『夜空の彼方』   作:Mr.DANGER

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2032年12月
イリーナ&沙希&翼、中学2年生のクリスマス


第二話「運命の子猫」後編

相も変わらず練習漬けの日々を送っているうちにあっという間に時は進んでいく。

最も活発に動ける夏が終わり、夏の成果で計画の進展が多く実りの多かった秋が過ぎ……外では練習が出来なくなってしまう冬が来た。

 

とは言っても、屋内練習場完備だから体力づくり以外の練習も出来るのは本当にありがたい。

まぁグラシュテスター部門全体の試験場を兼ねてるから、1日2,3時間しかもらえないことが多い上、開発班のテストが重なっているときはほとんど練習にはあてられない日もあるけど、冬に飛べるだけでも助かるので贅沢は言わない。

 

 

「……つまらなかった」

 

『あはは……まぁ、今回の内容は確かにかなり大人しめだったね』

 

今日は開発班からのテスト依頼項目が多く、しかもそのほとんどがかなり速度を抑えた定常飛行だったので、沙希的には不満が溜まる一日だったようだ。

 

 

「せめて、全開飛行だったら……」

 

『いや、ずっと全開飛行は流石に』

 

「……そう?」

 

きょとんとした顔で首をかしげる沙希。

 

この乾 沙希という女の子は、幼いころからイリーナに課された数多の修行によって体力オバケへと進化し、かつ――

 

 

「大丈夫。苦しくても、辛くても、そのまま飛んでいれば楽しくなってくる」

 

なんてことを少々興奮気味に仰るくらいには、結構レベルの高いマゾとしての才能も開花してしまっているのである。

 

(どうしてこんなになるまで放っておいたのか)

 

いやしかし、FCの練習に関してだしランナーズハイが癖になっていたり上達していく事を楽しんでいたりするだけかもしれない。

……そういうことにしておこう。

 

 

開発班とテスト後のブリーフィング中、いくつか感触や挙動について質問された後は特に何もすることが無く暇だったので沙希と雑談していると、練習場の扉が開いてイリーナが入ってくるのが見えた。

 

(今日は開発班のテスト飛行が多いって知ってるはずだけど、わざわざ練習場までくるなんて……何かあったんだろうか?)

 

珍しくバツが悪そうな顔をして近づいてきたイリーナは、少しためらった後こう切り出した。

 

「急ですが、イギリスに行くことになりマシタ」

 

『えっと……そうなんだ。その雰囲気だと"行ってらっしゃい"を言って貰いたくて来たわけじゃなさそうだね』

 

「ハイ、グラシュ開発部の業務の絡みで少々。沙希と翼も本社まで同行してもらう必要がありマシテ……」

 

「表向きは"翼からも運用データが取れるようになって、アグラヴェインの正式発表へ向けて大きく進展しているグラシュ開発部の報告会"という事になっていマス」

 

「またなの、イリーナ……?」

 

『"また"ってことは……?』

 

「……ええ。察しているかもしれマセンが、実のところ何かと理由を付けてはお父さまとお母さまが呼び戻しているだけなのデス」

 

『な、なるほど……』

 

「普段であればこうも強硬に呼び出されることは無かったのデスが、ここしばらくは忙しくて全く実家に帰っていなかったので……"せっかくのクリスマスパーティなんだから来なさい!!"と、かなり強引に呼び出されてしまって」

 

「『あぁ……』」

 

 

ということでグラシュテスター部門全体に緊急招集が掛かり、今週の予定全体を急いで組み直した後に、報告のために選抜された人員達でイギリスへと発ったのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

アヴァロン社到着後は、社長ご夫妻からのやけに熱い視線を感じつつ、報告会だったり関係各所への挨拶回りだったりで目が回るような忙しさだった。

 

"スペックや安全性において既存製品を大きく超えるような新型グラシュをアヴァロン社が開発している"という情報は各所に出回っているらしく、本当に多くの企業の方や記者さんが話を聞きに来た。

 

ここ数年は全世界どこのグラシュメーカーもプレイスタイル特化にすることでようやく少しスペックを高めた新型を発売するなど技術の進歩という点から見れば似たり寄ったりな製品が多い中で、アヴァロン社が新技術投入で圧倒的な新型発表か!?と、業界ではかなり話題らしい。

 

機密情報にも関わるため主な対応は常に近くにいる開発チームのスタッフがしてくれていたが、それでも本当に疲れた……。

 

 

 

なんとか全ての予定を消化して部屋に戻ってきたが、流石に何かする気にもなれなかったのですぐにシャワーを浴びてベッドへ倒れ込んだ。

 

落ちてくる瞼に抵抗する気力も湧かず、そのまま――――。

 

