一方通行六歳転生(呪術廻戦)   作:木原レイリ

12 / 23
第12話 最後の日

 せっかくだし自分の伝手でAHT社の見物をさせたい! と五条は明日香に電話で連絡をしたところ、快諾と共に『手を離せないので代わりを送って案内させる』と返事が来た。

 

「今任務で護衛中なんだけど、そいつ呪術関係者だろうな」

『モチ! てゆか、何で護衛中に遊んでんの?』

 

 そして1時間後、14時50分、秋葉原駅前、待ち合わせの場所。

 そこにいたのは、フードを被った長身の女性。

 ロックシンガーのようなパンクな格好をしている。

 黒髪で長髪。黄色のカラーリング。

 編み上げの黒ズボン。

 天内の学校でも何度も話題に出ているあの天才・鈴科明日香の妹。

 

「あの海鳥ちゃん!?」

 

「禪院翠だ、よろしくぅ」

 

「禪院ってあの禪院!?」

 

 気だるげに出迎えたのは特別一級術師、禪院翠(15)。

 

「ッたく、なんだってこんな暑い日に元気に遊びまわれるんだ、小学三年生の夏休みですかぁ?」

 

「夏っぽくなってきたとはいえ、まだ割と涼しい方だと思うんじゃが」

 

「……あー、先週までずっと任務でエディンバラにいたからな、比べたら東京が蒸し暑くってかなわねぇ。ていうかなんだよその喋り方。キャラ付けか? 友達なくすぞ」

 

「学校では普通に喋ってるもん!」

 

「エディンバラ?」

 

 五条が食いついた。

 海外の呪霊は発見が遅れるため必ずと言っていいほど特級と化しているが、その分、各地域で数十年に一度しか発生しない。

 なので海外任務は珍しく、たいてい高専を通して術師に共有される。

 五条の記憶では、数年前のベトナムの件以来、海外の任務はなかったはずだ。

 

「エディンバラで何してたんだ? 呪霊の発生報告なんてあったっけ?」

 

「ア゛? おいおい、なんで禪院の任務を五条家当主様に報連相しなきゃならねえんだ?」

 

「……は?」

 

「悟、落ち着いて」

 

「私が頼まれたのはお前らを案内することだけだ。AHTの関連施設巡りだ。分刻みでスケジュール組んでやったから感謝しろ」

 

 * * *

 

旅のしおり

 

1日目ーーーーーー

 

 15:00 つくばエクスプレス乗車

 

 16:05 モバイル端末共同研究機関見学

 

 17:20 次世代医療見学・遠隔医療体験

 

 18:10 プラネタリウムと次世代宇宙技術体験

 

2日目ーーーーーー

 

 10:00 JAXA見学・日本初の民間衛星『おりひめ』の紹介

 

 12:00 産総研・地質標本館

 

 14:00 AHTつくば支部見学

 

 17:00 国土地理院・科学館の見物

 

 19:00 筑波空港で垂直離着陸式空港の見学とドローン登場体験・市内遊覧

 

 20:00 近接ショッピングモールで夕食とウィンドウショッピング

 

3日目ーーーーーー

 

 7:00 つくばエクスプレス乗車

 

 8:00 東京駅周辺で朝食

 

 8:50 AHT東京支部見学

 

 10:05 東京先鋭水族館

 

 13:30 AHT所有のリムジンで東京高専へ

 

 14:30 東京高専着

 

 日没後 天内同化

 

 * * *

 

 2006年 5月 13日 10:20 東京先鋭水族館

 

 天内は、一人ベンチに座り巨大な青い水槽を見上げていた。

 開館してすぐだからか、静かで暗い空間に人はまばらにしかいない。

 

「綺麗……」

 

「よぉ」

 

「翠ちゃん」

 

 静寂が破れた。

 

「楽しめたか?」

 

「まあまあじゃな」

 

「これだけ付き合ってやってまあまあかよ」

 

 翠は「あーあ」とため息をついて天内の隣に座ると、後ろに手をついて同じ水槽を眺めた。

 

「もし、お前だけの人生が明日からも続いていくとしたら、したかったこととかあるか?」

 

「……その質問に意味はあるのか?」

 

「いや? 無いな。ツアーのフィードバックと、単なる好奇心だ」

 

「貴様は少しデリカシーを知るべきじゃ」

 

 二人はお互いに顔を合わせず、ただ目の前の巨大な水中の様子を眺めていた。

 真っ青な美しい空間の中には、幾千もの生命が泳ぎ回っていて、それは水上からの光を反射してきらきらと光っていた。

 

「……私は」

 

「生まれた時から『特別』が普通で、この日のために危ないことは避けて生きてきた」

 

「けど、この数日間」

 

「みんなといろんなものを見て、いろんなことをして、食べたことのなかったものを食べて、ほんとに楽しくて……」

 

「みんなともっと色んなところに行きたかった。もっと学校に通ってたかった、スポーツ大会も出たかったな、今月末で絶対に出れないから、みんなには家庭の事情で引っ越すって説明してあって、メンバー決めも参加しなかったけど、ほんとならバトミントン出たかった」

 

「もっと、みんなと、一緒に……」

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

「なんてな! 妾は天元となる! 別に互いに死ぬわけではない、少し会えなくなるだけじゃ! そんなことはとうに割り切っておるわ!」

 

 天内は明るい笑顔で立ち上がって、翠の方を向きそう宣言した。

 

「そうかよ」

 

 翠は動かずに、水槽を真剣な顔で見続けていた。

 

