因幡の月兎 不思議な靴を使った架空スポーツで、俺だけ空を跳んでいます。 作:新月
「ふう。ただいま〜っと……」
自分の家に着き、そう呟きながら家に入っていくハクト。
ただいまとは言ったものの、今日は家には父と兄はどちらもいない筈なので、返事は返ってこない筈だったのだが……
「──おう。おかえりー、ハクト」
「……へ? 父さん?」
頭にゴツいゴーグルをつけた男が、ダイニングのテーブルで寛いでいた。
ハクトの父である。
珍しく父が家にいて、ハクトは予想外だったらしく少し驚いていた。
「いっつも平日はずっといなくて、週末しか帰ってきて無かったのに……どうしたの、急に?」
「いや、今回は偶々キリが良くってな。一旦次の探索先の予定を決めるまで、先に家に帰ってお前達の顔でも見ておこうと思ってな。内の
「ケンジ兄は今日は夜まで仕事の上、その後
「なる程、あいつも大変だなぁ。まだ二十歳になってない筈なのに。俺みたいに比較的自由に時間決められるなら楽なんだろうけど」
「あー。そういえば父さんの仕事って”トレジャーハンター”なんだっけ? もうずっと数年やってるけど、探索先ってそんなにあるの?」
ハクトはそんな疑問を父に問いかける。
トレジャーハンターなど、科学が発展した現代だとそれほど儲かる仕事とは思えない。
それなのにこの父は割りとかなりの額を稼いでいて、家にしっかり仕送りもしてくれていた。
「ああ、めっちゃ腐る程あるぞ。まだまだ探したい候補もたくさんあるし。……本当に見つけたい奴は、まだ見つけられていないしな」
「……そういえば、父さんの”夢”ってあんま詳しく知らないけど、結局なんだっけ?」
「んー? まだ内緒」
「……そっか。ちなみに、”俺が物心着く前に家を出て行ったらしい母さんの事”って関係ある?」
「はっはっは。……………………なんの事やら」
露骨に目を逸らされていた。この父親、誤魔化し方が雑だ。
ハクトは自分の母の事を殆どよく覚えていない。
さっき言った言葉も、父から唯一聞かされた内容だったし、それ以上の詳細は父にも兄にも聞いても殆ど答えてくれない状態だった。
大方、家を開けまくる父に愛想を尽かして出て行ったパターンか、もしくは……と、ハクトは予想している。
……ちなみに、ハクトが着ているラビットパーカーはこの母特製らしく、家を出る前に何十着も作っていたとの事だった。
中三になったどころか、高校生になってもおそらく着れるものがまだクローゼットの中にある。
おかげでハクトはウサギパーカーの少年として、ちょっとしたご近所の有名人になってるのは余談である。
「とりあえず、元々今日の家事当番は俺だったから父さんはそのままゆっくり休んでてー」
「おーう。サンキューなー……」
これで会話は一旦終わり、ハクトは手荷物など一旦置いて家事に移ろうとするが……
「────ん? ハクト、お前今置いた奴、それなんだ?」
「え? ああ、これ? ギアって言うらしんだけど」
ハクトがテーブルに置いたカグヤから貰ったギアに、父は興味を示していた。
一瞬父の目の色が変わったかのように見えたが、直ぐにいつものような調子に戻って会話を続けてきた。
「……【インパクト】のギアか。ハクト、お前これどうしたんだ? 確か昔、マテリアルブーツに興味ないって言ってた筈じゃねえか?」
「あー。まあ今日色々あってさ。今度ちょっと、改めて始めてみようかと思って。今週の日曜日、試しにそういう施設に言ってくる予定」
「……そうか。等々興味持ったか」
「うん。というか、父さんこそよく【インパクト】のギアだって分かったね? ギアなのはともかく、種類まで直ぐ分かるなんて」
あれ、言ってなかったか? と父は続ける。
「ハクト。お前は俺を”トレジャーハンター”って認識でいたらしいけど……正確には違う。俺は”
「ギアハンター?」
だからギアの種類もある程度詳しいんだぞー、と父は言っていた。
今まで父に対して思っていた認識違いに、ハクトはようやく気付いた。
そして新たに疑問も沸いてくる。
「ギアハンターって……そもそもギアって探索で手に入れるものだったの? スポーツとかで使うものって聞いたから、てっきり専門のお店とかで買うものかと思ってたけど」
「そういう手に入れ方もある。一般的に回ってるのはそうやって入手しているだろうしな」
だが……
「マテリアルブーツのギアは、遺跡とかでも手に入る。古い古墳とか、歴史ある王族の継承物とか。……お前ら、いや
一応これ、オフレコなー。と父はそう続ける。
軽いボケと共に、さらっととんでもない情報を聞かされたハクトだったが、とりあえず今はふーん。と、そういうものだったと認識しておく。
「まあそれはともかく。ハクトがマテリアルブーツデビューってんなら、お祝い兼ねてプレゼントだ」
えっと確かこの辺にー、と父はテーブルから立ち上がって近くのクローゼットの中などをゴソゴソと探し出す。
数分ほど待つと父はあったあったと言いながらテーブルに戻ってきた。
その手にはスキーブーツのような硬そうな靴と、やや機械的な薄いカードと、水晶の付いた指貫グローブだった。
「ほい。それじゃあ”ブーツ”、”メモリーカード”、”HPグローブ”。まずは基本セット3つだな。簡易的な説明書はこれだな」
