「 シズさんっ!大丈夫か!! 」
蟻との闘いでの少女の身を案じた冒険者達が、少女の安否を確認する。
少女の外見には然程、外傷は見受けられないが。黒い稲妻が堕ち、ひび割れた大地と立ち上る煙を見れば呆気に取られた様子で居るようで。その少女が見ている方向にへと他の冒険者たちもその視界を合わせる。
「 今の黒い稲妻...みたいだったよな?...それと、あの斬撃...一体、どんな奴等が ... 」
冒険者たちはその一連の出来事目の当たりにし、その顔に冷や汗を浮かべながらその白煙を見ていた。焼死体塗れの蟻にかかる魔物の生き血、そんな死屍累々の光景から一体誰が彼女の助太刀に来たのだろうか、と
冷や汗を浮かべつつも 、蟻を殺したその者らの正体に疑問を浮かばせるが。....
「 うおおお...吃驚したぁ〜...。 」
その煙の中から、声が響く。その声に冒険者らは身を震わせながら、静かにその物の来訪を待つ。軈てその声の主はその煙の中に自身の影を現せ、徐々にその姿が露わになって行く。
「 手加減したのに....威力有りすぎだろぉ... このスキルも封印決定だな。 」
ぽよ、ぽよ、ぽよ、と擬音を立つ様に此方にへと迫って来る誰か。その正体不明の強者に冒険者たちは警戒の体勢を取るが 、今の所は白煙の中には丸い球体のような影しか映っておらず。それが人では無いことをさし示し、魔物の可能性が確定的になるとその警戒レベルも引き上げられる。しかし、その魔物の正体が完全に顕になった時、彼等の警戒体勢は杞憂だったのかもしれない_____。
「 ....... スライム? 」
そう、彼等があの稲妻の跡地から姿を現した
少しだけ訝しんだかのような表情になる。
「 ... スライムで悪いか 。 」
「 ...あ、いや___。 」
そう言うとその一匹のスライム__、もといリムルは自身の身体に掛けて合った、白衣の少女の素顔を隠していた仮面をボディから直接生やしたかのような蒼い触手でその仮面を掴めば、座り込んでいる彼女の元へとそのボディを這い寄らせて行き....。
「 ほら、仮面。そこのお姉さんのだろ?... 悪かったな、まだ使い慣れてないスキルだったもんで加減が分からなった。ケガはしなかったか? 」
そう言いながらリムルは、自身が持っていた仮面をその少女に差し出す。彼女は差し出された仮面を静かに受け取り、またリムルは今まで仮面で隠されていた彼女の素顔を見れば、何処か思うところが有るのか、はたまた見覚えの有るような顔だったのか。直ぐにその場から離れる事をせずに居た。
「 __ 助かったよ、ありがとう。 」
仮面を外した少女の顔はとても端麗な物だった。何処までも吸い込まれそうな黒い瞳 、雪のように白い肌には先程の少女の焔の剣とは対照的な印象を強く植え付けるようであり、頬には奇妙な2本の痣が刻まれており。その少女は仮面を両手で掴みながらリムルに優しく語り掛けた。
そして、暫くの静寂がその場に流れる。黒稲妻の煙はたちまち森の風に煽られて行き。その場には最早、蟻の山と蒼く広がるような晴天が其処には広がっており、陽光差し込むこの森に起きた小さな喧騒はたちまち息を潜めてまた静かな雄大な森にへと変わって行く。
「 はぁああぁあああ........ 。 」
冒険者の一人が、安堵からかその身体から力が抜けたかのように地面にへとドサリと座り込む。それに乗じるかの様に、また一人と座り込んで行く。よく見て見ると、その者らの顔はとても健康とは言えない様な顔色をしており、青い色をしている。酷く疲労が溜まって来てる様なやつれた印象が見受けられる。
「 どうした?あんた達は、どこかケガでもしてるのか? 」
「 .....いや、精神的な疲労っつうか。 」
その時 、冒険者たちはこの様な状況になってしまった事の顛末を話してくれた____。どうやらこの冒険者たちは、
