『夜空の彼方』   作:Mr.DANGER

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2031年4月、十六夜 翼中学校入学


第一話「夢の続きを」前編

 

夢を見ていた。

 

 

『隼人ししょー!全然上手くできません!!』

 

「はは、最初はそんなもんさ。というか、葵もちょっとは手加減してやれよなぁ……」

 

「それじゃ練習にならないだろう?」

 

「本当にストイックだねぇ、葵は」

 

「葵さん葵さん!今、翼に掛けてた技、どうやったんですか!?俺にも出来る!?」

 

「晶也もちょっと待て……ふふ、順番に教えてやるからそう慌てるな」

 

「はい!!」

 

 

尊敬できる師たち。

 

一緒に飛んで、切磋琢磨した好敵手。

 

懐かしい、空を飛ぶ夢だ。

 

俺も、本当は、もっと――。

 

 

 

――アラームの音で目が覚めた。

 

今日もなんて事のない退屈な一日が、始まる。

 

 

俺は十六夜 翼。この春から中学生になった。

 

ちょっとした事情があって部活動にも入れないのもあり、5月も半ばだというのに友達と呼べるような相手もほとんど居ない。

 

勉強自体は嫌いじゃないが、それ以外に出来ることのない退屈な時間を終えてまっすぐに帰る。

 

「翼、おかえり!」

 

リビングの扉を開けると、台所の方から元気いっぱいの声が聞こえてくる

 

『ただいま、母さん』

 

返事を返しつつ、靴を脱いでリビングに入る

 

「学校はどうだった?」

 

『危ないことは何もなかったよ』

 

「そう、それは良かった!何か楽しいことはあった?お友達は出来た?」

 

『それ、毎日聞いてくるよね……今日も特に変わりないよ』

 

「そうなの……」

 

 

このとても30代半ばとは思えないほど若く見える、しかも感情豊かで表情のコロコロ変わる女性は十六夜 優月。

 

俺の母さんだ。

 

 

そして。

 

 

「ただいま!優月、翼!帰ったぞ~!」

 

「おかえりなさい、青羽さん!」

 

『おかえり、父さん』

 

 

こっちもこっちでとてもじゃないけど母さんと同い年に見えない、色々と子供っぽい男性が十六夜 青羽。

 

俺の父さんだ。

 

 

「ただいま、翼もお帰り!今日も何もなかったかい?」

 

『母さんにも言ったけど何もなかったよ。そもそも帰ってきてるから分かるでしょ?』

 

「どんな些細な内容でも確認と報連相は大事にしないとな!なぁ、優月」

 

「そうよ、翼。確認ひとつ怠っただけで取り返しのつかない事態になることだってあるんだから!」

 

 

両親揃ってとてつもない心配性……というわけでもなく、実はこの家は諸々の事情で、とある筋の権力者たちにちょこちょこ狙われることがあるんだそうな。

 

小学4年生の時に一度誘拐されかけ、その後に初めて聞かされた時はそんなラノベ主人公みたいな話が……!と興奮したが、その後も何度も誘拐されかけてからは普通に怖いし傍迷惑だと思うようになった。部活も入れないし、休日も出掛けるのさえ割と怖いし。

 

 

両親が高校生の頃に所属していたとある特別な部活のようなところで色々あったらしく、その部活に所属していたメンバーがみんな今でも狙われているらしい。

 

色々聞いてはみたが「詳しいことはもうちょっと大きくなったらね」と教えてはもらえなかった。

 

 

ただ、両親が私立高藤学園の出身であることは聞いていたので、色々調べてみたところ――

 

両親が高校生だった頃に"治安部のS特"という高校OB会や後援会ぐるみで運営されていた、かなり法的にもグレーな感じのスパイ組織があったこと。

 

それが、両親が高2になる年に"東雲 皐月"という生徒会長によって表沙汰になり解体となったこと。

 

私立高藤学園という場所自体が、生徒数だけで6000人に上り、関係者全体含めれば5万人を優に超える程の規模を持つ、利権の塊であること。

 

当時の"治安部"全体が、スパイ活動によって派閥争いをコントロールし莫大な利益を得ていたこと……。

 

そして、両親は高校の時に部活で出会って付き合い始め、卒業後に結婚したと言っていた。

 

と、状況証拠的に両親が2人とも"S特"であったことは間違いないだろう。

 

実際、両親からは「いざって時に自分の身を護れるのは自分だけだから」と、簡単な護身術、パルクール、無線機器の取り扱い……など色々と"役に立つ"技術を叩き込まれている。

 

学校が味気無くても、そんな理由があって退屈に殺されるようなことにはなっていない。

 

本当は他にもう一つ、一番の楽しみがあったんだけど……今住んでいるところではできないので仕方がないと諦めている。

 

 

 

そんな風に、ただ惰性で中学校生活を送っていたある日。

 

「イザヨイ ツバサさんデスカ?」

 

学校からの帰り道、背後から掛けられた少女の声。

 

『……そうですが』

 

「申し遅れマシタ、私はイリーナ・アヴァロンと申します」

 

『アヴァロン……?』

 

ここ数年で一気にシェアを拡大してきているグラシュメーカーと同じ名前が出てきて、思わず聞き返してしまった。

 

「ハイ。ご想像の通り、私はアヴァロン社グラシュテスター部門のコーチを務めております、イリーナ・アヴァロンと申します」

 

 

そう言いながら名刺を渡してきた。

 

 

「3年前の事、知っていマス。初参加の大会で優勝。そして……その後の、コトも」

 

『……!』

 

 

自分の事をかなり調べて来ている、という事実に警戒レベルが一気に引き上がる。

 

 

『……ジュニア大会にたまたま出場した選手がまぐれで優勝することなんて、そこまで珍しいことではないでしょう?それももう3年も前の大会のことで。大会社のコーチさんがどうしてこんなところまで?』

 

 

無礼と知りつつも、今までの経験からいつでも逃げられるような半身の姿勢で名刺を受け取りながら返答する俺を咎めもせず、イリーナは続けた。

 

 

「あの大会の優勝はまぐれ等ではなかったはずです。確かな技術、実力に裏付けされた結果だと確認したからこそ、我々はスカウトしに来たのです」

 

 

長年探し求めた宝を目前にしたときの冒険者のようなギラついた視線をこちらへ向けながら、イリーナは決定的な一言を投げてきた。

 

 

「十六夜 翼さん――貴方は、カガミ・アオイの指導を受けていましたね?」

 




中学校編からの開始となります。
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