『夜空の彼方』   作:Mr.DANGER

3 / 6
2031年6月初頭

グラシュ関連は独自解釈&独自設定盛り盛りになります。

作中での整合性が取れてるなら設定は盛れば盛るだけ良いってえろい人が言ってたので……ぜんぶのせはろまん。


第二話「運命の子猫」前編

今日から飛べる!ということで俺は朝5時半にはもう屋内練習場へ来てしまっていた。

 

「来ちゃってから言うのもなんだけど……流石に早すぎたな」

 

更衣室、練習場設備の使用方法、シャワールームの場所などは引っ越しの際に一通り教えてもらっていたので、早く来てしまって少し気まずいけどそのまま使わせてもらうことにした。

 

用意してもらったフライングスーツは、あの頃よりも改良されているのかアヴァロン社で使っているものが良い物なのかはわからないが、とても軽くて着心地の良い物だった。

 

スピーダー寄りのオールラウンダー仕様に調整したグラシュを装着して、起動ワードを呟く。

 

「――FLY」

 

反重力子発生装置(ジェネレーター)が反重力子を発生させ、メンブレン生成器(トランスファー)が反重力子をメンブレンへと形成し、体の表面へ展開していく。

 

グラシュの小さくも独特な作動音を聴きながら、体がメンブレンに覆われていく感触で胸が高まっていく。

 

(俺は、本当に――)

 

メンブレンが全身を包み込んでいって、各部のメンブレン厚が設定値レベルまで安定したことを感じ取り、空へ飛び立つ。

 

(――戻ってきたんだな。空へ)

 

ウォーミングアップで直進加速、ローヨーヨー、ハイヨーヨーを数十本やっていくうちに、今履いているグラシュの恐ろしい性能が見えてきた。

 

『このグラシュ、完全に思い通りに動く(・・・・・・・・・・)……。のんちゃん博士お手製の"空飛ぶツバメ君一号"ですら多少なりともあった、生成レベルでのメンブレンのゆらぎ(・・・)みたいなのがほとんど無い……市販化前のプロトタイプと言っていたが、その段階でこの完成度か』

 

(やっぱり、このグラシュを受け取る時に開発担当の人が「アヴァロンのグラシュはね。4年前の事故があってからは"どんな状況になってもプレイヤーの命を守る"ということをコンセプトに設計されるようになったの」……って言ってたのと関係してるんだろうな)

 

完璧と言っても過言ではないほどの安定性。

恐らくはメンブレン生成器(トランスファー)のメンブレン生成精度がずば抜けて高く、普通のグラシュならよくある"メンブレン生成時のゆらぎのせいで設定値からハミ出したり凹んだりするので、余分にメンブレンを生成して補うことで設定値を下回らないようにする"なんて制御がほとんど要らないくらいなのだろう。

 

それゆえ出力に余裕があり、余裕があるから反重力子生成装置の稼働率を下げることができる。そして、稼働率を下げられた分は緊急時のプレイヤー保護のためのセーフティとして作動させる。

 

普通のグラシュでも、ブイや海面との過剰接触の際はあえて密度を下げて粗く生成した衝撃を通しづらい質のメンブレンを自動生成してクッション性を上げたり、場合によっては一瞬だけ自動シャットダウンしたりするなどセーフティ機構の搭載が義務化されているが、アヴァロン社のグラシュはそれ以上の対策がいくつも盛り込まれているのだろう。

 

 

『すごいな……この子は。正に"楽しく空を飛ぶために"作られた、良いグラシュだ』

 

 

そうして、ウォーミングアップが終わった後も小休憩を挟みつつ好き放題飛んでいると、7時になった頃に扉の開く音がした。

 

 

共用の練習場だとは聞いていたので気にすることも無いかと思いつつ、飛び回る度に視界の端に映る空色の髪がなんとなく気になったので入口の方へ視線を向けた。

 

ピンと伸びた背筋、驚いた猫のように目を開いてじっとこちらを見つめる表情、ほんのり上気した頬。

 

思わずドキッとするくらい綺麗な子が、こちらへ強い視線を向けていた。

 

 

(あの子は確か……イリーナさんが専属でコーチについてるっていう、乾 沙希さん、だったかな?)

 

名前を思い出すと同時、今日入ったばかりの新入りが挨拶もせずに飛び続けていればそりゃ非難の視線を浴びるよな……と遅まきながら気付き、一度降りて挨拶することにした。

 

 

『おはようございます』

 

「……おはよう」

 

『今日からここを使わせてもらうことになった十六夜 翼といいます。よろしくお願いします』

 

「乾 沙希。……よろしく」

 

『乾さんはいつもこの時間から来てるんですか?』

 

「うん、そう。…………敬語は、要らない」

 

『そうですか?……それなら、遠慮なく』

 

そうして軽く自己紹介を済ませた後はそれぞれの練習に戻ることになり、乾さんのウォーミングアップが終わった頃合いで模擬戦でもどうかと誘いはしたものの「イリーナが決めた練習メニューがあるから」と断られてしまい、それ以上の会話は無かった。

 

乾さんが飛んでいるところを見て、まだまだ粗削りなところは多いが全体的にとても素直で綺麗な飛び方をする子だな、と思った。

 

表情にこそあまり出ていないが、一生懸命に飛ぶことを心の内では楽しんでいるのだろうな、とも。

 

 

 

沙希と屋内練習場で出会った朝、その練習後。

俺は沙希と一緒にイリーナに呼び出されていた。

 

「おはようございマス、沙希、翼さん」

 

「おはよう、イリーナ」

 

『おはよう、イリーナさん』

 

「では早速デスが」

 

いつもの事務的でにこやかな顔で2人を迎えたイリーナは、表情と口調を真剣なものに変えて話を切り出した。

 

「十六夜 翼さん。……アナタをスカウトした理由について、そしてそこにいる乾 沙希について、お話があります」

 

「今までの、ただの空飛ぶサーカスだった"フライングサーカス<FC>"を過去のものにするための、大事なお話を――」

 

 

――理論は完成されていた。

 

あまりにも無駄が無かった。

 

それを、乾さんがその領域に辿り着くまで、どのぐらいの時間が掛かるだろう?

 

……それでもこの2人は進むと決めて、この子たちなりに必死に飛ぼうとしているんだ。

 

なら。

 

「わかった……教えるよ。俺に教えられることを、全て」

 

(俺自身は別にFCをぶっ壊したいって思ってるわけじゃない。けど、今のファイター寄りの戦術に凝り固まってきたFC界に一石を投じるには良い機会だと思うし……それ以上に、純粋に楽しみだ。イリーナと沙希がどんな風に飛んでいくのか)

 

 

そうして俺達は、FCをぶっ壊すための共犯者になった。

 




のんちゃん「つーくん、小学校入学おめでとうなのです!というわけで~……てーれってれー!入学祝に"空飛ぶツバメ君一号"を開発してきたのです!これであおくんやゆづちゃんみたいに空をびゅんびゅん自由に飛べるのですよ~!」

つばさ「わぁ……!!✨ありがとうございます、のんちゃん博士!!」


青羽&優月「「どう見てもフラッグシップ級のスペックじゃないですか加減ってものを考えてください先輩!!」」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。