因幡の月兎 不思議な靴を使った架空スポーツで、俺だけ空を跳んでいます。   作:新月

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第12話 準決勝終了、決勝戦へ

 

 

『決着ー!! ムーンラビット vs レディ・オブ・シャークマンズ!! 勝ったのはムーンラビットチーム!! ヒメノ選手のエクストラステージも、よくぞ乗り越えました!! 両者に盛大な拍手をー!!』

 

 ワー、パチパチパチ!! 

 

「勝った! 勝った! 勝ったぞおおおおお!! オレ達、ようやく勝ったあああ!!」

「いや、つらあ!? 予想以上に大変だった、よく最後倒せたね俺たち!?」

「いや本当。まさかたった一人最後に倒すだけで、こんなに疲労するとは思わなかったね……」

「あー、楽しかった♪ またやりたいわねー」

 

 ムーンラビットの面々は、思い思いに感想を吐き出す。

 大体大変だった、という感想だが、カグヤだけは楽しそうに声を出していて、まだまだ余裕そうだった。

 

「……はあ。完膚なきまでの敗北ですわね」

 

 フィールドで倒れていたヒメノが、ゆっくりと上体を起こす。

 彼女の意地だけで始まった追加バトルだったが、終わってみれば結局自分の完全敗北になってしまった。

 

「ヒメノちゃん、はい。楽しかったわよ!」

「……それはどうもですの。こちらこそ、お付き合いいただき、ありがとうございますわ」

 

 そう言って、差し出された手を握って立ち上がるヒメノ。

 その表情はとても悔しそうながらも、どこかスッキリしていた。

 

「ああ。後差し出がましいようだけど、あの“ハンド・タクト”、もう少し改造したほうがいいと思うわよ」

「……一応聞きますが、どこをですの?」

 

 ヒメノは少し疑問に思いながらも、カグヤの言葉に素直に耳を傾ける。

 バトル中に自分のあの技術を見抜いた人物だ、その言葉には価値があると思っての事だった。

 

「だってあれ、“左手だけだとRank3に対応できないじゃない。スロットの数的に”」

「っ!?」

「ヒメノちゃん、多分遠くない未来でRank3になるだろうから、スロットの数5個超えた場合のタクトを今のうちに考えておいたほうがいいわよ」

「……ワタクシが、Rank3になると本気で思っていますの?」

「うん。むしろ、今Rank2なのが不思議なくらい」

 

 そう言って、カグヤは手を離す。

 その言葉を聞いてヒメノは驚きながらも、どこか苦笑の混じった笑みに変わっていった。

 

「……アドバイス、ありがとうございました。身に染みておきますわ」

 

 そう言ってヒメノは、カグヤから視線を外す。その先は──

 

「──キテツさん」

「ビクウッ!! な、なんでしょうか……?」

 

 そこには、敢えてさっきから目線をずらしていたキテツがいた。

 それを見てヒメノはフンっとため息を付きながらも声をかける。

 

「……今回の勝負、ワタクシの完敗でした。最後の【フォートレス】によるみなさんの守護、見事でしたわ」

「そ、そう? 照れるぜ……」

「し、か、し!! 今度勝つのはワタクシですの!! ……この間の事は、今日の試合に免じて許してあげます。けれど、次戦ったときは今度こそワタクシ達が勝ちます! 覚悟しておきなさい!!」

「お、おう!!」

 

 そうビッと指差して、ヒメノは宣言した。

 その後は、アリス、ハクトに視線を移して。

 

「アリスさん、ハクトさんも。いい勝負でした。またやりましょう」

「ああ、俺も楽しかったよ!」

「うん、僕も勉強になった」

 

「では、お疲れ様でした! ムーンラビット!! 決勝戦、頑張ってくださいな!!」

 

 そう言って、ヒメノは自分たちのチームの方に歩いていく。

 その先で、「姐さーん!!」と、不良兄弟達が集まっていくのが見えた。

 

「……いやー、疲れたー」

「本当だね。まさか準決勝でこんなに疲れるとは、僕も思わなかったよ……」

「あー。真剣勝負の全力疾走で大分使い果たしたー。ちょっと休もうぜー」

「はいはい! 全員シャンとする! 準決勝は私たちで最後だったんだから、もう次の試合始まるわよ!!」

 

