因幡の月兎 不思議な靴を使った架空スポーツで、俺だけ空を跳んでいます。   作:新月

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ここから一章後半開始です。
楽しんでいただけたら幸いです。

ちなみに暫く20:30更新にしています。


第15話 3回戦 VSキテツ①

 

「────それじゃあ、やっぱりキテツの装備ギアは【メタルボディ】と【パワー・バフ】で間違いないんだ?」

「うん。彼の2回戦の試合を見たけど、装備ギアの表示はその二つだったよ。今回の大会だと使用ギアは事前登録制だから、それから変わる事はないんじゃないかな」

 

 キテツとの3回戦 第一試合が開始される直前。

 アリスを呼び止めたハクトは、キテツの大会での使用ギアに付いて確認を取っていた。

 不良達との戦いで見せた二つのギア。

 キテツの戦法はその時見れたが、フリーバトルでギアの使用制限が無かった為、ハクトを助ける為に別のギアを臨時で取り付けている可能性を考えていた。

 それで念の為、実際に大会の試合を見たアリスに話を聞いて裏付けをとっていた。

 隣でカグヤも話を聞いていて、うんうんと頷いている。

 

「了解。あと、公式試合でもやっぱり試合で””は使ってもいいと」

「ええ。マテリアルブーツだと、サッカーみたいなハンドのルールは無いからね。普通に相手に触ったりしても問題ないわ」

 

 カグヤのその言葉に、ハクトは分かったと返事をする。

 それが本当に聞きたかった事だった。

 不良達との戦いで、キテツが普通に拳を当たり前のように使っていたのを見てから、どうしても気になっていた。

 結果はルール上問題無し。つまり次のキテツとの試合でも、彼は普通にパンチを放ってくるだろう。

 何も知らずに戦いを挑んでいたら、そのまま不意を突かれていたかもしれないな、とハクトは思った。

 

「よし、それを確認できて良かった。アリスと試合した時は”手”なんて相手に直接触っちゃダメだと思ってたし。アリスもあんまり使ってなかったよね?」

「まあ、僕の場合は元々普段から使う気が無かったから、イナバ君との試合ではそれほど意識してなかったけどね。……そういえばイナバ君、君確か試合中僕の足取ろうとしなかった?」

「フェイントだったからセーフ」

 

 何がセーフなのかは分からないが、ハクトの中では許容範囲だったのだろう。

 実際にルールでは禁止されていなかったわけではあるし。

 ハクトは試合前のストレッチで体を伸ばしながら、会話を続けていく。

 

「道具持ち込みも、レギュレーションによるけど今大会では無し。服装も常識的な範囲内なら特に問題無し、と。よし、大体確認するべきことは整理できたかな」

「ところで、兎パーカーって常識的な範囲内なのかい?」

「そこ突っ込む? これは親の手作りだけど、店売りで売られているやつも見たことあるからセーフでしょ」

「いいじゃない、兎パーカー! 私はいいと思うわよ、可愛いし、目立つし!」

 

 多少話は逸れたが、おおよそ確認すべき観点は終わった。

 ストレッチもほとんど終わったハクトは、姿勢を直す。

 

「アリス、あとキテツ戦で気をつけておいた方がいいことはある?」

「そうだね……あ。そういえば、ウラシマ君の戦いを見ていて凄いのが見れたから、ちょっとだけ動画撮っておいたんだ。短いけど、見るかい?」

「あ、見る見る」

「あ、私も見たい」

 

 そう言って、アリスはポケットからスマホを取り出して、画面をハクト達に見せる。

 既に動画は再生開始されていて、実況の声と共にキテツの試合が流れる。

 

 

 そこには、キテツは対戦相手の足を掴んで、ビッタンビッタン地面に叩きつけている場面が見えた。

 

 

 猫(○ム)と鼠(ジェ○ー)かな? 

