※このお話は、ほぼノンフィクションです。
「やっと帰って来ましたね、加賀さん」
「そうね、赤城さん。さすがに気分が落ち着くわ」
久し振りのショートランド前進鎮守府。私は加賀さんとふたり、定期便の大艇ちゃんから降り立ちました。綺麗な夏空に、対潜哨戒機『東海』がのんびり飛んでいるのが見えます。味方が制空権を確保している証拠でしょう。
「私たちが居ない間に、ずいぶん基地航空隊が増強されたようですね」
「ええ、これだけ航空戦力が充実してくると、空母の出番が減ってしまうのではないかしら」
そんな会話を交わしながら、執務棟へと足を向けます。僅か1年あまりでこの南方海域を制した、
ここ3ヶ月ほど、私と加賀さんは艦娘教導隊として、各地に散らばる日本海軍の拠点を回っていました。これまでの戦闘で得られた情報や経験を、仲間たちにフィードバックするためです。長らくショートランド基地で主力だった私たちが、こうして最前線を離れる余裕が出来たのも、ひとえに比企谷提督のご手腕によるもの。いつも予想の斜め上を行く彼の戦術は、もはやチートの域に達していると言って差し支えないでしょう。
ちなみに、ショートランドに所属している
「正規空母赤城、入ります」
「同じく加賀、入ります」
3ヶ月振りの再会に少し緊張しつつドアを開ければ、いつも通り第二種軍装姿の提督と、筆頭秘書艦の大淀さんが出迎えてくれました。
「一航戦、ただいま帰投しました」
素早く表情を引き締めて直立不動の姿勢をとり、敬礼します。こうでもしないと、嬉しさのあまり頬が緩んでしまいそうなのです。こんな時、夕立さんのように提督の胸へ素直に飛び込んでゆけたなら・・・いつやるの?いまでしょ!(ダメ!絶対!)
「うむ、ご苦労だった」
一見素っ気なくも優しさのこもったお言葉が、疲れた心身に染み渡ってゆきます。勧められるままにソファーへ浅く腰掛けた私は、今回の遠征に関するあれこれを口頭でお伝えしました。どうせあとで正式な報告書を提出するのですから、いまここで、わざわざお伝えする必要はないのですが・・・
はい、そうです。要は、少しでも長く提督とお話したいだけなのです。でもほら、お隣に座る加賀さんだって同じ気持ちみたいですよ?
さて、一通り報告も終わり、退出する頃合いとなりました。名残惜しいですが、提督もお忙しい身です。最後にもう一度敬礼してから部屋を出ようとした私は、ふと思い付いて尋ねました。
「そう言えば提督、艦これアニメ第2期はどうなりましたか?」
ここを発つ時には、確かスリガオ海峡夜戦の回が放映されていました。山城さんが空を飛んだwwwと、みんな大騒ぎしていたのを覚えています。(笑)時期的には、とっくにエンディングを迎えたはず。新たな艦娘たちの物語は、世間からどんな評価を受けたのでしょうか。私、気になります。(古典部)
ところが・・・
「・・・うむ?何のことだ?艦これアニメと言えば、第1期と劇場版だけだろう?」
不思議そうに問い返してくる提督・・・え??頭に幾つもの疑問符を浮かべながら、私は更に言葉を続けました。
「えっと・・・正確なタイトルは『艦これ1944 いつかあの海で』だったと思いますが・・・この基地からも、時雨さんたちが撮影に駆り出されたはずかと」
「いつ海?はて・・・大淀、お前は知っているか?」
「いえ、全く」
眼鏡を押さえながら、間髪入れずに答える大淀さん。そんな・・・
「申し訳ありません。私たちの思い違いだったようです」
「へ?」
すると、戸惑う私を庇うように前へ出た加賀さんが、半ば強引にお話を終わらせてしまいました。いったい、何がどうなって・・・?