 

~~~~~

 

 

――――ガチャリ、と扉の開く音で目が覚めた。

 

体を起こして扉の方へ向くと、ほんの少しだけ申し訳なさそうな顔をした沙希と目が合った。

 

「翼?起こしちゃった?」

 

『ふぁあ……いや、少し前にのどが渇いて目が覚めてたんだけど、起き上がるのが面倒だなって思ってたところ』

 

あくびをごまかすように伸びをしながら

 

「そうなんだ」

 

『……それで、何か用事でもあった?』

 

数拍待っても次の言葉が来ないので聞き返すと、

 

 

「私の部屋、一緒に来て」

 

 

 

とんでもない爆弾発言が飛んできた。

 

『な……!?』

 

クリスマスの夜に女の子の部屋へこっそりお呼ばれした、なんてシチュエーションに流石に混乱する頭。

 

とはいえ沙希の事なので恐らく一般的に同じ言葉から想像されるような展開はあるわけ無いだろ!!と混乱した思考を立て直し、投げ掛けられた言葉の正確な意図を汲み取るために頭がフル回転する。

 

(いやいやいやいや。沙希の事だからまずそういう意味では無い……でしょ。となるとイリーナ辺りに「翼にも声は掛けてあるので呼んできてクダサイ♡」とか言われてブン投げられた感じか?…………そういばメインのパーティ会場から出る時、イリーナが沙希に「ゆっくり食べる時間もアリマセンでしたね。あとで部屋に軽食でも持ってきてもらいましょう」とか言ってたな。お夜食会もとい、仕事ばっかりで風情が無かった夕方のパーティの口直しも兼ねることにして、3人だけでプチパーティでもしたいってところか……?)

 

 

そして出された結論から返答を口に出す。

 

『…………る、ほど。イリーナも一緒にお夜食会か何かか?』

 

「? うん。イリーナが今お菓子とか飲み物の用意してくれてる」

 

(だよね!そういう意味な訳ないし、そもそもふたりっきりな訳ないよね!!なんなら沙希のことだしイリーナとふたりだけで満足してる可能性もあったよね!!)

 

『わかった。そういう事ならお邪魔しようかな』

 

衝撃から立ち直り切らない頭を振って立ち上がり、沙希と一緒に部屋へ向かった。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

「沙希、おかえりなさい。翼もよく来てくれマシタ。伝えていた時間より遅くなってしまって(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)申し訳アリマセン。どうぞこちらへ」

 

「ただいま、イリーナ」

 

いつもよりちょっとだけ意地悪にニヤけながら「そういうことにして」と言外に伝えてくるイリーナを恨めし気に睨みつつ、とはいえ沙希の前で言うわけにも行かないので溜め息を吐きつつ大人しく指された席に着く

 

『はぁ……おじゃまします。本当に、約束したんなら時間くらい守って欲しいもんだ』

 

「フフッ、そうデスネ。次からは約束を破らないよう気を付けマス♡」

 

『…………まぁ、俺もパーティではあんまり食べられなかったから助かるし、これ以上は言わないよ』

 

「ありがとうございマス、翼」

 

片や呆れからの苦笑、片やイタズラに成功して上機嫌のにまにま笑顔の2人の、無言の抗議 vs すっとぼけのぶつかり合いが一瞬行われはしたものの、こうして特別な仲だけのささやかなパーティに呼んでもらえた嬉しさと、実際空腹だったこともあって矛を収めたので喧嘩にはならなかった。

 

(ま、イリーナの事だからそういうラインはちゃんと読んでるんだろうなぁ)

 

「それじゃあ、飲み物は……沙希はメロンソーダで良いデスネ?翼は?」

 

言いながらイリーナは傍にある保冷庫付きの配膳車から飲み物を取り出す。

 

『俺は……じゃあ、それ。コーラが良いかな』

 

「わかりマシタ。ではワタシは……ウフフ♡ コレにします♡」

 

イリーナは俺の分のコーラを取り出した後、滅多に見ない保冷庫のもう一つの扉を開けて大きめの瓶を取り出した。

 

貼ってあるラベルには小さいローマ字で色々書いてあるようで遠目ではあまり読めなかったが、瓶の下の方に少し大きく書かれていた文字列の中にALCという文字列が見え――

 

『ってそれワインか!?』

 

「ハイ♡」

 

『いや「ハイ♡」じゃなくて……』

 

コチラ(イギリス)では、家庭内なら子供も飲酒して問題ないので心配は要りマセン」

 

『……え?そうなのか?』

 

「そう、デス。コチラへ来た時は毎回ディナーで"少しだけ"飲んでマス」

 

『え。そうなのか……』

 

「ハイ。少し、だけ」

 

『俺の知ってる"少し"とは違う意味に聞こえる気がする……』

 

俺が驚きで思考停止している内に、イリーナと沙希は飲み物と食べ物をテーブルに用意し終えていた。

 

「ほら翼、座ってクダサイ?」

 

『あ、あぁ。ごめん、驚いちゃって』

 

「いいえ、構いマセン。さあ、乾杯しましょう?」

 

『ああ。沙希も待たせちゃってごめん』

 

「大丈夫」

 

「それでは、2人とも飲み物は持ちましたね?」

 

イリーナは微笑みながら俺と沙希に目配せし、グラスを寄せる

 

「「『乾杯』」」

 

3人だけの、ささやかなクリスマスパーティが始まった。

 

 

