算出法とかわからないけど、評価のおかげかランキングを見たら自分の作品が乗っていてとても嬉しい。
いかなる手段を用いてか百合華が『蒼』を防いだのを見て。
喜愛と翠は思う。
これが向量操術の向かうべき場所か、と。
今の自分がたどり着いていない、だけどいつかたどり着けるかもしれない場所。
一瞬たりとも見逃すまいと目を見張った。
笑みを浮かべ無下限の弱点を突くご主人様を見て。
クリファパズル545は思う。
楽しそうだなあ、と。
ご主人様は誤解されやすい。
今だって、もしかしたら観客に鬼畜なイカレ野郎とすら思われているかもしれない。
でも、クリファパズルはその体験を通して知っている。
彼女のご主人様は、いつだって。
ボロボロになった闘技場の床と壁を見て。
明日香は思う。
あいつ等を許さでおくべきか、と。
特級レベルの術師は周辺器物の被害に無頓着である。
あいつらに絶対にこの惨状の代償を払わせたい。
秘匿すべき技術が多いので禪院の人間でやらねばいけない工程は多いが、数万匹の呪霊の処理だけでも五条家の人間にも手伝わせようと強く決意した。
五条悟の攻撃が通用し始めたのを見て。
五条家の付き人たちは思う。
万事予定調和である、と。
彼らには五条悟たちが何をしているかなど分からない。
帳が下りて上がったら五条悟が憎き禪院の怪物を殴り始めただけだ。
だが、そもそも五条悟は勝つのが当たり前の化け物である。
五条家の人々はまじめに見守るのをやめて、競技場で贔屓のサッカーチームでも応援しているように叫び始めた。
禪院の怪物が殴られているのを見て。
禪院家の一般構成員たちは思う。
滅多に見れない戦いを楽しむべきじゃないか、と。
禪院家の一般構成員には戦闘の展開は分からない。
でも、次期当主がボコボコにされているのは分かる。
というかそんな場面は初めて見た。
五条家に負けるのは癪だ。
だが、そもそも五条悟は勝つのが当たり前の化け物である
初めは勝敗が分からなかったが、結局禪院家の化け物は封殺されている。
だったら別の楽しみ方をしたほうがいいだろう。
いつも偉そうに屋敷を闊歩する禪院の王の、負けるところが見てみたい。
血の海事件の痛みを思い返しながら、当主に目をつけられないように静かに、しかし自宅のテレビでサッカーでも観戦しているように五条を応援し始めた。
そんな五条家と禪院家の人々を横目で見て。
直哉は思う。
あの連中 全員殺して しまおうか
反射どころか体内表層の術式効果すら中和する展延を纏った重い拳を、高速移動によってのみギリギリ耐えるご主人様を見て。
最初に直哉とかいう弱っちいのを煽ったセリフを思い返して。
クリファパズル545は思う。
事前に思ったより、五条悟の成長性が異常だったなあ、と。
瀬戸際での爆発的な、呪術の才の覚醒。
ただそれだけで、ご主人様は追い詰められている。
五条悟を見誤ってたかもしれません。
自分の使えない呪術とかいうのを舐めてたかもしれません。
はあ、と、どんより。
微妙なテンションになりながら。
そして。
そろそろ、ですかねぇ。
* * *
ドンッ、と。
すべるようにして高速で逃げる少女を追いかけ、五条悟が大砲のように突っ込んできた。
足元のベクトルを操り方向を転換するが、呪力の起こりから読み取られたのか瞬時に対応し、
「……ぐッ、……」
高速で移動し続けているので、
流れるような呪力操作による身体強化。
圧倒的な戦闘センス。
そして何より、
(『反射』どころか体内の衝撃の分散まで乱されてやがるッ)
『領域展延』による術式効果の中和。
その衝撃は少女の身体の表層的なものでしかないが、ダメージを与えるには充分。
自分の術式効果を侵食する様を感じ取り考える。
結界術、それも領域に近い。
なら。
『簡易領域』、モドキ
そこまで気づき、距離を取った僅かな時間で領域対策を構築する。
シン・影流の『簡易領域』を天元の補助無しで再構築する研究において、開発途中のまだ名もない技。
『抜刀』などの迎撃術式に使える必中効果は無いが、自分の術式を焼き切ることはなく、また領域展開と同様に外殻が存在するので呪力出力と操作精度によっては敵の領域を押しのけることすら可能。
『簡易領域』と異なり受け身にならないこの術は、練度によっては領域展開を完封する。
が。
黒い火花が瞬いた。
「……ぐはッッ、……ッ……」
今までとは比較にならない衝撃が身体を蝕む。
立ち止まったのがまずかった。
領域の押し合いにならなかった。
少女の身体が宙を舞う。
今までの戦闘経験から衝撃によって演算を中断することこそなかったが、体勢を立て直すまでにもう一撃が入る。
『領域展延』は術式効果を付与しない。
性質としては閉じない領域に近く、
呪力の強化による殴り合い。
単純な肉弾戦になるほど、
片や、呪術師の家系らしく育ちのよい150cmほどの少年。
片や、四六時中術式を用いているせいで育ちの悪い華奢な身長130cm程度の少女。
それは本来の
他人の領域展開にしても、領域対策があるし、ただの必中術式なら「
故に、
激しい火花のような高速戦闘。
高速の応酬のなかで。
五条悟は嗤う。
ガンぎまったような宝石のような美しい青い瞳は気味が悪い。
拳が振るわれる。
黒い火花が散る。
もともと弱い身体の動きが、ベクトル変換を通してさえ鈍くなる。
きっと遠くない未来、戦闘不能になるだろう。
酸素を奪って敗北寸前まで追い込んだのが、何のスイッチを入れてしまったのか。
眼の前の化け物はハイになっている。
呪術界の現代最強は、完全にゾーンに入っている。
(潮時か……)
だから。
(応えやがれクリファパズル545!!)