 パンッパンッとカグヤが手を叩く。

 その後、放送のアナウンスが会場のスピーカーから流れてくる。

 

『はーい、と言うわけで準決勝全試合終了ー!! お疲れ様でしたー! 次は決勝戦!! みなさん最後まで目を離さないでくださいねー!! それじゃあ、それまで少しだけ休憩ー!』

 

 実況のアナウンスが響いた後、マイクのスイッチがOFFになる。

 そして……

 

「おめでとうっショ!! ハクト選手!!」

「あ、Mr.パルクール!」

 

 試合が終わったハクト達に、観客席からMr.パルクール達が声を掛けてきた。

 どうやら、試合を見てくれたらしい。

 

「あっつい試合だったっショ!! スッゲー興奮した! 決勝戦、楽しみに待ってるッショ!!」

「ええ、こちらこそ!」

「それじゃあ、また後で!!」

 

 そう言って、Mr.パルクール達は席を外してどこかに行った。

 おそらく決勝戦の準備をしに行ったのだろう。

 

「ハクト君、私たちも休憩しましょ。決勝戦までに少しでも体力回復させなきゃ」

「ああ、分かった」

「予想以上にヒメノに削られちゃったからなオレ達…… HPはともかく、精神的な疲労が……」

「まあ、逆に言えば彼女以上の選手は、流石に残っていないでしょ。気楽に行ってもいいんじゃないかい?」

「油断は禁物じゃない? とりあえず行こっか」

 

 そう言って、ハクト達はいったんフィールドから出て、休憩室に向かって行った……

 

 

 ☆★☆

 

 

「ううーん、ああーっ!! たーのしかったー♪」

「そうかい、それはよかったなあ、おい」

 

 マイクをOFFにした後、実況と解説席でそんな会話が行われていた。

 

「いやー、ヒメノちゃんめっちゃ粘ってくれて良かったわー。期待以上の成果ね♪ いろいろテクニック見せてくれて見応えあったわー」

「確かに色々凄かったな、彼女……正直、戦力的にはカグヤ選手並みじゃないか? あれでRank3経験者じゃないの詐欺かと思ったくらいだけど。あれならプロ入ってもすぐ活躍するぞ」

「まあ、彼女なら直ぐ成長するでしょ。今のうちにツバつけておくのもいいかもねー♪」

 

 カラーはペロッと舌舐めずりしながら、そんなことを話していた。

 ギア開発会社の社長として、大分お気に入りになったらしい。

 

「しっかし、試合結果自体はともかく、準決勝で思った以上に盛り上がっちゃったからなあ。決勝も、あそこまで熱い勝負が見られるといいが……お前確か試合調整してたんだろ? そこらへんどうなんだ?」

「ん〜、決勝? あ〜……」

 

 そんなことを風雅が聞くと、カラーは沸きらない言葉を返していた。

 それを聞いて風雅はちょっと嫌な予感がした。

 

「お前……もしかして、決勝まで考えて無かったのかよ? あれだけトーナメント表弄っておいて」

「いや〜、ちゃ〜んと考えてはいたわよ? けどねー……正直、今の準決勝に比べると、塩試合になっちゃうかもしれないなーって……」

「塩試合?」

 

 カラーの言葉に風雅は疑問を漏らす。

 塩試合って、つまらないってことか? 

 

「まあ、そのためにキャット・タワーズとムーンラビットが決勝に当たるようにしたんだけど。うーん……」

「なんだよ、何が懸念なんだよ」

 

 風雅はそう聞きながら、脳内で見立てを立てる。

 キャット・タワーズとムーンラビット、どちらも全員Rank2の選手だ。

 使えるギアの数は互いに同じ。となると大きく差が出るのはプレイヤースキルの差になる。

 

 キャット・タワーズは、全員が平均してそこそこの水準を持つチームだ。全員プレイヤーとしての経験値も高い……逆に言えば、突出した選手は少ない。

 ムーンラビットは、まだまだ荒削りな部分があるが、それぞれの得意分野においての特化火力は強大だ。特にカグヤ選手がRank3経験者というのが大きい。ハクト選手も、【インパクト】を使ったサポート能力が高い。

 

 というわけで、贔屓目も含むがややムーンラビット有利か? 程度の見立てを風雅はしていた。

 それでも総合力自体は大きく離れてるわけではなさそうで、いい試合は出来そうな気はするが……? 