 

『さあ、二回戦 第二試合 戦闘中です! キテツ選手がバフギア全開で、相手選手を掴んでさっきから地面に叩きつけていくー! 一切手を離さないため、対戦相手は逃れられないー!』

『いやもうこれどうしようもないな。掴まれた時点で逃げられないし、あんだけ振り回された状態じゃギアも発動出来ないだろ』

『なんかうどんが食べたくなって来ました! みるみるHPが減っていき、キテツ選手のバフギアのエネルギーが尽きる前に……決まったー!! HP0! 勝者、キテツ選手です!』

 

 アリスの言うとおり、短い動画が終わった。

 ただし、短いと言っても撮ってる時間だけでなく、試合時間自体も短かったが。

 

「アイツ、こんなことも出来たの? ……いや、やるか。やれるなアイツなら。人の事3人まとめてジャイアントスイングしたキテツなら余裕か」

「ん? ハクト君、ジャイアントスイングって? 不良達3人をまとめてキテツ君が投げ飛ばしたの?」

「いや、俺と不良二人を投げ飛ばしてた」

「どう言うこと!?」

 

 彼味方じゃなかったの!? というカグヤの叫びに軽く内容を答えていると、アリスが話を纏めに入る。

 

「……まあとにかく、ウラシマ君の本領発揮は相手を捕まえた時だ。参加者の中でも、ギア込みで肉体的なパワーなら随一。パンチより、実際は掴みといった拘束を警戒した方がいいと、僕は思うよ」

「遠距離攻撃が出来るなら、【メタルボディ】で軽減されても一方的にダメージを与え続けられると思うけど……ハクト君の戦い方だとちょっと厳しいわね」

「完全に接近戦の技オンリーだしなあ俺……ヒットアンドアウェイで、可能な限り近付いている時間を減らすしかないか」

 

 それともう一つ、とカグヤが言う。

 

「後は、相手の【メタルボディ】を何とかエネルギー切れにさせることね。あれがあると、ハクト君の蹴りが殆ど効かないはずよ。急所狙いで少しは通るかも、ってレベルかも……」

「流石に、僕みたいに"フォーム・クイックチェンジ”レベルの高速切り替えは出来ないと思うけど……あんまり責めなさすぎると、普通に持続を切って節約するだろうね」

「あ、節約で思い出したわ。ハクト君、あなたまだ試合中ギアのエネルギーが尽きた経験無いんじゃない? 場合によっては、【インパクト】を使い切ってリチャージも考慮に入れた方がいいわよ」

 

 確かに、とハクトは思った。

 不良達との戦いも、結局【インパクト】は使い切らなかった。

 自身の攻撃時だけでなく、相手からの攻撃の回避にも使用するので弾数は常に気にしていたから、逆に尽きた経験がまだなかった。

【インパクト】が尽きると回避用のエネルギーが無くなるから警戒していたが、今回の相手はキテツ。

 典型的なパワータイプで移動スピードはそこまで怖くないから、十分距離を取ってリチャージを考慮出来るだろう。

 

「よし。これで大体準備は出来たな」

 

 改めて、ハクトは試合会場への入り口に体を向ける。

 考えられる準備は全て出来た。

 後は実際に戦って、勝ってくるだけだ。

 

「じゃあハクト君。私はこっちから観客席に行ってるね。頑張って!」

「それじゃあ、僕は早速スタッフさんに言ってくるよ。試合は見れないけど、もしかしたらギリギリ最後の場面だけ戻ってこれるかもしれない」

「ああ、ありがとう。それじゃあ、行ってくる!」

 

 そう言って、ハクトは二人と別れ、試合会場へと入っていった……

 

 

 

 ☆★☆

 

 

『さあ、間も無く3回戦 第一試合、準決勝が開始致します! 選手が入場されてきます! 新体操のウサギって見たことある? 真っ白パーカー、ハクト選手と! 対するは、オレの前に立つやつは腰を入れてぶん殴る、見てるとうどんが食べたくなってくるキテツ選手の登場だー!』

