一方通行六歳転生(呪術廻戦)   作:木原レイリ

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五条節。

高評価たくさんありがとうございます。バーが染まりました。
楽しいですね。

――追記
闘技場の素材の設定について私よりも高位のオタクに突っ込まれたので夕方を目処に更新します
――追記2
書き込みました。キショい設定が生えました。とっても楽しかったです。アスタリスクで囲っておいたので読み飛ばして構いません。


第7話 最強 中

午後の二時ごろ。

よく晴れた月曜日、歩けば気分の良くなるような午後だが、その朗らかな空気は禪院家の最奥までは届かない。

 

五条悟と禪院百合華は現在、地下、広い闘技場で向き合っていた。

常人が立ち合わせれば思わず吐くか眩暈で倒れるだろう、重苦しい緊張が空間を支配する。

 

少し離れた二階の観覧席には、直哉や明日香たちと当主直毘人を始めとする屋敷の中にいた禪院家の構成員30人ほど、五条悟についてきた五条家の者が数人、事態の行く末を見守っていた。

 

 * * *

 

四年前の第一次血の海事件によってボロボロに壊された禪院家で最も広い修練場は、今や十数億円の巨額をかけて大きなコンサートホールほどの巨大な地下闘技場へと改修されていた。

大改修の立役者は禪院家呪術学研究会筆頭・禪院明日香である。

 

きっかけは、奥多摩周辺で発見された呪霊より。

それは現代都会人の虫を嫌う感情の具現化。

蜂の巣のようなシェル構造に、丸々と太った蜂の子のような4級程度の呪霊、数十万体が活発に蠢く集合体、身長190cmほどの一級人型呪霊・蜂巣神(はちすのかみ)

触れるのも嫌な、得も言われぬ気色悪さ*1と、体を構成する蜂の子の一匹でも残っていれば数日で湧き出し復活する悍ましい呪霊である。

近くにある高専の所属の術師によって封印されること20年あまり。

封印点検のタイミングで回ってきた資料を見た明日香が実験材料に欲しいと主張し、一方通行(アクセラレータ)によって数匹にまで削られ禪院家に持ち込まれた。

 

現代の呪術は日本全国に行き渡る天元の補助という共通フォーマットを前提として構成されている。

 

呪術学研究会の掲げる究極の目標は、呪術の根本原理の解明と、天元の補助が消滅しても存続可能な技術体系の確立である。

それは既存のプログラミング言語や、千年ものあいだ蓄積された数多のライブラリを使わずに、最新のウイルスに通用するセキュリティソフトを作れと言われるような難題。

歴史上には天元の補助を前提としない異様な結界術*2の使い手も存在するが、そのほとんどはまだ結界術のノウハウの少なく己の才覚に頼らざるを得なかった平安の術師である。

 

そして。

現代呪術界の既存の結界術、符術、封印術に頼らず、積み上げた呪術学の理論に、平安期の資料、明治維新期に離散した土御門家の陰陽道の古文書すらかき集めて。

樹海の木材と過度に増殖させた蜂巣神(はちすのかみ)から切り出した呪霊の血肉によって作り上げた傑作。

17の縛り、8度の『浴』を始め、原始的な259の工程を経て完成した呪物。

禪院家秘匿の強化素材、霊蜂樹骨。

 

もともと忌庫のあった地下空間まで広く横にぶち抜いて作った空間は、周囲全面をこの不穏な木材によって固められている。

この広大な空間が、呪術的に一つの生物として成り立っている。

衝撃に合わせて呪力で防御し、呪力消費も自己補完の範疇という永久機関。

特別一級術師・禪院扇が訓練時の意図せぬ余波と称して全力で数十回切り付けても傷一つつかなかった優れもの。

特級術師が敢えて壊そうと努めない限り、数万年は無傷であろう安心構造である。

呪霊よろしく一般兵器では傷もつけられないため、核シェルターどころか核ミサイルの実験施設としてすら使えるかもしれない。

なお、ありえないほど頑丈な代わりに呪霊であったころの再生力が落ちているため、ひとたび欠損が発生すれば該当部品は壊死し、再び同様の工程を経て該当部品を作り直さなければならない。

明日香はこの現状を容認しておらず、現在の目標は他人を害さない縛りによって特級呪物に等しい究極の強度を得ることである。

 

ちなみに、このように霊蜂樹骨は全ての部品に呪術的な繋がりがあるため、残念ながらこの地下闘技場以外には使われていない。

また、数か月にわたり蜂巣神(はちすのかみ)を何十万匹も延々と絞め続けるという発狂物の工程において何人もの協力要請者が精神を病み、禪院家に初めて労災という概念が誕生した。

