2006年 5月 11日 (満月の二日前)
ドガッッッッッッッ!!!!!! 、と。
東京高専の一角、屋外にある修練用のフィールドに土煙が立ち込め、そこから高速で人影が飛び出した。
天与呪縛のフィジカルギフテッド、禪院甚爾である。
禪院甚爾は禪院家の戦闘部隊により全国で活動する反社組織が一斉に壊滅したために、収入の手段を失っていたところを夜蛾正道によって拾われ、東京校で働くことになった。
甚爾の腕であれば大抵の特級任務すら簡単にこなせるので、大きな仕事は稀である裏社会時代よりも安定して高収入を得られるようになった。
息子の禪院恵(4)も高専内の甚爾の部屋で暮らしているがこの2年の間ほとんどネグレクト状態で、教師と学生たちに気にかけられてなんとか成長している。
甚爾は恵について何度も各方面に文句を言われているが、そのうち適当に女を探して押し付けるかな、とわりと酷いことを考えていた。
ゴウ、と強風が拭き、土煙が晴れる。
中心にいたのは長身の青年。
青の瞳の白い怪物。
五条家当主にして特級呪術師、五条悟。
「位相」
「波羅蜜」
「光の柱」
閃光が弾けるように、十数の赤く鋭い光が五条の周りに展開する。
振り上げていた右手の人差し指と中指が、甚爾を狙うようにゆっくりと指し示す。
「術式反転 赫」
次の瞬間、甚爾の姿が掻き消える。
と同時に数多の"赫"が殺到する。
甚爾は間を縫うように、五条の下までフィールドの端から端を一足飛びに駆け抜ける。
瞬きをする間に五条の死角に回り込み、手に持つ奇妙な形状の刃を振り上げ、
グルンッ、っと。
怪物は振り向き右手を構え、
「茈」
来たな、と甚爾は口角を上げる。
空中に飛び上がって足場もない状態で迫りくる紫のレーザーという致命的な状況さえ、甚爾にとっては絶体絶命になりえない。
一見何もないように見える空間にも数多の空気分子が飛んでいて、それらは温度の違いが粘度の違いとなり、僅かな屈折率の違いからくるゆらぎを見逃さない目を持つ甚爾に足場を提供する。
空気の面を捉え間一髪で身を反らしたその場所を、近隣に配慮して威力を絞った手のひら大の紫の光の奔流が通過する。
何度も戦ってきたが今の五条悟にはほとんど隙がない。
だから。
勝機があるなら大技を放った後の僅かな瞬間だけだ。
そして、身を低くした甚爾が刀を振るった。
手合わせは五条が入学してから行っているが、そのころは呪力強化のみの組み手のようなもので、本気の殺し合いになったのは一月後の5月ごろからである。
ある日突然、「殺す気でやってくれ」などと言い出した五条家のボンボンを、甚爾は、五条が呪具を壊した場合に五条家が弁償するという縛りのもと天逆鉾を持ち出し、なすすべなくボコボコにした。
そのまま数ヶ月、半年と過ぎたが、おかしくなったのは年を超えたあたりだ。
競馬で手持ちの金(数億円あった)を全て溶かして虫の居所が悪かった甚爾は、いつも通り翻弄され倒れかける五条に、ご丁寧に脳天に小刀まで刺してしまった。
あー、こりゃ死んだかな、と焦る甚爾だが、五条は反転術式を習得して復活し、甚爾はハイになった五条に半殺しにされた。
自業自得である。
その後、虚式"茈"まで習得した最強となった五条悟に対し甚爾は数十回と負け越した。
そして五条は甚爾に興味を失っていく。
しかしその頃には甚爾のほうがやる気になっていた。
眼の前には最強となった無下限呪術の使い手。
否定してみたくなった。
捻じ伏せてみたくなった。
俺を否定した、禪院家、呪術界、その頂点を。
そして十数度の再戦の後に、ほとんど光速で迫る紫を指して「
さすがは呪術界の筆頭ビックリ人間である。
なお最強を下したことで幼少期に徹底的に刻まれた卑屈さを克服して自己肯定感がMAXになった甚爾は、恵のために禪院の当主になるなどと盲言を吐きながら禪院家に討ち入り、数時間にわたり気持ち悪いほど上機嫌な直哉と超高速戦を繰り広げた後、"SpecialGrade_Over_Limitless-β"なる黒いビームを撒き散らす謎の兵器に大気圏外まで吹き飛ばされ敗退した。*1
太平洋に着水したのち、泳いで東京校に帰還し、その後、再戦しようとはしていない。
3月末のことである。
現在は勝ったり負けたりが続いており、甚爾の勝率は2割といったところだ。
はぁ、と緊張を解いた五条悟は息をついた。
勝敗は決した。
似たような局面を何度か体験し、そしてすでに茈を撃った直後に数回負けている五条は、茈という高難易度の奥義を制御しつつも赫をいくつか炸裂させずに残しておく。
何度も同じ手でやられていることから呪具など何かしらの対応はあると警戒していたようだが、術式が飛んでくるとは思わなかったようで、不意を突かれた甚爾は複数の赫をまともに喰らい数十メートル吹き飛んで倒れた。
「毎度毎度、なんで茈を避けられんだよ」
「弾丸を避けるのに弾丸の速度を超える必要はないだろ。射線を読んで撃つ瞬間に先んじて避けてんだよ。まあ俺は弾丸程度見てから避けられるけどな」
