VRMMO経済をぶっ壊します!〜だめだよお姉ちゃん金卵をそんな使い方しちゃ〜   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第6話「ゴールドドラゴンラッシュ!」

 1848年、カリフォルニアのサクラメント川流域で金鉱原が発見された。

 噂はたちまち噂を呼んで、累計して実に30万人もの人々が大金持ちになろうとカリフォルニアに押し寄せたという。ゴールドラッシュといえば誰もが思い浮かべる、カリフォルニア・ゴールドラッシュがこれだ。

 

 しかし、多くの人は結局は金持ちにはなれなかった。金を拾うそばから、収入と同等の支出をしてしまったからだ。住居費用や資材といった必要経費に加え、日々の娯楽となるギャンブルや遊興で無駄遣いをしてしまい、結局は手元にお金が残らなかった。

 

 だがゴールドラッシュを通じて巨額の富を築いた者はいる。その中で真っ先に挙げられるのは、ジーンズ会社のリーバイスだろう。大勢の労働者に消耗品を売り捌いたものが、一番儲かったというわけだ。

 

 エコ猫が今やっているテイムボールの露店は、その教訓話の再現であった。

 テイムボールや消費アイテムを高値で売り捌ける絶好のチャンスを逃す手はない。

 

 なお、この金丼印のぼったくりテイムボールだが、別に詐欺ではない。

 これを使えば必ず金丼さんをテイムできますなんて一言も言ってないし、別に買っている側だってそんなこと信じていない。ただのテイムボールを100倍の値段で売っていることなど百も承知だ。

 

 本当に欲しいのは気休め。

 効くのかどうかもわからないそこらで買ったテイムボールをひたすら投げ続ける作業は、実に精神が削れるのだ。どうせ同じ投げるなら、本当にこれでテイムできましたというお墨付きがあるテイムボールの方が断然気が楽。たとえそれが100倍の価格であったとしても。

 

 ちなみに、カズハのアイテムボックスにスタックしたテイムボールだというのは嘘ではない。ちゃんと数千個のボールすべてを、一度カズハのアイテムボックスにスタックしてから取り出した。

 金丼さんをテイムしたときは17個しかスタックしてなかったが、それに数千個混ぜて分配したので、数千個すべて金丼さんを捕まえたテイムボールと同じものである。

 テセウスの船かな?

 

 

(うんうん、レッカもクロードもしっかり売ろうと頑張ってるね)

 

 

 並んで露店を広げる傭兵2人を見て、エコ猫はにっこりと微笑んだ。

 

 

(やっぱ自分の財布で仕入れさせたらサボらずに働くか)

 

 

 エコ猫はこの2人に売り子をさせるにあたって、彼らにアイテムを出店での価格の8割で購入させている。こいつらにタダでアイテムを渡して売り子させたら、絶対サボったり売り上げや商品をちょろまかしたりするだろと読んだからだ。それに裏切った罰を与えなければ、他のクランメンバーが納得しない。

 かなりゴネられたが、嫌ならいいけど?こんな儲かる話を見逃すなんてもったいないねーと強気で攻めたら渋々と呑んだ。おかげで今は原価以上の売り上げを挙げようと頑張って売り子をしてくれている。

 

 

(こいつらにも商売させておかないと、商人専門でやってる他のクランメンバーから仲間意識もたれなくなるしね)

 

 

 なお、この2人以外にも<ナインライブズ>のクランメンバーたちが数名ほど売り子として参加している。戦闘力も資金力(銭闘力)も零細だが、商人クラスが20人と人数だけは割と多めのクランなのだ。エコ猫が最も信用する秘書の兎獣人・ラブラビをはじめ、エコ猫を慕って集まって来てくれた、可愛い弟子たちである。

 もちろん信頼する彼らにはクランの資産を元手にアイテムを渡している。値段はある程度自由に設定させ、彼らの商人力育成も兼ねていた。

 

 

 さて、ここまではエコ猫の思惑通り。

 テイムボールを初めとする消費アイテムは飛ぶように売れている。

 

 しかし、このビジネスモデルには大きな欠点があった。

 

 

「はーいいらっしゃいいらっしゃい! うちこそが元祖! 本物のテイムに成功したクランの出店だよぉー!!」

 

