刃の悪魔__________。それは遥か昔、実力が全ての悪魔社会に於いて。その名を聞いた事が無い者は居ないと言われるほど、同族から恐れ慄かれる程の存在だった。
その悪魔は、別名”処刑人“とも呼ばれ。世界にとって甚大な損害を与えた者を斬り殺す為に生み出された存在だった。それが例え、人間で有ろうが悪魔で有ろうが。悪魔の刃が止まる事は霞すらもその記録は無い。
“調停者“と並ぶ程の実力者であり、“調停者“は世界の歪みを修正する役割を与えられている為。まだその理性は悪魔の中では残って居るだろう。だがその刃の悪魔はただ自身の標的を斬り殺し。その魂を己の糧とする事しか考えていなかった為。下手をすると、調停者よりもその凶暴性は高いと言えるだろう。そしてその悪魔を召喚した者は、一国を一日で潰せるという伝承が残っており。太古の輝かしい文明の裏にその悪魔を召喚しようと多くの国王や貴族が民草の生命をその悪魔に捧げた。だが、処刑人たる彼は誰かの軍門に下る事は無く。その生命により召喚されるのは、悪魔とも言えぬ様な化け物の成れの果てが召喚され続けた。
そして、その歪な正義を掲げる刃の悪魔に同族達は恐れと畏怖を込めながら。こう呼称したのだった。
___だが、原初の正義はある時。忽然とその姿を消した。
“処刑人“としての役割を与えられたその悪魔がその姿を世界の何処にもその姿が消えてしまう。と言うのは当時の悪魔社会では全ての悪魔が震撼させるような歴史的大事件であり。“調停者“や他の原初の名前を冠する者もその姿を探そうとしたが、結果として彼の姿や痕跡が見つかる事は無く___。結局、
だが、ここ最近 。ジュラの大森林での、ヴェルドラの消失やそれに伴った魔物達の行動の異常な活発化など竜種が一匹居なくなるという異常事態が観測された。そして、それとほぼ同時期にその大森林にて強大な力を持った“何者“かの存在が観測されたとの報告が出ており、それは大森林に生息する魔物の変異体などとは程遠い存在で有る事が判明しており、それこそ悪魔公クラスの者がそこにひっそりと暮らしているという
情報も入っていると言う。
そして...その強大な力を持った者の正体こそが忽然と姿を消してしまった
『 お前はこの災禍でも生き残った。それだけでも、オレにとっては大金星だと思ってるぜ。あのクソトカゲはいつか正義の名の元に斬り殺してやるよ__、だから今は生きろ。生きてお前が“神“になるんだ。』
神聖法皇国ルベリオス__、其処は西方聖教会が神ルミナスを信仰する者の聖地と定めた都市で有る。その信仰は歴史が根強く。未だに廃れる事が無いとされる大都市で有る、法皇が神ルミナスの代弁者たると定めたその都市の首都である"ルーン"は国民が飢える事が無い理想郷であり、共産主義の体制を採用している事による管理された幸せを国民達は共に享受しながらその生を全うしていた。
___ そして、その神聖法皇国ルベリオスの中枢。民達が知らぬ秘匿された事実が眠る場所、豪華絢爛な装飾が目立つ貴族御用達と言っても差し支えない様なとある一室にて。煌びやかな光を放つ金色の手摺りが付いた鮮やかな血の色の革に包まれたソファにて一人の少女が横たわって居た。
「 __ .... 。 」
その少女の赤と青のオッドアイが妖しげに光る。長く流れるような銀髪を纏った頭をソファに預けながら。その少女は何か、物思いに耽っているように。寡黙を貫いていた。
『...