 

通常素材からなる二階の当主席もある観覧席は、座布団換算で百人は詰め込める程に拡張され、前面には、核シェルターの扉すらぶち抜く一方通行(アクセラレータ)の蹴りを受けても揺らがない、強力な結界が張られている。

大きさは固定、移動不能かつ、一回の起動ごとに50時間で自壊する期限付きの、原始的な構造の結界であり、起動の維持に必要な呪力は霊蜂樹骨から流れ込むように調整された。

 

閑話休題。

 

 * * *

 

「条件は」

 

突然殴り込んできた大変迷惑な呪術界最強に不機嫌さを隠そうともせず、禪院百合華は聞いた。

この場合の条件とは、勝利条件とか、使用技の制限とか、そんな話である。

 

ナチュラルボーン強者な五条は、そうだなあと、年相応な表情を見せてから何の悪意もなく笑顔で言った。

 

「じゃあ俺相手に10分粘ったら褒美をやるよ。俺か五条家にできることを何か言ってみろ」

 

流石にそこまでは期待していないが、この少女は絶対に一筋縄では倒せないはずだ。

そう考え告げると、禪院の怪物少女は、はァ、とため息を吐いてた。

 

「縛りだ、オマエが降参しても戦闘不能になっても当然オマエの負けだ。研究室でオマエの六眼と術式を分析させろ。あとここの整備費用を置いてけ」

 

術師は、相手がわざわざ好条件を提示しているのに、自分の本来の意図とか公平性とかを鑑みて断るなんてことはしない。

なにかしてもらえるというならわざわざ断ったりもしないし、むしろ言外の制限を潰すために具体化して断定する。

そして契約の穴、10分以内に五条がわざと降参して約束が履行されないなんて状況も潰す。

縛りであることも明確にする。

ここまでが通常の術師の契約感覚である。

 

そして通常の術師とは天と地ほどもかけ離れた五条は、少女の強気な発言に思わずニヤッと笑みを溢す。

自分が勝つ、という極めて当たり前の事象に対し何かを要求することもない。

 

()()()、やってみろ」

 

六眼が眼前の少女の術式を正確に描き出す。

それは掴んだ世界の法則を元に対象を操るという難解な術式。

スパコンのような思考力が必要な、極めて異端かつ論外な術式。

普通だったら構築術式や無下限呪術よりも外れだろう。

だが、異常なことに、眼の前の存在はこの術式を間違いなく使いこなせている。

 

期待感。

 

五条は初めての感覚に口角を吊り上げる。

そして、両の手のひらをゆっくりと構え、

 

「術式順転 『蒼』」

 

綺麗な青い閃光が、清涼な美しい光が、空気を歪めるような圧が、手のひらの先に出現する。

まずは小手調べ。

現実に強引に再現された負の空間が、すべての物質を圧壊させる死の空間が、瞬く間に真っ白な少女に襲いかかる。

 

「俺の向量操術は、触れた物体の運動やエネルギーのベクトルを操れる。例えば電磁波や、少し荒いが他人の呪力もだ」

 

パァンと弾ける音がして、赤い瞳の怪物の周りを青いエネルギーが拡散し流れていく。

蒼は怪物の目前で消失した。

 

ひとまずは期待を損なわない。

ここで躓くような相手じゃないことは分かっている。

 

六眼と才能に導かれ、五条は考える。

攻略できるポイントがあるとするなら、蒼は少女に触れる前に散らされたこと。

仮定だが『蒼』は、彼女が皮膚の表面に纏っている、通常の向量操術で対処する事ができないか、もしくは何かしらのリスクをかかえている。

それに、着弾の瞬間、少女の呪力が新規に動いている。

今のは、マニュアルとオートマの違いはあれど、やっていることはシン・陰流の居合術などに見られる「『簡易領域』などの領域対策を利用した瞬間的な迎撃」に近い。

そう判断した現代最強の卵は、どうやって眼の前の相手を倒そうか、考えながら告げる。

 

「術式の開示なら意味ねえよ、六眼で全部見えてんぞ間抜け」

 

「ただの親切だ。理解できてなかったら哀れだからなァ」

 

「あっそッ」

 

次の瞬間に少女の姿は掻き消え、残された無人の空間で、呪物化した床すら巻き込んで、無数の小さな『蒼』が降り注ぎ、炸裂した。

 

 * * *

 

禪院の少女は足裏のベクトルを操り高速で『蒼』の雨の中を走り抜ける。

 

無下限と向量操術(ベクトル変換)

互いに不可侵の術で守った二人の勝利条件は、相手の弱点を特定すること。

 