 

「えっとねー。ちょっとネタバレするとね……」

 

 

 

 「──ムーンラビットチーム、“ハクト選手が戦闘不能になるだけで事実上の敗北”になりそう」

 

「──は?」

 

 ☆★☆

 

 

『──さあ! というわけで、<ストーリー・スカイスクレーパーカップ>!! その決勝戦がこれから開始されます!! これから選手入場でーす!!』

 

 実況のカラーの言葉に、会場中がワーッと盛り上がる。

 直前のヒメノ対ムーンラビットの試合も盛り上がったからか、観客の期待は高くなっていた。

 

『まずはこちらから!! ソロトーナメントの時から爆発的に人気が高まった、ハクト選手を中心とした超新星! ムーンラビットが入場でーす!!』

「リーダー私なんだけどー!!」

「どう、どう」

 

 アナウンスと共に、ハクト達がフィールドに入っていくと、観客が更に盛り上がる。

 相変わらず、初心者チームの大会の盛り上がりとは思えないほどの盛況だった。

 

『対するは、文字通り猫のような身体能力で、ブロックの段差をものとせず縦横無尽に駆け回る!! キャット・タワーズの入場でーす!!』

「ようやく俺たちの出番っショ!!」

「「「おうっ!!」」」

 

 反対側から、Mr.パルクール達が入ってくる。

 ハクト達よりは気持ちちょっと歓声が少ないが、そんな事は気にした様子が無い。

 むしろ自分のファンのチームとバトル出来ることに、とても楽しみにしている様子だった。

 

「ハクト選手!! この決勝の舞台で戦えることを光栄ッショ! だからこそ、全力で勝ちに行くから覚悟してくれ!!」

 

「了解、それでも勝つのはムーンラビットだ。そのつもりで戦いに行く!!」

 

『それでは、最終決戦のフィールドの説明に入りまーす!! さあ、ステージをご覧下さい!!』

『……ん? 今度はブロックすらねえな? 敢えての平面か?』

『チッチッチ、そんなつまんなことするわけないじゃない! はーい、“スイッチオンっと”』

 

 ──その言葉とともに、ゴゴゴゴゴッ、と会場が揺れ動く。

 なんだなんだ、と会場の全員が戸惑っていると……“ステージが開いていく”。

 

『……なんで今回の大会名が、スカイスクレーパーって付いていると思う?』

『……まさか!?』

 

『そのまさかよ!! さあ、現れなさい摩天楼!!』

 

「何、何、何!?」

「ちょっと、これ……!?」

 

 カラーの掛け声に呼び答えるように、ゴゴゴッっと“ビル郡”が迫り上がってくる! 

 ……と言っても、“ある程度縮尺した模型のようなビル”だが。

 あっという間に、ステージ全面が巨大模型のビル群で埋められていた。

 

 所々、ビルの合間に均等に道路も敷かれていた。

 

『はーい!! というわけで決勝戦は、“街中のビル群を想定した決戦場”となっておりまーす!! と言っても模型で実際の建物というわけでは無いですが、高さは平均15m前後はある建物が並んでおりまーす!!』

『これは……! ブロックなんて比じゃないレベルの高さだ! もう完全に通常の手段で上に乗る事は不可能だな……というか、金掛かってるなあ!? ここまでの規模の大会俺もそう経験してないぞ!?』

『技術の進歩に感謝ですね! 広大なフィールドとなったこのステージを制するのは、果たしてどちらでしょうか!! 楽しみですねー!!』

 

「う、うわー……予想以上に凄いな」

「すっごいわね!? ここまでの大型ステージなんて、私も殆ど経験ない! 初心者大会でこれ導入してくれるのってありがたいわねー!」

「スッゲーぜ! いくら掛かってるんだろう……」

「しかし、ビルに埋められて向こうの対戦相手が見えなくなっちゃったね」

 

 アリスの言うとおり、ステージギミックによってキャット・タワーズ側の様子が一切見えなくなった。

 これでは、実際にステージに入って遭遇するまで相手の位置が分からなくなっただろう。

 

