Rimworld入植者(脱出済)のキヴォトス日記 作:運輸省
これは、まだRimworldにいた頃の話である。
XX日前 Rimworld
南マーロ遭難者組合 研究室
俺専用の宇宙船の建造も進み、反応炉の起動に際しての15日作戦も無事完遂。後は、俺の身支度と後始末、そして引き継ぎをするだけとなっていた。
「……ん、航路計算もバッチリ。これで太陽系第3惑星までひとっ飛び」
「サンキュー《 》。……結局、研究分野はお前に頼りっぱなしだったなぁ」
「気にしてない。むしろ本職」
コイツの元職は研究者。専門分野は行動学がどうこうのとか言ってたが、結局詳しく聞いたことはなかったなぁ、と今でも後悔している。
「……でも、本当にいいの? あなたは、今のままでも十分やっていけてるのに」
「やっぱなぁ、魂の居場所っていうのかな。ここも随分マシになったが、骨を埋めるにはやっぱ違うんだよ」
「……そう」
シュマグを被った彼女は、そう言うと研究の作業に戻った。
「あ、でも一つだけ言わせて」
研究室から出て行こうとした時、背後から声をかけられた。
「なんだ?」
「
「───ははぁ、そういう感じの展開ね。理解理解」
手を掛けようとしていたドアがふっと無くなり、代わりに、まばゆい光が差し込む。
その先に行けば、きっと現実───キヴォトスに戻れるのだろうという確信がある。
「じゃあな、《 》。これからもお前らの───南マーロ遭難者組合の事は忘れないよ」
「あ、大丈夫。地の文の『XX日前』って設定は無駄になっちゃうけど、それとは関係なしに伝えなきゃいけないことがあるだけだから」
「……ん?」
なんか流れ変わったな?
「あなた、早く通信アンテナを
「えっ、あの、それはどういう───」
「……こんな目覚め方ある?」
目に入ってきたのは、見知らぬ白い天井。病院。
鼻をつくのは、消毒液の匂い。
耳に入るのは、何かの電子音と、人の往来の音。
そして───左手に、人の温もり。
軋む体に顔を顰めながらその方を向くと、ピンク色のアホ毛が目に入った。
小鳥遊ホシノが、ベッドの側で眠っていた。
ヘイローが出ていないのを見るに、マジ寝をかましているのだろう。
「あー……何日寝てたかなこりゃ。いっててて……」
時間としては……夜。
めっちゃ夜。
もう日付変わりそうだよ。こういうのって普通午前中とか日中に目覚めるものじゃないの⁉︎
「んぅ……」
「お、おはようホシノ」
「んぇ……? っ⁉︎ お兄さん……っ!!」
ガバッと起き上がったホシノがこちらに抱きついてくる。
「おーおーよしよし、すまんな、こんな遅い時間まで……あの、ホシノさん?」
何やら胸の中のホシノの様子がおかしいので、耳を澄ましてみると、何やら鼻を啜る音と水音のような───
「……悪かったなぁ、心配かけて」
それについて追求するのは酷ってものだろう。
──────
───
結局ホシノが落ち着くまでしばらくかかった為、それを待ってから情報交換を行った。
ホシノ曰く、アビドス側としてそれほど進展があるわけではないが、あの後───くじら号でアビドス組を送り届けた後、疲弊したカタカタヘルメット団を拠点から追払い、先生の助言から、拠点を爆薬で吹っ飛ばした事。
その後、ちょっと事情があってセリカがキレたりしたが、今日セリカのバイト先に先生含めてみんなで行ったこと等々。
日常してんなぁ、というのがまず感想。
ストーリーの事は詳しく知らないが、ラーメン屋らしい内装のあのスチルは知っている。シロコorノノミ。
……全くもって余談だが、俺だったら迷わずノノミを選ぶ。理由は黙秘。だって俺先生じゃないし……
というのはさておき、こちらからも情報を共有する。
「まずさ、俺らその吹っ飛ばされた拠点に行ってたんだよ」
「えっ、なんで?」
「ウチのだらだらヘルメット団が最初来たのってさ、別のヘルメット団に襲われて拠点を放棄、そして俺のとこに泣きついてきたってのは前話したけど、どうもその『別のヘルメット団』ってのがカタカタで、『放棄された拠点』ってのが今回吹っ飛ばされたとこみたいなんだよ」
「……そんなことある?」
「俺も正直びっくりしてる。で、その襲われた状況に不可解な点があって、それを確かめるためにな」
「うへ〜……その不可解な点っていうのは?」
「襲撃の時刻は午前3時前、夜襲だったそうだ。双方明かりも無し。この状況で、だらだらヘルメット団は敗走した。完膚なきまでに叩きのめされてな」
「……『どうやって暗闇の中、視界を確保していたのか?』」