次々に『蒼』を繰り出しながら五条は考える。

少女が避けたことから、多数の『蒼』をどうにかする安全な手段はないといってよいだろう。

そう断定して、無下限呪術を応用して宙に浮きながら、間断なく蒼を浴びせ掛ける。

六眼で見える情報を元にした緻密な呪力運用によって、五条悟に呪力切れはない。

 

床が吹き飛び壁が凹む。

地面がめくれ上がり数多のクレーターができる。

観客席からの「5億かかった床材がぁぁあ!!」と絶叫する科学な少女の声など耳に入らない。

 

と。

 

圧縮されてプラズマ化した空気塊が現れ、白い光を撒き散らしながら、五条のバリアの表層で爆発する。

少女からのジャブ。

窒素や酸素という常に無下限を透過している材質を使った攻撃。

だが、僅かでも呪力を帯びていれば対処は容易い。

 

「全部見えてるって言ってんだろ?」

 

その証左に。

五条悟は数秒前と全く変わらず無傷でそこに立っていた。

 

「俺の呪力と法則を正確に掴めていないのか、はたまた既に見抜けてるが操れないのか」

 

『蒼』を直接分解できない理由について。

少年五条は答えを告げる。

 

「お前のやったのはただ呪力操作だ。術式で呪力を俺の『蒼』で壊れないほど細く硬く圧縮して、内側から呪力を散らしている」

 

「アキレスと亀って知ってるか?無限を数えたことのある人間はいねえだろ?無限回の作業を挟めば、絶対にその先には到達できない」

 

「俺の術式は、本来至るところにある無限を現実に持ってくる。どちらにせよお前の術式じゃ俺の呪力 (無限)を掌握できねえんだよ」

 

「そして『蒼』は無限級数の先に現れる負の世界を引きずり出した事による引き込む力、それを小細工で分解できないほどの出力で撃てばいい」

 

怪物は無限級数云々で一瞬「何言ってんだこいつ」という顔をしたが、術式の解釈の自由度のために無茶苦茶な理論が展開されることはよくあるし、なんなら自分だけの現実(パーソナルリアリティ)の方がもっとたちが悪い。

 

なお五条は本気でそう思っているし、数学などという自分の人生に一ミリも関係ないと断定しているものをわざわざ学ぶ気もないので今後もそう思い続けるだろう。

必要なときに必要に応じて調べれば十分。

リベラルなのか時代に取り残されてるのか、評価は分かれるだろうが一般教育を軽視する術師の家系によくいるタイプである。

 

「『位相』『黄昏』『智慧の瞳』」

 

詠唱によって120%の出力を出す。

 

「術式順転、出力最大、『蒼』ッ!!」

 

掠っただけで死ぬ。

特大の迸るような青い光球が迫る。

 

だが、それも掠ればの話だ。

 

パァアン、と。

高いような奇妙な音を立てて『蒼』が拡散した。

 

「終わりか?」

 

と禪院が告げる。

 

マジか、と五条は驚愕の表情を浮かべた。

 

現象だけ追うなら、華奢な少女が足を踏み鳴らしただけだ。

すると、呪力からなる衝撃波に似た何かが突き抜けると同時に、『蒼』の構造が崩壊した。

 

「そんなに驚くほどでもねェだろ」

 

五条には見えていたはずの、禪院の怪物の術式。

ベクトル変換などオマケにすぎない。

その本質は、「世界の法則の把握」。

魔術師アレイスターの求めた異能。

 

「確かに俺はまだオマエの術式の底を掴んでねェ。それは無限の手順がどうこうなンて話じゃなく、単にオマエが全部見せてねェだけの話だ。だが『蒼』に関してだけなら、あれだけ見せつけられればいい加減傾向と対策ってもンが見えてくる」

 

さも当然のように語られた、手品の種。

だがその分析と繊細さは、はっきり言って異常の域だった。

 

「俺の無下限を破れねえくせに、イキッてんじゃねえよ」

 

『蒼』はもう正面からは使えない。

だが、何も封じられたわけじゃない。

ただ、目の前の怪物が10分を余裕で耐えられる可能性が跳ね上がっただけだ。

五条は虚勢を張りつつ次の攻撃について高速で考える。

 

対する怪物は。

 

ニタア、と。

 

悪魔のように。

 

「確かに俺にはまだ無下限を破る手段はねェなァ」

 

ずっと不機嫌そうにしていた白い少女の表情が、初めて変化した。

昔の自分を見ているような、奇妙な懐かしさを表情にたたえながら。

少女は嗤う。

 