『二つ名というか、途中お前の感想になってなかった?』

『実況は見た事を、感じた事をありのままに伝えるのがお仕事です!』

『言葉の整理くらいはしとこうぜ……』

 

 相変わらずの実況と解説を聞きながら、ハクトはフィールドの中に入っていく。

 見ると、既にキテツは反対側に立っていた。

 

「来たな、白兎! 宣言通り、お前の事をコテンパンにしてやるぜ!」

 

「そっちこそ。さっきの事はお礼は言うけど、試合では遠慮しないよ!」

 

『それでは! 選手二人の準備が出来たようなので、3回戦 第一試合開始です!』

 

 

 =========

 バトル・スタート! 

 =========

 

 試合開始の合図が鳴り響き、キテツとの対決が開始される────

 

 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:15分00秒

 

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:500

 rank:1

 スロット1:────

 スロット2:バランサー

 

 VS

 

 プレイヤー2:キテツ

 残HP:500

 rank:1

 スロット1:────

 スロット2:────

 ==============

 

 

「装着1、【メタルボディ】開始!」

 

 開幕、早速【メタルボディ】を展開するキテツ。

 自分の両手の拳を合わせた状態で、そう宣言した。

 おそらく、あれが彼にとってのイメージをする際のルーティーンになっているのだろう。

 

『ハクト選手vsキテツ選手のバトルスタート! まずはキテツ選手が、ギアを一つ適応開始するー!』

『バフ系のギアか。本人の身体能力そのものに影響を与えるギア種類だ。後はダメージ軽減、特殊効果などを付与することが多い』

 

「早速使われたか……」

 

 ハクトはそれを予想していたが、こっちが近づいたわけでもないのにあまりにも判断が素早いなと思った。

 パワー・バフをまだ切られていないのが気になるが、大方節約目的だろう。

 

 

 

 さて、早速向かうか、様子見をするか……

 ハクトはそう思考を巡らせるが……

 

「まあいいか、一回ぶつかりに行く!!」

 

 そう決めて、キテツに対して走り出していく。

【メタルボディ】でダメージ軽減されるだろう事は理解しているが、どれほど実際に軽減されるかは試してみないと分からない。

 その分量を測るためと、極論1ダメージでも与えられれば、後はバトルルール上逃げ中心の戦略で何とかなると思ったからだ。

 

 だから、この初手の攻撃が大事。

 そう考え、出し惜しみなしで自分の最大火力を叩き込もうとしていた。

 

「真正面から来るか! 上等、だけどちょっと甘く見すぎてるんじゃねえか!」

 

 走ってくるハクトを見て、キテツは凶暴な笑みを浮かべて、しっかり構えて迎え撃とうとする。

 相手側から走ってくるなら、彼にとっては願ったり叶ったりだった。

 ただ、正直に向かってくるハクトに対して、多少舐めているような行動に多少苛立ち、”想定している策”を叩き込もうと誓っていた。

 

 互いの距離が近づき……そしてぶつかり合う! 

 

「おらあっ!! “鉄拳”!」

「まあそう来るよね!」

 

 初手の攻撃はキテツからだった。

 走ってきたハクトを返り討ちにしようと、右腕でパンチを放つ。

 “手”を使えることを知らなかった頃なら、そのまま不意でモロに喰らっていただろうそれ。

 しかし、しっかり事前準備したハクトにとっては、慌てる程の内容ではなく、そのままカウンターを放つ。

 

「喰らえ! ”クイック・ラビット”!!」

 

 後出しの攻撃、それによってキテツの顔の側面に右足で全力でキックを放つハクト。

 今の状況で出せる最大火力。

【インパクト】でブーストしたそれは、相手にとって回避手段のない速度となる筈……

 

「へっ!!」

「っ!?」

 

