Rimworld入植者(脱出済)のキヴォトス日記 作:運輸省
今回の話を読んでいただく前に共有しておきたい事があるのですが、本作品において先生は“元自衛官で、なぜかキヴォトスに連れてこられた女性”であって、アプリ本編のような“脚フェチで根っからの聖人”ではありません。予めご了承ください。
《前回の誤字報告者兄貴姉貴》(敬称略)
にぼし蔵、荒魂マサカド、貧弱な自分、偽ハリー、
天城高雄(17話含む)
ありがとナス!
沈黙。
砲撃の土煙と煙幕の両方が晴れ、風紀委員会の惨状が顕になった。
怪我なしの者はおらず、誰も彼もが痛みに呻いている。何人かは着弾場所から離れていたのか、動けない者を遮蔽へ引きずったりしているが、そういった者達もどこからか出血している。チナツはこの部類だ。
そんな風紀委員会本隊の真ん中で、銀鏡イオリは立ち尽くしていた。
「私たちが……負けただと……?!」
何をもって『負け』とするかは個人の価値観で分かれるところであろうが、少なくとも、今この風紀委員会本隊の現状。イオリの価値観では十分に『負け』に当たるようである。
最大火力の重迫撃砲小隊は通信途絶、本隊はこの惨状でこれ以上の作戦続行は望めない。
まあイオリが悲観する気持ちも分からなくはない。
そこに、晴れかかった土煙の中から近づいてくる集団が見えた。
完全装備のシャーレの先生と、彼女を守るように広がるシロコ、ノノミ、セリカの3人。先生は先ほどまでの通り、88式鉄帽と防弾チョッキ3型を着ているが、89式小銃は既に降ろして肩にかけている。風紀委員会を攻撃する意思は無いようだ。
そして、その後ろからおもち号。デカい。
“久しぶり、チナツ”
「先生……こんな形でお目にかかるとは……」
“本当にね”
先生が親しげな様子で口を開いた。
それを聞いたチナツは頭を抱えている。
「先生がそこにいらっしゃる事を知った瞬間、勝ち目はないと判断して後退するべきでした……私たちの失策です」
“……そこじゃないんだよ、そこじゃ”
「……せ、先生?」
以前*1会った時と先生の様子が違う事に気づいたチナツだったが、すぐにオープンチャンネルで通信が入った事で疑問は一旦置かざるを得なくなった。アヤネである。
《アビドス対策委員会の奥空アヤネです。所属をお願いします》
「それは……」
《それは私から答えさせて頂きます》
突然、通信に割り込んできた人物。
《通信…?》
「アコちゃん……?」
「アコ行政官……?」
《こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園風紀委員会の行政官、アコと申します。今の状況について少し説明させて頂きたいと思いますが、よろしいでしょうか?》
ゲヘナ学園風紀委員会、天雨アコ。
ゲヘナ風紀委員会のNo.2が通信越しに現れたのである。
──────
───
同時刻
ゲヘナ風紀委員会重迫撃砲小隊陣地
みかん号
車長:中司カナン
砲手:国定キリコ
操縦手:我部モユル
兵員
石田ナオコ
渡辺アスカ
さて、アビドスと天雨アコの対面と同じ頃、重迫撃砲陣地を制圧したみかん号は、負傷した風紀委員に治療を施していた。
多少心得のある石田と、手先の器用な渡辺が柴関から送り込まれ、応急手当。武装は既に全員解除済みだ。
「いつつ……」
「う、動かないでください。痛くはしませんから…」
