Rimworld入植者(脱出済)のキヴォトス日記 作:運輸省
「それで、本題というのは?」
牛丼の事を記録し終えたらしいミドが、ずいっとこちらに顔を近づけて来た。うおっいい匂い。
「あ、ああ。実は───」
「いや、待った。当ててみせよう」
ビシッと、黒のサテンに包まれた手のひらを向けてくる。
「───“笛吹き男”、だね?」
「……なぜそうだと?」
「いや何、数日前のD.U.での騒ぎはすでにこちらの耳にも入っていてね。公式発表には含まれていないが、ヴァルキューレと共同して“笛吹き男”の拠点にカチコミを掛けた民間人がいたらしいじゃないか。ヴァルキューレも持ってないような謎の装甲車に乗ったという、ね? おや、そういえば、DEGの輸送部門だったかな、アレと同型と思われる装甲車を運用していなかったかな?」
「……敵わねえな全く……そちらの言う通りだ。“笛吹き男”の情報が欲しい」
「ふんふん、どんな情報かな? 組織規模、拠点、事業に関する事───」
「全部だ」
「……ほう?」
「情報を、あるだけ全部」
──────
───
数時間後
「いやあ……凄かったねぇ」
DEGの2人を見送った情報屋、ミドは、そばに積んだメモ用紙を見ながら、絞り出すようにそう口にした。
「一攫千金と吹っかけてはみたが……この分じゃあとどれだけ情報が出てくるか分からないな。ハハハ、“
特に凄いのが、“笛吹き男”の拠点の数と場所の対価として要求した───『燃料について』。
「はあ……信じられるかい?。 『収穫の際に発生する“干し草”*1を燃料精製器なる機械に突っ込んでこねこねすると、あらゆる機器に使用できる万能燃料が出来上がる』って。もしこれが市場に出回ったらキヴォトスの経済は破壊されるんじゃないか?」
「……嘘を言っているとは考えないのか?」
DEGの2人が出て行ってからはミドの側に立っていたハイが、怪訝そうに眉を顰めてそう問いかけてくる。
「いやあ、もしあの場面で嘘がつけるとしたら相当な役者だよ、あの社長は。ねえ“課長”、その辺どうなんだい?」
ミドが部屋の奥に呼びかけると、奥の扉からぬっとオートマタが顔を出した。
「自給してるのは間違いないと思う。ウチで見張ってた時も、燃料関係の輸送隊が来た形跡は一切無かったからな。あの時はカイザーが把握してない地下パイプラインでもあるのかと思ってたが……草から戦車を動かす燃料ができる、なんて想像できっかよ。こりゃカイザー辞めて正解だったな」
「へえ、天下のカイザー情報部の課長がそこまで言うとは!」
「うるせえやい。あと“元”課長だ」
そう、三滝堂ゼンリ───“主任ちゃん”の上司である課長、そしてこの場にはいないがジョージ、ジョナサン、ジョセフといった元カイザーPMC情報部アビドス方面課の面々は、色々な事情で情報屋“黒鼠”に身を寄せていた。
「ま、アイツが楽しそうに働いてるのが見れただけ良しとするか」
黒鼠のお使いでブラックマーケットに散っているJ3人衆に「今主任来たわ」とモモトークを送る課長の顔は、娘か孫を見るような優しいものだった。
──────
───
ブラックマーケット最寄りの駅前
メトロ・マーケットを後にした古戦ヶ原と三滝堂は、アビドスへと戻るため待ち合わせ場所の駅前に来ていた。
古戦ヶ原の手には、つい先ほど目の前の牛丼チェーン店で買ったテイクアウトの牛丼が入ったレジ袋が握られている。
「いやぁ……凄かったな。知りたかった事大体わかっちまった」
「“黒鼠”がキヴォトス一の情報屋と言われる所以ですよ。彼女ら、どんな些細な情報でも取り扱ってますからね、ユーザーの痒いところに手が届くというか」
「ほーん。前カイザーでウチを襲撃した時もあそこを使ったのか?」
「……その、社長とナダヤ婦人についての情報を少々。言わせないで下さいよ恥ずかしい」
