やはり俺の艦隊ラブコメはまちがっている。   作:いろはす@

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第35話:いつかあの海で?

※このお話は、一部ノンフィクションです。なお、動画版は以下に→ 艦これドキュメント【第0話】『万策尽きた日』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだね」

 

 

「うん」

 

 

最上の言葉に頷くと、僕は玄関口に立った。ドアガラスにはでかでかと『(株)武蔵野アニメーション』のロゴ。

 

 

そう、今日僕らは『艦これ1944:いつかあの海で』の緊急打ち合わせのために、東京の制作会社へやって来たんだ。

 

 

突然、アニメの主役に抜擢され、訳も分からずショートランド前進鎮守府を離れてから、もうすぐ1ヶ月。僕ら西村艦隊のメンバーは、佐世保鎮守府を拠点に撮影を続けていた。毎日頑張ってはいるけれど、実はちょっぴりさみしい。比企谷提督に会いたいな・・・あ、いまのは内緒だよ?

 

 

撮影自体は順調そのもの。つい先日、最大の山場だったスリガオ海峡夜戦の収録が終わった。放送は今夜。楽しみだなぁ・・・

 

 

ふふ、それに昨日は千葉にある提督のご実家へ、ショートランドの艦娘代表としてご挨拶に行ったんだ。なんだか、その・・・ケッコンの報告みたいで緊張したよ・・・(轟沈)

 

 

ご両親はとっても感じの良い方で、妹の小町さんも、とびきりの美少女だった。もしかしたら、艦娘適性があるのかも知れない。これは強敵になりそうだ・・・でも妹なんだから、まさか大丈夫だよね??(何が?)

 

 

そんなことを考えているうちに、目的地のお部屋へ着いた。そう言えば、緊急の用件って、いったい何なんだろう・・・?

 

 

「最上型航空巡洋艦最上、入ります」

 

 

「白露型駆逐艦時雨、入ります」

 

 

揃って名乗ると、いざ室内へ・・・

 

 

「どうしましょう監督?視聴継続か、それとも切りか。分かれ目となる第3話。しかも、その中でも超重要な友軍艦隊到着のシーン。それがただの止め絵になったりしたら・・・」

 

 

「うぐっ・・・」

 

 

「棒立ちの艦娘なんて出したら、視聴率がた落ちですよ?」

 

 

「あう・・・」

 

 

「わざわざ1クール12話構成だったものを、8話に減らしてまでクオリティーの向上を図った筈なのに、このざまですか・・・」

 

 

あれ?なんか予想してたのと・・・全然違う?

 

 

「こうなったらもう、総集編を流して楽になるしか・・・」

 

 

「万策尽きたぁ・・・」

 

 

「第3話で万策尽きるなんて、前代未聞ですよ?!」

 

 

そう言って空を・・・いや、天井を仰ぐスタッフさんたち。こちらに気付きもしない。

 

 

「僕らはまだ、此処に居ても大丈夫なのかな・・・」

 

 

その呟きに、隣で最上がお手上げのポーズをして・・・ダメだこりゃ、とばかりに肩を竦めた。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「姉様!昨夜の第3話『海峡夜戦』盛り上がりましたね!」

 

 

「そ、そうね・・・」

 

 

此処は佐世保にある西村艦隊の宿舎。いつになく上機嫌な山城と、どこか歯切れの悪い扶桑。なにやらありそうな雰囲気である。

 

 

「来週の第4話『佐世保』の撮影も頑張りましょう!ふふふ・・・次は宇宙まで飛んでみせるわよ?」

 

 

そして悦に入る妹へ、姉は残酷な真実を告げることにした。昨夜遅くに、東京へ出向いた時雨たちから届いた凶報を。

 

 

「山城。言い辛いのだけれど、実はね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰りま・・・」

 

 

「ど、どういうことですかっ?!」(怒)

 

 

「ひゃん?!」

 

 

最上とふたり、東京から佐世保の宿舎に帰って来た僕は、部屋の入り口で飛び上がった。いまの叫びは・・・山城?