「 ...仕方ないな、簡単な食事で有ればご馳走するよ。 」
リムルは、その呪詛とも取れる様な冒険者たちの苦言を聞き遂げた後。
流石に冒険者達をこのまま放っておくわけには行かないと考えたのか、
自分の住んでいるところに一時的に招待しようと、その冒険者たちには
希望の光とも取れるような提案を投げ掛ける。
「 スライムさん、この辺に住んでいるの? 」
「 そうだよ 、最近引っ越したばっかでさ...この先に街を作っている途中なんだ。 」
リムルのその言葉に冒険者の三人が困惑や懐疑的、訝しみの表情を浮かべながら提案を受け入れようかと悩みに悩んでいた。ある者は魔物が街を作っていることに一片の怪しさを覚え、そしてまたある者はあのスライムはどうやら悪い魔物では無さそうだと互いに意見が微妙にすれ違っているような話し合いが行われていたのだったが ... 。
「 ...確かに、其方のスライムさんは悪い奴じゃないかもしれやせん。
ですが、シズさんを助けたのは"其方のスライムさん"だけじゃ無いと
思いやす。確か、もう一人。
「 あ〜!
冒険者たちは、今目の前に居るリムルというスライムに信用は置けるものの、仮面の少女を助けたもう一人の"何者か"が気になったのか、リムルにその正体不明の誰かの招待を聴いてる事にした。冒険者の中では、リムルに対しての信頼は最低限度は獲得しているらしく、先程のリムルの提案には割と乗り気ではあったので、冒険者たちが最後に疑問を抱える点としてはリムルと共に現れたもう一人の存在のみと言う事になったらしい。
「 あぁ、“ ジャス “ の事か?多分、もう少しでこっちに来ると思うんだが_____ ... あ、お〜〜〜い!こっちはもう終わったぞ〜! 」
リムルがそう言うと、冒険者たちの背後に有る森によって視界が遮られている方にへと再びボディから蒼い触手を伸ばせば、それを手を振るようにして左右へと揺らし始めた。冒険者らはふとそのリムルの行動に釣られたかの様に三人ともリムルと同じ方向へとその首を傾けさせる。白衣の少女はリムルの方へと向いていた視界を、その方へと一時的に写し込む__ 、然しその瞬間、その冒険者たちの顔は一瞬にして青褪める事になってしまう。
「 ... チッ 、蟻もここまでデカくなりゃ、ただの災害だな。これだから蟲は嫌いなんだ 、血の色も気色悪ぃしよ .... 」
ポタ...ポタ...。
リムルが触手を揺らせた方__、そこには全身を漆黒の衣服で身を包み
頭と両腕に刃を生やした 、190cmのも体躯を兼ね合わせた大男が。その両腕に生えた刀に付着した青黒い
「 ちょ_...、ちょっと何アレ!?!?魔物!?魔物なのあれ!? 」
「 ....おいおい、冗談だろ?確かにアイツが
その悍ましい姿を見た時、魔法使いの冒険者はその姿に恐怖を覚え。またリーダーの風格を放っていた冒険者はその姿を見れば、目の前に居る正体不明の何者かに対して冷や汗を掻きながらも、リムルの方へと向き直りながら然程、取り乱すことは無かった。恐らくだが、驚きや焦燥の連続で心が逆にクールになっているのだろう。
「 ...紹介するよ、彼奴はジャス。ああ見えても、今の所じゃオレの街に来たばっかで、オレの友達でも有る。... まぁ、少しずつでも良いから仲良くしてくれると嬉しいかな〜....。 」
悪魔はリムルの所に帰還すると、自分の知らない者らの視線が集まって来てるのが妙に気にかかった。冒険者たちは悪魔が帰還していく姿を見て、一度は信頼仕掛けていたリムルへの信頼も雲行きが怪しくなって来た。人間は正体不明のモノに恐怖を覚える特徴が有る、とは実によく言ったものであり。今の冒険者の目の前には、下手したらリムルよりも恐ろしく感じてしまうような目の前の"何か"を見れば、取り敢えず敵対して来ないことに一片の安心感を覚えたが、未だにその悪魔の見た目から来る恐怖の払拭は滞っていたと言う。一方、白衣の少女は他の冒険者とは違い、その悪魔を見てもその心に恐怖が植え付けられることは無く。寧ろ、先程リムルを見ていた視線と同じような冷ややかな視線では無く、優しい印象が見受けられるような視線で此方を見つめていた。