およそ数時間に渡って黒鼠とみっちり情報の交換を行った結果得られたのは、組織規模、拠点の数と場所、どういう事業にどういうふうに携わっているのか、幹部陣の情報等々。まあ出るわ出るわ。
「(咳払い)……ひとまず纏めましょうか」
そう言った三滝堂が電子メモを取り出し、得た情報を次々と書き記していく。
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・名称はそのまま“笛吹き男”、由来は不明。
・本拠地はブラックマーケットにあり、支部と呼ばれる拠点が三大高を始めとした都市部に数ヶ所。
・メインの事業は人身売買、各拠点で拉致した生徒や市民を人体実験等違法な実験を行う企業などに高額で売り渡している。
・幹部らしい幹部は無し、ほぼリーダーのワンマン組織
──────────────────────
「……という感じですかね。拠点に関しては情報部の方で裏付けをしておきますが」
「それで頼む。んで、その由来のとこなんだが、何となく予想はつく」
「そうなんですか?」
「ああ。つってもキヴォトスの外のおとぎ話だから合ってるか知らねえけど」
“ハーメルンの笛吹き男”
1284年、ドイツの街ハーメルンにて起こったとされる出来事である。
雑に要約すると、『街から『ネズミ退治したら金貨あげるやで』という約束を反故にされた笛吹きの男が、街の子供達のほとんどを連れ去って消えた』という感じ。グリム童話で有名なグリム兄弟など複数の者達によって伝承され、現代まで受け継がれている話だ。
……という内容を三滝堂に話す。
「なるほど、『子供を連れ去る』という部分が合致すると?」
「ああ。ま、実際は市民も連れ去られてるらしいって話だから、違うだろうけどな」
迎えに呼んでいた輸送部門のM-ATVが見えたので、よっこいせと立ち上がる。
「それで、情報は得ましたがこれからどうするんですか? 根回しとは聞いてますが、誰に対してです?」
「ん? そらあお前さん、いずれは本拠地でドンパチする予定なんだから、ブラックマーケットのお歴々に対しての根回しだよ」
「…………はい?」
──────
───
後日
ブラックマーケット中心部
『ホテル・ペテルブルク』
古戦ヶ原 哲郎
三滝堂 ゼンリ
後日、再びブラックマーケットにやってきた2人が訪れたのは、ブラックマーケットの中心部にある高層ビル。
エントランスの両脇には、マーケットガードとも違う屈強なオートマタが仁王立ちして周囲を威圧している。
ここは、ブラックマーケット三大マフィアの一つに数えられるマフィア『ホテル・ペテルブルク』の本拠地である。
「……ほ、本当に行くんですか?」
若干古戦ヶ原の背に隠れた三滝堂が、少し声を震わせながらそう言ってきた。マフィアに苦手意識でもあるのか、オートマタと目線が合うたびにビクッと体を震わせている。
「そりゃ行くよ、アポだって取ってんだから」
「絶対難癖つけられますって……なんだってブラックマーケットの支配者と言ってもいい三大マフィアのボスにお目通りする事になるんですか」
「お前なぁ、こういうのは言っとくのと黙っとくのじゃ印象が全然違うんだよ。ほら行くど^〜」
「うぅ……お腹痛い……」
嫌がる三滝堂の首根っこを掴み、ずるずると引きずってエントランスへ。
既に話は通っていたのか、入り口両脇のオートマタはこちらを一瞥するだけで止められたりはしなかった。
そのまま受付へ向かい、アポを取っていた者だと告げる。
「では、こちらへどうぞ」
受付のオートマタに連れられ、エレベーターに乗ってそのまま最上階へ。
……エレベーターから降りたあたりでいよいよ三滝堂の様子がおかしくなってきた。顔色は真っ青で、脂汗がダバーッと垂れているのが見える。
