2006年 5月 13日 19時
「はぁ?」
任務で見たものを報告し、天内と黒井を高専で保護した夜。
五条は廊下で夜蛾より現況の報告を受け困惑の最中にいた。
「何度も言わせるな。宮内庁の指令により総監部は解体となり、高専は禪院家の当主がトップの新しい組織に編入されるそうだ。」
「聞こえてますよ、だから”は?”っつったんだ」
「総監部はこれを認めないらしい。宮内庁指令を無効とし、宮内庁新長官と禪院家当主の処刑をお前に命じている」
「意味が分からねえよ!!」
夜蛾は眉間を抑えて呻いた。
この状況は、端的に言えば、内戦の始まりだろう。
「俺にも、何が何だかわからんのだ」
青が揺らめいた
* * *
2006年 5月 14日 9時過ぎ
『政府はこの現象を研究しその予防とその知識の安全利用を推進するため、鈴科明日香氏およびアスカハイテクノロジーズ社との協力のもとつくば市に「特定異常災害研究所」を設立することを』
「…………………………何だよこれ」
衝撃の再会から一晩明けた朝。
その日の授業はすべて休講になり、五条、夏油、家入は食堂に据え置かれているテレビの前にいた。
呪術界の大きな事件は別の形の緊急速報として流れる場合が多いので、公共放送を流しつつ、各々の端末で事態を把握しようと情報収集をしていた。呪術界の専用ネットワークは蜂の巣をつついたような大騒ぎになっている。
総監部の解体決定を喜ぶ者、漠然とした不安からフィリピンに飛ぼうとする者、今が好機と反乱を企てる者、資産を全てドルに変えることをアドバイスしている匿名掲示板の投資板に常駐する界隈で有名な守銭奴など、その様は混沌としており、現在の呪術界の様相を表していた。
そして公共放送にて、午前9時から始まった内閣官房長官による記者会見。「火花」「アスカン」などと置き換えているが、国が直球で「呪霊被害」「呪力」を公表したのを見て、五条と夏油は唖然とした。
もはや彼らが何を考えているのか微塵も分からない。
家入は理解を放棄したのか寝不足が限界に達したのか「なるようになるだろ」とそのままテーブルに突っ伏し寝始めた。
ガラッ、と食堂の扉を開けて、夜蛾次期学長が入って来る。
「夜蛾セン!」
「先ほど、東京高専は宮内庁の指令に従うことを決定した」
「っ総監部は!」
「徹底抗戦するつもりらしい。だが我々は勝ち目は無いと判断する」
「天元様は亡くなり、皇室とあの禪院家が丸ごと敵になったのだぞ」、と夜蛾は続ける。
それは事実上、東京高専の降伏。
夜蛾は悟の方を向いて続けた。
「東京高専に所属する術師も自動的に新組織とやらの所属になる。だがお前なら当然分かってると思うが、この決定にお前が従う義務はない。五条家の当主はお前だ。お前が決めろ」
五条悟は頭を抱えた。
端末に表示されている総監部からの通達は、禪院百合華ら禪院家中枢の処刑命令だ。
「……先生、俺、強いよね」
「憎たらしいくらいにな」
「……でも、強いだけじゃダメらしいよ」
「……そうか」
青が揺らめいた
* * *
2006年 5月 14日 13時
昼過ぎ。
楽巌寺学長率いる京都高専の降伏も通達された。
総監部は直下の術師と加茂の術師を集めて決戦の準備をしているらしい。
ただしその集まりは悪い。
芦屋を初めとした名家は、予め根回しをしてあったのか何の返答もない。
加茂派の術師も来ることには来るのだが、本家周辺にはぐらかされ微妙な感じだ。
そもそも加茂と五条は2000年以上もの間、皇室に仕えてきたことで絶大な権力を保っている氏族だ。向こうが錦の御旗を掲げるならそれに弓を引くなど、自己否定に等しい。
いくら総監部の命令でも加茂の中枢が渋るのも当然だった。
そして、五条家にも召集命令が送りつけられている。
加茂よりも上層部に持つ利権が少ない五条は更に参戦に後ろ向きで、どこの家も五条悟の号令無くしては召集に応じないという姿勢を取っていた。
当主の端末に、判断を伺う通知、電話が矢のように掛かってくる。
ここで、援軍を送るか送らないかで、五条家の立場は決定的に変わってしまう。
五条家の歴史と立場、各所との関係性、皇室の意向、高専での日常、そして何より今後の百合華との関係性を考え、五条悟は硬直していた。
「そう悩みすぎんなよ」と家入が言う。