「だからってそれが勝敗まで決めるとは限んねェンだよ」

 

例えば。

 

ジジュッッッッッッッッ、と。

 

怪物の指に光が収束し、次の瞬間、五条悟の肩を鉄すら焼き切るような細いレーザーが突き抜けた。

 

「オマエは無下限呪術を周囲に展開しているとき、無意識に有害と無害を分けている。まあ当然だ。光を遮断したら見えねェもんなァ。あとは通常の攻撃手段と同じく認識されたら対応できるかもしれないが、認識できない速度で叩き込めばいい」

 

無下限を初めて破られた。

違う、破られてすらいない。

無下限の穴を突かれただけだ。

 

「それだけかよ」

 

思ってもいなかった弱点によって、五条は新鮮な痛みに汗を掻きながらも、笑う。

 

「六眼は原子レベルの緻密な呪力操作を可能にする。過剰な光ならダメージを負うって?なら制限すればいい。今後俺に入射する光は()()一定以上の強度を弾くように設定する」

 

そう強がってから、内心ではそう言ったことを後悔した。

今の隙は、実戦なら致命傷だったかもしれない。

俺に傷をつけられたら勝ちにすれば良かったなと眼の前の少女に対する大人気なさに罪悪感を感じる。

 

「大は小を兼ねるっつゥ話かァ?」

 

しかし少女を見れば全く困った様子はない。

ヘラヘラと笑いながら袖に手を入れる。

 

「だったら引き算だ」

 

バキン、と。

怪物の足元が割れる。

怪物は袖から釘のようなものを取り出し手から離すと、その釘状のものは小気味よい音を立てて割れた床に突き刺さる。

どこからか「修繕費~ッ!!」と叫ぶ少女の声がするが怪物は気にも留めない。

 

「『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』」

 

帳が下りる。

それは過去に対五条戦を想定した思考実験で出された一案を形にしたもの。

それは『基』という弱点により強化された嘱託式の帳。

空気と五条悟の出入りを禁じる代わりに光を含めたそれ以外のすべてを通す帳。

広大な空間が小さく区切られる。

 

バチィッ、と。

 

白い怪物の周りに青白い火花が散った。

 

「酸素分子は電気の力で簡単に分解できる。酸素原子は2つ結合すれば酸素分子になるが3つ結合させればオゾンだ。当然酸素とオゾンは性質が違う。呼吸もできねェし毒性もある」

 

かつて第三位のクローンが使っていた技だ。

少女は笑いながら続ける。

 

「毒性は呪力で防げるかもしれねェが、俺みたいに自由に酸素を留めたり生成したりできる訳じゃねェだろ?」

 

『基』を足で踏み込む。

 

「この帳は蒼でも破れねェ特別性だ。解除のためには俺の足元にある『基』を奪って破壊するしかない」

 

怪物が手を振ると、帳の内部に風が吹き荒れる。

それは怪物の体表に、単位時間当たりにふれる空気の量を増やすため。

 

「サービスで教えてやる。俺がこの帳の内側の酸素をオゾンにしきるまで70秒だ」

 

それの意味するところは、攻守の交代。

 

今までは、五条が禪院の少女を試す立場にいた。

 

今は怪物が周囲の酸素を分解し終えるまでに。

 

あるいはその後動けなくなるまでに。

 

全身に向量操術を纏う怪物を倒さなければならない。

 

 

 

五条悟に生まれて初めての緊張が走る。

 

「ルール変更だクソ野郎」

 

 * * *

 

 

「……ぐ、が」

 

無数の『蒼』は封殺された。

床ごとちゃぶ台返しの如くひっくり返そうとも、烈風が吹き荒れ封殺された。

帳は五条の呪力そのものを拒むように、最大出力の『蒼』は当たる前に暴発した。

 

酸素がほとんど無くなってからも五条は動き続けた。

それも合わせて一分以上、全力で。

 

だが、最強も人間であったのか。

無酸素で動き続けるも、身体からは力が抜け。

ついには床に膝をつき、そのまま倒れ伏した。

 

 

俺は負けるのか、と薄れゆく意識の中で考えた。

 

 

 

 

生まれたときから退屈だった。

 

誰も、彼も、俺より弱く脆かった。

 

誰にも価値を感じられなかった。

 

最強と称えられ、恐れられ、崇められる。

 

寂しくはない。

 

だけど孤高は侘びしかった。

 

花壇の花に自分をわかってもらおうなんて思えない。

 

 

お前も、そうだろ?