銃でも突きつけているような言い草だが、あくまで火傷痕を濡れタオルで冷やしているだけである。本当なら流水が一番いいのだが、あいにくいい場所が近くにない為この方法に落ち着いた。
だって柴関はこいつらが吹っ飛ばしちゃったし……
「はーい、手当て終わった人はこっち来てくださーいっス。日陰に入るだけだいぶマシっスよー」
渡辺は渡辺で、柴関のシェルターから借りてきたブルーシートをみかん号の上から広げてテント代わりにしている。
アビドスの日差しに加えて、市街地特有のアスファルトからの照り返しがキツかったらしい風紀委員達はブルーシートの下でほっとした表情だ。
「申し訳ないっス。飲み物はもうちょい待って下さい」
「あ、ああ……」
流石に飲み物は準備していないので、国定と我部が近くのコンビニに買いに行った。近くとは言っても数kmは普通に離れてるので、古戦ヶ原の指示のもと残していた幌なしの大型トラックで買いに行っている。
「……なあ、お前らなんなんだ」
「はい? どういう意味っスか?」
「そのまんまだ。突然私らの事を訳分からんバケモンみたいな戦車で吹っ飛ばしたかと思ったら、今度は人命救助だ。訳がわからん。さっき飲み物を買いに行ったのだってこの戦車の乗員だろ。何考えてるんだ」
「うーん、そりゃウチらだって納得してないっスよ。アンタらの砲撃のせいでナダヤさんは左脚失ったって聞いてるっスし」
渡辺がそう言うと、意味があまり理解できなかったのか、その風紀委員が数秒ほどフリーズした。いや、よく見るとブルーシートの下にいる風紀委員全員がフリーズしている。
「ま、待て待て待て。左脚を、失った……? 砲撃で?」
「聞いた話だと、砲撃で落ちて来た天井に脚挟まれたんじゃないかって言ってたっスよ、兄貴は。ああ、兄貴はそのナダヤさんの夫ってやつっス」
風紀委員達の顔がみるみる青くなっていく。
そもそも、キヴォトスにおいて『手脚の喪失』という状況はまずないと言っていい。キヴォトス人がヒトとは比べ物にならないぐらい丈夫だし、撃つ→当たる→気絶するで勝負の流れができているのだ。
よっぽどの悪意をもってやらない限りはまず起こらないのである。
しかし、今回に限って言えば。
ナダヤには、強いて言えば『ヘイラ』という種族には、そこまでの耐久性はなかった。
それだけの話である。
「そん、な。いや、私は、命令に従った、だけで」
「そもそも、民間人がいる営業中の店舗に迫撃砲アホみたいにぶち込むって頭おかしいんじゃないスかアンタら。そんなだからネット掲示板でトリカスから頭ゲヘナって言われてんスよ」
「それは、その、公務で…………いや、これ以上言っても何にもならないか」
「ええ、これ以上墓穴掘る前にその口閉じてくださいっス。兄貴から言われてなけりゃ、身包み剥いだ上で砂漠のど真ん中に放り出すか、塩水ぶっかけて業務用冷凍庫に閉じ込めてるとこっスよ、真面目に」
「……すまない」
何もここまでキレているのが渡辺だけというわけではない。表面には出していないが、石田だって元SRTという観点から見て、民間人を戦闘に巻き込む事を是とした今回のゲヘナ風紀委員の行動には納得がいっていないし、みかん号のクルーも古戦ヶ原の制止がなければ風紀委員に直接120mm滑腔砲を撃つつもりだった。
ナダヤの怪我を間近で見たムツリやマナツに至ってはずっと
(^q^)ウテ!コロセ!バクハシロ!
( ◜ᴗ◝)凸 血祭りにあげてやる……!