「そういう事。俺の取り越し苦労ならいいんだが、と思って調べに行ったんだ」
「……その結果、戻ってきたカタカタヘルメット団と鉢合わせになって?」
「ちょっと違う。カタカタヘルメット団が戻ってきてたのは遠くからでも確認できてたから、早々に乗り込むのはやめて偵察に徹してたんだ。そしたら───奴が出てきた。8.8cmだよ」
「……高射砲? まさか」
「くじら号の状態は確認してないか? 日中見たのとは比べもんにならないぐらいボロッカスだったろ。直撃こそどうにか避けたが、至近弾だけでアレだ。ま、他にも銃弾やらの被弾もあるけどな」
──────
───
その後、通りかかった看護師に発見され、医者やらなんやらがいっぱいやってきて、検査やら何やらでてんやわんやに。
「目が覚めたら呼んでください!!」ってやたら怒られた。そ、そこまで怒らなくたって……
「はあ、とりあえず。後遺症も無いようですので、あと1日様子を見て退院でしょうな」
柴犬お爺ちゃんの医者が検査の結果が書かれた紙を見ながらそう俺に伝えた。
「すいません、ウチにもある程度医療設備はありますんで、明日の朝にでも退院って事にはできませんか。ウチの子らに心配をかけてしまっているもんで」
「おや、もしやご同業の方でしたか?」
「本職は違いますが、心得があるって感じですわ」*1
「ふむ……そうですね、そういう事でしたら」
意外と緩くて助かるぜこの病院。
時間的には1日も経っていなかったが、それはそれとして心配な物は心配なのである。
……ちなみに、一緒にくじら号に乗っていたムツリ、立道、藤田、石田、山田は搬送時点で意識があった為、検査と治療だけして帰って行ったらしい。ムツリとかあいつ砲弾片頭に直撃してた筈なんだけどなぁ、キヴォトス人の回復力ってすげえや。
そんな事を考えていると、突然スマホが鳴った。
俺はまだキヴォトスのスマホを持っていないので、もちろん俺じゃない。そして、さすがに目の前にいる柴犬お爺ちゃん医師でもないだろう。
「うへ、おじさんのだ」
「周りに他の患者さんは入ってませんけど、一応病院内はマナーモードにしてくださいね。もうしょうがないんで出てもらってもいいですけど」
「ありがとうございます。えっと……あれ、アヤネちゃんだ。どうしたんだろこんな時間に」
そう、目の前にホシノがいる事で認識がバグりそうになるが、そもそも今は日付すら周って00:30である。
ホシノは首を傾げながら、廊下に出て行った。
「……あの、ここって結構大きい病院ですよね。周りに他の患者が入ってないってどういう事です?」
「過疎化ですよ。病院だけは昔の名残で大きいままですが、人員の規模とやってくる患者さんの数だけ見れば田舎の診療所以下です。一応、今現在のアビドス唯一の基幹病院なんですがね」
「そ、そんなにですか」
あまりにも短い会話はそこで途切れた。
真剣な表情のホシノが病室に戻ってきたからである。
「……どしたホシノ。顔怖えぞ」
「……セリカちゃんが、まだ家に帰ってないみたいなんだ」
「セリカ……ああ、昼間にムツリと走り回ってた娘」
「うん。バイトは定時で上がったみたいなんだけど、そこからの消息が途切れてる。今すぐ学校に戻らなきゃいけない」
「そっか……なあ、柴犬先生」
「はい?──────はあ、後日また検査に来てください。それで手を打ちましょう」
「へへ、話の分かる先生は好きだよ」
「?」
「ちょっと先に行っててくれ。すぐ追いつく」
「ナース、502号室の患者さんの衣服を持ってきてくれ。あと貴重品と銃火器もだ」
よく分かって無さそうな顔をしたホシノが病室から出ていくのと入れ替わりに、色々と俺の荷物を持ったナースの人が入ってきた。
「これで全部です、先生」
「ありがとう、さ、古戦ヶ原さん」
「マジでありがとう先生。助かる」
病衣を脱ぎ脱ぎして、元々着ていた衣服を着直す。……随分とボロボロになってしまっている、後で補修しなきゃな。
「……そういえばお話ししていませんでしたが」
「なんです?」
「私、ここの院長なんですよ」
「えっ、あ、そうだったんスか?」
唐突な柴犬お爺ちゃんからのカミングアウト。言われてみればそれらしい貫禄が…………あるかな? 柴犬だしな……
「とは言っても、残ってる医師6名がじゃんけんして、ドベだった私が押し付けられただけですがね」
「は、はぁ。そりゃお気の毒様で」
