VRMMO経済をぶっ壊します!〜だめだよお姉ちゃん金卵をそんな使い方しちゃ〜   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第25話「俺たちの神輿は途中下車できねえぜ」

「2億!」

 

「5億!」

 

「10億!」

 

「15億だ!」

 

 

 オークション参加者たちが小刻みに値を釣り上げていくのを、ステージの上に立ったエコ猫がニヤニヤと笑いながら眺めていた。

 

 

「あー、セコい! セコいなあ! そんなはした金でちびちび釣り上げるようなアイテムじゃないんですよお客様! もしかして貧乏人ばかり集まっちゃったのかなあ!? なんだって増やせる夢のアイテムなんですよ、貴方がたの夢はたかがそんな額で買える程度なんですかあ!?」

 

「ぐっ……」

 

「この猫、煽りやがってよぉ……!」

 

 

 エコ猫の煽りに、参加者の一部がギリッと奥歯を噛みしめる。

 しかし実際その程度の額で買えるようなアイテムでは絶対にない。参加者が少ない競りならともかく、ワールドきっての大金持ちが多数集まるような場で安く済ませようなんて考えが通じるわけもなかった。

 

 

「……50億!!」

 

「はい、50億出ました! 他には?」

 

「75億!」

 

「90億!」

 

「100億や!!」

 

 

 どよっという声と共に、100億の値を付けた男……モーカリマッカに注目が集まる。この世界では珍しい和服を着て、ちょんまげに眼鏡を掛けたふくよかな体格の男。大陸の西側で大きな商圏を誇る巨大クラン<アキンズヘブン>の番頭を務める男だ。番頭というと聞き慣れないかもしれないが、現代風に言えば支配人、一般企業で言えば常務。ナンバー3くらいの地位のお偉いさんである。

 彼はデュプリケイターを持ち帰るのが今回の主目的であり、いずれ値が釣り上がったところで売って差額で数百億の儲けを狙う腹つもりでいる。

 

 

「いいですね、100億入りました! ようやく皆さん調子が出てきましたね! さあさあ他にはありませんか? 貴方の夢に値段をつけてください!」

 

 

 エコ猫は左手に握ったオークションハンマーで右手の肉球を叩き、にっこり笑顔でさらなる釣り上げを煽っていく。ようやく先日の実況動画で彼女が口にした値段まで上がってきたわけだ。ここからが本番というべきだろう。

 

 

「110億!」

 

「120億!」

 

「150億でどうだ!」

 

「200億!!」

 

 

 ルイーネは手を挙げながら200億を叫んだ。心臓がバクバクと高鳴っている。

 この日使うためにみんなが一週間頑張って貯めてきた金。それをたやすく投げ捨てる行為は罪悪感を伴いながら、どこか不思議な高揚感があった。

 まさに札束で他人の顔面をはたく行為、銭のケンカ神輿だ!

 

 しかしその高揚は、近くに座っていた男の言葉で一瞬にして冷える。

 

 

「ふん、黙って聞いていれば……。貧乏人どもめ。下がりたまえ。400億だ!!」

 

 

 人差し指を立てて叫ぶ男に、周囲はしん……と静まり返る。

 

 青いコートに白い帽子を被った、船長姿の男。彼の名はファスター・ザンライト。船を活用した交易を主とする<EVE連合>の専務であり、交易船団を率いる提督の一人でもあった。

 <EVE連合>は大陸北部の海を牛耳る巨大クランだ。街を抱える中規模のクランが複数合併して生み出された企業連合体であり、商圏内の都市を結ぶ貿易で巨額の利益を生み出している。人呼んで“現代のハンザ同盟”。その経済力は現在のワールドで随一といえる。

 

 そんな彼らが今何より欲しがっているのは名声だった。我らこそが最高の大金持ちと名乗りを上げ、周囲に認められることでさらに傘下に入りたがるクランを増やす。その計画のための旗印として、デュプリケイターは最適だった。

 彼らはデュプリケイターを使用するつもりはない。『他の金持ちを抑えて自分たちの富を示す』という点こそが大事であり、デュプリケイターはその証として飾っておくつもりでいる。

 

 

「さあ400億! 400億出ました! 対抗するお客様はいらっしゃいませんか! これで決済してよろしいですか!?」

 

