VRMMO経済をぶっ壊します!〜だめだよお姉ちゃん金卵をそんな使い方しちゃ〜   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第26話「サヨナラ・ワッショイ・オークション!」

『これを、抵当に入れる! 私たちのクランの宝だ! だから誰か、私に300億を貸してくれッ!! 3か月後までに利子を付けて400億を返せなければ、これを持って行っていい!! 頼む、誰か!!』

 

 

「クハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 “水晶楼(クリスタルパレス)”の応接室。しつらえられたモニターでオークションを見物していたクイーン・シバは、お腹を抱えて笑い転げていた。彼女が笑い声を発するたびに薄くついた脂肪越しにお腹の筋肉が震え、煽情的な魅力を醸し出す。

 

 

「なんたる無様! なんたる愚かさ! 笑い殺されるかと思うたわ! まったく、これ以上滑稽な喜劇はないぞ! よりにもよって、増やしたいアイテムを抵当に手放そうとは! あの女、完全に狂っておるわ! のう?」

 

「まことその通りでございます、女王陛下」

 

 

 紋切り型の言葉しか返さない家臣たちに、シバは口元を歪めた。

 

 

「では問うが、何人があの女の申し出を受けると思う?」

 

「…………」

 

 

 フン、と鼻を鳴らしてシバはアイスクリームを口に運ぶ。

 

 

「ゼロ人じゃよ。まったくゼロだ、いるわけがない」

 

「しかし利子で100億手に入り、返済できなかったとしても300億で500億相当の装備が手に入るのです。悪い話ではないのでは?」

 

 

 家臣の1人の言葉に、シバは首を横に振った。

 

 

「ない。マトモな商人であれば絶対にそんな契約には乗らんわ」

 

「女王陛下、何故でございますか。愚かな私めの蒙をお晴らしくださいませ」

 

「“信用”がないじゃろうが。もうあの女は詰んでおるわ」

 

 

 クイーン・シバはスプーンを咥えたままニヤニヤと笑い、モニターを見上げる。

 

 

「それに本人だけが気付いてないのが実に滑稽よ。ああ、愚かじゃのう。可愛いのう。クハハハハハハハハハ! ああ、愉しや愉しや! まったくこんな面白い見世物が見られるとは! 次のオークションが今から楽しみになってきたわ! ま、とりあえず今日のところはあの女の絶望を楽しませてもらうとするかのう! クハハハハハッ!」

 

 

 

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「これを、抵当に入れる! 私たちのクランの宝だ! だから誰か、私に300億を貸してくれッ!! 3か月後までに利子を付けて400億を返せなければ、これを持って行っていい!! 頼む、誰か!!」

 

 

 掲げた秘宝で融資を募るルイーネの姿に、オークション会場は水を打ったように静まり返っていた。

 

 

 あいつは完全に狂っている。誰もがそう判断した。

 

 秘宝を増やすために複製機を欲しがったはずなのに、その秘宝を手放す契約を申し出るとは本末転倒にすぎる。

 そして、条件も良くない。利鞘は100億とはいえ、返済に3か月もかかる。300億の元手があれば、他の儲け方はいくらでもあるのだ。ルイーネにとってはゼロから立て直して400億稼ぐのに3か月はかかるという目算なので仕方がないとはいえ……。

 

 

「この場にそんな契約に乗る者など誰もおらんよ、小娘」

 

 

 憐れむような視線を向けるファスター。いや、彼だけではない。この場の参加者の全員が、ルイーネに憐みを感じていた。

 彼らにはわかってしまうのだ。<アルビオンサーガ>の規模でこんな金額をひねり出せば、クランの内情がガタガタになっていることに。

 オークションの熱に浮かされ、内部の資産を切り崩しすぎてしまった愚か者。彼らはルイーネをそう見たし、そんな愚かなクランに金を貸すなど論外。

 

 ……そう、もう<アルビオンサーガ>には“信用”がないのだ。

 クラン員の暴走によって売り払われたのは、アイテムという有形の資産だけではない。このクランと契約しても大丈夫だという信用もまた、なくなってしまった。

 

 

「誰か……!! お願いします! 力を貸してください!!」

 

 

 悲痛な叫びを上げるルイーネ。しかしその叫びは誰にも届くことはない。

 ある者は痛ましそうに、またある者ははっきりと侮蔑の表情を浮かべて、彼女の訴えを無視していた。

 