少女の頭に反芻するのは、とある悪魔との記憶。それは彼女にとっては
遥か昔、太古の記憶であり。最早、自分以外にその悪魔との出会いを憶えている者は誰も居ないのでは無いかと思うほど。“彼“との記憶は古ボケていた。
「 全く...。呼んでも来てくれんだろうに ...。」
少女はポツリと言葉を溢す。それは部屋に反響し、虚無に消え去るだけ。そしてその言葉を誰に聞かれる事は無い。返事を返される事も無い、だが今の少女にとってはそんな静寂の一瞬こそとても都合が良いような状況だった。
「 __ いつになったら、妾の前に姿を現してくれるんだ。」
その言葉とは裏腹に、少女の顔は揺るがない。静寂と連なるように、彼女の顔が豊かに動く事は無い。されどその言葉には寂寥を感じさせるようなモノが確かに其処にあり。その彼女の端麗に整えられた鉄面皮から微かに感情が漏れ出ていた。
「 ...お前の言う通り、妾はこの地で神と呼ばれ崇められ__、お前に助けてもらったあの時よりも遥かに強くなった。... だがそこにお前が居ないとなると ...こうも虚しくなるのか。」
彼女の誰も居ない部屋での独白はまるで彼女に溜まった毒を吐き出すかのように、一つ一つ丁寧に溢れて行く。だがどれだけその毒を吐こうとも、彼女の脳裏に浮かび上がる“正義の名を冠する“者によって、また再び寂寥と言う名の猛毒が襲いかかる。
「 ...帰って来るのを待つしか無い、と言うのはなんとももどかしいものよな。」
少女はその言葉と共に独白はそこで終わり、また物思いに耽るように黙り込んでしまう。そしてその脳裏に浮かび上がるのは、その両腕に刀を生やし。魔物の海を切り進んで行く悪魔の姿と。暴風竜の襲撃に遭った時から自身に真摯に接してくれた“正義の味方“の姿。彼女にとって、その二つの姿はどれも
__ 彼女の名前は 、ルミナス・ヴァレンタイン。神聖法皇国が崇める
神ルミナス 、その人で有りながら。
カバル達に別れを告げ__、暫くの時間が経過した。魔物の街の復興は着実に進んで行き。一度はイフリートに破壊され燃やし尽くされたその街でも、ゴブリンロード達やドワーフの建築家による効率的な指示の元で、彼等の街は更なる発展を遂げようとしていた。そして、そんな中リムルとジャスは何をしていたと言うと___。
「......お前、これ"無い"よな? 」
「 __ .... ....やっぱり ? 」
リムルとジャスはカバル達を見送った後、リムルがシズを捕食した事によって獲得した《擬態:人間》を試してみたいと言い出し、ジャスもスライムの擬態が詳細に人間に擬態出来る仕組みに少しだけ興味が沸いて来たのでリムルのその少しだけの実験に付き合う事となったのだが.....。
「 __だッははははははっ!!!!!! 、お前女だったのかよ!転生してから
性別も変わっちまったってか!! 」
「 失礼だなっ!オレはちゃんとした男だっ!それにこの身体は女じゃねぇーし!無性だしー!! 」
リムルの人化の実験にて、彼の擬態している身体は顔付きなどが男とも女とも取れる様な端麗な顔振りをしており。表情だけでは性別がどちらかが良く分からないような状態だったので、仕方無く性別を確認する為に顔では無く、肉体的な要素から区別しようとしたのだが ....。
「 そう言うお前は、ちゃんとしたブツ持ってんのか!!まさかオレみたいに無性でした〜、とか言わないだろうなっ!! 」
「 ばーか 、オレはお前と違ってちゃんと性別あるわ!!元より人型の形をしてるからなっ!人の姿になれるかは知らんが! 」
生憎、リムルのその人間の身体には凡そ殆どの男性に付いていると思われる。漢の勲章が既に消え去っており。人を憑代にしたような悪魔で有るジャスには立派な天を衝くような勲章が其処にあったのだった。
「 __あ、そっか。オレはシズさんを捕食したからこうやって擬態出来るけど、お前はまだ擬態のスキルを持ってないのか....。そう言うのって、悪魔の力でなんとかならないのか? 」
「 ....馬鹿言え、オレはアンタみたいにスキルをホイホイと獲得出来る訳じゃねェんだぞ。そんな簡単に人化なんて____。 」
ジャスがそう言おうとした時__、頭の中にまた再びイフリート戦と同じような無機質な声がジャスのその懸念を取り除き、疑問を解消せんと
リムルには聞こえず、自分の中だけにその情報は伝達される事となる。
《告、
「マジ?」
ジャスの保有する《解剖者》曰く、ジャスの魔素を使い。その両刀や頭に生えている刀を一時的に身体に収納する事が出来るらしい。これはリムルのような擬態のスキルでは無く、悪魔が人間に扮する時に良く使う常套句のようなモノらしい。そしてそこから、ジャスの魔素から“黒霧“というものを作り出し、それを顔に纏わせれば自分の記憶していた顔を作り上げる事が可能となるらしい。
「 __.....ちょうど良い、オレもこの悪魔の身体じゃ不便だったんだ。
yes 、実行してくれや。解剖者!」
《 了、では
リムルが何が起きているのかがよくわからない顔を浮かべている中____、ジャスだけは自慢げに誇らしいような顔を浮かべながら。その解剖者の指示に随う。すると、その瞬間 。ジャスの身体は突如、黒い霧のようなものに全身が包まれる。ゴウッと少しだけ風が呻る音が聞こえた後、彼の身体は完全に漆黒の身体に包まれて行き....。
「...お、おい?お前何をして .........。」