「ご……500億出そう!!」

 

 

 胃痛を抑えながら、ルイーネが手を挙げた。

 既に額には脂汗がにじんでいる。

 

 どよっ……と声が上がる中、ファスターは彼女の方を振り向き、わずかに口角を上げた。

 

 

「いよいよ500億! いいですね、煮詰まってきました! それではいったんお聞きしましょうか。500億かけたお買い物で何を増やされるおつもりでしょう?」

 

 

 まさか司会が話を振ってくるとは思わず、ルイーネは目を白黒させる。

 しかしなんとかうろたえることなく持ち直し、口を開いた。

 

 

「我がクランの秘宝“ミスト・オブ・メリュジーヌ”の複製だ! アレを増やせば我々はもっと強い敵を楽に狩れるようになる! それをもって、クランの躍進を目指す!」

 

「なるほど、激レア装備品の複製! いいですね、大変まっとうな使い方です! しかし過去の取引から見て、現状最高レア装備品の取引額は500億。これ以上は赤字になってくると思われますが、まだまだ張るつもりはおありですか?」

 

「も……もちろん! この効果で500億ならまだ安い! ウチはまだまだ余裕がある! いくらでもかかってくるがいい!!」

 

 

 おっとルイーネ選手ここで虚勢を張った!

 額からだらだらと脂汗垂れ流し、瞳はぎょろぎょろ泳ぎまくりである。

 実際700億までは作ってきたが、本音を言えばそこまで出したくない。なんとか安く済ませたいし、いっそ尻尾を巻いて帰りたい。

 しかし残念なことに先ほどからずーっとチャットが届いているのだ。

 

 

『何してるんですかマスター! ここでガツンと競り上げましょうよワッショイ!』

 

『200億なんてケチくさいこといわないでくださいよワッショイ!!』

 

『うおおーーーーっ! マスターが500億で男をみせたぞワッショイ!!』

 

『いやマスターは女性だぞワッショイ?』

 

『この祭りに男も女もないでしょワッショイ!! 行くところまでいくわよ! ワッショイワッショイ!!』

 

『ワッショイワッショイソイヤソイヤ!!!』

 

 

(こいつらワッショイワッショイうるせえええええええーーーーーーーーー!!)

 

 

 クラメンがどいつもこいつも乗り気すぎる。

 祭りの熱に浮かされた仲間たちが全力で背中を蹴り飛ばしてくるので、ルイーネはもう行くしかないのだ。

 なのでここで精いっぱいの虚勢で他の参加者を威嚇した。

 

 

(頼むっ! もうこれ以上の値を付けないでくれーーーっ!!)

 

 

 彼女の懇願が届いたわけではないが、他の参加者たちの多くはここで脱落した。

 最高レア装備を増やすとして、損益分岐点は500億。しかしこれは結構盛った金額なのだ。完成品だからこの価格なのであって、実際に最高レア装備を作るとしたらそのコストは500億を下回る。もちろんそこには周回に費やすプレイ時間というプライスレスなコストがかかってくるが、それを許容するならもっと安く作れるわけだ。

 

 さすがに500億はつらいな。周回すればもっと安く作れるし、諦めるか……。

 <アルビオンサーガ>はまだまだ出せるって言ってるし、そこまで張り合う価値はねーべ……。

 600億まで行くとしたら、街2つ買えるしな。そっちの方が断然お得だろ……。

 

 こういった思考で、彼らはこれ以上の競りを放棄した。

 よかったねルイーネ、ハッタリが効いてるよ!

 

 そして諦めたのはレア装備を増やしたい者だけではない。

 

 

(アレをこれ以上の価格で売るのは難しいやろな。ここらが潮時や)

 

 

 モーカリマッカをはじめとする投機目的の者たちもまた、撤退を決める。

 デュプリケイターで増やして一番お得なのは最高レア装備で、その価値はおよそ500億。つまりデュプリケイターの価値も500億程度ということになる。

 今後のアップデートでさらに作るのが大変な装備品が登場すればいざ知らず、現状デュプリケイターを500億以上の落札額で買うのは赤字ということになる。

 

 まあそんな結果になることは装備品を複製したいクランが参加する時点でわかりきっていたことであり、モーカリマッカは無駄足としか言いようがないのだが……。

 