目が覚めた家入は、昨日から高専に宿泊している天内、黒井と話しながら食堂の隅で昼食を取った後、テレビの前に居座り続けていた五条の側に歩いてきた。
「特級だろうと当主だろうと、お前ひとりでできる範囲なんて決まってる。何でも自分の手で決断しなきゃいけない訳じゃないんだ。今回の件も、五条悟とは関係ないところで何かが起こって終わった。その程度でいいんじゃねえの? 五条家から何かを奪おうという話じゃないんだ。何が何でも関わらなきゃいけない訳じゃないだろ?」
家入は悪気なく、友人として、ただ五条のためを思ってその地雷を知らずうちに踏んだ。
「別にお前は完全無欠の最強じゃないんだからさ」
青が揺らめいた
* * *
2006年 5月 15日 早朝
4日ぶりにまともに睡眠を取り、朝起きれば全て終わっていた。
総監部の抵抗と壊滅、そして様子見していた加茂派中枢の降伏。
ここに来て、五条の心はほとんど決まっていた。
「おはよう悟。よく眠れt……
「傑」
寮の廊下で顔を合わせると、五条は寝不足を心配する夏油を遮った。
「お前、五条に来ないか」
「それってどういう……」
困惑する夏油だったが、サングラスをしていない六眼を見ると何かを感じ取り、少し考え込んでいった。
「私には無理だ。両親も妹もいるからね。彼らを呪術界のゴタゴタに巻き込めない」
「……そうか」
「悟、すまないね」
「いや、いい」
夏油は無理に笑顔を作ると言った。
「あまり思い詰めないほうがいいよ。五条家には行けないけど手伝えることがあったら」
「大丈夫、問題ない」
五条も、まるで何事もなかったかのように、いつものように笑った。
「俺、最強だから」
青が揺らめいた
* * *
2006年 5月 15日 深夜
「悟! やっと帰ったか! お前がさっさと恭順を表明しないせいで、今儂がどんな目で見られているか!」
京都市内、五条家本邸にて。
五条悟が帰ってきたという報告を聞きドタドタと広間に駆け込んできた初老の大男は、先代の当主である。
実の父親ではないが、義理の父である彼は、六眼を持たない無下限使いであるが、戦闘には数十年赴いておらず、主に政治、と言う名の醜い利権争いをしていた。
「だいたいお前は、当主の自覚があるのか?? お前が行く必要もない高専で遊んでいる間に、誰が加茂と話をつけ総監部に働きかけてやっていたと思っている。何時までもそのような体たらくでいるならいくら六眼と無下限の抱き合わせであろうと当主の座から」
ズバシャァアア
先代当主
広間がシーンと静まり返る。
先代当主が現当主によって殺された時、それが示すのは当然、旧勢力の一掃である。
そして"旧勢力"が指し示すのは先代の配下であった自分たちである可能性が高い。
冷たく扱うよう指示されていた女中たちも、それまで先代の威を借り当主を舐めニタニタ笑っていた初老の術師たちも、その他、広間にいた全ての五条家の人員は、怪物にとって無害な存在であろうとバッと一斉に平伏し息を潜めた。
「俺は、認めない」
六眼は、ゆっくりと当主の席から立ち上がる。
「禪院百合華、俺は、いずれ必ず」
青が揺らめいた
青が
揺らめい
て
い
る
︙
* * *
一、 今後二〇年の間、五条家本邸は太宰府へと移転し、北九州一帯の守護を自ら引き受けることを宣言する。
二、 五条家は今度の急激な改革の失敗により呪術界の安定が崩れることを憂慮し、日本国で最も歴史の古い皇室の臣下としての責任を以て、今後二〇年の間、太宰府より呪術執行部及び呪術界の監視に徹することを宣言する。
三、 今後二〇年の間、国内で行われる儀式には当主は出席せず、当主代理を派遣することを宣言する。
◯またしても何も分からない夜蛾
天元が死に呆然とする。
総監部が消滅し呆然とする。
呪力らしきものの存在が公表され呆然とする。
五条が突然高専を去り呆然とする。
五条家が事実上の独立宣言をして苦悩する。
これから問答無用の特級認定をされ、彼は再び宇宙を見る。
天元の管理する森から強制的に排出され高専内を徘徊していた完全自立型呪骸たちも夜蛾の元に匿われていたため、秘匿バレからの特級認定は時間の問題だった。
◯夏油傑の妹
妹転生もの、いいよね。あるあるテンプレだけど。
Pixivで色々読んでるうちに妹がいるのが当然な気がしてきた。(洗脳済み)