先導のオートマタに聞こえないよう小声で、三滝堂に大丈夫かと問う。
「……お前本当にどうした? 苦手意識とかそういうレベルじゃねえだろ」
「い、いえその……以前カイザーPMCにいた時に、こことちょっとした因縁が……」
「おまっ、なんでもっと早く言わなかった!?」
「言い出すタイミングが無かったですし……腐っても情報部門のリーダーを任せて頂いてるんです、逃げられる訳、無いじゃないですか……!」
「肩肘張ってんなぁ……もっと気楽に行こうぜ気楽に」
「それができたら苦労はしないんですよ……」
先導していたオートマタがある扉の前で立ち止まり、扉を静かにノック。
扉の向こうと一言二言やりとりした後、オートマタは脇にはけた。自分でこの扉を開けろ、との事なのだろう。
「あークソ、そうだな……仕方ねえ、俺の後ろに隠れて空気になってろ。なんとかするから」
「あっ、はい……すいません……」
三滝堂が後ろに入ったのを確認してから息を一つ。
扉を開ける。
中は、社長室のようなイメージの内装だった。
両脇には書類やファイルなどがぎっしりと詰まった木製の棚。入ってすぐの正面には、明らかに高級そうなソファが一対とローテーブル、その奥にこれまた重厚なデスク。
そこに、目的の人物が座っていた。
『ホテル・ペテルブルク』頭目、“ドムラ”の名を持つツンドラオオカミの女幹部。『ホテル・ペテルブルク』の最高幹部と言ってもいい“やり手”である。
「ようこそ、ミスター・カオス。お初にお目にかかる」
「こちらこそ、ミス・ドムラ。デザートエッジ・グループの古戦ヶ原と申します。以後お見知り置きを」
『
顎で目の前のソファを指されたため、完全に怯え切ってしまっている三滝堂を隣に座らせて自分もソファへ。
ドムラはデスクから立ち上がり、棚から何かの瓶とグラスを2つ取り出して、反対側のソファに座った。
「酒は行ける口か?」
こちらに問うような言葉を出してはいるが、その手は既にグラスに瓶の中身を注いでいる。質問の意味。
「いやあ、なにぶん若造ですので。飲み方なんかは未だ手探りです。その上、ここキヴォトスじゃ酒の入手も一苦労ですから」
「ほう、では舌が肥えてしまうかもな……キヴォトスの外から仕入れた最高級品だ。これはロックが一番美味い」
差し出されたグラスを受け取る。
色は、透き通るような無色透明。その代わり、上品でスパイシーな香りが鼻をくすぐる。
思い切ってグイッと一飲み。
「つっっっっっっっっっっっよ!!!???」
「社長!!??」
「アッハハハハ!思い切りが良いじゃないか!」
飲み込んだ瞬間、心地よい甘味と溢れるようなアルコール。一気に体温が上がった気がする。
「う、うおおおおお……これは、なかなか……」
「もう一杯行くかい?」
「あっいえすいません勘弁してください帰れなくなります」
確実に失礼だとは思うが素直に頭を下げる。
これはいわゆるウォッカというやつなのでは……? アレアルコール何度あったっけ……?*2
「残念だが、まあ仕方ない。本題に入ろう。“笛吹き男”の連中についての話、だったね?」
「え、ええ。詳しい日にちは未定ですが、我が社では近日笛吹き男の拠点への襲撃を計画しています。その拠点というのがブラックマーケット内に存在するとの情報を得たので、ブラックマーケットの支配者たるミス・ドムラには───」
そこまで言ったところで、ミス・ドムラが右手に持っていたグラスを少し強めにテーブルに置いた。
「まどろっこしい前置きはいい。要件だけ言え」
「……これは失礼。───笛吹き男のクソ野郎共はウチで叩き潰しますんで、皆様方には手出しをしないでいただきたい」
「うん、それでいい。他のとこならいざ知らず、私に対しては最初のような世辞は不要だ。いいな?」
「ありがとうございます。勉強になります」