 

(ま、それはええわ。どなたさんが最高レア装備を持っとるんか、顔色を見ればようわかるさかいな)

 

 

 内心で呟き、モーカリマッカはほくそ笑む。

 最高レア装備を得られるほど優秀な戦闘クランなら取り込んでもよし、利用してもよし。あるいは調略して内部争いを引き起こし、最高レア装備と人材を引き抜いてもいい。

 この情報を得られるなら、わざわざ足を運んだ甲斐もあったというものだ。

 

 

(情報は千金に値するで、ファスターはん。クランの名誉とやらにいくらかける気か知らへんけど、あんたこの情報が見えとるんかいな? 名誉なんぞいくらあっても、金を産まへんのやで)

 

 

 そして、エコ猫もまた会場に集まった参加者たちの顔色とクラン名を記憶に留めながら、にっこりと微笑む。

 

 

「いいですね! さあ、<アルビオンサーガ>さんもこう言っておられますし、まだまだいきましょう! 500億! 500億! さあ他にはおられませんか! 貴方がたの夢、500億で諦めて本当によろしいですか!?」

 

 

 エコ猫がルイーネにインタビューしたのは、会場を盛り上げるためだけではない。見物人や実況動画を視聴している人々への解説のためでもあった。

 

 

================================

〇マジかよ500億!?

〇なるほどなー、ここが装備品増やしたい連中の上限なのか

〇いや、俺なら800億は出せる

〇↑じゃあなんであの場にいないんですかねぇ、見栄を張るなよ貧乏人

〇500億あったら街を買った方がのちのち得だろ

〇いいなー誰か500億を俺にくれねえかなー

〇ワッショイこそ正義! ワッショイワッショイ!!

〇エコ猫ちゃんもっと煽りを聞かせて

================================

 

 

 視界の端で実況動画のコメントが爆速で流れていくのをチラ見しながら、エコ猫はパンパンとオークションハンマーで掌を叩いて競りを煽っていく。

 

 

「……550億!」

 

「560億!」

 

「580億!!」

 

「600億だッ!!」

 

 

 600億を宣言したファスターのよく通る声に、会場の全員が息を呑む。

 北海特有の雹混じりの嵐の中でも船員に号令を届けられる声だ。群衆のざわめきを切り裂き、凍り付かせるなどわけもない。

 

 

「650億ッッ!!」

 

 

 いよいよ顔色を悪くするルイーネが、それに追随する。

 ファスターは抵抗してくる身の程知らずを不機嫌そうに睨み付けた。

 

 

「700億!! これで決まりだろう!」

 

「…………」

 

 

 もう手を挙げる者などいない。

 さすがに相場を200億も上回っているし、多くの者はこう思っている。

 

 

(ここで買わなくても、いずれエコ猫がまたデュプリケイターを売り出すだろう。そのときはもっと安く買えるだろう。またそのときに買えばいいや)

 

 

 何しろ今回700億も儲かるのだ。おかわりを出してこないわけがない。エコ猫も味をしめて第二第三のオークションを開くだろうし、なんだったら数十個単位で売り出すかもしれない。

 今回700億を手にすることで<ナインライブズ>は街を2つ買収して一気に上位クランに成長を遂げるだろう。街という新しい財源を手にすることになるが、だからといってこんなうまい金儲けの手段を手放すわけがないのだ。

 

 それに、次のオークションまでに誰かがデュプリケイターの入手法を解き明かすかもしれない。そうなったら一気に暴落することが予想される。

 ここで大金をつっぱる必要はない。それが常識的な考えというものだ。

 

 だがここに、常識が通用しない者たちがいた。

 

 

『ワッショイ! ワッショイ!! 勝負はここからですよマスター!!』

 

『いきましょうぜマスター! 俺たちのケンカ神輿はここからだワッショイ!!』

 

 

 祭りの熱に浮かされた<アルビオンサーガ(アホども)>である。

 

 

『い、いやいやいや……700億だぞ? 共用資産は既に尽きて……』

 

 

 嫌な汗をかきまくるルイーネに、お祭り野郎どもは吠える。

 

 

『じゃあ私の資産を売り払って共用資産に加えますワッショイ!!』

 

