Rimworld入植者(脱出済)のキヴォトス日記 作:運輸省
カタカタヘルメット団の拠点に到着する頃には、すっかり日も暮れていた。アビドス地域広すぎ問題。
「(^q^)ヤツラガウゴイテイルゾ」
日も暮れているというのになぜ上空のヘリからカタカタの動きが見えるのか?
なぜなら、
拠点が跡形もなく吹き飛び
ひとまず、拠点を見下ろせる位置に建っていた高層ビルの屋上にヘリを降ろし、偵察を行う。
本当なら、拠点に潜り込んで書類やら何やら調べ事をしたかったのだが、あそこまで団員が残っているとなるとちょっとどうしようもない。見た感じ30人以上はいるし、対するこっちは俺含めても6名だ。全身義体化した格闘20以上の化け物入植者なら対処できるだろうが。
「アビドスの連中、派手にぶっ飛ばしたなぁ……元は何の建物だったんだ?」
双眼鏡を覗きながらほへ〜、と声を上げた俺の疑問に、立道が答えた。
「この付近の集会所というか、コミュニティセンターみたいな建物だったみたいです」
「建物も丈夫でさ、中に調理室も和室もあったんだよ」
「失ったのが今でも惜しいくらいにね。許さんぞ陸八魔アル……!」
「誰、ですかそれ……?」
「ゲヘナにいた時やたら周りから恨まれてた後輩の名前」
今の会話は田んぼ三姉妹である。
元ゲヘナ生の藤田によれば、地球でもたびたびSNSで言われてた『許さんぞ陸八魔アル』ミームはキヴォトスでも健在らしい。やべえな?
「……お兄さん、ちょっとあれ見てください。カタカタの人達、何か掘り出そうとしてませんか?」
「何?」
ちゃんと双眼鏡で偵察を続けていた立道から言われ、再び双眼鏡を覗く。
……確かに、言われてみると何かを掘り出そうとしている動きに見える。
「なんだろアレ……? うわ、ショベルカー出てきた」
「あ、あれ、カイザーインダストリーの最新型⁉︎何でカタカタがあんなの持ってんの⁉︎」
「知っているのか山ちゃん⁉︎」
「何よ藤その言い方……?」
重機オタクという唐突なカミングアウトを挟んできた山田によると、
・つい最近カイザーインダストリーが発表した正真正銘の最新型
・新たに開発した新世代エンジンを搭載し、連邦生徒会の排ガス規制も難なくクリア
・キヴォトス内の販売機種においては初となる一般建機用周囲監視システムを搭載
・しかもIDキーを使用した個人認証もうんぬんかんぬん
まあここはぶっちゃけ蛇足なので省く。
気づいたら解説にかれこれ30分近くも費やしやがった。と、とんでもねえオタク……*1
「でもさぁ山ちゃん、カイザーのショベルカーとかブルドーザーって、車体のどっかにでっかくカイザーのマーク付けてなかった? あれ付けてないよ?」
「付けてない……っていうより、塗りつぶしてる…みたい?」
「うーん、そうなのよね。重機界隈の流行を常に注視してる私の目は誤魔化せなかったけど、どうして隠しちゃったのかしら」
「『重機界隈の流行』って言葉初めて聞いたな……?」
「皆さん、ちょっとお静かに。何か出てきます」
すっかりまとめ役ポジションについた立道が会話を止める。
「ありゃあ……なんだ、鉄扉?」
「と、いうよりはバンカーの扉のようですね? でも、私達がいた時にはあんな物なかった筈……?」
「うん、確かあのあたりにこたつ号を停めてた筈だから分かるけど、あんなデカいの無かったよ」
「……それだと、カタカタが自分達で作ったって事になるぞ」
バンカー。またの名を掩蔽壕とか掩体壕とか言ったり。細かいことまでは知らないが、まあ少なくとも不良生徒の集まりが作れるような代物ではない。
疑問に思っている間もカタカタの作業は続き、遂に鉄扉が開き始めた。
「お? 何か出てくるよ」
それは、かつて連合軍を苦しめた傑作砲。
本来の使用用途である対空戦闘もさることながら、対戦車戦闘や対陣地攻撃にも威力を発揮。
特に、対戦車能力は強大で、実際にこの砲の攻撃を受けて捕虜となった英軍戦車兵は尋問の際にこう述べたと言う。
「高射砲で戦車を撃つのは卑怯ですな」
と。
「
「う、嘘……?」
「な、何よ……カタカタの連中あんなの持ってたの…⁉︎」
「(^q^)ワァー!」
「ねえ石ちゃん、ウチの
「えっと、控えめに言って“死”?」
「せーかい……!」
田んぼ三姉妹や立道の反応を見る限り、銃火器が広く普及しているキヴォトスでもあのサイズの火砲は普通ではないらしい。
いや、アレは俺から見ても普通ではない。