「多分、ビルの合間の道路でのバトルになるわね。ハイウェイっていうくらいだから、大きな道路だけどあくまで模型だから、戦場が実質かなり小さくなってる。みんな気をつけてね」

「「「了解」」」

 

『さあ! ギアの準備は大丈夫ですか!? 付け替えるなら今しかないですよー!!』

 

「あ、そっか。どうするみんな、付け替えるのかい? 僕はそのまま行く予定だけど」

「と言ってもなあ……俺もこの構成でバランスいいから、変えるメリットあんまり……ソロトーナメントの時特化しすぎて、悲惨な目にあったばっかだし」

「私は、そうね……【ファイアボール】一個を、ギア版《R》【アクセル・アクション】に変えようかしら? ここまで視界が悪いと、近接メインになるとおもうから、私よりアリス君、キテツ君にダメージソースを頑張ってもらいたいわ」

「分かった」

「任せろ!」

「ハクト君は、何か付け替える?」

「俺は、そうだな……」

 

 ハクトは先ほどの試合を思い返す。

【バランサー】【インパクト】は必須として。【インラインスケート】も割と活躍していた。この3つは外せないだろう。

 ……しかし、4つ目の《R》【クイック・ラビット】。あれは使い慣れた特技の方が最初はいいかと考えて装備していたが、【インパクト】が切れている時だと、このギア自体も使う意味が無く、終盤まで放つタイミングが無かったのが実情だ。

 

 もちろん、その終盤で大活躍したのは確かだったが……正直、【バランサー】装備しているなら、態々自前スキルで放てる技をギアとして装備する必要はなさそうに思えた。

 もちろん、最高の動きを常に出してくれるリピートギアも便利だという事は身に染みたが、今回は別の……

 

 そう思って、ハクトは【クイック・アトラクト】を手に持った。

 

「うん、4つ目のギアをこっちに替える」

「お! 等々そのギアを使うのね!!」

「よっしゃ、やったれ! 20〜30万のギアの強さを思い知らせてやれ!!」

「それせいぜいエネルギー2個しか無いはずだから、過信しすぎないようにね」

 

 分かってるよー。そういいながら、ハクトは4つ目のスロットのギアを入れ替えた。

 これでよし、っと。

 

『さあムーンラビットと、キャット・タワーズ!! 双方出揃いました! お互い準備はよろしいですか!?』

 

「はい!!」

 

 ムーンラビット側で全員そう言うが、相変わらず対戦相手側の声は聞こえない。

 しかし実況のカラーは、ちゃんと認識しているようでうんうん、と問題ないように肯いていた。

 

『それでは! 決勝戦、バトルスタートです!!』

 

 =========

 バトル・スタート! 

 =========

 

 こうして、決勝戦の幕が上がった……

 

 

 

 ☆★☆

 

 

「とりあえず、全員一旦離れないようにね。建物多くて視界悪いから、状況分かるまでバラバラに行動するのは良く無いかも」

「分かった。しっかし、スゲーよなこのセット。よく作ったもんだと尊敬するぜ……」

 

 ムーンラビットが全員固まって走りながら、そんなことを会話する。

 今回のバトルは今までとは違って、まずは敵の位置を探るところからだ。

 ヨーイ、ドンですぐバトルしていた今までとは勝手が違う。

 

「しかし、本当に邪魔だねこのビル……フィールド広いように見えて、実質バトルできる範囲は狭まってるよね?」

「均一で整ってる道路の箇所なら、【ヒートライン】打てるんだけど……どのみちまずは敵チームを見つけないとね」

 

「……ねえ、思ったんだけどさ」

 

 走りながら、ハクトが思ったことを話す。

 

「俺が【インパクト】を使って、“ビルの真上に登ってから探した方”が早くない?」

 

 その言葉に、あっ! とうなずく二人と、ちょっとうーん、と唸るカグヤ。

 

「そうじゃん、それすりゃいいじゃんか。白兎、さっさと探して来てくれよ」

「そうだね。……と言うか、“彼に全員ビルの上まで運んでもらう”って言うのはどうだい?」

「天才かお前……卯月、どうよ?」

 