こうして、待ちわびていた提督との再会は、思わぬ形で幕引きとなってしまったのです・・・
赤城、加賀さん、済まん・・・しばらくの間、ふたりが出ていった執務室のドアを見つめていた俺は、ため息とともに口を開いた。
「はぁ・・・大淀も済まないな。猿芝居に付き合わせてしまって」
「い、いえ!そんな・・・私たちが至らないばっかりに、却って提督にまでご迷惑を・・・ふぇ?!」
声を詰まらせる大淀の頭を、そっと撫でる。不幸中の幸いか、彼女はあの最終回をテレビで見ただけだが・・・主人公を務めた時雨をはじめ、矢矧、磯風、浜風、冬月、涼月など
撮影から帰還した彼女たちは全員、メンタルが大破轟沈状態だった。すべての提督と艦娘たちの期待を一身に背負い、KADOKAWAからのプレッシャーや、めちゃくちゃな収録スケジュールにも耐えて頑張ったと言うのに、最終回でまさかの全滅エンドをやらされたのだから。演出・脚本担当、許すまじ。
1ヶ月前のあの夜。非番の艦娘たちは全員視聴覚室に集まり、いつ海最終回の開始を今や遅しと待っていた。佐世保で撮影を続けていた時雨たちからは、事前に万事順調との連絡が入っていたから、みんなハッピーエンドを期待していたのである。俺?もちろん私室のパソコンの前で全裸待機していましたが何か?
え?なんで一緒に見ないのか、だって?そんなの、もしエッチなシーンとか出てきたら気まずいし(ダメ!絶対!)時雨たちがさだめの軛に抗って輪廻の零を解き放ったりしたら、感動のあまりギャン泣きしてドン引きされる
・・・などと暢気に思っていた時もありました。
そして、オープニングから約24分後。
はい???( ゚д゚)ポカーン
マジか?うそだろ・・・
延期に次ぐ延期の果て、ようやく放映されたファイナルエピソード『いつかあの海で』を見終えた俺は、呆然とパソコンのモニターを眺めていた。なにこれ、艦これ、あ艦これ・・・(三段活用)第1期で如月ショックなどと騒いでいたのがアホらしくなるほどの、清々しいまでの壊れっぷり。材木座の書いたへぼ二次小説の方が、まだマシなまである。(本音)8年近く待たせといて、こんなふざけた代物作ったの誰だよ・・・
もちろん、懸命に演じた艦娘たちには一切責任などない。責められるべきは・・・おっと、誰か来たようだ・・・って運営さんを悪く言わないで!運営さんもしーちゃんも頑張ってるんだぞ!最近だって、たかが当日になってアニメの放送延期を発表したり、期間限定イベント前のメンテナンスが予定より6時間オーバーしても何のフォローもしなかったり、気に入らないツイッターのコメントは即ブロックしたり、200周してもドロップ報酬艦娘が出なかったりしただけじゃないか・・・!!あれ?これって全部アウトじゃね?(目が覚めた)
そして俺は、深夜の執務室でひとり、そっと呟いたのだった。
「どうしてこうなった?」
翌日。ショートランド基地はいつもと変わらぬ朝を迎えた。アニメの話題を出す者など、ひとりも居ない。一晩経って、ようやくみんなが同じ結論に達したのだ。つまり『いつ海なんて無かった。いいね?』ということである。おっそーい!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「待って下さい、加賀さん!」
執務室を出て、ずんずん先に行ってしまう加賀さんを追いかけていると、いつの間にか基地を見下ろす高台に来ていました。
「はぁはぁ・・・か、加賀さん、どうしたのですか?」
ようやく立ち止まった彼女は、ゆっくり口を開きました。
「どうやら、相当なことがあったようね。私たちの預かり知らぬところで」
確かに、あれだけアニメ第2期を楽しみにしていたはずの提督が、あの不自然な態度。しかも大淀さんまで。謎は深まるばかりです。
「ええ、ですがいったい何が・・・まさか、本当に私たちの思い違いだったとか・・・?」
「それは無いわ」
即答する加賀さん。
「貴女も聞いたでしょう?提督が『いつ海』と仰ったのを。もしアニメ第2期が存在しないのなら、彼があの略称を知っているはずがないわ」
「!!」
さすが加賀さん。目の付けどころがシャープです。(平成初期ネタ)
「ということは・・・はっ?!ま、まさか、私たちふたりだけが過去にタイムスリップしたとか、違う世界線に転生したとかでしょうか?!ならば、原作知識を駆使して無双を・・・」
「・・・赤城さん」
「ひゃっ?!」
冷たい加賀さんの声で、私は我に返りました。彼女とは長い付き合いですが、正直ちょっと怖いです。演習でいつも涙目になっている瑞鶴さんの気持ちが、少しだけ分かる気がしますね・・・
「はぁ・・・提督のお陰でインターネットが解禁されたのは良いのだけれど、おかしな二次小説ばかり読むのは考えものよ」
「そ、そんなことは・・・」(汗)
ショートランド基地では最近、比企谷提督のご発案で、私たち艦娘にもパソコンやタブレット、スマートフォンの使用が認められるようになりました。もちろん、艦娘専用フィルタリングサービスへの加入が必須条件ですが、これまでのところ、特に不便は感じていません。何しろ、Rー18版小説も普通に閲覧出来ていますし。(爆)
「そ、そうです!加賀さんも艦これ二次小説を読んでみたらどうですか?pixivやハーメルンがオススメですよ。新任提督と私たちの勘違い&すれ違いものに、ブラック鎮守府の建て直しものなどなど・・・ふっ・・・胸が熱いな」(ながもん)
「あら?いつも赤城さんが読んでいるのは、ヤンデレハーレムものだったのではなくて?」
Critical hit!!