あの下の装軌式車両はどこから持ってきた? アレ単体ならともかく、自走化されてるとなるとマジで今の装備では太刀打ちできないぞ。
……ウチのコロニーにいたロン刀と血が大好きな狐耳女暗殺者なら行けるか…? メカノイド斬ってたし……
「ムツリ、スマホであれの写真撮ってくれ。ちょっとアビドスの連中に相談しとかないとマズい」
「(^q^)ワカリマシタ!」
「スマホの望遠で撮れますかね?」
「ないよりはマシってぐらいじゃないか。キヴォトスのスマホの望遠事情は知らんから何とも言えんが」
「ど、どうする兄貴、あいつやっちゃう?」
「バカ。対戦車火器1つも持ってきてねえのにあんなの相手してられっかよ……さっさと逃げるぞ」
ヘリの方に向かおうと立ち上がり───その時である。
パシャリ、という音ともに、視界の端で閃光が走った。
「ん?」
「(^q^)……」
ムツリが、カメラを構えたまま固まっていた。
「お、お前まさかとは思うが……フラッシュ焚いた?」
「(^q^)……」
「お兄さん、ま、マズイです。なんか気づかれたっぽい───」
「兄貴ぃ!!アハトアハトがこっち向いてる!!」
「逃げろぉ!!!!」
手の届く範囲にいたムツリと立道を引っ掴み、ビルの端から内側へ離れるように跳ぶ。
次の瞬間、大きな爆音と共にビルの端が吹っ飛んだ。
爆音による耳鳴りがひどい。
パラパラと飛んでくるコンクリート片が痛い。
しかし、生きている。
「そっちは無事かぁ⁉︎」
「大丈夫!みんな生きてる!」
田んぼ三姉妹の方は俺と同じような感じで、藤田が残りの石田と山田を引っ掴んで跳んだらしい。
その石田と山田は気を失っているようだが、大きな外傷は見えない。
あと、こっちはこっちで立道が気絶している。ムツリはなんかじたばたしてる。
「俺ァ頼れる年長者ってのは好きだぞ藤田ァ!よくやった!」
「こちとら混沌と自由のゲヘナ出身だよ⁉︎ こんなんでへばってられるかっての!んでどうする⁉︎」
「逃げる!!!ムツリィ!反省は後だ、エンジン回せぇ!」
「(^q^)テッターイ!」
ムツリが跳び上がり、くじら号の方に駆けていくのを見て、ようやっと身体を起こす。
よし、俺も大きな外傷はない。擦り傷ぐらいだ。
そこで2発目の8.8cm。
他のカタカタも撃ち始めたのか、銃弾やらロケット弾やらがやたらめったら飛んでくる。
慌てて身を低くし、ヘリに逃げる。
機体横のスライド扉を開けたところで、ようやくローターが回り始めた。
「兄貴!ごめん手伝って!」
立道を機内に押し込んで、そのまま石田と山田も引っ張り上げる。
そして後は藤田を収容し、俺も操縦席に乗り込むだけ───
ぐらり
嫌な振動を感じた。
「───マズイマズイマズイ!!!ムツリィ!!出力上げろ!!!
崩れるぞ!!!」
俺の言葉の通り、8.8cmが着弾した方向から一斉にヒビが屋上に走るのが見えた。
次いで、まだ浮きすらしていない筈のくじら号が傾く。───いや、屋上自体が傾いているのだ。
傾きは加速度的に大きくなっていく。
「うわわわわわわ!!??」
「藤田ァ⁉︎ うぉっ⁉︎」
機内から落ちそうになった藤田の手を掴む。片手は藤田、片手はミニガンのマウントを。
「ひっ、ちょっ、これマズッ…!」
「は、な、す、な、よぉ……!」
傾きが限界に達し、機体が屋上を滑り始めるのと、機体がようやく浮き始めるのはほぼ同時だった。
「(^q^)リリクー!」
俺には、ムツリの事を責める資格はない。
写真の件だって、こんなに暗かったらスマホが自動的にフラッシュを焚くことは予想できた筈だ。
その後だって、ムツリは必死にエンジンを始動させた。いくらヘリが操縦できるからと言って、くじら号、UH-1Yを操縦し始めてまだ1日と経っていない物をだ。
そして、傾いた屋上に逆らわずにそのままエンジン出力を上げたのも。
あそこで下手に水平を保とうとしていたら、ビルの何かに引っかかってそのまま地上に真っ逆さまだった筈だ。
そう、誰も悪くない。
傾いた屋上に逆らわずに上昇を開始したくじら号。
『傾いた』とは、詳しく言うと、8.8cmが撃ち込まれた方向、要は拠点方向に傾いた。
───そう、8.8cm高射砲と、大小様々な銃火器を持ったヘルメット団が屯する、拠点方向に飛び上がったのである。
くじら号は、瞬く間に銃火の下に晒された。
「ふんぬぬぬぬぉおおおおおお!!??」
機体に着弾した火花、8.8cm砲弾の炸裂、ロケット弾の火線、様々な攻撃にさらされながら、どうにか藤田を機内に引っ張り上げた。
そのまま機体ドアを思い切り閉める。