甚爾は地面にひっくり返ったまま言うが、言うは易しもここに極まれりである。
射線が確定してから茈が撃たれ通過するまで、ドアノブから静電気が飛び散るほどの猶予もない。
「悟~!」
フィールドの端、校舎の方から夏油が叫んでいた。
「夜蛾センから招集ー!」
* * *
「
「そうだ」
夜蛾から語られた思わぬ任務に五条は思わず聞き返した。
「ついにボケたか」
「春だからね、次期学長ってんで浮かれてんのさ」
ヒソヒソと夜蛾の目の前で繰り広げられる無礼な会話。
「冗談はさておき」
「冗談で済ますかは俺が決めるからな」
「天元様の術式の初期化ですか?」
「? ナニソレ」
夏油の質問に五条家の当主(戦闘狂)が聞き返し、2人に、お前は知ってるはずだろ、という顔をされる。
曰く、天元は「"不死"の術式を持つが、術式効果によって肉体の情報が書き換わり、意志のない高次の存在に"進化"してしまう」らしい。
だから、天元は星漿体と同化することで肉体の情報を書き換え、"進化"を阻止する必要がある。
天元は呪術界の要だ。
高専・呪術界拠点の結界や補助監督の結界術の強度の底上げを行っており、天元がいなくなれば呪術師は活動不可能だろう。
そして任務は「2日後の同化まで星漿体の少女を守り抜き天元の元まで送り届ける」ことだ。
推定敵対組織は宗教法人「盤星教」。
そして時は進み。
ここは東京の市街地、とあるビルの屋上。
五条は星漿体天内理子を連れ、天内の中学校から他の生徒を巻き込まないために撤退していたところ、紙袋を被った同じ見た目の分身を出し五人に増えることができるという強い術式を持った、にも拘わらずなぜか弱い呪詛師に阻まれ戦っていた。
「でもこれは全部順転の術式の話」
五条の術式の解説が終わる。
「こっちは無限の発散」
指を向ける。
呪詛師はとっさに腕を交差させ衝撃に備える。
そして
術式反転
「赫」
それは蒼より戦闘向きのはじく力。
ギュンンッ、っと大音量で。
帳もおろしていない東京市街の澄んだ青空を呪詛師が赤い閃光を散らしながらかっ飛んでいった。
「悟!」
星漿体世話係の黒井美里に急かされた夏油が急いで駆けつけると、興奮が冷めた五条があー、と遠くを眺めていた。
「ごめーん傑、やりすぎた」
「呪詛師は補助監督の人たちがキチンと回収してくれるさ。赫が必要な相手だったんだろ?」
「や、ノリ」
「……」
「お嬢様! 無事ですか!」
「黒井!」
黒井が追いついた。
さて、と五条は考える。
呪詛師は追い払ったが学校に戻るのは無しだ。
だがまだ2日あるな。
そして予報によれば、この一週間は
「せっかく東京にいるんだ。行くでしょ、東京&筑波観光」
@捏造設定の軌跡
■五条悟(16)
カラフルな
■夏油傑(16)
反転も結界術も前途多難だが極の番は思いついた。
原作通り走馬灯老人をやっつけた。
■禪院甚爾
嫌いとかではないけど見ると悲しくなるので視界に入れたくない恵を放置しても死なない環境があったので婿入りしておらずまだ伏黒ではない。
旧禪院に植え付けられた歪んだ劣等感を克服した。
■盤星教
仲介業者が禪院家戦闘部隊により壊滅したため、自分で五行寮(ダークウェブ)に暗殺依頼を乗せた。
■五行寮(ダークウェブ)
近年設立された民間祈祷師・呪詛師・神職その他のための閉鎖ネットワークコミュニティ。
呪術の素材の取引や知識の交流や、非合法な依頼の授受が行われている。
このネットワークはセキュリティがザルだが高専に技術者はいないし技術者を雇ったり非呪詛師の組織と協力したりしようともしないため、ここで活動する呪詛師は殆ど特定されていない。
開発者は陰陽寮の後継を自称しているが、本物の陰陽寮は歴史書で知っている程度で何のつながりもない。
※禪院家呪術学研究会によって特定可能だが国内に無数にいる呪詛師が勝手に釣れるため放置されている。
違法な素材の取引程度は黙認されているが、調子に乗って暗殺依頼とか乗せると次の日には自宅前に黒塗り自動車が何台か停められ、玄関にはモヒカンな和装老人が立っていたりするかもしれない。
※名前の由来は五行機関(とある魔術の禁書目録)より
■呪詛師
呪詛師とは政府機関である呪術総監部に認定されずに呪術を用いる人々の総称で、ひどい言い草な気がしなくもないが倫理観と遵法意識に欠ける者が多いためあながち間違いでもない。殆どの呪術行使者はこっちであり、中高生という若い時期に高専に引き込めなかった者を後になって呪術師にできることはほとんど無い。大概は"窓"にすらならない。
呪術界の体系から分離しており、民間信仰的に独自の伝統呪術を受け継ぐ者から、ウィッカやカバラなどで解釈し魔女や魔術師を名乗りだす者、独自に超能力者を自称し始める者まで、基本的に術師および総監部と話の合わないイロモノが勢揃い。
■Q
総監部被害者およびその関係者と極度の豚肉の腸詰め好きで構成される呪詛師集団。
五行寮でサイトを立て革命を訴えた事がある。
禪院家によって壊滅・吸収済み。