『いいぜ、俺の資産も装備品以外売っちまおうワッショイ!!』

 

『街とか1つ2つ処分してもいいんじゃないっすかワッショイ!!!』

 

 

 お前ら狂ってんのか。

 どう考えてもイカれてるとしか思えない発言に、ルイーネは全力で叫ぶ。

 

 

『バカかお前ら!? 全然元取れないぞ!! 後で絶対後悔するからやめろ!』

 

『……いいんです、私たちはこの一瞬が楽しければ!!』

 

『ああ! マスターには感謝しかねえ!! 俺たちが貯め込んだすべてをぶっぱなすケンカ神輿、こんな楽しい遊びがあることを教えてくれたマスターにはよ!』

 

『ワッショイワッショイ!! ソイヤソイヤ!!!』

 

 

 誰もこの先のことなど考えていない。

 今一瞬が楽しければそれでいい、暴走する弾丸列車であった。

 最早彼らを制御することなど、ルイーネにはできない。ルイーネが乗った神輿は、途中下車なんかできないぜ! だって神輿にはブレーキなんてついてないからな!!

 

 

『さあ、手持ちのアイテム全部市場で換金してきました! 共用金庫に入れましたので、使ってくださいワッショイ!!』

 

『俺もだワッショイ!!』

 

『勝とうぜ、マスター!! ワッショーーイ!!』

 

 

 もうどーにでもなーれ!!

 

 

「……ワッショイ」

 

 

 ルイーネの絞り出すような声に、誰もが彼女に目を向ける。

 

 

「え?」

 

「今、なんて……?」

 

「ワッショイ!!!」

 

 

 ルイーネは天に向かって叫び、人差し指を突きあげた!

 

 

「750億だ、ワッショイ!!」

 

「こ、小娘……。<EVE連合>に歯向かうというか……!?」

 

 

 ファスターは奥歯を噛みしめると、朗々と声を響かせる。

 

 

「800億だ!!」

 

「は……820億ワッショイ!!」

 

「850億!!」

 

「870億ワッショイッ!!」

 

 

 ごくりと会場の全員が2人の攻防を見つめる。

 誰もこのやりとりの間に入れない。ここは既に鉄火場である。下手に挟まれば大火傷では済まない。たとえ払えたとしても、こんな無茶苦茶な額をマスターや重役の一存で出したとなれば、クラメンの不満が爆発してクランが崩壊しかねない。

 

 

「いい加減にするがいい! 950億だッッ!!」

 

「…………ッ」

 

 

 そしてこれが<アルビオンサーガ>の限界だった。

 クラメン全員の資産を市場に売り払い、100億上乗せして900億ディール。それが今用意できる限度だ。

 資産をプレイヤー相手に出品したり、街を手放したりすればもっと出せるだろうが、しかし現金払いというのがこのオークションのルール。プレイヤー間の売買は相手方が必要だし、街の売却にも手続きがいる。今瞬間的にひねり出せる金は、もはやどうあがいても出てこない。

 

 

「……<アルビオンサーガ>もここまでか」

 

「いや、よくやったよ」

 

「<EVE連合>はすげーな、とんでもねえ資金力だ」

 

「どうだろうな……。結構ギリギリだったんじゃね?」

 

 

 会場のそこかしこから、ざわめきが広がる。

 エコ猫はハンマーを振り上げながら、声を張り上げた。

 

 

「950億。950億、他にいらっしゃいませんか? これで決済してよろしいですか? ……ここで祭りを終わらせて、本当にいいのですね?」

 

「~~~~~~~ッ」

 

 

 ルイーネは声にならない叫びを上げて、拳を突きあげた。

 誰もが眼を見張り、彼女に視線を向ける。

 

 

「ワッショーーーーーーーーーーイ!!!」

 

 

 その腕に輝くのは、秘宝の腕輪“ミスト・オブ・メリュジーヌ”。

 彼女はそれを外して、高々と人々へ見せつけた。

 

 

「これを、抵当に入れる! 私たちのクランの宝だ! だから誰か、私に300億を貸してくれッ!! 3か月後までに利子を付けて400億を返せなければ、これを持って行っていい!! 頼む、誰か!!」

 

『ワッショイワッショイ!! ソイヤソイヤソイヤ!!!!』

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