「さて、手出し無用との事だったが……まあそちらがそういう考えなら、ホテル・ペテルブルクは静観の構えを取ろう。だが……」
「……? だが?」
「『援助の用意がある』、と言ったらどうする?」
ミス・ドムラが立ち上がり、デスクの上に置かれていた書類の束をこちらに渡してくる。ざっと目を通してみると、どうやら『ホテル・ペテルブルク』がすぐにこちらに供与できる物品や情報の一覧らしかった。
武器弾薬が自給できるのは知っているのか、載っているのは“笛吹き男”の協力者の概要や、“笛吹き男”の取引先の一部等、情報系が中心になっている。
「……理由をお伺いしても?」
「必要か?」
「ええ。“
そう言うと、ミス・ドムラは感心したような顔つきになり、ほう、と一言言って顎を手で撫でた。
「……いい目をするじゃないか。戦争の経験が?」
「以前いた場所で、戦争の紛いごとのような事は」
「ふふ、そうかそうか。……一つ、訂正しておこう。先程君は私からの提案を“理由なき好意”と称したが、それは誤りだ。こちらには、君に好意を向ける理由がある」
「……よろしければ、ご教授いただいても?」
「君の二つ名だよ、ミスターカオス。市場の混乱、というのは二面性があってな。一つは、混乱の影響をモロに被って損失を被った馬鹿者。さて、じゃあもう一つはなんだと思う?
指名された三滝堂が一際大きく体を震わせる。
「……『ホテル・ペテルブルク』のように、市場の混乱に乗じて他組織の販売ルートなどを手に入れた商売上手達、でしょう?」
「正解だ。ふむ、やはり君は優秀だ。以前、この場所でカイザーの制服を着た君と相対した時よりも成長している。未だ私に怯え切っているのは……まあしょうがないが」
「うぅ……」
「……失礼でなければお聞かせ願いたいんですが、ミス・ドムラはウチの三滝堂と以前会ったことが?」
そう問われたミス・ドムラはキョトンとした顔でこちらを見つめてきた。
「なんだ、本人から聞いていないのか?」
「ホテル・ペテルブルクと関係があった、というのもついさっき聞いたばかりでして」
「ふむ、そうか。いや何、大した話じゃない。以前、カイザーPMCがウチのシマでヘマをやらかした事があってな、庇護下にあった“店”がいくつか無反動砲で吹き飛ばされた。その後“色々”あって示談交渉に1人送り込まれてきたのが、三滝堂君という訳だ」
「……1人で?」
「ああ、1人で。カイザーの内部事情までは知らないが、まあ“生贄”だったんじゃないか? それを察するのが遅れて、私含めた同志総勢でソファに座っていた三滝堂君を威圧してしまってな……」
「ああ、道理で…」
「本当にトラウマになってるんですからね……示談交渉なんて物じゃないですよアレ、ほぼ『敗戦処理』でした」
「敗戦処理ぼっちでやらされるのは嫌だなぁ……」
「いやぁ、悪かったとは思っている。あの時カイザーPMCに非があったのは確かだから謝らないが」
「それについては全面的に同意しますけど謝っては欲しいです」
「断る」
「ぐぬぬ」
思っていたより仲は悪くなさそうだ(節穴)
「それでミス・ドムラ。笛吹き男の件は…?」
「ああ。静観して欲しいとの要望は承った。断る理由もない上、奴らの態度は……最近、目に余るしな」
「ありがとうございます」
「だが……こちらの中でも対笛吹き男派の同志というのは一定数いてな、もしかしたら───そちらの襲撃に“たまたま”居合わせた同志が“たまたま”加勢してしまう事はあるかもしれない。そこは気にしないでくれ」
「───なるほど、“たまたま”なら仕方ないですね。ええ、気にしないでおきましょう。ふふふ……」
「ふふふ……」
「わ、悪い大人達だ……」
Tips:
『ペテルブルク』はロシア第二の都市、『サンクトペテルブルク』から。
『ドムラ』はロシアの弦楽器。