 大手クランであるほど“信用”の重要さを理解している。守られるかどうかわからない契約書などチリ紙ほどの価値もないし、信用を無為にしてしまったクランもまた同じだ。だから、ここにはルイーネに手を差し伸べる者などいやしないのだ。

 

 ただ一人を除いて。

 

 

「あっはっはっはっはっはっは!!!!!」

 

 

 会場に響く笑い声に、誰もがぎょっと目を向けた。

 笑い声の元はステージの上。

 司会席のエコ猫が、肉球を叩いてさも面白いものを見たと言わんばかりに笑っていた。

 

 

「いやあ、キミは狂ってるなあ。うん、愉快愉快!」

 

 

 呆気にとられる会場の人々の視線をよそに、エコ猫は指で目尻の涙を拭いながら口角を上げる。

 

 

「300億ね、いいでしょう。<ナインライブズ>がその債権を買い受けます。3か月後に400億かその腕輪を渡してください。契約書は……まあ後でいいかな。こんだけの人の前で、実況動画も配信してる状態なんだし、しらばっくれられないでしょ」

 

 

 そう言いながらアイテムボックスから小切手を取り出したエコ猫は、さらさらと名前と額面をサイン。ステージからぴょんと飛び降りてルイーネの元まで歩いて行くと、ぽかんとしている彼女に小切手を握らせた。

 

 

「……正気か、貴様……?」

 

 

 我に返ったファスターが、声を震わせながらエコ猫に問い詰める。

 

 

「その女のクランに、もはや返済能力は期待できんのだぞ。かといって契約通り腕輪を渡すという保証もない。無敵の人というやつだ。とことんまで追い詰められた阿呆のすることはひとつ。セカンドキャラにでもアイテムを渡し、すべてを踏み倒して夜逃げする。私はそういう輩を何十人と見てきた。それがわかっていての施しか?」

 

「ご忠告どうも」

 

 

 エコ猫は彼に振り返ると、チェシャ猫のような微笑みを返した。

 

 

「つまり逃げられないようにすればいいってことだ。そうでしょ?」

 

「…………」

 

「まあまあ、悪いようにはしないさ。ちょっと悪いことに付き合ってもらうけどね」

 

 

 小切手を握ったまま固まっているルイーネにウインクして、エコ猫は身軽にステージの上まで戻っていく。

 

 

(悪いことって、何? 私これから何させられるの?)

 

 

 そんな彼女の背中を見つめながら、ルイーネは小切手をぎゅっと握りしめていた。もう今にも脂汗と動悸でぶっ倒れそう。

 

 

 ちなみに悪いことのひとつをここでネタばらししよう。

 <ナインライブズ>の手持ちには実は現時点で300億ディールの現金がない。つまりエコ猫が渡した300億ディールの小切手は換金することができず、厳密には現ナマしか使えないというオークションのルールに反している。

 しかしオークションの胴元もまたエコ猫であるから、何の問題も生まれない。だって小切手を発行したのも、小切手を受け取るのもエコ猫自身なのだから差し引きゼロだ。後には<アルビオンサーガ>への300億ディールの債権だけが残る!

 

 エコ猫が金を払って! エコ猫が金をもらう! そこに何の違いもねえだろうが!!

 

 

「え? え?」

 

「自分でオークションを煽って、自分に借金させて、元手なしで債権作ってやがる。あの猫、鬼畜か……?」

 

「とんでもねえバグ技を見せられた気分……!!」

 

『……なんでもいい! とにかく300億ディールのおかわりゲットだ!! 試合続行ワッショーーーイ!!』

 

 

 エコ猫はハンマーをくるくる回しながら声を張り上げる。

 

 

「さあ、エクストラステージだ! 現在950億ディール! ここからさらに出す人はいるかー!? はい、そこのサーコートのお姉ちゃん、いってみよう!」

 

「1000億ディール、ワッショイ!!」

 

 

 どんっ!!

