鈍色の正義   作:クロウト

10 / 12

来年もよろしくお願いします。


10刃 : サムライソード VS 大鬼族ズ

 

 

「 これは一体、どういうことだ。クソガキ共 」

 

男の凍て付く様な言葉が空間を支配する。自然のエネルギーが充満しているジュラの大森林がまるで北方の凍土と化して人一人の身体中に霜と氷柱(つらら)が目の前に突き付けられてる様にリグルらゴブリン達と大鬼族たちの動きは静止する。

 

 

「 ...飯の為に来たは良いが、お前もすっかりボロボロだなランガ。 」

 

 

男は先程まで大鬼族達と死闘を繰り広げていた巨大な狼のランガに一瞥とも取れる言葉を投げかける。ランガの身体は大鬼族たちの刀や妖術などによってところどころに傷が生まれており、血も流していた。

 

 

「 申し訳ありません ... 我が居るにも関わらず、こんな醜態を────。 」

 

 

「 良いさ、飯の前に運動が一個増えたぐらいで怒りはしない。 」

 

 

ランガはまるでその男を主と認識しているかの様に近付いて行き、謝罪の言葉を贈ろうとするが男はそれを遮る様に精一杯自身の役目を果たした部下を労うかの様な暖かい口調でランガを宥めた。先程の冷徹な言葉が何処へ消えたやらと思い始めた途端、男の視線は茫然と立ち尽くす大鬼族へと向けられた。

 

 

 

「 ...さて、どうしたものか ... 。 」

 

 

男は大鬼族の下へと転がっているゴブリン達が倒れ伏している光景へとその目を向けた。一見するとそのゴブリン達は目の前にいる凶暴極まりない大鬼族に殺されたと思われがちな死屍累々の光景だが良く見てみるとそのゴブリン達には刃や魔法などで()()()()()()()()()()()()()()()()大鬼族達はあまり殺生を好まない性格なのかそれとも単に情報源として活かしているだけなのか。どちらにせよ彼らの動機がゴブリン達の生にへと繋がっているのなら血が流れるよりかは大いに良好な状況である事だけは確かだ。

 

 

 

「 ───貴様 、只者では無いな。何者だっ !!! 」

 

 

男がゴブリン達が無力化されている様子を見下ろしながら考えている素振りを見せると自身の目の前に居た血の様に赤い髪が逆立っている様な髪型をした大鬼族が言葉に怒気を孕ませながら男の素性を問うた。その体躯は頭以外は全て鎧で囲われており、手には日本刀の様なものが握られている。血染めの様な赤い肌を持つ彼にとって肉や脂を断つ刀は豪傑で似合っていた。

 

 

「一応、コイツらの頭を張らせて貰ってるただの魔物(モンスター)だよ。言っとくが、俺やコイツを殺しても何も出てこないぞ。 」

 

 

「 っっ...俺達の前でその様な邪悪な魔素(オーラ)を漂わせながら良くそんな事が吐けたな!!!!!! 貴様...まさか()()()()の仲間か!!! 」

 

 

赤髪の大鬼族が更に顔に血管を浮かばして憤りを表に出しながら大振りな日本刀の柄を両手で握り締める。男は大鬼族の方の言葉を受けて彼の方へと向いて両者の双眸が重なるが、男の視線が物腰柔らかな穏やかな雰囲気を纏う瞳に対して大鬼族の瞳は怒気と殺意に満ち溢れていた。

 

 

「 あの魔人だって?おい、そんな話聞いた事無─────。 」

 

 

「 喧しい !!! 貴様らがあの忌まわしい豚共を率いて、俺たちの里を滅亡に追いやったのだろう!!!!!!! 今更そんな妄言が通ずると思うなよ !!! 」 

 

 

男の言葉は全て虚言として大鬼族に処理されたのか彼らの戦闘体勢は依然として消える事は無く、寧ろ男の出現によって更に大鬼族達の怒りや警戒度が増して行ってゴブリン達と対峙した時とは比べものにならない殺意や憎しみといった感情がその場を支配していた。

 

 

「 ──通ずる言葉も無しか。しょうがねぇな ... 」

 

 

