を見上げながら、俺はそっと彼女の幸せを願うのだった。
(南の島の冬祭り)
〜おわり〜
「ずいぶんと月並みなラストね。学年3位の国語力は何処へ行ったのかしら」(ゆきのん)
「碌にセリフも無いままこれで終わりとは、さすがに頭にきました」(加賀改二)
がはっ!
え?給糧艦が空母になるって艦種的におかしいんじゃないかって?そこは二次創作だから。(開き直り)あと、生まれたままの姿で艦娘化した間宮さんだったけど、直ぐに横須賀の子たちが周りをブロックしちゃったから、ハチマン何も見てナイヨ?べ、別に全然残念だったなんて思ってないからね!
短い回想は終わり、沈黙が辺りを支配する。いつしか会話も途切れ、そろそろ執務棟に着こうかという時、ふと俺は気付いた。椰子の木陰に佇む人影に。見慣れぬ空母艦娘だが、はて?頭には大きな猫耳・・・って猫耳?ま、まさかっ?!
「KAN-SEN?」
呻く俺。
「NĒ-SAN?」
呻くゆきのん。ってかなんでこっちまでローマ字表記なの?
「姉さん?」
首を傾げて訝しむ加賀改二。
「久し振りね、加賀。いえ、雪乃ちゃん?」
優雅な仕草でこちらを向いた謎の彼女は、そっと猫耳を外し・・・てか外れんのかよ、それ。
「
まさかの加賀さん三人目ならぬ、妖しく微笑む
やはり俺の艦隊ラブコメはまちがっているらしい。
次回予告:名前で呼んで