 

 

お前をひと目見て自分と同じ強者だと感じ取り、胸が高鳴った。

 

無下限を超えたとき、嬉しかった。

 

だけど、感じ取れてしまった。

 

お前はきっとまだ、本気じゃない。

 

手加減されていた。

 

俺は全てをぶつけたのに。

 

お前は全力をぶつけられない。

 

俺が不甲斐ないせいで。

 

 

 

 

だから、こんなところで倒れるな!!

 

 

 

 

まだ終われない。

 

お前に追いつくまでは。

 

そんな寂しい目をするなよ。

 

俺はまだ立てる。

 

全身の力を振り絞れ。

 

呪力を全部使い切るつもりで出し切れ。

 

限界なんか、一足飛びに踏み越えろ。

 

俺は。

 

 

俺たちは。

 

 

もうひとりじゃない!!!

 

 

 

「…リョ……、域…展ッ、開ィッッ……!!」

 

 

 

  無 量 空 処 !!!

 

 

 

 

五条悟にはまだ領域展開できるほど結界術の練度はない。

展開されたのは必中効果も必殺効果も付与されていない、不格好で不完全な領域。

何なら領域の境界すら設定されていない。

それはキャンバスに絵を描かずに空中に絵の具をぶちまけるような蛮行。

無下限の術式効果が付与された呪力が、冬の冷たい星空のように蒼く瞬きながら広がっていく。

莫大な呪力が浪費されていく。

一方通行(アクセラレータ)は瞬時に『簡易領域』モドキの自作領域対策を発動したが、ガリガリと、急激に削り取られる。

 

具現化するのは無下限の内側。 

 

虚数空間と無限の情報。

 

噴出する五条の呪力が、帳に阻まれ内部に満たされていく。

 

六眼に導かれ、緻密に具現化されていく。

 

生得領域の顕界に伴い、呪力に付与された術式効果が暴走する。

 

境界がないために、帳の効果と押し合いにならない。

 

術式効果だけが。

 

『蒼』と同様。

 

外側に向かって虚数の空間が展開され、『簡易領域』モドキと帳に浸透しガリガリと情報を食い破り、塗り替え始める。

 

怪物少女に届かなくてもいい。

 

一瞬でも隙ができればいい。

 

 

そして。

 

 

怪物少女の領域がバチッと音を立てて見えなくなった。

 

『基』の上から足が離れる。

 

極小の蒼が飛ぶ。

 

青い直線の軌跡を描く。

 

地面に打ち込んだ『基』から何かがひび割れる音がして音がして、一拍遅れて、パキィィイン、と、強度を上げた嘱託式の帳が崩壊した。

 

 

 

「ぐはぁッ、はぁ、はぁ、はぁ…」

 

幸いにも帳の内部で渦巻く強風のお陰で速やかに撹拌され、肺に酸素が供給されていく。

呪力はもう枯渇寸前だ。

無酸素の中を全力で動き続けた反動で体の疲労はピークに達している。

 

対する怪物は多少ふらついたものの、簡易領域がまだ残っていたのか、何かしらの仕組みで脳を守っていたのか、すぐに動きを取り戻した。

 

でも。

 

でも、届いた。

 

嬉しかった。

 

今ならなにか、できそうな気がした。

 

呪力はもう残り少ない。

だが、呪力の残りがどれだけわずかだろうが。

六眼がある限り、常識的な運用範囲なら五条悟に呪力切れはない。

 

 

五条悟は最強である。

 

最強だから五条悟なのである。

 

領域展開で焼き切れた術式の回復を待つ選択は捨てよう。

 

時間稼ぎなど小賢しい。

 

これは全霊をかけた呪い合いだ!

 

 

拳を握る。

 

全身に呪力を込め、

 

矢のように飛び出し、

 

踏み込む。

 

選んだのは未知の技。

 

それはかつて無下限呪術を破ったと伝わる結界術。

 

それは五条家にある古書の中にて、名前しか聞いたことのない技術。

 

「『領域展延』ッ!!」

 

天才は、未知の技を、当然のように土壇場で成功させた。

直前に不完全ながらも領域展開を体験できたからか。

 

それは自分と同じ、誰にも近づけない術式を持つ存在のため。

 

それは自分と同じ、孤高の少女に近づくため。

 

五条悟は無敵のバリアを捨て去る決断をし、

 

驚きに目を見開く少女に肉薄した。

*1
のちにこの感情は集合体恐怖症と名付けられる

*2
安定している閉じない領域や空性結界の今作での解釈




調子に乗ってガチ恋勢を生んでしまった気がする。
あと、別にアクセラさん暗部生まれの冷たい目はしてたかもしれないけど、断じて寂しい目とかはしてない。勘違いタグがいるレベルの勘違い。
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