 だが、いつの間にか顔面の横に立てられた、キテツの”左腕”にそのキックを止められる。

 回避ではなく、しっかり防御をされた。

 頭を攻撃することが出来ず、相手の体勢もぐらつかない。

 つまり、キテツのパンチを止める事が……

 

「ぐうっ!?」

 

 そのままパンチを喰らって、ダメージを受けるハクト。

 逆に自分の顔面に攻撃を喰らう結果になってしまい、体制がぐらついてしまう。

 

「防がれると思って無かったか? どういう技が来るか分かってるなら、防御自体は簡単だろ! ”鉄拳”、二発目ぇっ!」

「があっ!!」

 

 そのまま2回目のパンチを喰らってしまい、完全に地面に倒れてしまうハクト。

 すぐに起き上がろうとするが……

 

「よっこいしょっと」

「はあ!?」

 

 そのハクトの上に、キテツは座り込んだ。

 完全にマウントポジションだ。

 何とかどかそうと、ハクトは暴れたり、キテツを押し返そうとするが……動かせない。

 

「くそ! 真横、【インパクト】!!」

 

 不良達にやったように、足を真っ直ぐ伸ばしてからのギアの発動で、自身真横にズラすように脱出しようとする。

 ズザーっと、辺りに地面と擦れる音が響く。

 が……

 

「があ!? 抜け出せない!! 何で!?」

「アッハッハ!」

 

 人一人10mは飛ぶ筈の衝撃。その衝撃でも、ハクトは一切抜け出せなかった。

 確かに、2,3メートルは動いた。が、その間も真上にキテツはずっと座り込んでいたままだった。

 しかもそのせいで、逆に衝撃が逃げなかった為自分自身の方に少しダメージが入ってしまったようだった。

 それを見て、キテツは高らかに笑う。

 

「実は、【メタルボディ】には効果には書かれていない副作用がある。それは……”自分の体重が重くなる”事だ」

「っなあ!?」

「その重量は、元々の1.5倍! 計90kgの重さの拘束だ!」

 

 キテツのその言葉に、ハクトは驚くと同時に思い出す。

 確かに不良達との戦いの最中、彼は【メタルボディ】を起動中動きづらくなると言っていた。

 あれは、デメリットが動きづらくなる効果というより、ただ自身の体重が重くなったから、結果的に動きづらくなるという事だったのだ。

 本来なら不利に働く筈の効果が……今の状況では、相手を逃さない為の重りとして働いてしまっている。

 

 まさか、ギアの効果欄に書かれない副作用があるなんて……

 事前に相手のギア情報を見て、しっかり準備していた事が逆に仇になってしまった形だった。

 

「さて、これで完全にお前は無防備だな」

「っ!!」

「オレも言わせてもらおうか。ずっとオレのターンだ!! 

 

ガッ!! ゴッ!! ガッ!! ゴシャ!! 

 

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 

『おーっと! キテツ選手のマウントポジションからのパンチの連打! ハクト選手、なすすべが無ーい!!』

『絵面がひっどいなあ!? ハクト選手、完全に嵌められた状態だな……得意の機動力が封印されてるし、このまま決着の可能性が高いな』

 

「ハ、ハクトく────ん!?」

 

 実況と解説が、今の戦況を放送する。

 そして観客席に移ったカグヤは、実際にバトルの様子を見て思わず叫んでしまっていた。

 完全にボコ殴りにされている状態だった。

 幸いまだハクトの両手は自由な状態だった為、キテツのパンチを腕で何発か防いでいるようだが、それも時間の問題だった。

【インパクト】での脱出も失敗したようだし、解説のいう通りこのままハクトは脱落する。

 その可能性が高いとカグヤ自身思ってしまっているが……

 

 

 ────でも、このまま終わる訳無いわよね? 

