ライブ開始から歌い続けていたベースボーカル、斑馬音練が口を開く。
「改めまして、今日は俺たちのライブに来てくれてありがとう」
観客から拍手が上がる。以前よりも音量が大きいのは、夏に行われた音楽イベント『ミューフェス』で注目を集めたからだろう。
「ちょっとね……訳あってしばらくお休みを頂いてたんだけど、こうしてまたステージに立つことが出来てとても嬉しいです」
再び拍手。客席後方からは「待ってたよ!」という声も聞こえる。
「でね、今日は応援してもらったお礼って訳じゃないんだけど、ちょっと趣向を変えてみようって思ったんだよね」
「安心してくれよ、ちゃんと曲はやるからな」
銀髪ドラマー五十嵐雪奈が続ける。
「なんでも、アカリがソロと2人で一曲やりたいって言うんだよ。わざわざ曲も書き下ろしてさ」
「新しく機材も買ったぞ」
金髪のキーボーディスト琴吹星が口を挟むが、雪奈は続ける。
「まぁ却下する理由もないし、やろうってことになったんだ」
「というわけで、ここからは2人におまかせするよ」
音練はベースをスタンドに掛け、手を振りながらステージ袖に下がっていく。雪奈もそれに続いた。
「ども。ことぶきです。んでその前にいるのが」
「ごっ、ごごご後藤です………」
ピンク髪に同色のジャージで揃えたギタリスト、後藤疎呂が吃りながらも自己紹介をする。振ったアカリは「はい拍手ー」と客を煽りながらバッキング用のギターを背負う。
「まぁね、あんまりお喋りしてるのもアレなんで。さっさとやりますか」
「う、うん」
「アタシらも楽しむから、みんなも楽しんでな」
ステージ上の2人が視線とOKサインを交わす。
────せーのっ。
◇
中学1年生の秋。持ち前の消極的な性格により後藤疎呂はクラスからものの見事に孤立していた。誰かと同じ色の日焼けも、同じ間違い方の課題も、彼女は持ってくることが出来なかったのだ。
彼女は思った。『ここで自分が変わらなければ一生ひとりぼっちなのではないか』と。しかし、行動には移せなかった。それが出来ているならばこの現状は出来上がっていないのだ……残念。心の中のギター侍は容赦なく彼女を斬った。
夏休みが明けて数週間経った頃、クラスには2つの話題が流れており、教室の隅にいる疎呂の耳にすら届いていた。ひとつは近く校外学習で鎌倉まで行くということ。
もうひとつはクラスの人間が1人増えるということ。どうやら病気の療養で今まで来れていなかったらしい。これがビッグでラストのチャンスだ。疎呂はそう思った。
「コトブキアカリです、よろしく」