「いやいや、騙されちゃいけないよ! うちが真正の本物、本舗なんだ! さあさあ、買ってくれ! 正真正銘のテイムボール本舗、今なら他よりお得な9800ディールで売っちゃうよぉ!!」

 

 

 2時間もすると、同じようにテイムボールを100倍の価格で売り出す露店が雨後の筍のように湧いてきたのだ。

 しかも自分の店こそが本当にテイムしたクランの店だと名乗り、うちが元祖だ本家だ本舗だと起源まで主張し始める始末である。

 

 

(ま、そーだよね知ってた)

 

 

 このビジネスモデルの欠陥、それは誰でも簡単に真似ができてしまえることだ。

 ファーストペンギン(最初の1羽)が勇気を出して水に飛び込んで魚を獲ったら、見ていたペンギンだって我も我もと後に続いてくるに決まっている。あっという間に水の中は飛び込んできたペンギンでぎゅうぎゅうだ。しゃあっ! ペン・ギンラッシュ!

 

 安易に後追いをさせないためには、他が簡単に真似できないような工夫が必要となるのだが、この露店にはそういったものはない。名乗れば誰でも出店できてしまう。いや、一応簡単に真似できない要素はあるが……。

 

 エコ猫は内心の苦笑を押し殺しながら、隣の元祖を名乗る出店に話しかけた。

 

 

「おーい、先に始めたのはうちだよぉ? 嘘ついて真似されちゃ困っちゃうなあ」

 

 

 すると元祖を名乗る店の主人は、居丈高な調子でエコ猫を指差して怒鳴り散らした。

 

 

「はあ!? ウチが先に始めたんですけど!? そっちこそウチの真似して、嘘ついてテイムしたなんて名乗って恥ずかしくないわけ!? ウチが本物!! ウチが起源! ウチが発祥!! お前が偽物!! 思わず不機嫌! ついつい失笑!! メーン!?」

 

 

 小粋なリリック刻んでくるじゃん。

 

 

「でもうちが本物だよ?」

 

「じゃあ証拠あんのかよ!! 本物なら本物って証拠見せてみろや!!」

 

「ほら、ゴールデンエッグ」

 

「それくらい、ウチだって持ってるんですけどぉ!! それも2つもね!!」

 

 

 動かぬ物証を取り出したエコ猫に、隣の店主は自信たっぷりにゴールデンエッグを2つ出し返す。

 

 

「見たかウチが本物! お前偽物! みんなレアモンス欲しいならウチにカモン! そっちのボールで捕まえられるのコモン! Say Ho! Ho!」

 

『Ho! Ho!』

 

「気合入ってんなあ~」

 

 

 店の客とグルーヴし始めた隣の店主に、思わず感心するエコ猫である。

 もちろん気合が入っているというのはいきなり1人ラップバトルを始めたことについてではなく、この露店のためにわざわざゴールデンエッグを持ってきたことに対してだ。……いや、ラップバトルについても割と気合は入ってたと思うが。

 

 

(ゴールデンエッグの転売詐欺がうまくいかないから、出店で小金稼ぎして儲けたいってところかな? まあこうなるとゴールデンエッグの価格が3億に高騰したのと同義だし、売れなくなって商品が塩漬けされちゃうもんね)

 

 

 正直転売詐欺なんかよりも、即興でラップする露店商を売りにした方がいいんじゃないかとエコ猫には思えたが、まあそこは人それぞれ。

 

 エコ猫は特にウチが本物と主張し返すでもなく、のほほんと露店を続けた。

 やがて狩場にいた者も入れ替わっていくと、客もどこが本物のテイマーのクランの店なのかわからず、大体どの露店にも均等に流れるようになっていく。

 

 “本舗”を名乗る店主は休憩をとるのか、店番を同じクランの者に譲ると、つかつかとやってきてエコ猫の商品を眺めて口元を歪めた。

 

 

「ふん! 大したものは置いてないね」

 

「そうかな? どれも売れ行きはいいよ」

 

「そうは見えないけどね。おいおい、なんだよ“ハイドクローク”だって? 需要ってものがわかってねえのか。こんなもんが金丼相手に何の役に立つってんだ!?」

 