 追加資金から100億ぶっこみ、ルイーネが吠える。

 

 

「いいねいいね! さあ、カウンターだ! <EVE連合>さん、おいくら出しますか!?」

 

「ぐっ……!!」

 

 

 ファスターは言葉に詰まりながら、冷汗を流していた。

 

 いや、出せる。<EVE連合>は並みの金持ちクランではない。

 即決で1000億以上出せるだけの蓄えはある。

 出せるが、しかし……。本当に出してしまっていいのか。

 自分の一存で決められるような額ではなくなってしまっている。これ以上は責任問題だ。今すぐ代表や重役を集めて、認可を受けなければならない額になっている。

 しかし、代表が全然チャットに応答しない。相談ができない。

 

 予算として降りているのは900億ディール。

 不足分は、自分の資産から切り崩して即決払いに充てるしかない。

 

 

「ワッショイ……」

 

 

 沈黙に耐えかねたのか、会場の誰かが囁いた。

 

 

『ワッショイ…………』

 

 

 やがてその囁きは、山彦のように会場を跳ねて。

 

 

『ワッショイ、ワッショイ……』

 

 

 いつしか誰もが口ずさみ始めていた。

 

 

『ワッショイ!! ワッショイ!!』

 

 

 さあ、祭りだ! 祭りのクライマックスだ!!

 銭のケンカ神輿をぶつけ合え!!

 

 ワッショイワッショイと誰彼構わず叫ぶ中、ファスターは絞り出すような声を上げた。

 

 

「い……いっせん、ひゃくおくでぃーる……!」

 

 

 自己資産から200億を加え、1100億ディール。

 個人でも資産家のファスターとはいえ、200億もの現金を引っ張り出すのはギリギリであった。

 

 

「1100億! まさにグレート・マネーゲームと言えましょう! さあさあ、場の盛り上がりも最高潮! ワッショイワッショイと音頭に乗りながら、お聞きしましょうルイーネさん! おいくらお出しになりますか!?」

 

「1200億ディールワッショーーーイ!!」

 

 

 天を向いて絶叫するルイーネを称えるように、会場が連呼する!

 

 

『ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!!』

 

『ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!!』

 

『ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!!』

 

 

 最早それが会場のコールなのか、クラメンからのチャットなのかわからない、ワッショイの大洪水!

 

 エコ猫はハンマーを頭上でぶん回しながら、陽気な声でファスターに声を掛ける。

 

 

「さあ、ファスターさん! ここまで来たんです、<EVE連合>の看板にかけて、ちゃちな小刻みなんてしませんよね! 次の金額は1300億以上じゃなきゃ! さあさあさあさあ、ファイナルアンサーです!! お返事はいかに!?」

 

「ひっ……ひっ……ふう……ひっ……ふぅ……」

 

 

 ファスターは真っ青な顔で、荒い息を吐いた。

 出せる、まだ出せる。

 現金はもう手持ちにないが、ファスターの資産を売り払えば200億を絞り出せる。しかしそれはファスターが一時的にでもド貧乏になるということで。

 もしもクランがそれをファスターの独断とみなして補償をしてくれなければ、ファスターは破滅してしまう。

 そして彼を破滅させ、蹴落としたいと思っている連中は、クランの中にいくらでもいた。彼らの讒言を、まかり間違って代表が聞き届けてしまうことがあれば。これまで築いてきたファスターのすべてが水泡に帰す。

 

 だがしかし。ここでおめおめと逃げ帰ることこそ<EVE連合>の看板に泥を塗ることではないのか。そうなったら、代表は自分を許すだろうか。それこそ身の破滅ではないのか。

 

 行くも破滅、戻るも破滅。いつのまにかファスターは、詰みへと追い込まれていた。

 

 

(な、何故……!? どうして私がこんな目に……!?)

 

 

 あまりにも理不尽な、唐突過ぎる詰み状況。

 しかしそれでも、ここまでのし上がってきたファスターの勘はまだ冴えている。

 資産を売り払い、1300億で落札するのが正解だ。それで<EVE連合>の財力を見せつけるという目的は達成される。代表からもかばってもらえるはずだ。

 それで自分が一時的に困窮し、蹴落とされるリスクを負うとしても、そうするべきだ。

 

 

『ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!!』

 

『ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!!』

 

『ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!!』

 

 

 急かすようなコールに包まれながら、ファスターはごくりと唾を呑み込んだ。

 よし、言うぞ! 1300億って言うんだ……!!

 

 

「いっ……せ……」

 

 

 コヒュッ。

 

 

 白目を剥いて固まったファスターを見て、観客にどよめきが広がる。

 緊急健康維持システムが作動して、ファスターはそのまま強制ログアウトする。過呼吸と不整脈を感知して、VRポッドがゲームプレイを強制的に中断させたのだ。残念! 自分のちっぽけな肝っ玉を恨むがいい!