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<ブーツ>
ギアを装着する本体。
様々な素材で出来た靴がある。
片足毎に最大5つ、両足でスロット10個ある。
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<メモリーカード>
プレイヤーアカウント情報を保存する媒体。
Rank情報も保持している。
これをブーツに刺していないと、ギアが発動出来ない。
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<HPグローブ>
ダメージを肩代わりしてくれる見えないバリアを貼る。
試合には必須。
グローブに取り付けられている水晶で、情報を見る事が出来る。
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「特に"HPグローブ"。それがないと、マテリアルブーツは重火器火災厄災の大盤振る舞いだから、人体なんて本来ひとたまりもないぞー」
「こっわ!? 確かに動画見て風の刃とか氷漬けとか見てたけど、これがあったから平気だったんだ。ところで、"マテリアルブーツ"なのにグローブもあるの?」
「だってそれ、後付けだし。”HPグローブ”って割と近年作られたやつで、性能上がったのもここ数年らしいし。最近まで爆発的に流行っていなかったのはそのせいでもあるな」
思ったより、マテリアルブーツはやばそうなものだった。
それを聞いて、ハクトはふと疑問に思った。
「ねえ。そんなもの一般家庭に普及して、街中で発動とかしたら危なくない?」
「ふっつーにめっちゃ危ないぞ。まあ最近のブーツはそれ自体にセキュリティがあって、特定施設以外では発動出来なかったり、そもそもグローブ付けていないやつには只の3D映像みたいになってノーダメージみたいなシステムがあるらしいしなー。建物に対しても同様だし」
「……ん? あれ? 街中ではそもそも発動一切出来ない?」
「いや、例外はいくつかあるな。例えばメモリーカード付けた状態でプレイヤー自体の経験を稼いで、rank3とかいう中〜上級者レベルとかなら、発動だけなら出来るとか。ある意味免許証代わりだな。まあさっきも言ったように、グローブ漬けていないやつ同士だとほとんど意味ないけど」
「……へえー」
父の言葉に、ハクトはそう返事をする。
ということは……と、ハクトが思考を続けようとしたところ、父が改めて佇まいを変える。
「さて。ここまでが基本的なもので必須のものを渡し終わった。そんで、ここからが本命の……俺から渡すプレゼントの”ギア”だ」
そう言って、父は懐から大事そうに一つのギアを取り出した。
それをテーブルに置いて、ゆっくり差し出してくる。
表面には、シンプルな柄が規則的に描かれているだけで、どんなものか判別が付かない。
「そいつは【バランサー】って言ってな。俺が知る限り、超レア物のギアだ。ギアハンターお墨付きだぞ。俺もそいつにはかなり助けられたんだが……ハクト、お前にやろう」
「いいの? 超レア物って、父さんこういうのを売って生計立ててたんじゃないの?」
「いいって別に。【バランサー】自体はそれ1個しか知らないが、同じくらいのレアなものは他にも沢山知ってたり、既に売ってたりするし。その【バランサー】自体は実は俺も貰い物でな。売るのはちょーっとはばかれるやつだったりする」
「じゃあ、父さんが持ち続けていた方がいいんじゃ……」
「それもそうなんだが……ハクト、お前の夢はなんだっけ?」
「え? 空を飛ぶこと……」
「そっか。じゃあ変わってないなら、
あー、やっと渡し終えた。と父はそう言った。
肩の荷が一つだけ降りたように、腕をぐるぐる回したりなどをしている。
「まさか、ハクトが丁度マテリアルブーツに興味が出た時に帰れたとはなー。これは都合よかったな」
「そんなに渡したかったの、これ?」
「まあ、いろいろとー。自衛とかにも役立つしなー」
さっきの説明と微妙に矛盾したこと言ってない?
ハクトはそう思ったが、とりあえずそう言わずに心の奥に飲み込んだ。
「ところでハクト。今日の家事当番だって言ってたけど、晩めし何にするんだ?」
「え? まだ決めてなかったけど、適当にチャーハンあたりでも作ろうかと」
「んー。じゃあまだ作ってないなら、これから焼肉でもいこうぜ焼肉。せっかくだし」
「マジで? ラッキー」
そんな感じでハクトは父と夜ご飯を食べたり、冒険の話を聞いたりしながら、カグヤとの約束の日曜日まで過ごしていった……
★因幡白兎(イナバハクト)
主人公。
白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。
少女に踏まれたのをきっかけに、マテリアルブーツ・デビュー
★因幡猿堂(イナバエンドウ)
40代
178cm
黒髪。
混沌・悪
ハクトの父親。マテリアル・ブーツのギアを発掘するギア・ハンターと呼ばれる存在でもある。一応個人活動家。
ハクトがマテリアル・ブーツを始めると聞いて、彼に試合に必要な一式と【バランサー】を授けた存在。
エンドウとの会話で、3種の神器と言えるものの説明を簡易的に修正致しました。