とある12月21日
上条たちはついに学園都市に戻ってきた。
浜面や御坂、食蜂たちと空港で別れた後、上条・インデックス・
街は復旧を始めたばかりで、この店もつい数時間前に営業再開したばかりだ。
「それで、上里翔流と戦った時の一番の違和感は敵対中にも関わらず学食行ったりゲーセン行ったり、微妙な関係が続いてたことでさ。でもそれは当然なんだ。アレイスターは学園都市を『
「ふざけんンな、ならオマエのも寄越せ」
右手に幻想殺しを宿した少年は第一位の飲むホットブラックコーヒーを強奪した。自身の頼んだシェイクが思いのほか甘かったらしい。メニュー選びすら失敗するのも不幸故か。
「これ何味だ?」
「いちごおしるこ味だったかな、確か『57KIRI』とのコラボメニューって書いてあった気が待って上条さんをそんな目で見ないでくださいこれでもジュースの中じゃ一番マシな味だったんです!!!」
この少年が不幸な目にあう理由の半分以上は自業自得だと思う。
と、『人間』アレイスター・クロウリーから受け継いだスマホが震える。
それは学園都市統括理事会のあるビルの防衛システムが再稼働し、会議場が"使用中"になったという通知。
どうやら第1学区にて、学園都市閉鎖後初めての統括理事会が開かれたらしい。
「もう行くのか?」
「やることがあンだよ」
「そっか、まあまた今度こうやってゆっくり話そうぜ。ここ結構気に入った」
上条は頬杖をついてポテトを摘まみながら言った。
それには答えず、
「じゃあな」
❡ ❡ ❡
2006年 5月 13日
それは、音もなく石畳の上を歩いていた。
白い怪物。禪院家当主・禪院百合華である。
ここは薨星宮の直上。続く石畳の参道は天元の下へと続いている。
ここに来るために許可は取っていないが、高専の人員や天元本人が駆けつけることはない。
体表を撫でる結界の呪力ベクトルを受け流し無機物と誤認させているからだ。
靴裏のベクトルを掌握し足音を消しており、薄暗い中、完全な静寂が実現していた。
* * *
「改革」の計画は順調に進んでいた。
「改革」の要旨は以下の3点である。
まずは1つ目、天元に日本中に張られる結界を解かせること。
そして2つ目、結界の代替システムを構築すること。
天元の結界は国内のすべての物体を薄く呪力に浸すという、『浴』と同等の現象を起こしている。
考古的に推論するところ、これが原因で日本列島の住民は極めて呪いを生みやすい体質になってしまっているのだ。他国と比べ術師が多いのも同様の理由である。
最大の問題は、この結界は善意によって張られていることだ。
天元の行動原理はその誕生以来、「術師のため」というその一点のみだ。
日本列島に張られた大規模な結界も、要所の守護、結界術の補助や『
それらすべてを結界のような呪力を垂流す手段を用いずに代替する必要がある。さもなくば日本は早晩滅びるだろう。
ちなみにこれらは3つ目に比べれば簡単な部類である。
現機能の調査とその代替手段の獲得は、能力者230万人の頂点の頭脳に記録されていた学園都市産の科学技術知識が禪院明日香という学園都市寄りの科学者を生んだために、無事に達成できた。
結界の解体も下準備を終え、残すは天元との直接交渉のみである。
最後に3つ目、内戦を起こさずに「改革」を終えること。
これがもっとも難解で長期的になった。
当然ながら禪院家の当主程度の個人に「改革」を行う権限など無い。
総監部は、実際に天元に畏敬を抱いているかはさておき、結界の排除など主張しようものなら嬉々として御三家からの除名と呪詛師としての討伐を決定するだろう。
総監部は野蛮な禪院を過小評価しているだろうが、五条、加茂、高専を合わせた全軍と禪院家の全軍は程々に拮抗しうる。また、それぞれの最高戦力は五条悟と禪院百合華である。それに加えて、熊襲系、アイヌ系、その他の地方の名家など、纏まった地方集団も参戦するだろう。戊辰戦争とまではいかなくても応仁の乱程度の大惨事にはなると考えられる。
その後、どちらが勝っても呪霊と呪詛師が活性化し日本は滅亡である。
だから、総監部、五条、加茂、高専の勢力には直前まで「改革」の一切は秘匿されることになった。
交渉は呪術総監部の名目上の上位組織である宮内庁と秘密裏に行われた。
元来、呪いに関する治安維持行為は王権あるいは律令制下で公に行われてきた。
しかし、時代が下るにつれて呪霊の起源が判明するに従い、呪術は秘匿すべきではないかという意見が議論されるようになった。
