一方通行六歳転生(呪術廻戦)   作:木原レイリ

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今回の皆様

百合華(12) 145cm 真っ白な刺繍入り羽織モドキと白とグレーの重ね着、帯、袴モドキ。
直哉(11) 155cm 着流し
明日香(18) 164cm ジーパンブラウスに白衣、リュック
翠(10)150cm 黒パンクなズボンに白パーカー
喜愛(11) 147cm 黒ジンズに白セーター

的な感じ


第2話 暗躍(二) 飛騨霊山浄界

 2001年 4月21日 飛騨霊山浄界

 

 天元が結界を張り五条家が管理・警護している飛騨霊山浄界に侵入者が五人。

 もちろん呪術学研究会のメンバーである百合華、明日香、直哉、翠、喜愛だ。

 ふわふわと五人の周りを飛び回る2つの簡易照明によって、狭い鍾乳洞が照らし出されている。

 

 飛騨霊山浄界は岐阜県北部、律令制で言うところの飛騨国の東外れに位置する東西二キロの太古の石灰岩でできた洞窟である。

 1965年にこの鍾乳洞の川を挟んで北側に民間人によって鍾乳洞が発見され観光地化されている。この浄界は特に重要な浄界の一つだが、あまり人の手の入っていない山奥にあるためそれまで簡単な封印のみで済ませていたが、この影響により急に周辺に地質調査や観光客が増えたため、常に高山市在住の五条家の人員が周辺で警備している状態となっている。記録に残る無下限の術者が使えたという瞬間移動を五条悟も使える場合、何かあればすぐにでも飛んでくるだろう。

 日本列島を覆う天元の巨大な結界を破壊するには各浄界への侵入・工作は必須だが、ここで浄界への侵入が露見すると今後の計画がすべて力業、例えば韓国や中国やアメリカに高跳びして経済力・政治力をつけて帰朝し強引に改革、になってしまうので、今回の作戦は細心の注意を払って行われている。残念ながらいつも見えないながら一方通行(アクセラレータ)の周囲に侍るクリファパズル545は、魔力に浄界のセキュリティがどう反応するかが未知のため高山市街で留守番である。(望むところですぅ、と不貞腐れてふよふよと市街観光しに飛び去った)

 

 五条悟が突然その辺から飛び出してくるとでも思っているのか、直哉がソワソワと洞窟の内部を見回している。

 

「なあこの呪力を隠蔽するネックレスって、本当に大丈夫なん? 正直めっちゃ眉唾なんやけど」

 

「さっきからそればっかりだね。んー結界が生物を認識する仕組みはオーケー?」

 

「さっぱりやな」

 

「……もう少し研究会に顔出したほうがいいと思うよ、別に強制の仕事とかないんだし」

 

「月一で行っとるやん」

 

「使えそうな知識があったら上っ面だけ取り込むためでしょ。そーゆーカーゴ・カルトなところホント呪術師だよね」

 

「堪忍してや。意地悪せんで教えてくれへん?」

 

 直哉は一ミリも気にしていないといった様子で続きを促す。

 百合華と甚爾に出会って以来、直哉は"向こう側"に行くことだけに固執しており、"向こう側"どころか呪力も扱えなければフィジギフでもない明日香が何を言っても心を動かされることはない。この会話もニコニコと表面上は友好的だが、情報サイトに表示された広告のポップアップや、寄付を募るバナーを、何も考えずにバツ印を押して閉じる程度の認識しかしていない。

 その態度が露骨に伝わっている明日香は、ため息を吐いて歩きながら説明する。

 

「まず、結界は通常なら霧散する呪力をその場に留めて動かすための技術っていうのはわかるよね」

 

「うん」

 

「結界は、えっと特に天元の技術体系における結界とか生命のみに術式を作用させる系の領域とかは、内部の呪力場の変化から、自動的に脈動する魂の位置を特定している、くらいでまずは納得できる?」

 

「感覚的には分かるわ、要は自分の呪力が乱されるところに人がいるってことやね」

 