男は大鬼族が口にしていた忌まわしい豚共や俺達の里という単語に興味を示したがこの一触即発の雰囲気で彼らが男の質問に答えるとは到底思えないだろう。男はその顔に呆れや諦観といった類の表情を見せれば漆黒のトレンチコートの袖を捲って行き黒い袖で隠された腕の中を露見させた。一見、何もなさそうに見える普通の人間の手だが良く見ると左の手の付け根より若干下部分に縫合跡とも似ても似つかない細く黒い切れ込みがそこにあった。

 

男は左手を右手で握り締めながら大鬼族を見据え続けた。大鬼族は男のその突拍子の無い行動にただでさえ高められていた警戒心が更に高くなり、男のその行動が戦闘開始の火蓋を切るかもしれないと予測した大鬼族達は直ちに自分たちの武器を握り締め直す。

 

 

「 ...若、お気を付けなされ。あの者の魔素の不気味さと言い、この威圧感と言い...アレはただの魔人とは次元が違いすぎますぞ。 」

 

「 分かってるさ爺 ...だが奴を此処で仕留めて里を滅ぼした魔人の居場所を吐かせることが出来れば、俺達の復讐への足がかりになるだろう。 」

 

 

年季が入った白髪に口元を覆い隠すほどの色褪せた黄土色の外套に白と燻んだ黄色の着物を身に纏った老大鬼族が語る。その声色には僅かながらに男に対しての恐怖が燻んでいる様にも取れその様子は他の大鬼族も一緒だった。だが唯一、赤髪の大鬼族だけが恐怖では無く怒りに囚われているかの様に憤りと復讐に苛まれているとも取れるそんな言葉に老大鬼族は何も言葉を投げかけることは出来なかった。

 

 

 

「 ──ランガ、あいつらの下に倒れてるアイツらは死んでないよな。誰に無力化された? 」

 

「 はっ 、あそこにいる桃色髪の大鬼族による魔法で眠らされています。もしくは麻痺効果がある何かかと。 」

 

 

成程とランガの返答に納得を示しつつ男の姿勢は言及していた桃色髪の大鬼族の方へと向ける。此方を警戒する様にされどその中に疑念も混じっているかの様な視線で見るその大鬼族は赤髪の大鬼族と同じ色の瞳をしながらその瞳の下には特徴的な化粧が施されている。純白な着物に赤い華々しい装飾が織り込まれた豪華にも見える着物の袖で口元を隠しながら周囲には人魂の様な青白い炎の球体の様なものが浮かび上がっていた。恐らく臨戦体勢だろう。

 

 

「 ランガ、あの大鬼族を邪魔しつつ負傷者を回収して下がれ。んでもってリムルに連絡を入れろ。あいつならこういうの得意だろ 」

 

「 しかし、それではジャス様が一度に六人を相手することにっ...!!! 」

 

「 大丈夫だろ。お前の労力に比べたらこっちはカス程度しかまだ働いてないんだからよ。たまにはバリバリ元気に働かないとな。 そういうわけだから頼んだぜランガ。 」

 

 

男はランガに有無を言わせずに右手に込める力を強めた。ランガはそれ以上何も言わずに主の決定ならばと男を見据える視線から今度は大鬼族達に向けて刺す様な視線を向ける。喉からは威嚇の様な唸り声が静謐なその空間の異物かの様にけたたましく響き渡り、大鬼族と同様にランガもまた臨戦体勢に入っていた。

 

 

 

「 ...俺達が勝ったら、この落とし前はキッチリと付けさせて貰うからな。 」

 

 

「 ほざけ、貴様なんぞに負けるほど我ら大鬼族は落ちぶれてはいないぞ。逆に俺達が勝ったら、()()()()の居場所を吐いて貰おうか。 」

 

 

「 ....はァ ...。 」

 

赤髪の大鬼族と男の視線が再度交わる。相反する彼らの感情が視線越しに交差して先程までは凍て付く様に静かだったこの空間も再度、大鬼族達の復讐の呵責から来る憤怒の感情故か辺りにも殺意や憎しみといった重苦しい空気へと包まれる。そして男が3歩進み出すと赤髪の大鬼族もまた同じように前へと進む。それに倣う様に白髪の老大鬼族もまた前へと進んで隣り合う様にして行く。そして両者がそれぞれの得物を構えながら怒りの感情を刃に流す様に彼らの武器の刃先は全て男にへと向かい────────。

 

 

 

 

 

 

「 だから知らねぇつってんだろ!!!!! 」

 

 

 

男の怒号と共に右手で掴んでいた左手を引き抜く様に後方へと瞬時に力を入れた。すると黒い切れ込みが入った左手は右手の力に従う様に肉が絶たれる音もせずにまるで納刀された刃が抜刀される流れの様に自然とその左手は男の身体から容易に離れて行き。

 

 

シャッッッ !!