~~~~~

 

始まった、のだが。

 

『あ、あの……イリーナさん?』

 

「ウフフ♡ はぁい、なんデスカ?つばさぁ♡」

 

酔っぱらってしなだれかかってくるイリーナの姿がそこにはあった。

 

『近くない?』

 

「そんなことはぁ、ありません、ヨ?♡ つばさはワタシタチの共犯者ですカラ大丈夫れす♡」

 

斜向かいに居たはずがじりじりと椅子を隣まで寄せて来て、今ではほぼ密着してきているイリーナが酔いの回った甘ったるい声で舌が若干回ってない言葉を返してくる。

 

『共犯者ってこんなコトする間柄じゃないと思うんだけどなぁ!?』

 

隣に来てからは頬をつついてきたり、胸や肩、腕、太ももを「シッカリ鍛えてマスネ~♡」と言いながらサスサスしてきたり、挙句の果てには抱き着くような姿勢で俺の胸に頭を預けてきたりとやりたい放題……吞み始めて1時間と経たないうちにこの有様である。

 

流石に色々と問題なので一回沙希に剥がしてもらったが、今度は沙希を抱きしめたり頭を撫でたり体に触ったりして――「大丈夫。いつものこと」『あっ……そっかぁ(諦め)』――沙希の事をひとしきり構い倒したイリーナがまたこちらへ戻ってきたため俺も諦めた。

 

沙希も、構い倒し構い倒されれているイリーナと俺の事を何も言わずジッと見つめて来ているし、一体どうしたらいいんだ……。

 

「聞ぃてマスカ?つばさぁ?もぅ、沙希ばっかりじゃなくこっちもみてクダサイ!」

 

『あぁはいはい、分かったからちょっと待って痛い痛い』

 

酔っ払いの相手で夜は更けていった。

 

~~~~~

 

『ハァ、ハァ、ハァ…………ながく くるしい たたかい だった』

 

ひたすらスリ寄ってきてめちゃくちゃスキンシップを取ろうとしてくるイリーナと格闘すること1時間弱。

 

イリーナに限界がきて寝落ちし、平和が戻ってきたのだった……。

 

「……ふふ。イリーナ、楽しそうだった」

 

『俺は疲れたけどな……沙希はこっちに来るたびにいつもあんなイリーナを相手してるのか?』

 

「……いつもは酔ってきたらくっついておしゃべりして、少ししたらそのまま一緒に寝てたから。」

 

『ここまで酔いで正体がお亡くなりになってるイリーナは初めて見た、って感じか?』

 

沙希と話しつつ、そろそろお開きにしようと思って食器やら何やらの片付けを始める。

 

「うん。でも、イリーナかわいかった」

 

『…………まぁ、否定はしないけど。今度からは飲み過ぎないようにしてほしいもんだよ――――な……?』

 

片づけつつ、そう言いながら沙希の方をふと見ると沙希が飲み残しのグラスを手に取って揺らしていた。

 

「ん……渋くて酸っぱい。けど、嫌いじゃない」

 

なんなら飲んでた。

 

『ち、ちょぉ!?沙希!?沙希さん???ぺっしなさいぺっ!!』

 

「…………ふふ」

 

慌てふためいて止める俺の方を向いて、普段はしないような柔らかい微笑みで視線を合わせてくる沙希。

 

「だいじょうぶ」

 

お酒のせいかほんのり頬が染まっていて、ちょっとだけ脱力してくてっと傾げられた頭。

 

何より。"何をおいてもイリーナの期待に応えないと"とでも言うような出会ってからずっと感じている張り詰めた雰囲気が、どこか緩んでいるのを感じて。

 

『――――。……イリーナの残した分、だけだからな』

 

「うん」

 

そうして片付けをしつつ、イリーナが残したワインをちびちびと舐めるように味わう沙希を見ていた。

 




昨年初夏ごろから死ぬほど忙しくて1日15時間、週6勤務してて全然書けてませんでした。わたしはげんきです。
まだまだしばらく仕事が忙しい状況が続きますが、カタツムリぐらいの速度でも完結目指して書き進めていきますので生温かい目で眺めていてくださると嬉しいです。
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