「ノア、私はダイエットするわ」
いつも通り業務をこなしていたノアは、向かい側に座る親友のその発言に作業中の手を止めざるをえなかった。
「……すみませんユウカちゃん、もう一度聞かせてくれませんか?」
「ダイエットするわ」
「聞き間違いじゃありませんでしたね。でも、突然どうしたんですか?」
ノアはユウカの発言に疑問を覚えていた。
これまで彼女が自身の身体について気にしていた様子もなかったはず、確かに資金繰りのストレスで色々食べたりしている所を見かけた事はあったが、ノアから見てもユウカのスタイルは問題ないように思える。
「……昨日の事よ」
「昨日は確か、部費の予算調整のために各部活に訪問してましたね」
自分は別の用事があったため、ユウカちゃん1人に任せてしまったのだが、どうやらその時に何かあったらしい。
「ええ、毎度毎度自分達の意見しか通そうとしないし話の途中でプレゼンしてきたり色々あったけど、もうそれに関しては別にいいわ」
「…本当にお疲れ様でしたユウカちゃん」
「ありがとう……それで、その訪問から帰ってきた時よ。廊下で私の事を話してる子達がいてね、つい気になっちゃってこっそり盗み聞きしてたの」
「つまりそこで聞いた内容からダイエットすると決めたんですか?でもユウカちゃんが心配するほど体型は…」
「太もも」
「え?」
「太もも凄いよね、だって」
「………………………」
「………………………………」
お互い気まずい空気が流れる。
……その言葉を完全に否定する事ができない。
確かにユウカちゃんは、その…とても健康的な足をしているなと一瞬思った事はありましたけど。
「あまり関わりのなかった子にそう思われてたって知って、流石に私も不味いなって思ったのよ」
「なるほど、ではこれからの計画などは決まってるんですか?」
「そうね……とりあえず運動しなくちゃ始まらないし、トレーニング部にでも…」
「話は聞かせてもらったよ」
突然そんな声が聞こえてくる。
その声の方を見るとそこには見知った人物、エンジニア部の3人が変なポーズをとってこちらを見ていた。
「あ、貴方達なんでここに?」
「昨日の予算案の事で少し抗議をしようと思って訪ねたんだが、先程の君達の会話が聞こえてきてね」
「乙女の悩みは複雑…」
「その悩み、私たちエンジニア部にお任せください!」
バーンと効果音が流れていると錯覚するほど綺麗に決めポーズをする3人
「いや、急に言われても困るんだけど…」
「とりあえず私達はこれから作業に取り掛かるとしよう、ではまた明日エンジニア部のラボに来てくれ」
「あ、ちょっと!……行っちゃった」
まるで嵐のような急展開についていけず、頭を抑えるユウカ。
「……変に無視しても何か余計な事をしでかすかもしれないし、とりあえず明日行ってくるわ」
「ファイトです、ユウカちゃん」
そんなやり取りがあった翌日、ユウカは指定されたエンジニア部のラボ内へと足を運んでいた。
「やあユウカ、よく来てくれた」
「貴方達を放っておいたらどうせ何かしら問題を起こすだろうから仕方なくよ」
「安心したまえ、今回はきっと気に入ってくれるはずさ」
実のところユウカは少しだけ期待していた。
普段は訳の分からないものを作ったり余計な機能をつけたりと無駄なものばかり発明しているエンジニア部、だがその腕前だけは一級品であるのは間違いない。
「では披露しよう。ヒビキ、コトリ、早速準備だ」
そう言って3人で運んできたのは、何やら黒い布で隠されており自身の身長よりも少し大きいサイズの物体。
そしてその覆われていた黒い布をバッと取り除くと。
「こ、これは……」
そこに現れたのは、おそらく腕や足などに装着するであろうパーツがあり、背中側には大きなタンクが備え付けられている装置だった。
「ふ、これはどんなに動くのが苦手でも、AIが動きをサポートし運動をし続けられるサポート用マシーン」
「更に!背中のタンクにペットボトルを入れる事で、適切なタイミングを計測して口元のホースから水分を放出してくれます!」
「その他にも手元のバーコードでコンビニ決済も可能だし、Bluetooth機能で音楽を聴きながら運動できる」
「「「名付けて、全自動運動補助マシーン痩せ丸25号!!!」」」
「……なんで25号?」
「号数が多いと何となく格好いいだろう?」
「それはよくわからないけれど…」
まあでも聞いた限りではそこまで悪いものじゃないように思える。
案外心配しすぎていたのかもしれない。
「じゃあ早速装着してくれるかい?」
ウタハ先輩に促され、自身の腕や足に器具を装着していく。
「とりあえず時間は10分に設定しておくよ、軽くここで動いてみてくれ」
「…確かに動きやすいわね」
腕を曲げたり足を伸ばしたり基本的な動きをしているだけでもこの機械の効果がわかる。
さらにラボ内を軽く走ってみるが、その最中も機械による補助でいつもよりもスムーズに動くことができた。
感心していたユウカだったが、しばらくしてから困惑気味に尋ねる。
「あの、これはいつ止まるのかしら」
そう、10分を過ぎても機械が作動し続けていた。
動きを止めようとすると器具により強制的に手足を動かされ止まることができない。
「おかしいな、設定時間が過ぎれば自動的に終わる筈なんだが……」
「ちょっと、この後仕事が……そうだ、これを外しちゃえば!」
そう考え腕についた器具を無理矢理取ろうとした瞬間。
『装着者による運動の拒否を確認しました、これより強制運動モードに移行します』
「へ?、な、何よそれ!」
「説明しましょう!そのモードは運動をサボりがちな人のためもので、指定した時間よりも短い段階で終わろうとするとマシーンによって強制的に手足を動かされて運動を行うことができるというものです!」
「とはいえ、不具合が出てしまった今はマシーンの方を止めなくてはね」
そう言ったウタハは携帯していた自身の愛銃でタンク部分を撃ち抜こうとする。
『警告、警告、装着者の運動を妨害されています。これより殲滅モードへ移行します』
「今度は何!?」
「説明しましょう!快適な運動を行うのに余計な情報を入れないよう、邪魔なものはタンクに常備されている銃器で全て蹴散らすことが出来るんです!」
「何でただの運動マシーンにそんな物騒なものがついてるのよ!!」
「でも今の邪魔なものって私とコトリとウタハ先輩って事だよね…?」
「ああ、つまり…………」
『殲滅対象3名を確認、直ちに排除を行います』
「2人とも、運動の時間だよ」
その日ミレニアム全域で銃声が鳴り響いていたという。
そして後日、エンジニア部の3人は大変なお説教をくらい、部費の予算を少し削られた。