 

 

 そんな彼らの戦いを、冷静な思考で見ている彼女もいた。

 

 

 ☆★☆

 

 

「オラ、オラ、おらあ!!」

「ぐ、がっ! くそ!」

 

 殴られ続けながらも、ハクトはなんとか脱出しようと思考を巡らせ続けていた。

【インパクト】で脱出出来なかったのは、完全に重いキテツに乗っかられているせいだ。

 つまり、何らかの方法でキテツを立ち上がらせたりして退かせれば。

 両手は幸い自由だ。何とかこれで、例えば、何かに怯ませたりとか……

 

「っ!? そうだ!」

 

 つい最近、自身が怯んだ経験。

 それを思い出したハクトは、自由な両手で自身のHPグローブをタッチする。

 

「ステータス確認か!? 無駄だ、そんなことしても脱出は……」

「せいっ!!」

 

 それを見たキテツは、意味が無いと切り捨てようとするが……

 そんな彼の両目に、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「目がああああああああああぁぁぁぁぁぁっ?!!」

「よし! 【インパクト】!!」

 

 キテツの両目に、多量の光が入った状態。

 それに怯んで彼の体が浮いた瞬間の見逃さず、ハクトは今度こそギアで脱出出来た。

 

『ハクト選手、まさかの方法で脱出ー! 立体ディスプレイの表示箇所には直接目で覗き込まないでください!』

『とんでもねー使い方しやがったな……まあそこまで光量高いわけじゃ無いし、突き刺さったように見えたからビビっただけだな。素人同士だから効いたけど、2回目以降は通用しないだろ』

 

 取扱説明書に記載されているような注意事項が実況された中、キテツは目を抑えていた手を離し、逃げたハクトを睨み付ける。

 

「や、やってくれるじゃねえか白兎……まさか脱出されるとは、思ってもいなかったぜ。あのまま決着つけられると思ったのによ!」

「まさかあの不良達がやった反則行為が、参考になるとは思わなかったけどね。けど、試合中の立体ディスプレイの表示は出来るから今回は問題はないはずだよ」

「けど、次はこうはいかねえ! 今度はテメエの両手もしっかり固定する! 次に捕まえた時が最後だ!」

 

 そうキテツは激昂したように宣言する。が、次の瞬間には沸騰が落ち着いたような声で……

 

「ま。もっとも、そんな必要がもうあるかどうかは知らねえけどな」

「……? そうだ、とりあえずHPの確認を……」

 

 キテツの発言の意味は分からなかったが、とりあえずハクトは電光掲示板に目を向けた。

 先程まで拘束されたりで、ゆっくりHPの確認が出来なかった。

 流石にキテツから貰ったダメージの方が遥かに大きいだろうが、【メタルボディ】中のキテツの腕に防がれたとしても、どれだけダメージが与えられていたのか……

 

 

 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:500 → 157

 

 プレイヤー2:キテツ

 残HP:500 → 497

 ==============

 

 

「さん!? 3!? さぁん?!! 

 

 どれだけ、どころじゃ無かった。それ以前の問題だった。

 思った以上にダメージ与えられていないどころか、逆にこっちが350近く削られている! 

 100倍どころじゃないダメージ量の差!! 

 

「いや、確かに防がれたりはしたけども! それでも腕にはダメージ行ったはず! クリーンヒットで40ダメージは固かったクイック・ラビットがたったの3!?」

「アッハッハ! こんだけ差がありゃあ、あとはほっといてもタイムオーバーでこっちの勝利は確定だぜ、おい!」

「ちいっ!!」

 

 思わずハクトは舌打ちをした。

 様子見の一撃が、思った以上の暴利で帰ってきてしまった形だ。

 

「でも、それは【メタルボディ】が適応中の時の話だ! ギアのEが尽きた時、つまり【メタルボディ】が解除されたなら、こっちの攻撃も少しは通るはず!」

「ああ、そうだぜ。流石にギアの適応中じゃない場合は、オレも普通にダメージ受けるな。……まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()