リムルはそのジャスの突然の行動に、怪訝な表情を浮かべるが。ジャスはこれみよがしにその黒霧を見せてければ。数分も経たない内にジャスの身体に纏っていた黒い霧は直ぐに晴れていく。自傷行為では無いにしろ、ジャス以外は突発的に自身の身体にその霧を纏ったと取れるので一瞬、何が起こったのか理解出来なくても仕方の無い事だろう。だがその黒霧が晴れた後、その霞から姿を現したジャスを見れば。リムルはその顔を驚愕に歪める事と成る___。
《 告、黒霧による人間の身体の偽装成功を確認。従って、
霞が消えたジャスには両腕と頭に生えていた筈の刀が綺麗さっぱり無くなっており、非常に大きい体躯を有している事からリムルが中性的な見た目をしているのならば、ジャスの顔付きは漢らしさに全振りしていると言え。学ランのような服の上に着こなしている紺色のトレンチコートの袖から出ている左手と腕の関節部分には小さな切れ目のようなモノが
その腕の形状に沿うように走っている。
「 __ ...えッ!?おまっ....えぇっ!!? 」
リムルはその変貌具合に言葉が出なくなるが、ジャスは自身の顔を両手で軽く触れてみれば。彼が成そうとした事が成功した事を確認すれば、その顔に少しだけの笑み浮かばせれば、驚きを隠せていないリムルにその顔を向ければ___。
「...これでよーやく、悪魔を辞めれたぜ ...。まぁ、成ろうと思えばまた成れるんだがな 。」
ジャスは左腕に走る切り込みのようなモノを摩りながら、リムルにそう告げる。擬態自体は珍しくは無いものの、リムルが前世の顔を再現出来なかった何対し。ジャスの擬態は前世の自分を完璧に模倣しているという点ではある意味、ジャスはリムルを少しだけ超えているかもしれない。
__ 結局、その後も人間と成ったジャスはリムルの人化の実験に付き合わされた。具体的に言えば、リムルがイフリートを取り込んだ際に獲得した分身体のスキルを使い、リムルの分身体を黒霧を活用しつつ男らしい身体にするべきか、それとも女らしい身体付きにするべきかと話し合いをしていたが、女らしい身体付きにすると途端にシズに似ついてしまう為、男らしい身体付きかそれとも今の無性のままの二択に迫られたが。リムル自身が無性の今の身体のままと望んで居たので、結局。この実験はジャスの擬態体獲得という豊作を一つ生み出しながら終了し、二人は今後についての活動について話し合う事と成った。
「 ...占いで見た、五人の教え子達と二人の男女。か」
ジャスは、リムルと共にシズの心残りが有る事を全て聞き、その最期を見届けた。ならば自分もリムルと共にその心残りを解消するのが責務だろうと考え。リムルと共にそのシズが託した者らについて色々と考えを巡らせていた。現時点で分かっているのは、五人の教え子達はシズが教鞭を取って居た時に受け持った異世界人の子らと言う事。そして二人の男女の内、一人がシズの元を離れた者で有る事は確定している。
「嗚呼 ...、けどコイツらが何処に居るかは正直分からんから。カバル達が言ってたギルドを頼るのも良いかもしれないな。」
ジャスとリムルは 、シズが託した者こそ別れどその者らがどんな人物で有るか。また何処に居るかは全く見当が付かない。今は地道に情報を掻き集めながら、街を発展させて行く事しか二人にとっては出来る事が無いと言うのは確かだ。
「__ ...分かった、リムルはその教え子についての情報を掻き集めてくれ。オレは二人の男女について詳しく調べてみる。もしかしたら、ギルドの記録とかにあるシズの素性から割り出せるかもしれんからな。」
シズが今際の際に託したモノ、それは彼らにとっては大きな意味を持つ。
爆炎の支配者と謳われた彼女が最期に人間とたらしめたのも、心残りという名の遺物に込められた彼女の優しさがそうで有ると物語っている。
そしてジャスとリムルはそんな彼女の旅路を辿るように、その託されたモノを探すと言う目的とは別に、彼女に関連する別の目的もまた彼等の脳裏に浮かび上がっていたのだった。
「 ...それと、《魔王レオン・クロムウェル》についても調べないとな。
シズさんをなんで召喚したのか__...アイツの顔面を一発、ぶん殴ってから確かめないとな。」
「 ...そうだな、オレも彼奴に正義の鉄槌をお見舞いしねェと気が済まないからな。」
レオン・クロムウェル__、その魔王と二つ名を冠する者こそがシズを東京大空襲が起きた頃の日本から召喚した張本人であり。またシズの身体の中に炎の最上位精霊で有るイフリートを宿らせた者でも有る。その者の呪いにより、シズはその身体を蝕まれ。結果的に、定められた死の運命を辿る事になってしまった。魔王に何の思惑が有るのから知るところでは無いが、リムルとジャスにとってはそれが鬼畜の所業で有ると言う認識で受け止めており、もしその魔王を見つけた時は二人で一緒にぶん殴ってやろうと約束するほど。彼等の想う気持ちは同じだった。
「 ...待ってろよ、クソ魔王。会ったら、イケメンフェイス歪ませて二度と外を出歩かせねェようにしてやるからよ。」
ジャスのそのぼやきはリムル以外に届く事は無く__、また再びその天幕の中には先程の二人の喧騒が嘘の様な静寂の帳が貼られて居た。
かくして、一匹のスライムは一人の女性の姿を、一人の悪魔は女性の思いを受け継いだ。死して尚も輝く彼女の道筋は、確実に彼女を英雄だと謳われるに値し。そして彼等はその彼女が託してくれた想いを決して無駄にはせんと。切り拓いて行く道の中で、回帰を選んだ彼女に向ける餞を上げようと思いを固め、激動の時代の奔流にへとその身を投げ出して行き、何れ彼等はその身を打ち滅ぼさんとする者からの試練の連続にぶつかることとなるのだが、彼等は未だそれを知る事は無かった_____。