 

 

男の引き抜かれた左手から鮮血の肉の断面に生えた小さな波打った紋様が特徴的な刀の刃先が露見した。小さな血流すら流れていない綺麗な男のその断面は人間には到底出来ない様な芸当であり、恐怖心を煽るのには十分だろう。

 

 

だがこれだけでは終わらなかった。

 

 

 

 

ズァッッッ!!!

 

 

男が左手を引き抜いた刹那───男の頭から刀が生えて来た。まるで男の脳を掻き分けて突き出して来た様なその刀は生えた途端にその刃に泥の様に纏わりつく血を付けながら男の頭には大量の血が流れ出ていた。

 

そして引き抜いた左手は消失し、代わりに男の両腕に男の頭に生えた刀と同じ形状の斬馬刀にも似た刀が肉を裂く音を響かせながら腕いっぱいに生えて来たのだ。

 

 

男の人間らしい顔は既に消え去り、頭に刃と学生帽にも似たものを被りながらその顔は目が無く、悪魔を想起させる様な口だけがそこにあるだけの化け物じみた顔へと変貌を遂げていた。

 

男はダラリと両腕をぶら下げた状態で頭を俯かせており、その全身に凶器が生えたかの様な武器人間の様な見た目をしながらも変貌を遂げてから直ぐに攻撃を仕掛けて来ないその様が大鬼族にとっては言い表せない様な不気味さを感じ取った。

 

 

 

「 若 ... ... 。 」

 

 

「 ... 案ずるな爺 、殿は俺がやる。爺は隙を見てアイツを叩いてくれ。 」

 

 

大鬼族達に冷や汗が滲み出る。不気味極まりないその悪魔の姿勢を見るなり彼らの怒りや憎悪に支配されていた眼の中には僅かながらに恐怖が混ざっており、まるで得体の知れない何物かを見ている様な恐怖が彼ら大鬼族の身体にのしかかっていた。

 

 

そして、悪魔は面を上げながら虚構の双眸で大鬼族達を捉える。そして悪魔は変貌を遂げる前の男と同じ声色で淡々と言葉を吐いた。

 

 

 

「 ───ちょっとは痛い思いをさせないとな。この馬鹿どもには 」

 

 

悪魔は両腕に生えた刀を前方に押し出して構えながらゆっくりと迫る様に大鬼族の元へと歩み寄ろうとする。一歩二歩と相手の中に確実に威圧感と恐怖を擦り込ませる如く悪魔の身体から溢れ出る邪悪なそれは確実に大鬼族の心根にゆっくりと蝕み始めて来た。

 

 

 

 

そして悪魔の刀がやがて大鬼族達の身体に届き得る射程範囲内へと入り込めば、煮え立った火蓋の様な一触即発の空気は恐怖と怒りを原動力にした大鬼族の怒号と共に風船の様に破裂し、両者は動き出す─────。

 

 

 

 

 

 

 

「俺たちの村を滅ぼした報い、ここで受けて貰うぞォっ!!!!!!!!!! 」

 

 

先ず先手を打ったのは赤髪の大鬼族だった。戦士として並ならぬ才覚を得ている彼が最前線に出るのはこの戦いの中では正解なのだろう。赤髪の大鬼族が大地が割れるほどの勢いの踏み込みで悪魔との距離を自らが詰める。正面きってのぶつかり合い、赤髪の大鬼族はその卓越した膂力を以て自身の手に握る太刀の刃を悪魔に差し向けた。

 

 

 

「はぁあああああっっ!!!!!!! 」

 

 

一閃───赤髪の大鬼族の渾身の太刀の一撃が悪魔の頭めがけて降り注がれる。一点集中のその大鬼族の大上段は並の魔物ならその一振りで身体が真っ二つに切り裂かれるだろう。

 

 

だが、悪魔はその()()()()では無い。

 

 

 

 

ギィンッッッッ!!!!!