 

 

「おーっと、これは戦闘不能(リタイア)! 他に対抗する方は……いらっしゃいませんね! では、1200億ディールでハンマープライス!!」

 

 

 カンカンカーーン!! と試合終了を告げるゴングのようにオークションハンマーが打ち鳴らされ、勝敗はここに決した。

 

 

『ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!!』

 

『ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!!』

 

『ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!! ワッショイ!!』

 

 

 会場が勝者を称えるワッショイコールに包まれる中、とててっとエコ猫がルイーネに近づいて、マイクを差し出してきた。

 

 

「おめでとうございます、見事落札なさいましたね!! ご感想はいかがですか?」

 

「なんというか、試合に勝って勝負に負けた気分です! こん畜生!」

 

「正直なご感想ありがとうございます。はい、ではこちらゴールデンエッグと、おまけのデュプリケイターになります! お受け取りください!!」

 

「お……おお……」

 

 

 トレード画面を開いてエコ猫に900億ディールと小切手を渡すと、引き換えにルイーネの掌の上にゴールデンエッグとデュプリケイターが出現する。2種の卵を手にしたルイーネは、思わず掌を震わせた。

 じわりと目尻に涙が光る。このためにどれだけ多くのものを犠牲にしたことだろうか。いや、これからの立て直しと返済の大変さを考えると、本当に涙が止まらない。

 

 だが、勝った。その味がどれだけ苦くても、彼女たちは勝ったのだ。

 

 ルイーネは掌の上のデュプリケイターを見やると、即座に使用することを決意する。こんなものを剥き身で置いておいたら、何が起こるかわからない。窃盗やら強奪やら詐欺やら、何かのトラブルに見舞われる前に使ってしまうべきだ。

 デュプリケイターは集めて楽しいコレクションじゃない! 使わなきゃあ!!

 

 彼女がデュプリケイターを起動して“ミスト・オブ・メリュジーヌ”にかざすと、機械卵の歯車が激しく回転し始める。

 ……これで実は装備品は増やせませんとか言い出したら、エコ猫を殺そう。どこまで逃げても必ず殺そう。

 

 しかしそんな彼女の密かな決意は無駄に終わる。

 デュプリケイターの消失と同時に、彼女の掌の上にはもうひとつの“ミスト・オブ・メリュジーヌ”が現われていたからだ。

 

 

「や、やった! 私たちはやったぞ! ワッショーーーーーーーイ!!!」

 

『おおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 

 歓喜の声を上げるルイーネ、どよめく観衆。そして彼らを見てうんうんと頷くエコ猫。

 さて、じゃあ連中の注意がこっちに向く前に撤収だな! どろん!

 

 

「毎度ありがとうございました! それでは今回のオークションは終了となります! またお会いしましょう!!」

 

 

≪エコ猫がログアウトしました≫

 

 

「あっ……」

 

「逃げた……!!」

 

 

 エコ猫を取り囲んでデュプリケイターの入手法を吐かせようとした人々が、地団太を踏んで悔しがったのは言うまでもない。

 

 

 

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 漫画を読むのにも飽き、うつらうつらと船を漕いでいたカズハが突然目を開く。

 

 

「お、売れたんだね」

 

 

 客を放っておくわけにもいかず、カズハが帰るのを待っていた店長は、彼女の様子に小首を傾げた。

 

 

「どうなさいました、お嬢様?」

 

「えっと、もう一度聞きたいんですけど」

 

 

 カズハは先ほど店長にしたのと同じ質問を口にした。

 

 

「それっていくらで売れますか?」

 

 

 カズハが指差した、テーブルの上に置かれたアイテム。それはゴールデンエッグ。

 その品物を見た店長は、たった今変動した取引額を告げた。

 

 

「605億ディールになります」

 

 

 最新の取引履歴はエコ猫とルイーネ間の1200億ディール。それに過去3か月の取引履歴と、現在の黄金都市の貨幣流通量を勘案した計算式によって算出された額だった。

 

 カズハは立ち上がると、テーブルの上にアイテムボックス内のアイテムを並べる。どさどさと積もり積もったゴールデンエッグ、その数98個。

 

 

「これ全部売ったらいくらですか?」

 

「申し訳ございません、お嬢様。シェヘラザード政府が保有する貨幣量よりもご希望の取引額が多いため、すべてをお引き取りすることができません」

 

「じゃあ、買ってもらえる限界まで売ります」

 

「かしこまりました」

 

 

 店長はにこやかに微笑むと、顧客のオーダーに沿った金額を口にした。

 

 

「66個をお引き取りして、3兆9930億ディールをお支払いします」

 

 

 

 この日、経済は完全に破壊された。

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