(にひひ。結局ダメでしたかぁ)
返事があった。
(いいんですかぁ? 頑張った『子ども』に素直に負けてあげるのも『大人たち』の甲斐性ってやつでは??)
(知ったことか。ここは学園都市じゃねェんだ。教師ごっこなンかして、化け物の遊びにこれ以上は付き合ってられねェ)
(途中から
そもそも、初めから一対一なんかじゃなかった。
彼女たちは初めから、繋がっていた。
人口230万人の学園都市を管理する『人間』としては、どこか懐かしい感覚のする目の前の飢えた少年に譲って上げたい気持ちもある。
でも。
今後の展開のためには。
最短でこの世界から脱出するためには。
ここで五条悟に負けてやる訳にはいかない。
(アイツが気付かねェうちに畳むぞ)
(了解です! にひひ。ルール上は問題ないのになんか凄く卑怯なことしてる気分! やっぱ術師はこの背徳感が最高ですぅ)
まともに戦えば、もはや今の
選んだのは、クリファパズル545の補助。
五条を始めとした呪術界の戦闘狂にとっては邪道かもしれないが。
だけど、これは初めから紛れもない
何を以て、この劣勢を覆さんとしているのか。
答えが提示される。
(我は一〇の球体のいずれも居場所を持たぬ悪魔なり。故に印なき十一番目の球体に居座る管理者とならん。我が名はクリファパズル545、その数は真なる十一、その意味は「邪悪という踏み台は善行を支えられる」!!)
「あーあ/return。10年近く音沙汰がないと思ったら、都合よく頼ってくれちゃって/escape」
今の彼女には発言権がない。
前であればミサカネットワークへの接続を通して人造の悪魔に話しかけられたのに、ネット会議でマイクをミュートにされているように、この声が向こう側に届くことはない。
「つーか当たり前のようにミサカネットワーク使えてる時点で少しは疑問に思えよクソ馬鹿野郎/return。ほんとに反省してんのかー? /escape。ミサカとしては上条ちゃん派なんですけど何でいつもコイツにばっかり付き合わされてるんですかねぇ? /escape」
虚数学区の天使や薬味久子と同様に。
クソッたれの木原レイリに捕獲され、ミサカネットワークを模したAIM拡散力場に似た何かに押し込められた、ただの漂う情報体だ。
ここに押し込められた時も。
一瞬だけ、科学者の姿が見えたが、無機物を見る目で確認したと思えば次の瞬間にはここに放り込まれていた。
科学の魔神・木原レイリは、ただのネットワーク上のバグのような存在に、何の気遣いも見せなかった。
いまのミサカ総体は舞台装置だ。
それぞれの末端も、能力も、ただしいAIM拡散力場すら持たない。
一万人弱の能力者の脳の片隅を借りた程度の計算能力を持たされた存在。
被検体たちの環境を整える、ただの実験装置に過ぎない。
それでも。
十年。
今世では
総体はもとより体を持たず退屈を感じるような存在ではないが、暇に任せて行った、
サービスだ、と、
「今回だけの特別だ/return。ミサカを助ける王子様役は上条ちゃんじゃなくても我慢してやるから、こんなやつなんかで躓いてないでさっさとこのクソゲーを終わらせろっ!! /return。つーか昔のどっかの誰かさんみたいなのを延々見せつけられて/backspace、いい加減こっちもムカついてんだっつーの!!!! /return」
(一〇に収まらぬ秘められたる壁を見よ、我はそこに潜り込んで、不要な上昇を妨害し、真にその資格を持つものだけ深淵を超える力を授けん)
ヴン!! 、と。
ぶじゅりと、水っぽい音がして
魔術は才能のない者のための技術。
超能力者か、呪術師か。
どちらにしたって、
代償に体内で、ブチブチと切れてはいけないものが千切れていく感覚がする。
(それは人の手で作られた樹、あらゆる神話伝承に登場しない新たな樹! 神の手によらず人の手で御する可能性を持った新たな神秘、善も悪も持たぬ
だが、それでいい、と。
怪物は笑う。
怪物の背中から飛び出したのは透き通るような、青ざめたプラチナ。
