一方通行六歳転生(呪術廻戦)   作:木原レイリ

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第9話 東京都立呪術高専

 2005年 4月 12日

 

 東京都立呪術高専、新学期の午後の教室。

 特別一級術師にして五条家新当主、そしてこの春、高校一年生となった五条悟は、次の任務のために補助監督が迎えに来るまでの退屈な時間、机にその長い足を乗せて座り、椅子にもたれてゆらゆらと前後に揺れながら物思いにふけっていた。

 普段は包帯をぐるぐる巻き付けたりしている六眼対策だが、今は洒落た99%ただの黒い板である特注サングラスに替えている。

 

 五条悟には何としても倒したい相手がいる。

 禪院家現当主・禪院百合華だ。

 

 あの戦いでコツを掴みかけた領域展開を持ち前の優れたセンスで習得し、いざアポを取ろうとしたが全て拒否された。

 皇室関連の祭儀などで顔を合わせる機会はあるが、当然そんな場で手合わせなどできるはずもない。

 仕方なく前回のように押しかけようとすれば、いつの間にか禪院家全体に『五条悟を拒絶する結界』が張られていて、門を通れなかった。

 結界を強引に破ろうかとも思ったが、御三家に張られている結界を破って侵入するなど流血を伴う全面抗争に発展してもおかしくない。

 結局断念したので、再戦する機会は得られていない。

 ちなみに術式反転と虚式はまだ習得できていない。

 

 五条ははぁ、とため息をつくと、未だ慣れない携帯端末から巻取り型の液晶を引き出し次の任務の資料を確認し始めた。

 

「それ、VortexII(新型ハイエンド携帯)かい? さすが御三家ってやつだね」

 

 話しかけてきたのは、出会い頭の軽い挨拶(呪い合い)の末に五条悟はじめての親友となった夏油傑である。

 五条が雑魚扱いしたのが原因なのでジューゼロで五条が悪い。

 

「ああこれな。明日香が送ってきた。試してるけど、どう考えても不便だよなこれ」

 

「っ! 悟、もしかしてAHT(アハト)のCEOと知り合いなのかい⁉」

 

 AHT(アハト)

 アスカ(A)ハイ(H)テクノロジーズ(T)。

 時代を20年は先取りするような異常な科学技術と、構造すら理解できないXsystemと他称される謎技術を用いて、医療分野・エネルギー産業・通信産業・防衛産業・コンピュータ産業を始めとして、様々な業界の急所を握っている。

 特に顕著なのはコンピュータ産業だ。

 配線の幅が三桁ナノメートルからやっと二桁ナノメートル規模に到達した当時の半導体業界に、ムーアの法則を嘲るように登場した一桁ナノメートル台の半導体TOUMAシリーズ(命名は禪院家当主)だ。

 当然、どんな企業にも研究者にも真似できるような代物ではなく、現在のコンピュータ業界は他の競合他社を押しのけてAHT(アハト)関連企業の一強である。

 軍事機器はTOUMAを積んでいなければ話にならず、TOUMAを積んでいない医療機器は危険という噂すら広まっている。

 なお、「AHT(アハト)本社にはTOUMAを軽くしのぐ処理速度の計算機器を積んだスーパーコンピューター『神浄』が存在している」という噂がまことしやかに囁かれているが真偽は定かではない。

 

 Xsystemはさらに異様である。

 Xsystemは一般販売品ではなく、自社と国や自治体の施設に設置される設備にのみ使われている。

 TOUMAを始めとしたほとんどの製品は現実離れした科学力、という説明がつくが、Xsystemにおいては明らかに「現代科学では説明しようがない法則」が使用されているように見える。

 一般販売されていない機械類に搭載されているXsystemを未許可で分解・研究しようとする研究者は後を絶たず、たいていの国では非公式にXsystem研究室が設置され、未知の法則を『X理論』と呼んで国の購入した機材や闇サイトで流れるXsystem製品やその模写図を研究しているが、未だ成果を上げたチームは存在しない。

 

 略語の読み方は匿名掲示板から生まれ広まった慣習的なものであり、ドイツ語の8(Acht)、というかドイツの高射砲8.8 cm FlaK(アハト・アハト)より。

 

 彗星のごとく現れた天才、鈴科(すずしな)明日香。

 白衣コーデをおしゃれに着こなす丸眼鏡の美人。

 家の方針で小・中と登校せず家庭教師にて育つ。

 2001年に17歳にして起業し、瞬く間に上場。

 翌年に京都市内の大学に合格し、学業とAHT(アハト)の運営を両立させる。

 ベンチャーにもかかわらず政界にも広く顔が利くらしい。

 起業からたったの4年にして、ビル・ゲイツを凌ぎ世界の富豪ランキング第1位でもある。

 明るい性格。

 比肩する者のない高い知力。

 強烈な個性。

 そしてそのどれもが醸し出すカリスマ性。

 これらによって明日香は世界的に絶大な人気を誇る超有名人となった。

 特に日本で大物アイドルや芸能人に匹敵する若者の憧れの的である。

 ちなみに掲示板では宇宙人、異次元人、AAA(アハト・アハト・明日香)と呼ばれているらしい。

 