 

 

「 なっ ... !!! 」

 

 

大鬼族の大上段は悪魔の右腕に生えた刀ですんなりと受け止められた。そして鍔迫り合いの形へと変化し赤髪の大鬼族は自身の膂力をフル活用して悪魔との鍔迫り合いに押し勝とうと力を込める。しかし大鬼族が全力で刀を押し込んでいるのに対して悪魔は平然と表情を変えずにその刀を受け止めている。

 

烈しく散り合う火花の中───その力の差は歴然としていた。

 

 

 

 

「雑魚が。」

 

悪魔がそう一言だけ赤髪の大鬼族に罵声を浴びせると烈しくぶつかり合う刃と刃の間で悪魔の身体が動く。僅かに身を捩り、地面に押し付けている脚に力を込めるが押し込まれている刃は微動だにせずに着実に悪魔の反撃の瞬間が近付いている。

 

されど赤髪の大鬼族はその仕掛けに気付くことは出来なかった。

 

 

「 黙れぇっ !!!!!! 」

 

 

烈しく散り合う火花の横で青髪の忍装束を羽織った大鬼族と白髪の老大鬼族が悪魔の死角を取る。そしてこの中にいる誰よりも背丈が高い巨漢の黒髪の大鬼族がその背丈に見合った巨大な木槌を両手で抱えながら悪魔の背後を取る。

 

だがこの瞬間に怒りに囚われた大鬼族とは反対に悪魔の反撃の準備は整っており、離れた場所からその闘いを静観していた桃色髪の大鬼族だけが唯一その悪魔の反撃の予感を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

───その刹那、怒りの鍔迫り合いの悪魔の片脚が()()

 

 

 

「 兄様っ !!!!! 」

 

 

桃色髪の大鬼族が赤髪の大鬼族に反射的に叫ぶ。悪魔の反撃に唯一気付いていた彼女が唯一出来る彼への助力であり、その声は大鬼族の耳に届くには充分すぎるほどの声量だった。

 

 

然し、それは後に大鬼族への悪手となってしまった。

 

 

「 ──── !!! 」

 

赤髪の大鬼族が咄嗟に横目で桃色髪の大鬼族の方を一瞬見た。そこに写ったのは冷や汗が滲み出て、大きく口を開いている彼女の顔だった。大鬼族は悪魔が何をしでかそうと全力で耐えるという思考になっていたのか、それともただ眼前にある怒りに支配されていたのか悪魔の動きに考えを巡らせる事無く、それに加えて彼は一瞬だけ悪魔にかける意識を外してしまった。

 

 

その大鬼族に生まれた一瞬の隙を悪魔は見逃さなかった───。

 

 

 

 

 

 

ズ......

 

 

赤髪の大鬼族に何かがめり込んだ感触がした。肉を抉り、骨を砕く様な重い何かが鎧に守られている筈の横腹に触れた気がした。その感覚に赤髪の大鬼族はゆっくりと()()()()()()()()()()()()世界の中で自身の横腹を双眸で見据え──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、赤髪の大鬼族は自らの横腹にめり込まれている()()()()をその視界に収めたのだった。

 

 

 

「 ─────────。 」

 

 

 

ドォオオオオオオオンッッッッッ!!!!!!!!!!!!!

 

 

赤髪の大鬼族の言葉を許さずに悪魔の回し蹴りが炸裂した。悪魔になったことで増強された身体能力により繰り出されたその蹴りは大鬼族にとっては巨大な鉄の塊を思いっきり腹に抉り込まれた様な激痛を伴うだろう。ベキベキと骨が折れる感触を脚で実感しながら悪魔は赤髪の大鬼族の横腹を蹴り抜いた。

 

 

「 ──とりあえず、そこで寝てろ。 」

 

 

赤髪の大鬼族は蹴りの衝撃で横へと思いっきり吹っ飛ばされ、大木へと叩き付けられた。翡翠色の大木の葉が揺れ動く中で赤髪の大鬼族は口に血を垂らしながら眼を白く剥かせて倒れ伏していた。

 

 

 

 

「 次。 」

 

 