 

 “ハイドクローク”は一時的に他のプレイヤーやモンスターから身を隠せる、マント型の消費アイテムだ。使用すると透明化し、攻撃対象にもならなくなるが、何らかのアクションを取ったり一定距離を移動すると効果が切れてしまう。範囲攻撃も受けてしまうので、全体にブレス攻撃を放つ金丼さんにはまるで役に立たないだろう。

 

 

「いや、割とこれが売れるんだよ。どんなアイテムでも役立つことってあるからね。待ち狩りなんかにも便利なんだ。どう? みなさんもおひとついかが?」

 

「はっ! いらねえよこんなもの! おーい、お前ら! こっちの店は役に立たないガラクタばかりだ、買うならウチで買いな!!」

 

 

 涼しい顔のエコ猫に、周囲の店主たちは唇を歪めて侮蔑の笑みを浮かべる。

 そんな営業妨害があったせいか、以降は<ナインライブズ>の売り上げは伸び悩み、他のクランの店にばかり客が集まっていった。

 

 

 そして、さらにしばらくの時間が経った頃……。

 

 

「おい、エコ猫ォ!! てめえ、何してやがる!!」

 

 

 ドヤドヤと大勢の子分たちを引き連れて、<シャイニングゼロ>のクランリーダー・ドサンピンが鼻息荒く狩場へと脚を踏み入れてきた。

 

 

「<ナインライブズ>! ゴールデンエッグをどうする気だてめえら!!」

 

 

 さらに偶然か、あるいは示し合わせてか。<レッドクロス団>のクランリーダーのボケッツまでもが、クランメンバー総出でやってくる。

 

 この狩場では悪名高いPKクランが2つ、全戦力総出で押し寄せてきたことでピリピリとその場に緊張が走った。

 何しろ少人数パーティや弱そうなプレイヤーを狙っては装備や金品を奪う無法者連中だ。それだけでなく、戦争になれば傭兵として他のクランの土地を荒らして回る。そのくせPKクラン同士は仲が良く、戦場でぶつかっても談合して済ますのだ。

 周囲からは非常に嫌われており、恨みも買っているが、暴力で無理やり我が意を通す。そんな連中であった。ぶっちゃけほぼ山賊である。

 これ本当に現代人なのか?と疑問に思われるだろうが、ゲームなら非道なロールプレイができてしまう……。むしろ積極的にやりたいという人間は一定数いるものだ。それが他のプレイヤーがいるMMOであっても。

 

 さて、PKクランのマスターに2人がかりで凄まれたエコ猫だが、彼女は泰然とした態度で肩を竦めた。

 

 

「何してるだって? 見ての通り、露店で商売してるだけだよ。商人が露店で商売して、何をなじられるいわれがあるのかな。で、ゴールデンエッグをどうするかって? ウチが金丼さんを確かに捕まえましたよって証拠のために見せてただけさ」

 

 

 そこまで言ってから、エコ猫はふふんと鼻を鳴らしてみせた。

 

 

「ああ、でも折角だし出店で売っちゃうのもアリかもね。ここの人たちで臨時オークションするのも面白そうだ。今なら3億ディール以下なら買ってくれそうだし」

 

「ふざけんじゃねえよクソ猫が! ゴールデンエッグはウチに売るって話だったろうがよ!」

 

「ああん!? いや、ウチが買うんだよ! そうだろうがよぉ、何トボけてんだエコ猫!!」

 

 

 エコ猫はいかにも不思議そうに小首を傾げると、真っ赤な顔で凄むドサンピンとボケッツに笑ってみせた。

 

 

「キミたちに売る? いいや、そんな話は知らないな。私が一言でもキミたちに売ります、なんて返事をしたかい?」

 

 

 するとドサンピンとボケッツは、すごい勢いでレッカとクロードに顔を向けて、犬歯を剥き出しにして吠えた。

 

 

「おいレッカ、どうなってやがる!! てめえ、エコ猫からいい返事を引き出せそうですなんて言ってただろうが!! 適当ぶっこいたのかよ!!」

 

「クロード!! てめえはもうほぼこっちに売ることは決まったようなものですなんて言ってやがっただろうが!! 何一緒になって露店なんかしてやがる!?」

 

