『夜空の彼方』   作:Mr.DANGER

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沙希視点で見る3人だけのクリスマスパーティー


第二話幕間「子猫の胸の裡」

 

『あ、あの……イリーナさん?』

 

「ウフフ♡ はぁい、なんデスカ?つばさぁ♡」

 

(イリーナ、はしゃいでる)

 

『近くない?』

 

「そんなことはぁ、ありません、ヨ?♡ つばさはワタシタチの共犯者ですカラ大丈夫れす♡」

 

『共犯者ってこんなコトする間柄じゃないと思うんだけどなぁ!?』

 

(翼も、こんな風に照れてるところを見るのは初めて……)

 

(…………でも、イリーナ、いつもならすぐわたしにくっついてくるのに)

 

わちゃわちゃと(翼の多大な尽力によってギリギリ健全な範囲で)くんずほぐれつする2人を見ながら、自分の胸の片隅にある、どこかモヤモヤとしたよくわからない気持ちを見定めるように2人をじっと眺めていた。

 

「~~~~♡」

 

『~~!~~~~!』

 

 

~~~~~

 

 

『ハァ、ハァ、ハァ…………ながく くるしい たたかい だった』

 

「……ふふ。イリーナ、楽しそうだった」

 

『俺は疲れたけどな……沙希はこっちに来るたびにいつもあんなイリーナを相手してるのか?』

 

「……いつもは酔ってきたらくっついておしゃべりして、少ししたらそのまま一緒に寝てたから。」

 

『ここまで酔いで正体がおなくなりになってるイリーナは初めて見た、って感じか?』

 

「うん。でも、イリーナかわいかった」

 

翼が片付けを始めたのをぼんやりと眺めながら返事を返しつつ、イリーナが使っていたワイングラスの方へ視線を移すとまだワインが残っていたので手に取ってみる。

 

グラスを揺らし、スンスンと匂いをかいでみる。ブドウで造られているはずなのに、なんだか他の果物の匂いに近い雰囲気も感じて不思議な気分になる。

 

『…………まぁ、否定はしないけど。今度からは飲み過ぎないようにしてほしいもんだよ――――な……?』

 

グラスを傾け、舌先で少し舐めてみる。

 

「ん……渋くて酸っぱい。けど、嫌いじゃない」

 

イリーナの実家に来るたび、イリーナやご両親に勧められてビールや蒸留酒を少し飲んでみたこともあったが、それらよりもアルコールのツンとした感覚が少ないので舌や鼻がしびれるような嫌な感じはしないな、と思った。

 

『ち、ちょぉ!?沙希!?沙希さん???ぺっしなさいぺっ!!』

 

ふんわりとそんなことを考えていると、こちらを見た翼が大慌てで注意してくるものだから、そんなつもりは無かったのにイタズラが大成功した時のような気分になって可笑しかった。

 

イリーナに拾われてすぐの頃は、よくふたりで探検やイタズラをして走り回ってはイリーナのお姉さんやお母さんにこっぴどく叱られていたな、となんとなく似た状況に懐かしさを感じる。

 

「…………ふふ」

 

(今はもう、イリーナも、私も、あの頃とは違う……でも)

 

(それでも。今はまた、こうやって、私とイリーナのことをちゃんと見てくれるあなたが居る)

 

根拠なんてない。

 

でも、あなたとイリーナが一緒ならきっとわるいことにはならないって信じられるから。

 

「だいじょうぶ」

 

きっと。

 

『――――。……イリーナの残した分、だけだからな』

 

そう言って翼が片付けに戻る。

 

「うん」

 

(ずっと、3人で、こんな時間を過ごせたらいいのに)

 

イリーナの思い描く"新しいFC"のために忙しなく過ごす日々の中、今だけの穏やかな時間。

 

複雑な想いが胸の内に渦巻きながらも、不思議なほど落ち着いた心地で。

 

ワインを少しずつ飲みつつ、窓の外に夜空に浮かぶ月を、ぼんやりと眺めていた。

 

 

~~~~~

 

 

――――いつも通りの時間に屋内練習場へ行ったあの朝。

 

まだ人のいないはずの時間なのに、既に飛行音がしていることを少し疑問に思いながら扉を開けて。

 

見上げた瞬間、言葉を失った――

 

 

イリーナと一緒に立ち上がることを決めた日から、ずっと変わり映えのない毎日だった。

 

2人で思い描いた"FC"、それを実現するために必要な私自身の実力を追い求めて。

 

いかなる状況・どんな相手でも確実に追い詰めるための、完璧な飛行制御を。

 

徹底的に、それこそ自分が機械なんじゃないかって思えてくるぐらい、限界ギリギリの精度を求めて体を酷使する日々。

 

 

――だから彼の飛び方を見た時、それは私たちが欲しいモノなんだってすぐ分かった。

 

少しでも軽くするためか、飛ぶための筋肉さえ本当に必要な分しかつけない無駄を削ぎ落した身体。それなのに、メンブレンの復元力や反力を上手く使っているのかどの挙動にも全く重さを感じさせない。

 

しかも信じられないくらい素早いのに、動作の起こりや流れが丁寧だからメンブレンが荒れない。次の動きにも全ての力を無駄なく乗せられる。そして無駄なく乗せられた力は更なる速さを生み出す。

 

ああいう飛び方を出来ることが、イリーナが作ろうとしている戦術を実行するための前提条件なのだと。

 

そして何より……彼は、本当に楽しそうに飛んでいた。

 

私たちは。私は。運命に、出会ったのだ。

 

 

(イリーナは最近よく選手をスカウトしてきてるけど、これほどの人は今まで居なかったはず……私と同い年の新しい選手が入ってくる話があった気はするけど、なんて名前だったかまで覚えてない)

 

「……あなたは、誰?」

 

誰に聞こえるでもなく呟いたはずなのに。

 

飛んでいる彼に、聞こえる筈もないのに。

 

彼はこちらを振り返り、そのお月さま色の瞳と、私の目が合った。

 

その瞬間の胸の高鳴りは、今にして思えば――――

 

 

~~~~~

 

 

(――――――――あぁ、そっか。わたし、は)

 

(わたしにとって、翼は)

 

(イリーナとおんなじで、ずっと一緒に居たいと心の底から思える……大切な人、なんだ)

 

(イリーナと同じ、大好きな人)

 

 

(私は……翼のことが、好き、なんだ)

 

 

ワインを口の中で転がすようにして、今まで気付いていなかった自分の気持ちの感触を味わいつつ。

 

夜が更けるまで、ずっと、ずっと。

 

私の"お月さま"を見つめていた。

 

(こんな穏やかな日常が、ずっと続けばいいのに)

 

ずっと。

 




ネコチャンカワイイネ
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