大鬼族らは戦慄した。あの赤髪の大鬼族が何も出来ずに短時間で無力化されてしまったのを目の当たりにし、自身の目の前にいる悪魔は自分達よりも数段階上の強さを行った化け物なのでは無いかという最悪が大鬼族達の頭を過った。

 

 

───だが、だからといって此処で退く訳でも無かった。

 

 

 

「 待っ───。 」

 

 

「 ォオオオオオオオオォオ!!!!!! 」

 

 

赤髪の大鬼族が時間を稼いでた間に背後にいた黒髪の大鬼族と死角に潜んでいた青髪の大鬼族が一斉に動き出した。白髪の老大鬼族の静止も聞かずに背後からは木槌の振り下ろしが、悪魔の死角からは青髪の大鬼族による双刀から繰り出される突きが悪魔の心臓と脳天を目掛けて迫り来た。

 

 

「これで降参しねぇのかよ。 」

 

 

迫り来る凶器を前に悪魔はやはり表情一つ変えない。否、変える表情が無いのかもしれない。まるで感情が失ったかの様にその言葉に怒気など含めてない様な無機質な言葉を並べる悪魔は大鬼族たちが繰り出して来た猛攻(ソレ)に淡々と対応する。

 

 

 

ギィイイイイインッ!!!!!!

 

 

「 なっ ... !!! 」

 

 

青髪の大鬼族の双刀による心臓目掛けた正確無比な突きは悪魔の左手から生えた刀で容易に弾かれた。大振りな刀から繰り出されるそれは最早、人が繰り出せる剣術の域を逸れており、青髪の大鬼族の刀の刃を粉々に砕いたのだった。

 

そして鍔迫り合いとも呼べない刹那の刃のぶつかり合いに青髪の大鬼族は赤髪の大鬼族とは違い、無理に自らの力を押し込もうとするのでは無く敗れたと認識した瞬間に瞬時に後方にへと下がった。

 

 

───だがそれは大鬼族がこの刹那で練った短い作戦の手筈だ。

 

 

 

 

「 ォオオオオオッッッ!!!! 」

 

 

黒髪の大鬼族の地を割るほどの巨大な木槌の勢いが悪魔の脳天にへと迫って来ていた。死角から迫り来る青髪の大鬼族が悪魔の意識を瞬時に逸らして本命の後方に陣取っていた黒髪の大鬼族の渾身の木槌を叩き込む作戦だ。

 

 

現にその作戦は成功し、青髪の大鬼族との一瞬の攻防の末に悪魔の意識が僅かに逸れた。大鬼族たちの判断はこの時点で正しかったと言えるだろう。

 

 

 

 

ドゴォオオオオンッ!!!

 

そして黒髪の大鬼族の渾身の振り下ろしが成った。先ほど赤髪の大鬼族を蹴り飛ばした時よりも大きな轟音を轟かせながら大量の土煙がそこに上がり、周囲の地面には巨大な罅が生成された。

 

 

──一瞬の静寂が辺りを支配する。先程の悪魔の姿も土煙の中に隠れてしまい、黒髪の大鬼族すらもその視界が阻まれてその姿を確認出来ない。依然として大鬼族達は最大限の警戒を怠らずにその土煙に潜む悪魔にいつでも対応出来る様に各々の得物を構えた。だがいつまで経っても、土煙の中から悪魔が飛び出して来る気配は無かった。

 

 

( やったか ... ... ... ? )

 

青髪の大鬼族が心の中で嘯いた。黒髪の大鬼族の渾身の一振りをまともに喰らい、その中から姿を現さぬ悪魔。青髪の大鬼族は彼の木槌による一撃の破壊力を良く理解していた。その理解から来る青髪の大鬼族のその考えは大鬼族の者としては当然に過ぎる考え方だろう。

 

 

 

 

 

だが...青髪の大鬼族が嘯いたその数刻後。黒髪の大鬼族が振り下ろした木槌にある()()を察知した。

 

 

 

ズ...ズズズッ...