 

 レッカとクロードは明後日の方向を剥いて、軽く口笛を吹く。

 

 

「さあ……? いい返事を引き出せそうとは言ったけど、引き出せたとは報告してませんし?」

 

「そのうち手に入るんじゃないですか? いつ手に入るかなんて知りませんけどね」

 

『てめえらあああああああああッ!!!』

 

 

 取るに足りない小悪党どもにナメた口を利かれ、PKクランのマスターたちは瞬間湯沸かし器かってくらい一瞬でブチギレた。

 暴力をウリにしている組織のボスは、基本的に煽りに弱い。たとえどんな形であっても、侮辱を受けたら相手を殺さなくてはならない。それが格下からであればなおのこと。

 何故なら彼らは暴力で周囲を威圧し恐怖を与えるからこそ、組織を維持できるのだ。それが格下にコケにされて黙って引っ込んだとあっては、示しがつかない。そんなボスは身内の部下が舐めて言うことを聞かなくなり、待っているのは組織の崩壊だ。

 

 それでもまだ彼らはレッカとクロードに襲い掛からないでいる。ゴールデンエッグを定期で購入したいという悲願があるから、ギリギリで踏みとどまっているのだ。

 

 

「エコ猫ぉ……! わかってんだろうな……。部下の不始末は、テメエが尻を拭けや……」

 

「ゴールデンエッグは今後ウチらに卸せよ……。もちろん、詫びを含めた価格でな……! じゃなきゃどうなるか、わかってんだろうなオイ!!」

 

 

 エコ猫はふむ、と顎の下に指を添えると、静かに口を開いた。

 

 

「つまり、君たちはこの<ナインライブズ>こそが本当に金丼さんをテイムしたクランだと証言してくれるわけだ? それもPKクラン<シャイニングゼロ>と<レッドクロス団>の名にかけて」

 

「当たり前だろうが! 今更何言ってんだてめえはよおォォォォ!!!!」

 

「現場にクラン員が居合わせて見てたんだから間違いねえだろうが! シラを切ろうたってそうはいかねえんだよクソボケがよぉおおッッ!!」

 

 

 うんうん、とエコ猫はにこやかに微笑み返す。

 

 

「ありがとう、君たちのその言葉が聞きたかったんだ」

 

 

 そして彼女は両腕を広げると、居並ぶ人々……いや、全体チャットで……それどころか、実況動画で宣言した。

 

 

「皆さん、お聞きの通りです! この<ナインライブズ>こそが本当にテイムに成功したクランです! 現場に居合わせた悪名高いPKクランの彼らが、そう証言してくれています!」

 

『……は?』

 

 

 ぽかんとした顔を浮かべる、ドサンピンとボケッツ。

 そして彼らの部下の1人が……あれ? どっちのクランだっけ? ドサンピンのが<レッドクロス団>でボケッツのが<シャイニングゼロ>だっけ?

 まあいいや、こんな奴らどっちでも!

 

 とにかくPKクランのクラン員が叫んだ!

 

 

「た、大変です! つべのライブ配信で、この場面が実況されてます!!」

 

「な……んだと……!?」

 

「は! だからなんだってんだ! そんなことどうだって……」

 

「さて、そのうえで!」

 

 

 ボケッツの言葉をさえぎって、エコ猫は声を張り上げる。

 そしてべーーーっと舌を出すと、彼らに馬鹿にしきった笑顔を向けた。

 

 

「私はPKクランなんて大っ嫌いでね! 君たちのような性根の腐ったボケナスさんたちには、ゴールデンエッグなんてもったいないよ。欲しければ実力で奪ってみたら?」

 

『エ・コ・ネ・コ・オオオオオオォォォォォッ!!!』

 

「鬼さんこーちらっ!!」

 

 

 言うが早いか、エコ猫たち<ナインライブズ>のメンバーたちはばさっとマントを翻して、その場から忽然と消え失せた!

 そう、それは。

 アクションを使用するか、一定距離を移動するまで透明になれる。しかし金丼相手には何の使い道もない消費アイテム。

 

 

「“ハイドクローク”だ!!」

 

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