 

 

「第3話が撮り直し?!私があれほど渾身のENGI(演技)を見せたと言うのに?!」

 

 

それで全てを理解した。きっと、扶桑が話したんだろう。

 

 

「落ち着きなさい、山城。貴女、艦隊旗艦でしょう?」

 

 

「ですが姉様・・・あら、時雨に最上?遅い!いままで何やってたの?!」

 

 

怒りの矛先が、なぜかこちらを向く。解せないよ・・・

 

 

「あ・・・ご、ごめん、山城。僕が・・・」

 

 

「あぁん?はっきりしなさい!佐世保の時雨なんでしょ?!だいたい、あんたはそうやっていつもぼーっとしてるから、大事なところでハゲるのよっ!」

 

 

「!!」

 

 

いちばん気にしていることを言われて、心にさざ波が立つ。山城が指摘したのは、第3話の作画ミスについてだ。よりにもよって、見せ場の夜戦で僕の自慢の三つ編みが・・・

 

 

「まあまあ、落ち着いて」

 

 

最上がなんとか、場を取り成そうとするも・・・

 

 

「あ?何よ?中途半端な巡洋艦!」

 

 

「なんだって?!」

 

 

お互い、さらに険悪なムードに・・・(泣)

 

 

「あーあ、やっぱりみんな、ばらばらじゃない。やっとアニメで史実を乗り越えたって言うのに・・・」

 

 

そこに満潮たち第4駆逐隊も加わって、言い合いはヒートアップするばかり。でも、僕は誰かを責める気持ちになんて、なれない。だって、武蔵野アニメーションのスタッフさんたちから聞いてしまったのだから。そう、本当に悪いのは・・・

 

 

「な、何よ・・・なんか文句あるわけ?」

 

 

山城に言われてハッとする。いつの間にか、睨んでしまっていたみたいだ。いけない、僕ら同士で喧嘩なんてしてる場合じゃないよ。無理なものは無理。比企谷提督だって、いつも言ってるじゃないか。押してダメなら諦めろって。(教育的指導)

 

 

そう、あれ(作画ミス)は僕のせいでもムサニ(武蔵野アニメーション)のせいでもない。悪いのは、ブラック鎮守府みたいな制作スケジュールを現場に押し付けてくる運e・・・

 

 

「時雨」

 

 

穏やかだけど有無を言わせない声が、僕の思考を遮った。見れば、蜜柑を手に扶桑が微笑んでいる。

 

 

「それ以上、言ってはダメよ」

 

 

オレンジ色の皮をきれいに剥きながら、扶桑は続けた。

 

 

「大人の事情、というものなのだから」

 

 

そう言って差し出された一房を、僕はぱくりと食べた。とっても甘くて美味しい。ささくれた気持ちまでも蕩けさせるような味だ。

 

 

「ごめん、山城」

 

 

自然と言葉が零れ落ちた。

 

 

「わ、私もちょっと言い過ぎたわ・・・」

 

 

みんなで互いにごめんなさいをして、蜜柑をお茶受けにひと息入れる。なんか見覚えのあるやり取りだったけど、最後は丸く治まったね。やっぱり雨は、いつか止むのさ。

 

 

 

 

 

 

ところが・・・

 

 

 

 

 

 

夕食の時間になり、僕らは鎮守府食堂へとお邪魔した。味の方は折り紙つきだ。おそらく、ここ佐世保の間宮さんは歴戦の強者なんだろう。ショートランドにも、早く間宮さんが着任してくれないかな・・・

 

 

そんなことを思って美味しくごはんを頂いていたのに、偶然耳に入ってしまったんだ。佐世保の艦娘たちの、ひそひそ話が。

 

 

「聞いた?例の第3話、不評だから撮り直しですって」

 

 

「全く・・・誰かさんが空を飛んだりするから・・・」

 

 

「なんだと?!このぉ!!」

 

 

その誰かさんは、低速艦にも関わらず即座に反応した。手にしたお茶碗を叩き付けるように置くと、相手の席へ突撃する。まさか、高速タービンでも積んでるのかな?

 

 

「や、山城?!」

 

 

「きゃ?!そ、そこは触らないで!あふん・・・」

 

 

「みんな・・・衝突禁止だよ!うわっ?!」

 

 

「やめてよ、痛いじゃないか」

 

 

そんな一悶着のあと、大急ぎで第3話のリテイクが行われ、やっと僕たちはお休みを貰えることになった。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「ザザッ・・・久し振りだな、時雨」

 

 

僅かな雑音の後に受話器から流れ出したのは、ずっと聞きたかった声。

 

 

「提督・・・」

 

 

胸が詰まって言葉が出ない。言いたいことは、たくさんあるのに・・・

 

 

休日を利用して、やっと実現した電話越しでの再会。こんな情勢下だから、気軽に長距離通信網を使うことは許されない。これが艦娘同士なら、艤装を展開すればリアルタイムでやり取り出来るんだけど・・・

 

 

「いつ海、素晴らしい出来映えだった。お前の決戦mode、なかなか似合っていたぞ」

 

 

「うん・・・有り難う、提督」

 

 

「ん?どうした、元気がないようだが・・・」

 

 

やっぱり君は、気付いてくれるんだね・・・その事実だけで、胸の奥が温かくなる。そう感じた次の瞬間、思わず僕は叫んでいた。

 