と連呼したり、中指を立てたりしている。
幸い、立道が気を利かせて無線を切ったり、藤田と山田が抑え込んでいるおかげでバレてはいないが。
ブチギレムツリ&ブチギレマナツ。
自分たちの命を救ってくれた恩人の奥さんが、アホみたいな作戦を立てた風紀委員会のせいで左脚を失った。
それだけで、彼女らが激怒するには十分だった。
肝心の古戦ヶ原は、ちょっとズレていたのだが。
「……これは、どういう状況?」
「あっ、ヒナ委員長……」
──────
───
同時刻
アビドス・便利屋・DE連合vsゲヘナ風紀委員会
風紀委員会No.2、天雨アコとの対面ののち交渉を続けていたアビドスであったが、
『違法行為とは言い切れない、やむを得なかった』
という立場を崩さないアコを前に交渉は決裂、一触即発の状態が続いていた。
そんな中、包囲網の外側からハルカの奇襲。
いつのまにか包囲網から抜け出していた便利屋が姿を現した。
気絶から復活し、やっと参戦したカヨコは言う。
こんな非効率的な運用、風紀委員長のいつものやり方ではない、これは天雨アコ、あんたの独断専行だと。
そして、風紀委員会、あとアビドスを加えるにしても、相手するにはあまりにも多すぎる兵力。他の集団との戦闘を想定していたとすれば、説明がつく。
「アコ、アンタの目的はシャーレ。最初から、先生を狙ってここまで来たんだ」
「⁉︎」
「な、何ですって⁉︎」
「先生を、ですか……⁉︎」
“…………”
《ふふっ、なるほど……ああ、便利屋にカヨコさんがいる事をすっかり忘れてました。のんきに雑談をしている場合ではありませんでしたね……まあ、構いません》
アコがどこかへ連絡を入れる。
《……あら?》
アコがすっとんきょうな声を上げた。
周囲からは何も聞こえてこない。聞こえるのは風と砂の音とおもち号のエンジン音だけである。
「?」
「……な、何?」
《な、何かトラブルでしょうか……?》
《ど、どうして誰も動かないんですか⁉︎ 各隊応答しなさい!!何してるんですか⁉︎》
《第2中隊は戦闘停止状態です》
《第3から7中隊は帰還中!》
《第8は後片付け中でーす》
《はあ⁉︎》
「……い、今第8中隊までいなかったかしら」
「相当シャーレにゾッコンだったみたいだね……」
「てか藤、いつまで隠れてんの」
「いや、ちょっとアコちゃんに会うのは気が引けるというか……」
「はぁ?」
《重迫撃砲小隊も帰還のため移動中です》
《あなた達……だ、誰が帰れなんて言いましたか⁉︎ 全員命令違反で反省文です反省文!》
《いや、だって、ねぇ……》
《いやもだってもありますか!!!》
《ちょっと変わって》
《あっ、了解です。どうぞ》
《 ありがとう。アコ 》
無線の向こうでのやり取りが小さく聞こえた後、相手が変わった。
ダウナーな声。
《……え? ひ、ひ、ヒナ委員長⁉︎》
「委員長?」
「あの通話相手が?……委員長って事は、風紀委員会のトップ?」
またしてもアコが素っ頓狂な声を上げた。……反応を見るに、やはり独断でこの大戦力を動かしたようである。
《アコ、今どこ?》
《あ、えっと、そのぉ……ゲヘナ近郊の市内のあたりで、パトロールを……》
「無理があるでしょ⁉︎」
セリカのツッコミが光る。
《その、ヒナ委員長は出張だった筈では……?》
《ちょっと前に帰ってきた》
《そ、そうなんですね…その、私は、今少々立て込んでおりまして…》
《…へえ、立て込んでる? パトロールで? 珍しい。何かあったの?》
《あ、いえ…それは…》
《他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけないような事が?》
その時、風紀委員会の後方から何かが姿を現した。
もう一両の90式戦車、みかん号だ。
後ろに大型トラックと何台かのジープを連れている。
そして、みかん号の砲塔の上には、アビドスにとっては見覚えのない、そして風紀委員にとっては見慣れた姿がある。
風紀委員長
空崎ヒナ
「うわ、やば、ヒナちゃんじゃん…」
「え、何、藤知り合い?」
「ゲヘナにいた時ちょっと。おもち号で倒せるかな……」
「いや、みかん号に乗ってる時点でおかしいでしょ⁉︎ DEリーダー!ゲヘナの風紀委員長がみかん号に乗って現れた!」
《そう心配するな、把握してる。何なら増援も止めてもらったし》