「───あの娘は、小鳥遊さんは随分と変わられました。そのあたりの事情は私の口から話すべきではありませんので、本人に任せますが」
「昔はあんな性格じゃなかったと?」
「ええ。真逆と言ってもいいぐらいでした。そして───変わられた原因の一端は、我々、アビドスの大人達にあるのです」
「……」
「ですが、ここ数ヶ月の小鳥遊さんは、楽しそうで、嬉しそうで、何より、無理をしていないように思えます……古戦ヶ原さん」
「は、はい」
「どうか、あの娘を……小鳥遊さんを、よろしく、お願いします。我々、アビドスの大人達ができなかった事を……」
「……その『よろしく』ってのは、『これからも良くしてやってくれ』って認識でいいんスかね」
「そ、そうですが」
「はあ……後々禍根が残るといけないんで、ハッキリ言いますよ先生」
「逃げるなよ貴様ら」
「……!」
「アンタの言葉を聞いてるとね、どうも自分の内にある罪悪感から逃れようとしてる風にしか聞こえないんスよ」
「そ、そんな事は……」
「じゃあ、なんで今からでも小鳥遊ホシノに、アビドス廃校対策委員会に向き合ってやらないんスか?」
「そ、それは……今までアビドスを諦めていた私達が、今さら問題に向き合うなんて烏滸がましいと……」
「それだよ先生、その考え方がいけない。アビドスの問題は終わったのか? 終わってないでしょ? 現在進行形でどんどん悪くなってるでしょ? 『問題に向き合う』って行為に烏滸がましいもクソもありませんよ。そりゃあ、誰かしらからは文句言われるかもしれませんけどね、そこはアンタ方のせいだ。甘んじて叱られて下さい」
「……」
「……第一ね、先生、アンタ俺の事誤解してるよ」
「……と、いいますと?」
「俺は、アンタが思うほど立派な人間じゃない。前にいた星で───人を殺した。そりゃもう沢山。俺自身の手で殺したのもそうだし、仲間に命令を下して殺させたのも、何回もある。俺の手は、心は……血で汚れてるんだよ、先生」
「古戦ヶ原さん……」
「そんな奴に、未来ある若者を託しちゃダメだよ。先生、アンタ、医者だってんなら、今まで色んな人の命を救ってきたんだろ? 俺よりも、アンタらが、彼女らを導くべきだ。そこに『俺』がいちゃいけないんだ、いけないんだよ……」
「……」
「……やべ、あんまりホシノを待たせると悪いんで、もう行きますわ。ちょっと今持ち合わせがないんで、治療費とかは次検査に来た時お願いします。んじゃっ!」
やべ、カッとなって言い過ぎちゃったかな……次来た時治療費割り増しされてないといいけどな……なんて事を考えながら、俺は病室を後にした。
アビドス中央病院 院長室
「……」
「せ、先生、あの、大丈夫ですか? もう朝になってしまいますし、少しだけでもお休みになられては……」
あの若者が帰ってから、院長の様子がおかしい。という噂は、夜勤職員の間で瞬く間に広がった。
その噂を聞きつけた副院長が様子を見にくると、荘厳なデスクでじっ……と、腕を組んで考え事をしている老齢の柴犬が目に入った。何かあの若者との会話で思うところでもあったのか、ずっと唸って何かを考えている。
それを見た副院長の発言が、上記のそれなのだが。
そう言われた院長はゆっくりと顔をあげ、まっすぐ前を見据えながら口を開いた。
「……朝一番で、商店街組合、商工会議所、工業組合、観光協会、アビドス第四銀行に連絡を」
「へ?」
「……アビドスの大人達の底力を、見せてやりましょう。あの若者にあそこまで言われて尚腐っていられるほど、私は終わってはいません。これから忙しくなりますよ、副院長」
「は……はい……はい!!!」
今まで、プライドやら諦めやらで雁字搦めになっていたアビドスの大人達。
しかし、その大人達の心は、今確かに、変化を始めていた。
最後あたりに出てきた『商店街組合、商工会議所、工業組合、観光協会、アビドス第四銀行』はオリジナル組織です。本編にはかけらも出てこないので悪しからず。
元々は平和な日本生まれ日本育ちだった古戦ヶ原くんは、心の準備なしに突然超絶過酷なRimworldに放り込まれてしまった事で心がひどく歪んでしまっています。一種のPTSD、もしくはサバイバーズ・ギルトにも近いかもしれません。
でも根が善人なので、ヘルメット団は見捨てられないし、「人殺しに若者の未来を任せちゃいけない」とか言いながらアビドスを助けています。
要は、『日本人でもいられず、かと言って心の奥底までRimworldに染まり切ってもいない』。そんな中途半端な状態が、今の古戦ヶ原くんなんですね。可愛いね。