「そう。このネックレスの機能は使用者の体表面に薄く呪力膜、結界の外殻って言ってもいいけど、を張っていて、雑に言えば受けた刺激を多少減衰させて出力してる。ノイズキャンセルって言葉くらい聞いたことあるよね? やってることはあれと似てる」

 

「ふーん?」

 

「呪力は通常固体を通過するとき気体を通過するより抵抗が非常に大きいから、特に術者が操作しなければ呪力は固体にまるで反発されているようにある程度避けて通る。展開された呪力膜はその反発を疑似的に再現する。つまりこの呪具はそこにある魂の存在を悟らせずに、それを取るに足らない無機物だと誤認させてるってことだね」

 

「ずっと疑問やったんやけど、魂ってどこにあるん? やっぱり心臓なん?」

 

「……魂は人型だよ直哉くん。体の物質粒子と重なるように同期して存在してる。呪力は全身から生み出せるよね。まあ高専出身の術師とか体の中心から全身へと回してる人多いらしいけど」

 

「なるほどなぁ」

 

「ただあくまで膜上でそれっぽくちょこちょこ調整しているだけの仕組みだから、再三言ってる通り呪力を使えば簡単に誤魔化せる(しきい)値を超える、絶対やめてね」

 

「同じ原理で呪力を使ってもバレん呪具は作れへんの?」

 

「?? 膜の内側からの刺激をそのまま内側に返して相殺するってこと? えっと、封印用の拘束具とおんなじだけど大丈夫?」

 

「あ、せやな」

 

 きっと全身の呪力の流れが阻害されてさぞ動きにくいことだろう。特に日常的かつ無意識化で呪力を制御する術師にとっては。

 そうして歩いているうちに、開けた空間にたどり着いた。

 

「着いたな」

 

「待って超何ですかあれ、人?」

 

「うげえ、なんだそいつ」

 

「……よかった、死体やね」

 

「即身仏っぽいね」

 

 少し開けた空間には、僧侶のミイラが鎮座していた。

 人影に一瞬ぎょっとした一行だが、すぐに生きた人間ではないと気付き警戒を解いた。死体を用いた呪具は歴史上ありふれているので御三家の人間でこの程度で騒ぐ人間はいない。

 

「目が四つに腕が四本、両面宿儺か?」

 

「そういえば呪いの王の拠点は飛騨だっけ。いや、五世紀のオリジナルの方かな?」

 

「仏教の伝来は超六世紀じゃないですか?」

 

「うーん、反朝廷勢力なら中央より先に仏教を取り入れてても不思議ではない?」

 

「あるとしたら大陸と交易があった日本海沿岸からか? ちょっと遠くねえか?」

 

「もしそうなら超『梁書』の言う五世紀に仏教の伝えられた幻の仏教国『扶桑』が日本のどこかだとする珍説の説得力が超増しますね」

 

 議論好きたち三人による考察が始まった。

 直哉はどうでもよさそうに周辺を歩き回っている。歩いているうちに洞窟の隅に天井から下がる手ごろな鍾乳石見つけたらしく、腕力で破壊し懐に入れた。甚爾くんの結婚祝いや、などとつぶやいている。*1

 ちなみに甚爾は禪院とは完全に縁を切ったと思っており直哉に常に動向が知られているとは思っていない。ある日突然、鍾乳石がゴロンと送られてきて仰天するだろう。何かの罠か?