 

 

「─── !?!? 」

 

その異変にいち早く察知出来たのは木槌を握りしめる黒髪の大鬼族と先程から警戒を解かなかった青髪の大鬼族だった。土煙の中で例の悪魔は見えずともその眼前で広がっている異変から青髪の大鬼族の予感が呆気も無く無慈悲に外れることになったのだった。その異変とは─────。

 

 

 

 

「 槌が...()()()()()()()()()だと...?! 」

 

 

 

土煙が漂う中で唯一彼らの眼中に映っていた黒髪の大鬼族の木槌が叩き付けた位置から徐々に押しあがっていた。まるでそれは大鬼族の一撃をまるで物ともしない様に大きな岩を持ち上げる男の様に徐々にだが確実に大鬼族の槌は徐々に持ち上げられて行く。

 

 

そしてその異変の最中、土煙が風によって巻き上げられて今まで不明瞭だった悪魔のその姿が浮き彫りになる。大鬼族の考えではあの槌の一撃をまともに喰らった悪魔は既に虫の息だと踏んでいたが今起きている異変が起きてしまってはその考えに霧がかかった様に彼らの眼が険しくなるだろう。

 

 

 

ついにその土煙が完全に晴れた時、大鬼族達が視界に収めた光景は───。

 

 

 

ズズズッッッッッ!!!

 

 

 

 

ハァアアアアアアアアッッ...

 

 

 

 

黒髪の大鬼族の一撃を喰らっても尚、無傷の儘で居る刀の悪魔がそこに立ちながら左腕の刀で槌を軽々と持ち上げていた。

 

 

 

「 ぐっ───!!! 」

 

 

黒髪の大鬼族は悪魔がまだ仕留めきれずに居るのを視認すると続け様に槌をもう一度持ち上げて再度悪魔に向けて振り翳そうとする。大鬼族の顔には焦燥が浮き出ており、それは他の大鬼族も同じだった。

 

 

 

だがその悪魔は────。

 

 

「斬り飛ばしてやるよ。 」

 

 

 

二度は同じ手は喰らわないと言わんばかりに悪魔は即座に黒髪の大鬼族が槌を振り上げる前に両腕の刀を構える。

 

立ち上がった姿勢からしゃがみ込んで右腕の刃を自身の胸の前に置く。そして左腕の刃は外側に控えさせて両腕を軽く一捻りする。その姿勢は居合と言うには余りにも異質で鞘すら無い刀を振るう者の構えとしてそれは特異に映った。

 

 

 

「 ォオオオオオッッッ!!!!!!! 」

 

 

その構えを眼前で見た黒髪の大鬼族は異質なその佇まいに違和感と途方もない不気味さを身体で感じ取る。然しながら一度動き出した歯車は自身で止まることを知らぬ様に大鬼族もまた振り上げた槌を今更戻すことなど出来なかった。

 

大鬼族の槌の一撃が再度、悪魔に迫り来た。今度は確実に仕留めんと言わんばかりに先程とは威力•速度と共に段違いだ。刻一刻と黒髪の大鬼族の槌が悪魔の脳天目掛けて放たれようと迫り来るが悪魔は依然としてその構えを崩すことは無かった。

 

 

 

─────だが、黒髪の大鬼族の槌が悪魔の脳天に直撃するその刹那。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ─────────。 」

 

 

 

一瞬の旋風と共に彼の姿は大鬼族の前から姿を消していた。

 

 

 

 

 

そして彼が再び現れたのは、槌を振り下ろした大鬼族の背後におり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ァ────。 」

 

 

 

 

 

次に大鬼族らが見たのは、悪魔の後ろ姿と小さな土煙を巻き上げながら倒れ伏す大鬼族の姿だった。

 

 

 

 

 

 

唐突にまた訪れる静寂が大鬼族たちの心を恐怖に染める。戦いが始まる前から広がっていたあの凍て付く空気間が再度残っている大鬼族らの肌に刺す様に威圧感(プレッシャー)が纏わりつくだろう。

 

 

そして悪魔は倒れ伏した大鬼族を横目で捉えながらこう言った。

 

 

「 安心しろ、峰打ちって奴だ。 」

 

 

 

その姿はまるで悪魔───否、大鬼族らの脳裏には魔王を想起させる様な悍ましい姿をそこに見出したという。

 

 

悪魔の正義による聖戦(蹂躙)はまだ終わらなかった。

 

 

──リムルが駆け付けるまで、残り30分。

 





あけおめ。ことよろ。
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