VRMMO経済をぶっ壊します!〜だめだよお姉ちゃん金卵をそんな使い方しちゃ〜   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第17話「おお、あなた私の友達!」

「ま、まずい! ルーターたちがやられたぞ!」

 

「ちっ、仕方ない。撤退! 撤退!」

 

「邪悪な商人どもめ、覚えていろ! この恨みはいずれ必ず晴らす!」

 

 

 ルーター騎士どもを撃破されたことを知った<天麩羅騎士団(テンプラナイツ)>は、これ以上戦っても無意味と判断して蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

 それはもう見事な逃げ際で、全員が全員バラバラの方向にとんずらしていく。戦うよりも逃げる練習の方を真面目にしてたんじゃねえの?と疑いたくなるほどだったが、逃げるのが上手だからこそのしあがれたのかもしれない。

 

 

「追うか?」

 

「いえ、やめておきましょ。深追いして火傷するのも困るし、交易品を奪われたわけでもないもの」

 

 

 ゴリミットの言葉に、エコ猫は苦い顔で首を横に振った。

 うむ、とゴリミットも頷く。別に提案したというわけではなく、雇い主が冷静かどうか確認しただけのようだ。

 

 テンプラ野郎どもはそれでいいとして、問題は20体ものサソリの駆除の方だった。

 本来ならカズハがヘイト対象でなくなった時点で消える一時的な存在のはずなのだが、どうもタゲが移ってMPKが成立するとその場に残って消えなくなってしまうらしい。恐らく簡単にMPKしてアイテムゲット!をさせないための意図的な仕様のようだ。

 

 騎士たちが乗っていたラクダも騎士のパーティと判断されて倒されてしまったため、積み荷と騎士たちに倒された仲間の私物を回収するべくサソリ20体と戦う羽目になった。

 ゴリミットたちを前衛にして、みんなで黄金銃をぶっぱしてなんとか駆除したのだが、むしろこっちの方が騎士たちの相手よりもてこずるほどだった。3体程度が同時湧きしてもなんとかなるが、さすがに20体ともなると後衛の商人たちに攻撃が届かないようブロックするのも一苦労だ。

 

 

「やれやれ、こいつはなかなかの重労働だったぞ」

 

「……ごめんなさい」

 

「ああ、いや。カズハ君を責めたわけではない。むしろ良い機転だった。おかげでアイテムを奪われることもなかったからな」

 

 

 顔を伏せるカズハに、ゴリミットは慌てて弁解する。

 同時に、彼女をただのラッキーガールと侮っていたことを心の内で訂正した。

 

 

(死神バードを使ったMPKが得意なテイマーはウチにもいるが、生還するのはかなり難しいと言っていたな。少しでもタイミングが狂うと、相手にヘイトを擦り付けることも、モンスターの攻撃を回避することもできないとか。まだ中堅レベルというのにそれをやってのけるとは、並みのセンスではない)

 

 

 ずっとしょんぼりと落ち込んでいるカズハの頭を、エコ猫は肉球で優しく撫でてやる。

 

 

「……お姉ちゃんはわかってるよ。ラクダを巻き添えにしたのが心苦しいんだね」

 

「!」

 

 

 カズハは一瞬眼を見張ると、じわっと目尻を潤ませた。

 

 

「うん。ボクが殺したも同然だもん。ボクがサソリを呼ばなければ、あの子たちが死ぬこともなかったのに……」

 

「いんにゃ、カズハちゃんは悪くないよ。あいつらが悪いし、手を下したのはサソリ。まあでも一番悪いのはあいつらだ。みんなあなたに感謝してるよ。仲間の仇をとってくれたし、遺品も取り返せたし、クランの損失も防いでくれた」

 

 

 ああ、でも。エコ猫は口の中をむにゃむにゃと揉み、もどかしさに歯噛みした。

 そんなことはカズハにとって何の慰めにもならないことはわかっている。だけどまさか、ただのゲームデータにそこまで入れこまなくていいよ、なんて言えないじゃないか。

 

 死んだラクダたちは交易所でレンタルした騎乗モンスターだ。別に旅の途中で死んだとしても罰金を支払う必要もないし、倒されたらすぐ消える。いわば街から街に交易品を運ぶためだけに存在する、儚い電子データだ。

 だけどカズハはそんな存在を生命だとみなして、本気で悲しんでいた。それがただの感傷に過ぎないとわかっていても、エコ猫は妹の優しさがいとおしかった。

 

 エコ猫は黙ってカズハの頭を撫で続ける。

 クランの仲間と護衛たちは、そんな姉妹の姿を温かな目で見つめていた。

 

 

 

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 それから1時間後、<ナインライブズ>一行は無事に黄金都市シェヘラザードへ到着した。

 