「っ!? まさか、アリスみたいに瞬間的にギアのON,OFFが出来るのか!?」

「いや、流石にあんな変態的な技術はオレには無理だな。ONはともかく、解除はどう足掻いても5秒は起動しっぱなしにはなる。だがまあ、すぐにその意味はわかると思うぜ」

 

 やけに自信満々に、キテツはそう言い放つ。

 ハクトはその言葉に警戒しながらも、キテツから極力離れないように10m程の位置をキープし続ける。

 いつでも【インパクト】で距離を詰めることが出来、かつキテツが【メタルボディ】を解除したら、その瞬間に攻撃を当てられるよう準備している。

 キテツもそんなハクトの思惑を理解しているのか、ニヤニヤしながら構えを解かず、その場で待っている。

 

『ハクト選手とキテツ選手、先程から睨み合いが続いております! いつまでこの硬直は続くのか!』

『まあ、相手のバフギアが適応中だから、解除が切れるまで待つのは間違いじゃない。おそらく時間的に、もう直ぐ……』

 

 

 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 スロット1:インパクト (残りE:7/10)

 スロット2:バランサー (残りE:-)

 

 プレイヤー2:キテツ

 スロット1:メタルボディ (残りE: 3 → 2 → 1 → 0/3 残りCT: 3/3)

 スロット2:────

 ==============

 

「よし! 【メタルボディ】が切れた! 今だ!!」

 

 ステータスを確認し、キテツのギアがCTに入ったことを確認するハクト。

 その後、時間を掛けず【インパクト】を自身に打って距離を詰め、もう一度最大火力を叩き込もうとする。

 迎え撃つ筈のキテツは、いつの間にかパンチの構えを解き、両手の拳を合わせた状態で待っている。隙だらけだ!! 

 

「今度こそ、"クイック・ラビット"!!」

 

 こうして、今回は腕に阻まれず綺麗にキテツの頭にクリーンヒットする。

 全力で叩き込んだキックの感触は……再度、()()()()()()()()()()()()()

 

「っ?! 【インパクト】!!」

 

 とっさに嫌な予感がしたハクトは、キテツに捕まらないよう直様ギアを発動して離脱。

 状況が良く分からず、とにかく全力で距離を取ろうと逃げ出した。

 

 それを見逃したキテツは、自分のHPをゆっくり確認する。

 

 ==============

 プレイヤー2:キテツ

 残HP:497 → 487

 ==============

 

「……なるほど。白兎の全力のキックが頭にヒットしたら、”今の状態”だと10くらいのダメージが発生するんだな。追いつかれるほどじゃないと思うが、念の為頭へのダメージは警戒し続けておくか」

 

 ハクトがキテツへどれだけダメージを与えられるか気にしていたように、キテツもハクトがどれくらいの火力が出るのか測っていた。

 だからHPの差が莫大に出来た状態の今、敢えて無警戒の形を装い、ハクトの攻撃を頭に受けていたのだ。

 結果は、今のHPの差なら特に気にする程でもないダメージ量だと言うことが分かった。

 これでキテツ側としては、この試合で気をつけなくてはならない状況はかなり減って余裕が出来たことになる。

 

「さて、あとはじっくり追い詰めるか、我慢し続けるかだけだ。覚悟しろよ白兎。お前の彼女の目の前で、大恥かかせてやる……」

 

 そう言ったキテツの視線の先には、ハクトが観客席のカグヤと話している姿が見えていた……

 

 

 ☆★☆

 

 

「ハクト君一体どうしたの!? チャンスの筈なのに急に逃げ出したりして!」

「分かんない! さっき蹴った時、変な感触だった! というかさっき"鋼鉄の腕"を蹴った時と似たような感触だった!」

「それって【メタルボディ】が適応中の時と同じだったってこと? でも相手のギアはE(エネルギー)切れてる筈よね?」

「うん、だからおかしいと思って一旦距離を取った。確かにさっき確認した時、【メタルボディ】はCT(チャージタイム)に入っていた筈……」

 