 

「伝承が正しいなら足が二本か四本かで見分けがつくんじゃないの? めくってみたくない?」

 

「触ンじゃねェぞ?」

 

 直哉と同じく黙って議論を聞いていた一方通行(アクセラレータ)は好奇心のまま突っ走りそうな明日香を止めた。

 明日香がウキウキとデジカメ(改造済み)で映像記録をとりながら即身仏の周りを回る。

 

「こんなとこにあからさまに置いてあンだ。明らかに浄界関係だろ」

 

「本当はサンプルに欲しいけど結界のセキュリティに影響があるかもしれないから採集も内部スキャンもしない方がいいね」

 

「つーか早く設置して帰ンぞ」

 

 明日香がリュックサックから取り出したのはサッカーボール程度の大きさの黒色のケースだ。中には呪力が漏れないよう厳重に封印されたエネルギー源となる呪物と、新しく開発された天元の補助に頼らないかつ自立型の結界維持装置(最近起業したAHTの京都本社の地下にも使用している)が入っている。決行日には、道中に設置した中継機を通じて起動の信号を受信し、浄界の中心で結界を上書きし弱体化、最後に外から手動で外殻を破壊するといった仕組みだ。要は電気通信への対策が皆無という脆弱性を利用したバックドアである。通信により全国で一斉に行うというのが肝だ。天元は結界術の権威であり時間差があると外殻を攻撃する僅かな間に対応される可能性がある。

 

「どこに埋める?」

 

「適当に超穴掘ればいいんじゃないんですか?」

 

「そう思ってたけど、思ったより溜まってる水が浅いよね。痕跡見つからない?」

 

「逆に天井とかどうだ?」

 

「超間違いなく地震で落ちてきますね、別に大地震じゃなくても断層だらけですし。超馬鹿じゃねぇの?」

 

「……」

 

 いつも通り翠と喜愛のプロレスが始まるかと思われたが、ぐうの音も出なかったのか翠は固まってしまった。

 結局、洞窟の隅の方の石筍を根元から切り離しの水面下に穴を掘って埋め元通りに石筍を被せ接着した。水上に張り付いている周囲に合わせてこの場で白くペイントされた受信用ケーブルも見つかることはないだろう。鍾乳洞は視界が悪くて何よりである。

 念のため直哉が破壊したつらら石の反対側を選んだ。

 

 このように2006年までの五年間で数十ある各地の霊場を回り、侵入し同様の工作をする。

 ただし、物理面でもセキュリティの強固な山国御陵と皇居の浄界は宮内庁に根回しする必要があるから最後に回す必要があるし、天元の本丸である薨星宮は当日まで手が出せない。

 

 五人は痕跡を消しつつ来た道を戻り始めた。

 

「それで、天元様討伐計画とやらの進捗はどんな感じなん?」

 

「そんな名前じゃねェ」

 

「環境に配慮した結界の代替手段の構築は目途がたったね。AHTも順調に始動したし。政治は?」

 

「禪院家次期当主の名が通じるところは少しずつ落としてるが、宮内庁は当主になるまでは手が出せねェな。AHTの経済効果というカードも欲しい。総監部と高専、加茂、五条には全部終わってからだ」

 

「……もういっそ百合華ちゃんが武力で天下を取ればいいんとちゃう?」

 

「よくねェよどこの戦国武将だよ、頭が安土桃山時代ですか??」

 

「……なんかメンドイだけな気がするねぇ、最終手段としてはアリだけど……」

 

 そして。

 ぱちゃぱちゃと水面を踏む音が遠ざかり、飛騨霊山浄界は何事もなかったように元の暗闇と静寂を取り戻した。

 


 

 〇 カーゴ・カルト

 

 メラネシアに存在したとされる宗教。鉄の船や鉄の鳥をおびきよせ文明の利器を獲得するためにハリボテの管制塔や滑走路を模した儀式場を作成した。

 なお、術式の自由な解釈は強さに直結するため、カーゴカルト的な知識の応用は術師にとって王道のやり方であり、真面目、常識的、頑固、現実主義な人ほど術式の運用に苦労する。つまり直哉の態度は術師としては模範的である。

 

 

 〇魂は人型云々

 

 東堂先輩曰く、『俺たちは全身全霊で世界に存在している』。

 羂索ちゃん曰く、『肉体は魂であり魂は肉体なんだよ』

 真人の無為転変は、『全身のどこに触れても発動する』

*1
モラルはともかくこの秘匿域が天然記念物に指定されているはずもないので合法。

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