有名妖怪や氏神信仰などの仮想怨霊の理論的な考察と小規模な対策は江戸中期から行われてきたが、ついには『特級仮想怨霊 異人ぺるり』なる存在が相模国沿岸で暴れまわり討伐団を率いる禪院家と加茂家の当主を血祭りにあげ小さな宿場町が2つほど地図から消えるにあたって、朝廷は呪術の存在を歴史から完全に抹消することに決めた。
その後、陰陽寮の廃止後に
つまりは、宮内庁が弱体化した戦後の総監部は殆ど自治組織と呼べるほど強権を振るっているが、法的にはすべての呪術師は宮内庁によって統帥しうるのだ。
なので宮内庁命令によって総監部を廃止し大義名分を奪い、大混乱のうちに高専、総監部、御三家の順に各個対処するという方針となった。
おそらく高専は無血開城が可能だろうが、総監部は多少の抵抗があるだろう。加茂と五条は家柄として天皇家には忠実なので、通達が届いた時点で暫く様子見し総監部が落ちた時点で恭順する可能性が高い。
結界解体のリスクが大きすぎるがゆえに、宮内庁との交渉・調整では「そこまでして結界を解く必要があるか」という議論が毎回のように起こった。『琉球・台湾・中国東北地方などの事例を鑑みるに凡そ六世代もすれば呪霊の出現は極めて稀になるだろう』という予測が提出され毎回根拠も補強されているが、この千年のあいだ平安・鎌倉文化にとどまり続けた野蛮な呪術御三家の人間が突然生理学だ物理学だと言い出しても宮内庁側としては不安で仕方ない。
結局最後には日本唯一の超巨大企業である『AHT』と呪術界を支える御三家随一の戦闘集団『禪院家』としての信用力・影響力が決め手となった。
というかそもそも宮内庁が交渉の席についたのもAHTと敵対するだけで日本経済は大打撃を受けるし禪院家と敵対したら呪術界は崩壊するから、という理由なので結果は最初から決まったようなものである。
また、日本国内の存在を確認できるあらゆる呪詛師及び野良術師を能力や規模から脅威度を割り出し片っ端から無力化することになった。(その裏で直哉や明日香が人材獲得に励んだ)
現在、呪術界には『五行寮』なるダークウェブが存在している。芦屋の系譜の一人が作った自称陰陽寮の正当後継であり、名前は五行機関伝説にあやかっている。アクセス方法が口伝で広がるコミュニティで、素材の売買や基礎的な結界術の解説(誤謬だらけ)が行われている。
明日香曰く『どのサーバーもセキュリティ意識が中生代』*2らしく、アクセスした人間はたいてい簡単に割り出せている。まあ多少の足掻きなど学園都市系科学者と建設された民間衛星『おりひめ』のスパコン『神浄』の前では無いようなものだが。
このコミュニティへのアクセスを手がかりに全国での呪詛師の処理及び協力者の確保を広げ、「改革」に影響する可能性のある殆どの因子の把握と対策に成功している。
これによって国内の殆どの勢力の掌握が完了した。
だがそれも完全という訳ではないというのを百合華は最近思い知った。
つい一月ほど前に、大興奮といった様子の明日香より第三勢力『五行機関』の存在が証明されたと聞いたときは冷や汗を流した。
どこのどいつかは知らないが、もう
残穢の調査に向かわせたクリファパズル545の分析によれば、元の世界の『魔術』のように強固に自我を固め精錬する『魔力』や、『偶像の理論』による『位相』の利用といった特殊、あるいは未知の技術が用いられた形跡はなく、単に生命力と呪力を用いる術式・生得術式を利用した呪術の一派だろうとのことだった。
それを聞いて一応は、つまり"最悪"ではないと安心した。「改革」が表沙汰になったときに盤外から対処不能な理外の攻撃をされる可能性は未だ低い。そもそも自らの「完璧さ」なぞを計画に入れてはいない。見落とした正体不明の小規模呪詛師予備群がどこかに潜んでいる、といった程度なら最初から計画の計算内であり、致命的な惨事になる可能性は低いと思われる。
しかし不気味なのは彼らが一世紀以上にわたりどこに潜んでいたかだ。
この日本で現在宮内庁の支配が及んでいない呪術界として、自治意識の強い九州南部と独自の体系を持つアイヌ各地が挙げられる。そこに呪詛師に潜まれたら発見が遅れるだろう。
だがそれも年単位となると話が別だ。彼らの警備だってザルではないし、連携も行われている。東アジア各国にある呪術界とも、密な情報共有や術師の派遣が行われている。更にこの数年の「改革」のための精密調査に引っかからなかったのは明らかに異常である。
加茂と五条が恭順を表明する「改革」の最後の一手が完了するその時まで絶対に警戒を緩めてはならない。
* * *
万全を期して今日に至る。
総監部と加茂・五条の動きは完全に把握している。