 そう思い、再度相手のステータスを開いて確認しようとすると……信じられない記載があった。

 

 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 スロット1:インパクト (残りE:7 → 4/10)

 スロット2:バランサー (残りE:-)

 

 プレイヤー2:キテツ

 スロット1:メタルボディ (残りE: 0/3 残りCT: 3/3)

 スロット2:メタルボディ (残りE: 3/3)

 ==============

 

「スロット2、【メタルボディ】!? はあ?!」

「同名ギアが二つ!? 二積みして、二つ目を発動してたってこと!?」

「そういえば、さっき確かにいつの間にかルーティンの構えをやってたような……いや、だとしてもおかしい!! じゃあ【パワー・バフ】は!? あいつの二つ目のスロットにはそれが装備されていた筈だし、アリスにも2回戦の試合の時の事を確認した!」

「今回の大会だと使用ギアは事前登録制……あ。もしかして……」

 

 その疑問に応えるように、実況と解説からアナウンスが入る。

 

『キテツ選手の二つ目のギアは、まさかの【メタルボディ】二つ目!! しかし一体これはどう言う事だー? キテツ選手の2回戦の試合だと、別のギアが装備されていた筈! 風雅さん、これは一体どう言う事でしょうか?』

『あー、これ……多分、大会のルールの隙を付いた感じだなあ。大会のルールは今言えるか?』

『はい。えーっと、これですね。

 

 条件:

 ・使用スロット2つまで

 ・使用ギア2種類まで

 ・HP最大値半減

 ・残り5分でCT完了までの速度が3倍

 

 上記の4つです』

 

『この二つ目の、”使用ギア2種類まで”って言うのがミソだな。あくまで2種類"まで"で、1種類"だけ装備しては駄目という記載じゃない。ま、そういう解釈出来る様に、大会主催者側がわざとそういう書き方したんだろうけど』

『つまり、キテツ選手の【メタルボディ】二積みはルール違反では無いと?』

『そういうことになるな』

『なるほど! ところで風雅さん、持続型のギアの1Eって大体30秒とおっしゃっていたではないですか』

『そうだな。そう言ったな』

『では、ギアのEを使い切った後のCT(チャージタイム)。あれはCT1で何秒でしょうか?』

3()0()()()()

『ほうほう。ところで、【メタルボディ】の最大Eと最大CTは?』

『E3とCT3だな』

『なるほどなるほど。つまり使用可能時間1分30秒と、再使用まで1分30秒と。もう一ついいですか?』

『何』

『つまり、二積みした場合で、片方ずつ発動していくと……』

 

 

 

 

 

『実質無限ループだな』

 

 

 

 

「マジふざけんなああああぁぁぁぁ!!」

「ハクト君、どうどう」

 

 実況と解説の言葉に、ハクトは大いに心からシャウトする。

 それを見てカグヤが落ち着かせようとするが、気持ちは分かるのでどうしようもなかった。

 

「何!? 俺の相手こんなんばっか!? なんでアリスの時といい、実質残Eがほとんど関係ないような戦術使ってくるやつばっかと当たるの!? この大会初心者大会じゃ無かったっけ!? 明らかにある程度の経験者ばっかだろーが!!  1回戦のアイツを見習えぇーっ!」

「まあ、無限ループ仕様を気づいた上で、明らかに個人メタ組んでる時点で初心者では無いわよね。後ガードにハンドワーク使ってるから、かなり戦闘経験積んでるわよ、あれ」

「畜生!! 俺も【インパクト】二つ目あったなら普通にそうして……いや、【バランサー】があったからこそ出来た動きも多いから、そう一概には言えないか……」

 

 全力で切れていたハクトだったが、【バランサー】の事に思考が移った時点で、幾らか冷静になった。

 喚いていても仕方ない。今出来る手札で何とかするべきだ。

 一旦状況を整理しよう。

 