これはスライムにとっては、運命の人との出会いであり。
悪魔にとっては、自らの物語を大きく変えるような出会いでも有ったのだ_____。
「ちょ、お前! それ俺が狙ってた肉ッ_____! 」
「 酷くないですか!? それ私が育てていたお肉なんですけどぉ!! 」
「 こと食事に関しては譲れないでやんすよぉっ!!! 」
魔物の街に新たな喧騒が生まれた。その小さな喧騒は冒険者たちの食卓から成っており、4人の冒険者の内の3人がその食卓の上、鉄板の上で焼かれている肉の奪い合いをしながら、物凄い形相で食い進めて行く中。再び仮面を被った少女は、その表情を鉄面皮の様に剥がれる事は無く、そしてその4人の様子をリムルとジャスは見に来ており、様子見と事情聴取を兼ねて訪れていたのだが....。
「 ...賑やかな連中だな。 」
「 あんなにはしゃいでて疲れねぇのか。 」
リムルとジャスは、その様子をまるで子供がはしゃぐ様子を微笑みながら見守る親のような眼で見ていた。3人が肉の奪い合いをしている姿や、少女が仮面を被りながら器用に肉を食べる姿、そんな一見して楽しそうな姿を見てると、二人の顔も自然に綻ぶと言うものだった。リムルは、可愛らしいスライムフェイスでにこやかな笑顔を作れたが、対して悪魔は精一杯笑っても、悍ましいような笑顔しか出せずに少しだけリムルのスライムボディが羨ましく思った瞬間だった。
「 ...スライムさん、スライムさん。焼けた鉄板、触れてるよ? 」
暫くその様子を眺めていると、仮面の少女がリムルに向かって話しかけていた。確かに肉の焼ける音と同時に、肉でも野菜でも無い何かを焼く音が辺りに響くかと思えば、リムルのスライムボディに赤い色を帯びた熱せられた鉄板が思いっきり触れており、見事な焼き色...は無かったものの、その音だけ聞けば肉を焼く音とは何ら差異は無かった。
「 溶けるかと思った ... 」
「.... そうならなかったとこ見ると、熱に対する耐性が有るのかな? 」
リムルは、高温の鉄板に思いっきり触れていてもその身体が溶けることは無かった。するとその様子を見ていた仮面の少女はリムルが持っている耐性やスキルについて自らが知っていることをリムルや悪魔に向けて
話してくれた。
「 異世界から渡って来る者は、その際強く望んだ物を得る。それが、
耐性やスキルとかだったりするの。 」
その少女の言葉を聴いて、悪魔はその状況と良く似た様なコトがあったと自身の脳内で自分が"死にかけた"時の記憶を掘り起こした。あの時、拳銃で身体を穿ち抜かれた時にやけに無機質な声の幻聴が耳に響いたかと思えば、悪魔公だったり斬滅之王だったり物騒な単語が淡々と並んでいたが、今思えばそれは全て悪魔が得たスキルの名前なんだ、と悪魔は自身に身に起こった不可解な現状に解答を見出した。
「 ... 前世は、刺されて死んだんだけど。その時、熱いとか血が抜けて寒いとか考えてたから....それで得たんだろうな。 」
「 ____ オレも、リムルとまんま同じだな。強いて違うとすれば、
オレは耐性やスキル、と言うよりかは自分の種族が変わった印象が
強かったな、死因によって得られるもんが違うのか?、オレの場合は
銃殺だったが .... 。 」
リムルのその言葉に、悪魔が同調する。二人の銃殺や刺殺の経験談を聴いた少女は仮面越しで内心に驚愕の感情を浮かべていたが、当の本人らはそれもまた過ぎた事だと思っているかの様に当時の自身の死にかけた事について仲良く談笑していたのだった。
「 ...シズさん、だっけ。アンタも苦労したんじゃないのか?