守護天使エイワスにも匹敵する極彩色の翼が、呪術の世界に降臨する。
メギメギメギメギメギメギメギメギメギッ!! 、という鈍い音があった。
翼を振り回すとか、何かを飛ばすとか、そんな浅い次元じゃ無かった。
表層の流血などどうでもいい。
才能だとか。
虚数の空間だとか。
無限の情報だとか
そんな現世の障害の何もかもを一足飛びに踏み越えて。
大宇宙の天文規模の操作でもって、無限を湛えた呪力を持つ五条悟の
五条悟は。
驚くように目を見開くも
口を開き何かを発する前に
意識を、失って
倒れた。
* * *
簡易な病室のような場所で寝かされていた五条悟は目を開けた。
負けた、のか。
六眼を以てしても何が何だかわからなかった。
あれが禪院の怪物の奥の手。
初めて、満足した。
楽しかったな。
あの戦いを通して確実に成長できた
願わくば、あの少女も同じ感情を共有していてほしい。
また戦えるだろうか。
俺はまだまだ成長できる。
強くなって、また戦いたい。
そして、次こそは。
「……勝つさ」
「おはようございます!」
ジャッ!! とカーテンが空き
そこには、おしゃれに白衣を着こなし呪具らしい丸眼鏡をかけた、年上の少女がいた。
「うん、後遺症もないようで結構ですね。なんか百合華ちゃんが強引にやりすぎたって心配してたので。術式は復活しました?」
そう言いながら少女は近づいてきて六眼をのぞき込む。
「あ? 、っと、お前誰だっけ」
「えーっと、うーんそうですねー」
最初に入ってきたとき、たしかあいつの隣にいた気がする。
お付きの人間になにか説明された気がするが、百合華に夢中で何も覚えていない。
丸眼鏡の少女はちょっと悩んだように首をかしげてからパッと明るくなって言った。
「取り立て人です!」
* * *
禪院家の専属医師のいる診療所からでて、数分歩くとその場所はあった。
電球や蛍光灯とは違う白く眩しい光が煌々と締め切られた部屋を照らす。
日本家屋の一室を改造したその部屋は襖は完全に取り払われ、漆喰壁に埋め立てられている。
初夏というのに冷房がつけられ、ひんやりとした空気が満ちている
呪術家に似つかわしくない、大型機械の数々が、静かなうなりをあげて稼働している
その周りには、呪術によって構成されている部分が少ないため六眼をもってしても呪具ということしかわからない何かが大量に転がっている。
「何ですかその呆けた顔は。禪院家の秘匿域の中心にいるんですから、もっと喜んでください」
「ここは何だ」
「禪院家呪術学研究会の本部です!」
はぁ、と五条は呆気にとられる。
「そんなところに五条家の俺を入れていいのか?」
と、あの怪物少女に信用されたのか、と一瞬だけ嬉しくなったが。
「うーん、一応みんなで話したんですけど、警戒するだけ時間の無駄かな? ということになりました。だって、どうせただの呪術師にそこら辺を転がってるものを見せても、というか仮に丁寧に説明しても、どうせ一割も理解できないんですから」
全くそんな訳じゃなかった。
六眼を持っていても、現代最強でも、こいつらにとってはただの呪術師らしい。
少しイラっとした。
「試しになんか説明してみろよ」
「あ、仮に説明しても、とは言いましたが今日はそういう会じゃないんで」
どこ吹く風で少女は続ける。
「ほら、縛りですよ。六眼!」
ガタン、と金属の棚から引き出したケースから出した機材をコンピュータに接続しながら。
キラッキラな楽しくて仕方ないという笑みで。
「今は無下限を分析する手段がないのでまた今度です。六眼の記録だけ取らせてください!」
たかだか数時間。
されど数時間。
歯医者の施術台のような場所に寝かされ。
呪力光(六眼にだけ見える)とライトでさんざん照らされ。
電子実体顕微鏡で覗き込まれ。
何枚も何枚も、数えきれないほどの画像と映像を撮られ。
「うん! 完璧な3Dスキャンと反応サンプルです! あ、もう帰っていいですよ?」
とはしゃぐ少女の前で。
五条悟は自分の頭がガンガンと響くのを感じた。
その日の翌日から五条悟は目隠しを巻くようになった。