「おおおおおお兄さん!!??一体なんですかこれは⁉︎」
立道が目を覚ました。
「席に座ってシートベルト締めろ!他の奴のも締めてやれ!」
「は、はい!」
席と席の間から操縦席に入ってやっと気づいたが、操縦コンソールが火花を上げ、警報やらアラームやらがなんか大変なことになっている。
「よく立て直した!操縦変わる!アイハブ!」
「(^q^)ユーハブ!」
ムツリから操縦権を受け取り───
その瞬間、機体の右側、ムツリ側で砲弾が炸裂した。
激しく揺れる機体。
エンジンから響く異音。
何かがガラスを突き破る音と───不自然に弾かれたムツリの頭。
ムツリはそのまま、ぐったりと動かなくなった。
「───っ、後ろぉ!掴まってろ!荒めに行くぞ!!」
それからは、もうどう操縦したのかよく覚えていない。
ただ、機体のすぐ下を高速で流れていくアビドスの住宅街だけは覚えている。
負傷者多数、機体はボロボロ。すぐにでも緊急着陸を試みたいが、近場だとカタカタヘルメット団に捕捉される恐れがある。
地理を把握できていて、カタカタの拠点からある程度距離があって、十分に広さのある土地。
考える時間はなかった。
──────
───
「うへぇ、ここもボロボロだぁ」
カタカタヘルメット団を追い返し、先生の助言でカタカタヘルメット団の拠点を吹っ飛ばし、先生に借金の事を打ち明け、セリカがキレた日の夜。
たまたま、本当にたまたまではあるが、ホシノはこの日、夜警ではなく校舎の掃除をしていた。
カタカタヘルメット団の襲撃によって割れたガラス片や、壁の破片を箒とちりとりで丁寧に拾っていく。
そうしているうちに、対策委員会で使っている教室にまでやってきていた。
「……」
ふと思い立って、箒とちりとりをその辺に置き、窓際に椅子を持ってきて座る。
校舎に一人
夢もどき
……突然一句詠んでしまうぐらいには、今、ホシノの思考はとっ散らかっていた。
「お兄さん、かぁ」
まさか、自分がそんな言葉を言うことになるとは思ってもいなかった。
夢、そう、夢だ。
アビドスを立て直す事も、借金を返済する事も、全部が全部、夢のように絶望的だ。
しかし、あの青年は。
『何? 『あまりにも絶望的な状況に立たされたらどうする』? どうした急に』
『お兄さんが言うには、リムワールドってそういう事が容易にある星だったんでしょ? そういう時ってどうしたのか、おじさんに教えて欲しいなぁって』
『あー……そうさな、こんなのはどうだ』
生きてるなら笑え
『ま、俺が言ったんじゃなくて、Rimworldとはまた違う星*2にいた技師が残した言葉なんだがな。絶望的な状況がなんだ、生きてるなら笑え、笑い飛ばしてやれ』
『……意見の一つとして聞いておくよ〜』
『聞いてきた奴の態度かそれが』
頭をわしゃわしゃしながら、はにかむように笑った彼の顔が、脳裏に焼き付いて離れない。
「どうしちゃったんだろうなぁ、私」
少なくとも、17年間生きてきた中でこんな気持ちになったのは初めてである。
苦しいような、はたまた心地よいような、そんな矛盾した感じ。
ホシノの思考は、そんな感じでぐるぐるしていた。
その流れを断ち切ったのは、ふと視界に入った光だった。
「ん?」
住宅のすぐ上を、赤っぽい光がふらふらと揺れながら飛んでいる。
───いや、こちらに飛んできている?
まさか、アビドス周辺を飛ぶ航空機なんて……
「……くじら号?」
《メーデーメーデーメーデー、こちらくじら号、こちらくじら号。本機はこれよりエンジントラブルにつきアビドス高校に不時着を試みる。誰か聞いてたら消防と救急を頼む》
背後に置いてあった無線機から、聞き慣れた、声が、聞こえてきた。
頭で考える間もなく、無線に飛びつく。
「お兄さん!お兄さん⁉︎大丈夫なの⁉︎」
《その声はホシノか⁉︎ すまん!事情は後で話すからちょっと後始末頼んだ!!!もうエンジンが保たな───》
ボン、と上空で爆発音。
見上げると、すぐそこまで近づいてきていたくじら号が、くるくると回り始めた。
《うんぬぬぬぬぬおおおおおおお!!!!クソッタレがあああああああああ!!!!!!!!!!》
制御不能に陥った筈のくじら号は、偶然か、男の根性の結果か、機体をあちこちにぶつけながらも、アビドス高校のグラウンドに滑り込み───
横転して、停止した。
すぐにホシノが駆け出したのは、言うまでもない。
文中に突然入ってきた俳句は昨日プレ○トを見たが故の投稿者の気の迷いなので気にしないでください。