「とにかく、今の状況は……

 

 ①常時【メタルボディ】中のキテツに対して、攻撃し続けること

 ② ①の際、キテツに掴まれて拘束されたりしないこと。じゃ無いとゲームオーバー

 ③こちらの攻撃は、腕とかで防がれたら3、クリーンヒットしても最大で一回10ダメージ前後にしかならない

 ④攻撃に必要な【インパクト】のEは10。使い切ったら1分半のチャージ時間が必要

 ⑤残り試合時間13分。

 ⑥残り試合時間5分になったら、CT時間1/3に短縮。それに伴い、【インパクト】の使用可能回数も増える筈。

 

 とまあ、整理するとこんなところか……」

 

 ここまで整理して、ハクトは⑥で嫌な可能性に気づく。

 

「……待ってカグヤ。もしかして、【メタルボディ】というか、同名ギアって重ねがけ可能だったりする? 

「ええ、そうね。種類によっては重ねがけ不可と明言されているギアも多いけど、あのギアは対応可能なタイプね」

「成る程、つまり残り5分になったら、最悪クイック・ラビットじゃ1ダメージも与えられなくなる可能性も高いと……思った以上に余裕が無いな」

 

 というか、あれ? 実質後8分? 

【インパクト】の10Eを30秒で使い切ると仮定しても、2分1セットで、4セット。

 つまり、40E位しか後使えないっていう事? 

 HPが350、340差位で? しかも、離脱用のEも考えて? 

 

「……どう考えても、時間が足りなさすぎる」

「大丈夫よハクト君! 童話を思い出して!」

「童話? 何で?」

 

 ここに来て、急にカグヤが変なことを言い出した。

 何故ここに来て童話? と言うか何の? 

 

「相手に亀という文字のついた少年で、ハクト君は兎モチーフのパーカー。この状況にぴったりなアレがあるじゃない!!」

「……ねえ。それって」

 

 

 

 

 

「そう! ウサギとカメ(・・・・・・)を思い出すのよ!!」

 

「それウサギ負けてる(・・・・・・・)んだけど?」

 

 

 

「……………………」

「……………………」

 

 無言。

 

「……………………」

「…………………………………………ほら、居眠りしたウサギさんが本気を出せば、ゆっくりのカメさんに勝てるよって」

「むしろ今向こうが爆速なんだけど。スタートダッシュからのトップスピード決められて、まさにゴールされる寸前何だけど。何なら逆にこっちがゆっくりなんだけど」

「……………………」

 

 ハクトは思った。

 絶対兎と亀だから言ってみただけだと。

 多分言うチャンス待ってたなコイツ。

 状況真逆だけど。

 

「……じゃあ、諦める?」

 

 それは今の状況かな? それとも、この空気の事かな? 

 ハクトはそう聞き返そうとして、辞めておいた……

 

 とにかく。

 

 そう言ったカグヤの囁くような呟きに対して、ふうっと息を吐いて……

 

「……いや。まだだ」

 

 ハクトは、挑戦し続けることを選んだ。

 

「本当に取れる手段が無くなって。怪我の恐れがあるほど危険な状態ならギブアップするさ。でもこれはそうじゃ無い。怪我の心配は殆ど無いし、まだ出来る事が残っている以上、俺はやり切ったとは自分で言えない」

 

 そう呟きながら、ハクトはその場から歩き始める。

 そして歩きながら、白兎パーカーを被り始める。

 

「何より、俺の中で()()()()()()()()()()……何かを掴みかけているのか、キテツに違和感を感じてるのか……それに気づくまで、諦めるつもりは無い!」

「ええ……ええ! そうね! それでこそハクト君! 全力で行ってきなさい!」

「うん!!」

 

 気合を入れ直して、改めてキテツに向かって走り出すハクト。

 兎狩りに全力を出した亀に、白兎は立ち向かっていく……

 

 

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