 

「・・・げ、元気なわけないじゃないか!ずっと君に会えないままなんだから!こんなことなら、主役なんて引き受けるんじゃなかったよ・・・」グスッ

 

 

「う、うむ、そうか・・・良く分からんが、済まない」

 

 

彼の声を聞いただけで、僕は不覚にも取り乱してしまった。込み上げてくる気持ちを抑え切れず、さらに言い募る。

 

 

「聞いてよ提督!第3話がリテイクになって、山城は空まで飛んだんだ。渾身のやましぐタッチさ。それなのに、制作の都合で3週間も放送延期だなんて、あんまりだよ・・・」

 

 

「時雨!それはダメだよ・・・!あちゃー、間に合わなかったか・・・」

 

 

「え?なにが?」

 

 

最上に制止された理由が分からず、僕はきょとんとして問い返した。受話器の向こうでは、提督が呻いている。

 

 

「ちょ、おまっ??山城が飛んだってどゆこと?やましぐタッチ?ぐはぁっ!まさかのネタバレ・・・」ガクッ

 

 

あれ?提督が、壊れちゃった・・・初めて聞く彼の口振りに疑問を抱いていると、

 

 

「いい?時雨・・・あっち(ショートランド)は最前線で電波状況が悪いから・・・いつ海は1週間遅れで放送されているのよっ!」

 

 

言い放つと、山城はがっくりと机に突っ伏した。そんな・・・ということは、まさか・・・自分でも、顔が青ざめてゆくのが分かる。

 

 

「そ。提督たちはまだ、第2話までしか見ていないの」

 

 

突き放すように言う満潮。

 

 

「あんたは、私の最大の見せ場を、放送前にばらしたのよ・・・」ボソッ

 

 

気が抜けたような山城の呟き。ああ、ごめんなさい。僕は、僕はなんてことを・・・

 

 

やっと事態の深刻さに気付いた僕の目の前を、山城の言葉が通り過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不幸だわ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけどこの時、僕らはまだ知らなかった。3週間の放送延期の先には、年を跨いで更なる再延期が待っていることを。(真実)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

 

 

「駆逐艦時雨、参りました」

 

 

「おう、入って」

 

 

佐世保鎮守府の提督に呼び出された僕は、執務室へと出頭した。毎回、撮影の詳細は彼を通じて知らされている。今日もたぶん、その話だろう。

 

 

「まあ、座りなさい。お茶でもどうかな」

 

 

「有り難うございます。ですが、どうかお構い無く」

 

 

失礼とは思ったけれど固辞して、直立不動の姿勢をとる。僕が本当の自分を出せる相手はただひとり。比企谷提督だけだ。

 

 

ここの提督さんは、そんな比企谷提督よりもかなり年上で、信頼が置けそうな人物だった。脇に控える大淀さんも、ショートランドの大淀さんとは少し印象が異なって見える。艦娘にも個人差はあるんだなぁ。まあ、同じ加賀さんでも、あれだけ胸部装甲が違ってたりするし・・・ひゃ?!(殺気)

 

 

「第4話の台本が届いたよ」

 

 

やっぱり・・・今度はどんなお話なんだろう?

 

 

「見てごらん。ちなみに拒否権は、ない」

 

 

「はっ!時雨、台本を拝見させて頂きます!」

 

 

彼の言葉に一抹の不安を感じながら、台本を手に取る。表紙に書かれたタイトルは・・・

 

 

 

 

 

 

『Episode-Ⅳ 温泉』

 

 

 

 

 

 

はぁ・・・君たちの脚本には失望したよ・・・どうして萌えアニメのヒロインは、ストーリーに関係なくお風呂に入らなきゃいけないんだろう・・・

 

 

ショックのあまり俯いた僕の頭上から、威厳のある声が響く。

 

 

「白露型駆逐艦時雨!本日付けを以て、サービスシーンへの出演を命じる!」

 

 

「はっ!時雨、サービスシーンへの出演を拝命します!」

 

 

咄嗟に敬礼しつつ復唱してから、思わず空を・・・いや、天井を仰いだ。雨はいつか、止むのかな・・・

 

 

最終回まで、あと4話・・・果たして僕たちは、無事に最後まで駆け抜けることが出来るんだろうか・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば佐世保鎮守府の司令官は、ブライト・ノアっていうベテランの提督さんだったよ」(時雨)

 

 

「なん、だと・・・?!ぶったね?二度もぶった!父さんにもぶたれたこと無いのにっ!」(比企谷提督)

 

 

「???」(時雨)




次回予告:迷探偵赤城 ~南海の迷推理~
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