リムルの疑問が少女に投げ掛けられる、それに対して少女は首を横に振ることで否定の意を示す。そして、仮面の少女__、シズはまるでその焔が自身を蝕むようなモノだと言わんばかりな重い口調でその焔の存在を語った。
「 __炎は、私にとって"呪い"だから。 」
リムルがシズのその言葉に懐疑的な返答を返すと、シズは自身の身に起こった事、この異世界に転生する前の出来事をその口から語った。
シズがその瞳で捉えたのは、辺り一面の紅蓮の焔だったらしく 彼女曰く、住み慣れていた街すらもその焔に包まれて行き、身体が震え上がるような怖い音が聞こえて来たと言う。そしてシズがその阿鼻叫喚を描いているかのような状況を語れば、彼等の脳裏には一つの"単語"が思い浮かぶ_____。
「 ... 東京大空襲_、か。名前だけは知ってるぜ。 」
悪魔がその単語を口にすれば、シズは同調の意を示してくれた。元より前世では勉学全般に疎い彼だったが空襲や日本の戦争のことについては
妙に記憶に残っている覚えがあり、然し乍ら年月を重ねて行くごとにその知識すらも失せていった。しかし、彼はその薄れゆく記憶の中で唯一覚えていたのが、"東京大空襲"という言葉のみだった。
シズは 、その東京大空襲という単語自体は同じ日本出身の自らの教え子と呼ぶ人物が歴史の授業で習っていたらしくそれで覚えていたと言う。
「 __そうか、それで転生してこっちに.....。 」
「 ...ううん、私は死んでいないよ。 」
リムルは納得したかのように呟けば、シズは首を振りながらそう言い放つ。その言葉にリムルと悪魔は驚愕を示す。すると、シズは今度は此方の世界に来てからどの様なことが有ったのかを一通り語ってくれた。
__彼女曰く 、彼女は死んで転生したのでは無く、"ある男"に召喚されたと言う。然し、その男はシズが召喚される事を望んではいなかったらしく、落胆したかのような表情を見せるも、その男の気紛れか或いは純然たる好奇心故か。その男はシズに炎の精霊を憑依させたのだった。それは炎を操る力を彼女に齎したが、同時に彼女にとってはその焔は、自身の身体を蝕む呪いに近いようなものだった。そして彼女はこの呪われた炎の力で大切な人でさえも焼き尽くしてしまい、人と関わることが怖くなってしまったと語っていたが彼女の顔にはふと笑みが浮かべられていて_____。
「 ...やっぱり仲間って良いね、"最後の旅"で楽しい人たちとも出会えたもの。彼等は遠慮なく喧嘩するし、お互いに信頼してるし....。
本当に良い冒険者だよ。 」
"ちょっと危なっかしいけどね"という言葉を付け足しながら、彼女が本当にあの冒険者たちを信頼しているのかを語ってくれた。彼女は燃ゆる焔の中で、自らの身と心すらも焼き尽くしてしまう絶望に染め上げられた業火の渦中でも、そこには一つ、確かな僥倖を見出した。それは自分の身がもう焔に耐えられる器では無いと察していた彼女にとっては、
最期の旅、と表現するには確かに良い冒険だったと、彼女のその言葉には嘘偽りは見受けられなかった。悪魔はその話を聞けば、シズのその自身の死を見つめているかのような、何もかもが映り込んだようで、何もかもを見ていないような瞳で浮かべる笑顔を見れば、少しだけ、シズに対して寂寥の念を浮かべたが、それが本人に届くことは決してなかった
旅の終わりは刻一刻と、シズの身体を凄まじい勢いで蝕んで行く焔と共に近付いていたのだった_____。