「もしも奇跡が起きて同化がなくなったら……」

 

「……なんだと言うんじゃ?」

 

「いや」

 

 

 

 

 

「何でもねえよ」

 

 

 * * *

 

 2006年 5月 13日 13:30 品川駅前

 

「あの車だな」

 

 そこにあったのはAHTの関連会社が設計した黒く光る家庭用リムジンが止まっていた。

 中にはソファーに冷蔵庫に、ゲームやカラオケなど、富裕層が家族でくつろぐための設備が詰まっている。

 同化当日にゲームやカラオケをワイワイ楽しむ精神状態ではないだろうが、冷蔵庫には彼らの好む飲み物や菓子が入っているはずなので、歓談するには困らないだろう。

 

「私の案内(ツアー)は以上だ。あとはお前らだけでいけ」

 

 

「礼を言うぞ翠!」

 

「お世話になりました」

 

「ありがとう」

 

「じゃあな翠!」

 

 そうして、最後まで騒がしかった一団を見送って、翠はやっと大仕事を終えた、と肩の力を抜いた。

 

「はぁ」

 

 ……ったく

 この3か月最後の休暇だったんだぞ?

 

 ヨーロッパでの数年の調査から一時帰国して。

 これから当分は忙しくなるから今のうちにまとめて休暇を取っとけと言われ、溜まっていた貯金を使って喜愛と遊びまわっていたところ。

 至福の時を破ったきっかけは理不尽な一本の電話である。

 

『なんか五条悟から頼まれてさー!』

 

 と。

 いつも通り呑気な明日香の声が聞こえて、翠は本気で明日香に殺意が芽生えた。

 そんな経緯で、今までの休日出勤である。

 そして、特級術師である五条家当主の相手をして、同化と言う名の死へ向かう少女の相手をして、翠は心底疲れ果てていた。

 禪院家からの連絡によれば、明日からは3か月以上の連勤が約束されている。

 ふざけんな。

 

「はぁ」

 

 翠は、喜愛とみる予定の映画館へ向かいながら、何度目か分からない溜息を吐いた。

 何がいいのかわっぱり分からないアメリカパニック映画はどうでもいいが、夕食の高級レストランをキャンセルするのは悔しすぎる。

 血反吐を吐いてでも今夜はコース料理と東京の夜景を楽しむつもりだ。

 

「……連中をなるべく高専に戻らせるなって、もっと適任がいるはずだろォがよ」

 

 * * *

 

 2006年 5月 13日 15:00 筵山麓(むしろやまふもと)

 

「皆、お疲れ様。高専の結界内だ」

 

 3日間の任務も終わり、今日、天元の元への参道が開いている社がある山の(ふもと)にたどり着いた。

 

「これで一安心じゃな!」

 

「ですね」

 

「悟、本当にお疲れ」

 

 この三日間、術式を解かずに警戒し続けた五条を夏油が労う。

 五条はやっと肩の力を抜いた。

 

「二度とごめんだ、ガキのお守りは」

 

「ァ゛?」

 

 

 

!!! 

 

 

 

「……傑、天内を連れて先に行ってくれ」

 

「悟、何が!」

 

「高専の結界が崩壊した」

 

 六眼に映るのは、信じがたくも、

 結界を構成していた呪力が、バラバラと、瞬く間に空に溶けていく様子で――

 

「高専の結界が突破されたことなんか今まで一度も……って、おいおいッ!」

 

 凄まじい勢いで大気の呪力の流れが変わっていく。

 

 生まれてから、当たり前のようにそこにあった、流動する呪力場が乱れ消えていく。

 

 それはつまり

 

 日本の結界が……

 

 

 外部からの攻撃じゃない。

 

 天元に何かあった。

 

「撤回ッ! 一旦校舎まで戻d――

 

 

 

 

 

 

 

 

 山が爆ぜた

 

 

 

 

 

 

 

 ドッと流れるような光の柱が轟音とともに目の前の山を吹き飛ばしていた。

 

 間一髪、反射的に夏油は呪霊を呼びだし天内と黒井を抱え飛び乗って距離を取った。

 五条は六眼の情報を必死に精査し、何が起こっているのか理解しようと目を見開き、

 

 そして

 

 鉄も蒸発するような光の奔流の中から、現れたのは、

 

 

「ッたく、あの野郎ォ。地味に酸素奪われると辛いんだッての」

 

 

 真っ白な少女だった。

 

 白い肌、白い髪、白い着物に赤い瞳。

 

 身じろぎしただけで世界が軋むような威圧感

 

 

 

 五条悟に並ぶ現代の異能

 

 

 

「なぜお前がここにいる」

 

「あァ゛?」

 

 

 禪院家当主 禪院百合華

 

 

「何故って、あァ」

 

 口が三日月型に裂けた

 

 

 

 

 

 

「天元は俺が殺した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 【付録】禪院家強さランキング(階級・術式付き)(2006年時点)

 

 第1位 禪院百合華(アクセラレータ) [特別一級術師, 向量(ベクトル)操術]

 第2位 禪院明日香 [等級なし, 術式なし]

 第3位 禪院直哉 [特級術師, 投射呪法]

 ーーーーー越えられない壁ーーーーー

 第4位 禪院翠 [特別一級術師, 向量操術]

 第5位 禪院直毘人 [特別一級術師, 投射呪法]

 第6位 禪院喜愛 [特別一級術師, 向量操術]

 第7位 禪院甚壱 [特別一級術師, 巨大な拳の生成]

 

 以下 有象無象

 




翠さん平和回。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。