「鈴科家は4人姉妹でね。メディアには露出していないんだけど次女の鈴科百合子は悟と同じく白髪らしいんだ」

「……そいつ、禪院家の当主だな」

「はぁ?」

 

 五条は呪術界にまだ詳しくない一般家庭出身の親友に禪院家周りの事情を説明し始めた。

 

 五条悟は、表向きのAHT(アハト)の噂については詳しくないが、裏側の騒動ならよく知っている。

 むしろ関係者である。

 

 当時、呪術界はAHT(アハト)に嫌疑の目を向けた。

 呪術規定に反して呪具を公開、あるいは一般販売すらしているのではないか、と。

 禪院家の中枢にいる人間が異常な技術をばら撒き始めたのだから当然である。

 総監部の招集により審議会が開かれ、六眼持ちである五条も駆り出された。

 だが、数日にもわたる検査の結果、何の異常も発見できなかった。

 こうして集められた術師及び呪具師の人々は、AHT(アハト)は呪術と無関係であると結論付けざるを得なかった。

 それは五条悟も同様である。

 五条悟は悔しがった。

 たしかに、六眼に映る情報は目の前の品々が呪術と無関係であることを示している。

 だが、魂はそれを否定していた。

 五条悟には、確信めいたものがある。

 目の前でニコニコ笑うこのMADは、絶対にまともじゃない何かをやっていると。

 というか、後になって思い出したのだが呪術学研究会本部とやらで見た地面に転がる呪具にそっくりなものがいくつかあった。

 それから、定期的に開発された製品に関する審議会が開かれており、五条も欠かさず出席している。

 最近は呪術界側も気が緩んで中年たちによる新作品評会の様相を呈し始めてしまっているが、未だ五条だけは尻尾をつかんでやろうと、その六眼をかっぴらき穴が開くほど凝視し、こねくり回している。

 

 なお、禪院家は御三家の中で最も新しい家系だ。

 家名こそ変わっているものの宮司として大和王朝の建国時からすでに天皇家に仕えていた加茂家、五条家とは異なり、禪院家は平安時代に名を馳せ始めた家系である。

 力量に不足はないものの、総監部を牛耳る加茂家、出雲や紀伊や大宰府などにある重要拠点を任されている五条家と比べると、政府・天皇家へのコネが少なく権力が弱い。

 それが今一変している。

 呪物・呪具・人材。

 そのすべてを明日香を原因とする資金力と技術力で急速に集め発展している。

 この数年間で千年変わらなかった御三家のバランスが一変していた。

 

 なお、傑は呪術界の重鎮が表の世界経済を牛耳っていることを理解して目を白黒させていた。

 

「呪術界ってそんなにやばいのかい?」

 

 どうやら呪術界全体の印象が変わってしまったらしい。

 親友が陰謀論に呑まれる前に、五条悟はこう言いたい。

 

 呪術界が異常なんじゃない、禪院家が異常なんだ。

 

  * * *

 

2005年 4月 19日

 

二人に遅れて家入硝子が高専にやって来た。

話を聞いた硝子はサインをねだった。

初対面の五条に対し、呪術界最強を怯ませるほどの圧をかけた。

 

結局、今度親睦会を兼ねて、みんなで明日香に会いに行こう、という話になった。

 


 

◯付録・公表されている鈴科家の設定

 

・父 不在

 明日香の実父(25代目当主)は死亡済み。明日香が露骨に話題をそらすため世間ではタブー扱いされている。

 

・母 鈴科心理

 本名 禪院真理(まり)。明日香の実母・禪院家の医療班・医師免許あり。一般家庭出身。本当は認知科学に興味があったけど高校生の時に25代目当主に助けられたのをきっかけに禪院家へ嫁入りし外科方面へ。

 

・長女 鈴科明日香

 先進国で知らない人間はいない。

 

・次女 鈴科百合子

 メディアに露出はしていないが存在は知られている。アルビノらしい。

 

・三女 鈴科最愛

・四女 鈴科海鳥

 極たまにメディアにも出ており、知名度を国内・海外での任務に役立てている。

 禪院家での立場は百合華直属で呪霊討伐の任務は少ない。

 


 

◯付録・天元一派・御三家・陰陽寮の系譜についての捏造設定

 

御三家・陰陽寮の系譜は以下の通り(→は改名/分裂)