「えっとねー、ハクト君単体に探して来てもらうって言うのはいいと思うの。私もそれは思ってたし。けど、全員ビルの上に運んで貰うって言うのはちょっと待った方がいいかも……」

「え? なんでだよ?」

 

「ハクト君、抱えて【インパクト】してもらうと、流石に一気に移動できる距離が重さで短くなっちゃうじゃない? そうなると、運んでもらう場合【インパクト】の消費量が一人の時より大きくなっちゃう。全員運ぶと全部使っちゃうわ」

「1分半で復活するんなら、気にする必要ねえんじゃねえの?」

「それに、“ビルとビルの間が道路”になってるじゃない? 仮に全員上がったとしても、そこからビルの屋上の移動にも【インパクト】使うとなると、ただ屋上の一部に自分から閉じ籠ることに……」

「あー……そっかー、移動かあ……」

 

「けれど、それはそれで敵に攻撃されないってことにならないかい? 上から【ファイアボール】とかでちょっとずつ攻撃して、時間いっぱいまで逃げ切ればそれで勝ちになるんじゃ……?」

「んー、確かにそうなんだけど……“あまりに消極的プレイしすぎると、流石に警告出ちゃう可能性が高いのよね”。あの実況の人の性格分かってるでしょう? 盛り上がれば何してもいいけど、逆に言えば盛り下がるような事すると言ってくるタイプよ」

「あー、風雅さんも結局はスポーツ、エンタメだって言ってたから、注意して来そう……」

 

「ところで、素直に建物の中に入って階段で屋上まで上がるって言うのは?」

「考えたけど、やっぱり模型は模型だったから内部まで作られてなくて、入れないわ」

 

 などなど、ハクトに全員屋上に運んで貰う作戦はいい案だと思われたが、実際はいろいろ問題が発生しそうでやらない方がいいという結論になった。

 つまり、やるならハクト単体で偵察程度にしておいた方がいい、という事だ。

 

「それじゃあ、軽く俺が上行って状況見てくるよ。相手チーム見つけたら、すぐ戻ってくる」

 

 軽く屈伸運動をしながら、ハクトはそう提案する。

 それにカグヤ達も依存は無かった。

 

「落ちないように気を付けろよー」

「分かってるよー」

「ハクト君、気を付けてね。一人で行動してる最中に相手チームに見つからないようにね」

「了解」

「とは言っても、そこまで心配する事はないんじゃないかい? 上から行動してるなら、仮に見つかったとしてもイナバ君にそれほど危険はないよ。“相手チームも建物の上で行動してくるわけじゃないんだし……”」

 

 

 「スロット4!! マジック、【落雷】ッ!!」

 

「っ!? がああああッ?!」

「きゃああああああッ?!」

 

 ──直後、文字通り“雷が降って来た”。

 ムーンラビットは全員油断していた。咄嗟にバックステップや、ギアを発動しようとするが、広範囲への雷だったため、全員逃げきれなかった。

 

 

 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 HP:1000 → 802/1000

 

 プレイヤー2:カグヤ

 HP:1000 → 798/1000

 

 プレイヤー3:アリス

 HP:1000 → 803/1000

 

 プレイヤー4:キテツ

 HP:1000 → 808/1000

 ==============

 

 全員、約200ダメージ。開幕から一気に削られてしまった。

 

「っぐ、畜生!? いったいどこから!?」

「ウラシマ君、上だ!!」

「上!?」

 

「よっしゃあ! クリーンヒット! 先制攻撃はいただきッショ!!」

 

 アリスの声に全員上を向くと……そこには、“キャット・タワーズのメンバー全員が建物の屋上にいた”。

 

「Mr.パルクール!? なんで向こうが上に!! 俺みたいに【インパクト】を使ったのか!?」

「──いいえ、違う! 相手チームに【インパクト】の使用履歴は無いわ!」

 

 ==============

 プレイヤー5:Mr.パルクール

 残HP:1000/1000

 rank:2

 スロット1:脚力強化 (残りE:3/3) (★適応中)

 スロット2:────

 スロット3:────

 スロット4:巨大な落雷 (残りE:1/2) 

 ==============

 