「くっ・・・雷撃処分、して下さい・・・って、加賀さんも知っているんじゃありませんかっ?!」
「何のことかしら?」
不器用にそっぽを向いて誤魔化す彼女へ、私は力強く宣言しました。
「こうなったら、私たちで謎を解き明かしましょう!艦娘遊撃探偵団の初任務です!」
「はぁ・・・いつの間にそんな部隊が出来たのかしらね・・・」
加賀さんは呆れたようにため息をつきましたが、私には分かっていました。彼女は必ず協力してくれる、と。だって私たちは、ふたり揃ってこその一航戦なのですから。
「そうと決まれば、早速聞き込みです。じっちゃんの名にかけて!」
「まだ、なにも解決してはいないと思うのだけれど?」ボソッ
でもその前に、まずはおやつです。
「あら、電さん、こんにちは」
幸い、間宮さんの甘味処で腹ごしらえを終えると直ぐに、1人目の対象者と接触することが出来ました。第6駆逐隊の末っ子、電さんです。素直な彼女ならば、きっと有力な情報をもたらしてくれることでしょう。
「あ!おふたりとも、こんにちはなのです。教導隊任務から戻られたのですね。お疲れ様なのです」
挨拶もそこそこに、私は切り込みました。
「有り難う電さん!ところであなたに聞きたいことがあるの!」ガバッ!!
「はわわわ?!な、なんなのです、貴女は?!」
「私は正規空母赤城!!探偵さ・・・」
「・・・?」シーン
くっ・・・!
「いまのは忘れて頂戴。ところでひとつ聞きたいのだけれど」
すると、逸る私を制して加賀さんが割り込んできました。やはりさすがです。(?)
「はい!電に分かることなら、何でも答えるのです!」
加賀さんには普通に応対するんですね、電さん・・・
「大したことではないわ。艦これアニメ第2期についてなのだけr・・・」
「ひっ?!」
しかし加賀さんの質問は、途中で遮られてしまいました。電さんの悲鳴によって。
「い、電は何も知らないのです!いつ海なんてアニメ、はじめから無かったのです・・・う、うわぁぁぁん!全部、電がいけなかったのです!まさかあんな最終回だなんて知らなくて、エンディングで暢気に東京観光なんかしてごめんなさいなのです!」
泣きながら走り去る電さん。これは・・・ただ事ではないようです。私は表情を改め、敢えて低い声で言いました。
「これより本件をD事案と認定し、第1級軍機としましょう」
「それはもう劇場版でやったわ」
「た、単なる雰囲気作りですよ・・・」ヽ(;´ω`)ノ
私たちは、さらに聞き込みを続けることにしました。しかし。
「クマ~!そんなアニメ、知らないクマぁ~!!」
「んー?いつ海ねぇ・・・よく分からないかな~大井っちは?」
「存じ上げませんわ、北上さん。あと、わたくしをハイパークレイジーサイコレズ扱いしたアニメ第1期なんてものも、全然記憶にございません」
「いつ海?知らんな。夜間瑞雲ならここにあるが、見てみるか?」
「雪風は・・・知りませんっ!」
「筑摩ぁ~!吾輩は何も知らんのじゃ~!」
「止まない雨も・・・あるさ」
「あんなアニメは、榛名が、許しません!」
「・・・どうせみんな沈むんだ。全滅エンド、現代転生・・・」ブツブツ
誰もが目を泳がせ、口を濁すばかり。なかには、私の質問を聞いた途端に艤装を展開した挙げ句、過呼吸になって倒れてしまう艦娘も・・・なにかトラウマを呼び起こしてしまったのでしょうか。ご、ごめんなさい・・・
「結局、手掛かり無しですね」
「ええ、こうなったらもう、インターネットで『いつ海』を見てみるしかないわ」
「最初から、そうしていたら良かったのでは・・・?」
・・・と
「無い・・・どこにも無い・・・?」
「ええ、どこにも」
視聴覚室にあるパソコンの前で、私と加賀さんは途方に暮れていました。いくら検索しても『いつかあの海で』という作品がヒットしないのです。どうして・・・(フィルタリング済み)エンディングテーマは時雨さんたちが歌っていましたし、万策尽きて放送延期なんて話も聞いた覚えが・・・ん?