名前の奈良・平安読みは適当なので有識者の指摘は求む。

原作で新設定が開示されたら修正します。

 

●加茂家(呪術御三家)

 

 ①祭祀一族カム【あらゆる命を操る程度の能力】

※中東北部の方から来た。メタファーは八咫烏。建国以前から皇室に仕える。昔は赤っぽい髪が多かった。

②賀茂氏

※天元一派・賀茂聖(カモノフィンジリ)によって「自身と同じく能力を受け継がなかった者のための劣化術式(赤血操術)」が開発される

③加茂家(呪術御三家)が分離

※安定して呪術総監部を支配

 

●五条家(呪術御三家)

 

 ①祭祀一族イム【あらゆる現象を見渡す程度の能力】

※中東北部の方から来た。メタファーは八咫烏。建国以前から皇室に仕える。昔は青っぽい髪が多かった。

②出雲忌部氏が分離

③野見氏(古墳建設地選定職からの呼び名)

土師(ファンジ)

※天元一派・土師如意輪が「能力を活かした無限の情報を操る術式(無下限呪術)」「能力適合者以外でも廃人化しないためのセーフティ(六眼)」を開発した。朝廷にて藤原氏と結託し中央忌部氏の位置に成り代わる。

⑤菅原氏

※この世界の菅原道真は「六眼」なしの「魂魄創術」。中身は転生者ではないので飛梅は一体のみで室町時代ごろに討伐された。参考文献:『転生菅原道真「うちの梅から女の子が!!」』(鳩胸な鴨) https://syosetu.org/novel/333413/ 2024/07/26閲覧

⑥五条家(呪術界御三家)が分離

※鎌倉時代より分離。安定して出雲・阿波・紀伊・太宰府ほか重要拠点を管理

 

●禪院家(呪術御三家)

 

 ①天元一派・十一(トウトヒト)

※一般庶民。どこか根暗な女性。「初期操作性と将来性に優れた術式(十種影法術)」を開発。同じく天元一派で同じく一般庶民であるフィジカル超人・特級色気男馬頭(マトウ)と婚姻

②特に氏族名無し(しいて言うなら禅院)

※頭がドブカスな子孫が「万が一にでも勝てたら優遇されている加茂・五条と同列に扱う縛り」を携え最強の五条家当主に挑み自爆戦法で殺す。(試合開始とともに全力で逃げたため五条家当主のほうが先に死んだ)都に大被害。

③禪院家(呪術界御三家)

※戦闘部隊の規模は高専以上。五条・加茂両家は御三家除名の隙を狙っているが実現したことはなかった。

 

●安倍家・土御門家(陰陽寮)

 

 ①皇家

阿倍(アンベ)(臣籍降下)

※天元一派・阿倍千手(アンベノツェンジュ)が、古代から普遍的に人類が持つシャーマン能力から「呪力を消費し万象を操る術式(言霊呪法)」を開発

③安部家(陰陽寮)が分離

※安倍晴明は『言霊呪法』を持つ。名を操る裏技を開発したのでわりと何でもありだった。この裏技は才能が必要で、これができる人の術式を特に区別して『神言』と呼ぶ。

狗巻家(呪言)が独立

陰陽術側でありながら呪術界へ。だが完全に迎合する訳ではないゴーイングマイウェイ。

④土御門家(陰陽寮)が分離。

安倍家が退いたので陰陽寮のフロントを担う。

⑤五行機関(都市伝説)

明治に陰陽寮が廃止。安部家・土御門本家は消息不明に。

 

●その他

 

 天元

※ナチュラルボーン不老不死の怪物。大宰府から奈良までの直線状に大規模な結界を作った。結界は時代とともに拡大している。「日本呪術」の起源。弟子たちには自分のミーハー大陸趣味で改名させたし自分も改名した。

 

 天元一派・羂索

※天元の異能から「疑似的な不死の術式」と研究の副産物としての「術師を呪物化する技術」を開発。天元の友で反転アンチ。享楽主義者。今もまだ生きている。

 

 両面宿儺

※「斬って焼いて食う術式」を持った飛騨の豪族。自分の縄張りを守っていたら養殖肉たちに神格化された。気味が悪い。数百年前に同地に存在した元祖『両面宿儺』の再来として呼ばれていたが、もはや両面宿儺といえば彼を指す。食べるのが好き。一度呪霊も食べてみたことがあるが吐瀉物の味だったのでそれっきり。美食を求めてたびたび平安京にやって来るので貴族たちは生きた心地がしない。悩める強者を死合いにより導く愛の伝道師。特に天元一派ではない。




全六章構成になりました。
プロットを六章リバースのラストまだ書き終えたのでのんびり書き下していきます。
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