「どうやってかは知らないけど、雷のギアを除いて全員【脚力強化】を発動してる! それしか適応してなくて、何故か相手みんな屋上にいるみたい!?」

「はあっ?! マジでどうやってだ!? 建物の階段使えないんだろ!?」

「理由は分からないけど、作戦変更!! ハクト君、やっぱり全員上に運んで!! このまま地面にいると、さっきの雷で全滅よ!?」

「「「っ!?」」」

 

 

 ☆★☆

 

『おおーっと!! いきなりキャット・タワーズの先制攻撃がモロに入ったー!! ムーンラビット、開幕から全員大ダメージ! これは予想外な展開だー!! 一体どうなってしまうのか!!』

 

 実況席でカラーがノリノリでマイクに向かって声を放つ。

 ……そして一度マイクを切り、風雅にしか聞こえない声で話し始めた。

 

「……“天敵”って言葉知ってる? あれってね、言葉の由来は本当に敵が空にいて、手も足も出せないから天敵って呼ばれるようになったらしいわ」

 

 ……なぜ今その言葉を出したのか。

 それはフィールドのムーンラビットとキャット・タワーズの現状を見れば、まさに今表しているような気がした。

 

 この時風雅は、先ほどのカラーの言葉を思い出す。

 

「カラー……お前、まさかこの展開を狙って……!?」

「んー? ……そうだけど」

 

 風雅の言葉に、当たり前だと軽く言うような表情で返す。

 そして座席にドサっと座って、視線をフィールドに向けたままネタバレをする。

 

「高さは大きなメリットよ。あとね、さっきあなたも見たでしょう? “キャット・タワーズが壁キックで登っていく所”。パルクールの技術で“壁キック”があってね。本当に登っていくのよ、壁を」

 

 ゲームみたいにね、とカラーは言う。

 まあ、最も……

 

「あまりに距離が離れていると、さすがに無理みたいだけど。……けどね、ギアの効果で“脚力強化”しているんだったら、話は違うと思わない?」

「そのために、決勝戦でこの二チームが当たるように調整したってのか!?」

「ピンポーン! 大正解ー!」

 

 拍手拍手ー、とパチパチと風雅に対して手を叩く。

 そして気を取り直して、姿勢を正していた。

 

「あそこまで大ダメージが出せるなら、消極的試合として警告を出される事はないわ。キャット・タワーズはちゃんとムーンラビットにとどめを刺そうと動いてる。ちゃんとギアを付け替えていたようね。文句の無い試合として成立しているわ」

「だが、このままじゃ一方的だ。あの高さだと、ムーンラビット全員の攻撃が届かない!」

「そうね。“だからこそのハクト選手よ”」

 

 カラーの視線の先には、ハクト選手がカグヤを抱えてビルの屋上に飛び上がろうとしている場面が見えた。

 ここまで想定どおりの動きをしていると、カラーはほくそ笑んだ。

 

「あのメンバーで、唯一対抗できるのは屋上に運ぶことの出来るハクト選手のみ。けれど、当然それくらいのことはキャット・タワーズもよく分かってるわ。積極的に落としに行くはず。復帰にはハクト選手が必須。つまり……」

「さっきの発言の、“ハクト選手が戦闘不能になるだけで事実上の敗北”に繋がるわけか……」

 

 やっと合点がいった。

 準決勝までのフィールドなら、キャット・タワーズとはそこまで相性が悪くない試合になっていただろう。

 けれどこのフィールドで、メンバー全員が自力で屋上まで登れるチームと、一人しか屋上まで運べないチームでは流石に差が大きくで始める。

 

「……二回戦は、初めての障害物を使った戦い。三回戦は、個人の技術がずば抜けた相手との戦い。決勝戦は──“そもそも試合をさせてくれない相手との戦い”、がテーマよ」

 

 そして、カラーは両腕を広げる。

 

「──さあ。この逆境、どう戦ってくれるのかしらムーンラビット! 私を楽しませてね! アッハハハハハハ!!」

 

 まるでラスボスのようなことを言い出したカラーだったが、この女、ただ盛り上がる試合を見たいだけである。

 風雅はハア……とため息を吐いて、フィールドに視線を向け直す。

 

 不利な状況で始まった最終決戦。ムーンラビットがどう戦ってくれるのか、風雅は心の奥で頑張れ、と彼らにエールを送るのだった……

 

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