「お、始まったな」
俺は執務室の窓から、特別演習とやらの様子を眺めていた。双眼鏡の向こうでは砲撃音と共に水柱が上がり、新米艦娘が次々と吹き飛ばされてゆく。予想外にリアルだ。ちょっとばかり生々しすぎるが、まぁ、こんなものなんだろう・・・って、えっ?!
双眼鏡の視界に飛び散った赤いモノ。う、嘘だろ・・・
「天龍大破、神通大破、夕立大破、睦月機能停止、電航行不能、川内艤装全壊」
思わず振り返った俺のすぐ横で、淡々と読み上げる大淀の声。
「あ、あれは何だ?!」
「特別演習です。先ほど、ご説明しましたが」
それがどうした?とでも言うように、眼鏡へ手を添えて答える大淀。
「そんなことを聞いてるんじゃない!彼女たちは・・・」
「ええ、実弾演習よ。当たれば普通に大破するわ」
「なっ・・・!」
大淀に代わって答えた加賀さんが、冷静な顔でこちらを向く。
「炸薬の量は減らしてありますから、直撃しても沈むことはありません」
「Excellent!・・・じゃなくて!み、みんな怪我してるじゃねえか!」
狼狽える俺に、加賀さんは続けた。
「ここは最前線です。新入りに実戦の厳しさを分からせるには、これが一番なの」
「だ、だからってこんなの・・・!」
絶句する俺を、加賀さんと大淀は不思議そうな表情で見詰めてくる。
「始めに被弾する痛みや恐怖を知っておけば、後々生き延びる確率が上がります。この演習方法はむしろ、彼女たちの為なのです」
淀みなく話す大淀。(註:ギャグではない)
「この鎮守府に配属された以上、少しでも長く戦い続けられるようにと、前任の提督が考案した画期的なシステムです」
加賀さんも口を添える。コイツらは、自分が何を言ってるか分かってんのか?
「どこが画期的なんだ!?一方的に新入りを袋だたきにしてるだけだろ!」
「いいえ、一方的ではありません。新人たちにも、ちゃんと実弾を与えてあります。反撃できるかどうかは、本人次第。言うなればこれは、艦娘同士の共食いです」
「と、共食い・・・だと?」
「それに私たちは艦娘。深海棲艦と戦う兵器です。ご心配には及びません」
その間にも、砲声は絶え間なく響いている。
「と、とにかく演習は即刻中止!みんなにそう連絡するんだ!」
「なぜです?新人の鍛練を邪魔するおつもりなのかしら」
通信機のインカムを持つ加賀さんに命じたが、彼女は取り合おうとしない。くそっ、こうなったら・・・
「艦娘は兵器なんかじゃない、人間だ!だからあんな演習は認めない!俺が自分で指示するから、
思わず掴んでしまった華奢な肩に、はっとする。
「す、すまん・・・大丈夫か・・・」
「え?ええ・・・」
そしてなぜか顔を赤らめた加賀さんが、ぽつりと漏らした言葉。
「
いつもの凛とした雰囲気はどこへやら、弱々しい上目遣いで迷子の仔猫ちゃんみたいだ。(何それ可愛い過ぎ)
そんな彼女の様子を見て、言いようのない腹立たしさがこみ上げてきた。人としての自分自身を否定してしまうなんて、そんなのダメだ。敢えて言おう、やはり加賀さんたちの自己評価はまちがっている、と。
「あ、当たり前だろ!そんなの、分かりきったことじゃねぇか!何度でも言ってやる!だから・・・」
熱くなった頭を冷やそうと、一度言葉を切る。
「だから、自分たちが兵器だなんて言わないでくれ・・・」
「!!」
俺の答えに、加賀さんと大淀は驚いたように目を見開いた。胸の前で握り合わせた両手が、微かに震えている。一瞬、ふたりの纏う空気が変わったように感じたが、気のせいだったか・・・
それよりも・・・またやっちまった・・・
あの日、部室で「本物が欲しい」とかやらかして以来の黒歴史。って言うか、わざわざ南の島で黒歴史伝説更新してどうすんだよ・・・
まぁ、あれだ。お互い、今日のことは胸の中にしまっておこう。異議なし!これでめでたく秘密は封印された。ふぅ・・・
照れ隠しに制帽を被り直す新人提督の姿に、そっと拳を握るふたり。きゅんきゅんしながら、囁くように言葉を交わす。
「提督のことは、私にお任せください・・・」
「いいえ、ここは譲れません・・・」
いつの間にか、演習は終わっていた。
てか俺、ただの一人相撲じゃん!!(衝撃)
だがこの時、俺たちはだれひとり気付いていなかった。窓の外に張り付いた、不審な影に。
「青葉、見ちゃいました・・・」
次回予告:自分の気持ちに気付いてしまった艦娘たちは、敢然と行動を開始する。その先に待ち受けるのは、鎮守府という名のハーレムか、それとも修羅場か・・・
第10話:提督は誰のもの?