「加賀さん!あった!ありましたよ!」
遂に見つけました。変な字幕が付いていますが、確かに見覚えのあるオープニングです。謎はすべて解けた・・・!!あれ?はわわわ?!なんかエッチな広告が次々と!えぇ?パソコンがウイルスに感染したからここをクリック?!大変!どうしましょう・・・!!ヽ(゚д゚ヽ)(ノ゚д゚)ノ!! アセアセ
「頭にきました。赤城さん、それは違法配信サイトよ」カチッ
ふぅ・・・加賀さんの一撃で何とか事なきを得ると、更に探索を続けます。今度こそ・・・
「やりました」
ドヤ顔の加賀さん。どうやら、ユーチューブに全8話が丸ごと違法にアップされていたようです。便利な世の中になりましたね・・・えぇ?!!ヽ(゚д゚ヽ)(ノ゚д゚)ノ!!(だからダメ!絶対!)
「こうなれば、最終手段よ」
「はい。デジタルツールの出番ですね」
万策尽きた私たちは、グループラインでショートランド基地所属の全艦娘宛てにメッセージを送ることにしました。正直なところ、あまり期待はできませんが・・・
『いつ海の録画データはいずこにありや?一航戦は知らんと欲す。提供者には、抽選で比企谷提督の㊙️盗撮写真を進呈せり』
すると、直ぐさま私のスマホが鳴りました。はやいですよホセ・・・画面を見ると、そこには・・・
着信中 非通知設定(金剛)
もはや、何のための非通知か良く分からないですねwww 加賀さんにも聞こえるようスピーカーをオンにしてから、私は通話ボタンを押しました。
「はい、こちら七曲署」
「モシモシ。提督の㊙️写真の件、本当デスカ?」
見事にスルーされました。(泣)それともネタが古すぎたのでしょうか?
「ええ、本当よ。じっちゃんの名にかけて誓うわ」
滑って落ち込む私に代わり、加賀さんが応じました。あと、さらりと私のネタを取らないで下さい。
「ど、どこで撮影した写真ネー?」
「私が秘書艦の時、一晩中彼に添い寝・・・ケホケホ!不寝番をした際に撮影したものよ。あの夜は、さすがに気分が高揚したわ」
加賀さん・・・なにをしているんですか、貴女・・・
「うう、これは凄い写真が見られそうデス。わ、分かりマシタ。あとで視聴覚室に録画データを入れたSDカードを置いておくネー」
そしていま、私たちの目の前には夢にまで見た『いつ海』の録画データが。情報を提供して下さった、ペンネーム『ショートランドの
「では、覚悟はいいですね、加賀さん」
「ええ、鎧袖一触よ」
震える指先で、私は再生ボタンをクリックしました。
そして、約24分後。
・・・視聴を終えた私たちは、奇しくも全く同じ言葉を口にしました。
「「どうしてこうなった?」」
おわり
「ヘイ、加賀!提督の㊙️写真を貰いに来たネー!彼の恥ずかしい姿を独り占めするのは、このワタシデース!!」
「あら金剛さん。残念だったわね」
「なっ?!ま、まさかあれはウソだったのデスカ?!」
「いいえ、すべて本当のことよ。でも写真は進呈出来ないわ。だって『いつ海』なんてアニメ、はじめから存在していなかったんですもの」
「Oh・・・なぜか無性に比叡curryが食べたいネ・・・」ガクッ