 途中で襲撃を受けることを想定してあらかじめラクダは多めにレンタルしていたので、積み荷には余裕があった。おかげで交易品を積めずに捨てるということもなく、200億ディール分の交易品はそのまま交易所に持ち込むことができた。

 

 

「わあ……! すごい! 珍しい建物がいっぱい!」

 

 

 カズハは初めて見る黄金都市の街並みに目を輝かせる。時間が経過して気分も落ち着いたようで、今は物珍しい巨大都市の光景にすっかり夢中になっていた。

 

 

「カズハちゃんは黄金都市に来るのは初めてだったよね」

 

「ここもかなり美観のいい都市だからの。特に夕刻は格別だ」

 

 

 シェヘラザードが黄金都市と呼ばれるのは、多額の金銭が飛び交う活発な経済活動のためだけではない。

 首長の館たる“水晶楼”をはじめ、都市全体にアラビア調の白亜の建築物が建ち並んでいる。それが夕刻に傾き始めた砂漠の太陽に照らされると、美しい夕焼け色に染まった街はまるで黄金細工のような風情を醸し出すのだ。その風景は見る者の心に郷愁をもたらし、同時にこれから始まる夜の賑わいへの期待を与えてくれる。

 

 そして黄金都市は不夜城でもある。夜には夜市が開かれ、他の街では見られないレア素材を目当てに人々が集う。街中に灯されたランプが煌々と夜闇を拓く景色は、日本人にとってはまるで縁日のようなワクワク感を、海外ではエキゾチック感をもたらしていた。

 

 もちろんこの街は朝も美しい。夢のような夜が終わると、抜けるような蒼穹の空に輝く太陽が浮かぶ。朝日の輝きは白亜の建物をより一層白く照らし、見る者に爽やかな印象を与えずにおかない。

 観光地としても一度は目にしたい美観。家にいながら観光を楽しめるVRならではの魅力を閉じ込めたような街が、黄金都市シェヘラザードなのだ。

 

 人混みが嫌いなカズハも、この街の美しさには思わず目を奪われずにはいられない。

 彼女がきょときょとと街並みを見渡していると、すすっと1人の人間の商人が近づいてきた。

 

 

「ハーイ! こんにちわ友達、黄金都市へようこそ! ここは初めて? どこにお店があるかわかる? 私は知ってるよ、よかったら案内しようか?」

 

「え……」

 

 

 知らない人に話しかけられたカズハは、すすっとエコ猫の背後に隠れる。姉のローブの裾を固く握りしめ、警戒するような視線で商人を睨みつけていた。

 エコ猫は苦笑すると、商人に応える。

 

 

「あー、結構。私は初めてじゃないので。それとこの子人間が嫌いだから、話しかけないようにNPC仲間に伝えといて」

 

「オーウ、了解了解。ちゃんと伝えとくよ。それじゃこの街を楽しんでね!」

 

 

 NPCの商人は肩を竦めると、踵を返して雑踏の中に消えていった。

 今の商人は初めて黄金都市を訪れるプレイヤー用の案内人キャラだ。あまりにも複雑な都市で迷わないよう、街を歩きながら店の位置を教えたり、オススメの観光名所を教えたりしてくれる親切な設計である。

 そして最後までついていくと、ガイド代を取られたうえに自分の店での買い物を執拗に勧めてくるというオチもつく。そんなところまで現地を再現しなくてええんやで。

 

 

「まったくこの街は独特だな」

 

 

 ゴリミットは苦笑を浮かべると、エコ猫に向き直った。

 

 

「さて、ワシらの護衛はここまでということでいいのかな?」

 

「ええ。ここまでありがとう。返済は後日改めて」

 

「そういう契約だからの。しかし、帰り道はどうするのだ? ここから交易品を運ぶにしても、例のPKどもが網を張ってそうじゃが……」

 

「ああ、帰り道のことは心配しなくていいの。あいつらのこともね」

 

 

 そう言って意味深なウインクを返すエコ猫に、ゴリミットはふうむと顎に手を置く。

 

 

「ま、ええわい。折角来たんじゃ、ワシもしばらくここで観光していこう。なんぞワシの手が必要なことがあったら、また呼んでくれい」

 

「ええ、そのときはよろしく」

 

「じゃあな、カズハ君。また会おう」

 

 

 カズハの方を向いてわずかに会釈するゴリミット。そんな彼に、カズハはエコ猫の後ろに隠れたまま、小さく手を振り返した。

 ふ……と優しい瞳を向け、ゴリミットは雑踏の中に去っていく。

 

 エコ猫はそんなカズハに振り向いて小さく笑うと、きょろきょろと物珍しそうに周囲を見渡していたクランの仲間たちへ声を掛けた。

 

 

「じゃ、私たちもお待ちかねの商談タイムといきましょっか!」

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