高専はいつも通り平穏である。
五条家の方針と独立している五条悟と、同化を控えた星漿体の動向は気になったが、それも向こうから連絡してきたおかげで翠に適当に観光地を連れまわさせ、高専から引き離すことができた。
これから、後回しにしていた仕上げに向き合わなければならない。
何度も議論されてきた「改革」にあたる最後の問題。
天元は敵か。
すなわち『 天元は「人」か「怪物」か』。
記録や分析をみる限り、天元は純粋に人類の敵である。
結界が張られて数百年後の平安時代に呪霊が急増したときに対処できなかったのは仕方ない。
だが、蝦夷征伐、琉球と蝦夷の従属化、明治の侵攻において、国からの報告のままに簡単に国境通りに結界を拡縮させたのは愚行でしか無い。
対話の放棄は新たな悪趣味の始まりだということを、怪物は身を以て知っていた。
いつぞやのカフェでの会話を思い出す。
あそこは端から、悲劇の街として作られているのだ。
だから、分けてはならない。
天元と渡り合えるのは禪院百合華しかいないため百合華自身が1人で訪れたが、安易に戦闘・討伐という楽な方向に流れるつもりはなかった。
交渉の決裂? 当然あるだろう。
二の手三の手くらいは持っている。
それを含めて外交である。
『翼』を全力で展開すれば無力化だろうと可能だろう。
勘違いして欲しくないが、もちろん『
上条当麻だって完璧ではない。
上条当麻でも間違えることもある。
上条当麻ですら全員を救えるわけではないのだ。
だから、怪物は、怪物と呼ばれていた『人間』は、恐れずに自らの道を歩く。
また会えたときに笑って話せるように。
今度こそ、みんなの手本になるような第一位になるために。
立ち止まる。
行手を阻んでいた結界の外殻に右手で触れた。
ベクトル変換が発動しガラスの割れるような音が響き、結界が開く。
そこは真っ白な空間。
踏み込めば、景色が一瞬ブレたかと思えば、四つ目の怪人が眼前に現れた。
呪術界の要、天元その人だ。
「初めましてだね、禪院の転生者。君はいったいいつの時代の術師なのかな?」
人間は嗤う。かつて『少年』に名乗っていた名を、再び携えて。
「よォ、不死の術式。自己紹介がまだだったなァ。
自称「
唐突に横文字に改名するのは意味不明だったので呪術界で天下を取るまでは禪院百合華としておきました。
〇「変なジュース」
学園都市産「変なジュース」とその製造会社についてはこちら
https://toaru-project.com/railgun/chara/juice/
お気に入りはウィンナーソーセージコーヒー。笑った。
あと学園都市の関連企業は内容量表記におおらからしい。外装担当者は別サイズ製品の説明欄をコピペしてない?
〇用語に関する認識の違い 『呪力』『呪術』『魔術』『科学』
##クリファパズルたち元の世界を知っている者たちの定義:
『呪力』生命力を利用したエネルギーの一種
『呪術』エネルギーの操作及び、それに付与した呪術的"情報"を扱う
『魔術』高度に精錬したエネルギーと偶像の理論などを利用して位相の法則を再現する
『科学』"オカルト"以外の技術
##呪術しか知らない現地民たちの定義:
『呪力』魂から噴出するエネルギーを負の感情のラインに乗せて精錬したもの
『呪術』呪力を用いる技術
『陰陽術・魔術』呪力以外の何かを用いる技術
『科学』あらゆる現象の因果・法則を推論する行為
〇五行機関
また暫く出てこないかもしれませんが、旧陰陽寮こと第三勢力については『天元系技術からは外れた呪術師の可能性の一端』といったレベルでしか扱いませんのでご安心ください。これは呪術廻戦ですか? となるような理論は極力控えます。つまり全ての描写は『呪術廻戦世界に存在する唯一人類種の生態』で説明できるようにします。今後、海外の魔術や怪しい表現なども一瞬出てくることがあるかもしれませんが、呪術数万年の歴史において『派生した技術』であって『呪術師とは別種の生き物』ではないです。とはいえわりと色々なんでもできると思いますが。
なお、宿儺様に旧陰陽寮の『本拠地』にご足労いただき『伏魔御厨子』を展開していただきたいと考えておりますが、宿儺様の機嫌によって変わるかもしれません。宿儺様がきっと興味をお持ちになりそうな『器』もご用意いたしましたのでぜひ。
〇怪物/人間
怪物と人間も切り替えようと思っていたけど、どこかで人間って使ってしまった気がする。
最近やっと『とある科学の未元物質』に手を出せたのですが、あれを掌握したアクセラさん神業過ぎませんか。あれを指して「浅い底だ」ってかっこよすぎ。