「……あー、そりゃアコちゃんとヒナちゃんじゃ、みんなヒナちゃんの命令聞くわ」
《えっとぉ……ヒナ委員長、これはですね……》
「アコ、
《えっ、いやあの》
「アコ」
《………は、はい……》
「ねえ、なんか向こうの委員長すごい怒ってない…?」
「ん、修羅の顔。オーラで戦車の砲塔が歪んで見えてる」
「……いえ、あれは怒ってるというより…焦ってる?」
アコとヒナが一言二言話すと、アコはすごすごと無線を切ってしまった。どうやら本当に謹慎するらしい。
そして、ヒナがみかん号を降りてこちらに近づいて来た。
こちらからも、先生が一歩前に出る。
先生の身長は192cm、対する空崎ヒナは142cm。ちょうど50cmの差がある。側から見たらまるで親子のような身長差だが、両名からはそんな雰囲気はまるでない。
両方とも、かなり真剣な顔をしている。
ただし、先生の顔には若干怒りと呆れが混じっているし、ヒナの顔には焦りと後悔と疲れが滲んでいる。というか若干シナってる。
“……初めまして、かな。シャーレの先生だよ。詳しい状況は、古戦ヶ原さんから聞いた感じかな”
「さっき重迫撃砲小隊の様子を見に行った時に、無線を借りて少し話したわ。……その、彼の、奥さんのことも」
“そ。古戦ヶ原さんはなんて言ってたかな”
「それは…」
「『よくある事だ、気にするな』ですよ」
全員がその声の方向を向く。
古戦ヶ原だ。
「兄貴、どこ行ってたの?」
「屯地と連絡取ってた。ひとまずナダヤは大丈夫そうだ」
「ホント⁉︎ あー良かったぁ……」
DE組の空気が一気に緩んだ。
アビドスも風紀委員会も何がどうなってるのか把握できていないため、よくわかっていない顔をしているが。
“よくある事ってどういう事ですか”
先生が一歩古戦ヶ原に詰め寄る。
「どうって、文字通りですよ? Rimじゃよく───」
“何が……”
「ん?」
一歩、二歩、三歩、目の前。
流石に古戦ヶ原も先生の様子がおかしいことに気づいたのか、少し後ずさった。
しかし、それよりも早く先生が古戦ヶ原の胸倉を掴みあげた。
先ほども言ったが、先生の身長は192cm。対する古戦ヶ原は175cm。決して古戦ヶ原が小さいわけではないが、かなり見上げる形になる。
“脚の切断が、よくある事ですって……? ふざけてんの⁉︎”
「うぉうぉうぉ、ちょ、お、落ち着いて落ち着いて……!」
“落ち着いてなんていられないわよ! あなた、ナダヤさんが助け出された時どんな顔してたか知ってんの⁉︎”
「あっちょっと絞まる……!」
なんか古戦ヶ原の足が宙に浮いて来た。本格的にまずい。
「ちょ、ちょっと、先生⁉︎」
「ん、修羅場」
「言ってる場合か!ノノミさん!先生抑えて!」
「わ、分かりました!先生っ!落ち着いてください!」
藤田とノノミが介入し、2人は引き剥がされた。
「ゲッホゲッホ……な、何するんですか⁉︎」
“どうもこうもない!自分の嫁さんが脚を失ったってのに言うに事欠いて『よくある事』⁉︎ 風紀委員を慰めるにしても言い方があるでしょ⁉︎”
「言うに事欠いてって、いや、マジでよくある……」
そこまで言った古戦ヶ原は何かに気づいたのか、一旦周囲を見渡し、何かに納得したようにポンと拳を打った。
「あー……すいません、俺の考え無しでした」
“だったら…!”
「いや、あの、これ見て信じて欲しいんですけど───」
するり。
古戦ヶ原はプレートキャリアを外すと、そのままマルチカムのコンバットシャツも脱ぎ始めた。
唐突な脱衣にその場の全員が固まる。先ほどまで怒りに震えていた先生もだ。
「ッ⁉︎」
最初に声にならない声を上げたのは、彼の後ろにいた藤田だった。
古戦ヶ原の上半身。
大小様々な傷があちこちについているが、注目すべきはそこではない。
左肩の、肩口から先。
そこにあったのは、肩から一続きに繋がる人間の皮膚ではない。
金属質な、機械の腕。
「ね。Rimworldじゃよくある事なんですよ、腕とか脚の喪失って」
古戦ヶ原はそう言って笑う。
その笑みには、隠しきれない闇が見えた。
先生は先生として中途半端だし、古戦ヶ原は『日本人』か『Rimworld人』か中途半端だし、ゲヘナシロモップは原作よりかなり早くゲヘナシナシナシロモップになるし、なんだこの…なんだ⁉︎なんなのだこれは⁉︎