鈍色の正義   作:クロウト

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お久しぶりです。すいませんでした──────。


9刃:復讐の呵責

 

 

ジュラの大森林は暴風竜ヴェルドラの消失を皮切りにところどころで様々な環境の変化が巻き起こっていた。普段鳴りを潜めていた肉食の魔獣が活性化したりジュラの大森林を取り巻く三つの種族の中での力関係の変化など比較するまでもなくジュラの大森林の中では異変が巻き起こっていた。

 

今まで保っていた大森林の均衡が緩やかに崩壊していることも知らずに今日も森に生きる者たちは悠々自適に本能の赴くままに時を過ごしていく。だがその中には何者かの手によって三種族の中に加えられた()()()()()によって本来あるべき故郷を燃やされ同胞たちも跡形も無く喰らい尽くされてしまった復讐の呵責に苛まれる者たちがいた。その呵責はいつまでも消えることのない憎悪となり、精神を蝕むだろう。

 

 

そうなった時に生物は果たして憎悪に苛まれた感情の下で正常な判断がくだせるであろうか。

 

 

 

 


 

 

 

リムルとジャスが人間の身体を手に入れてから暫く経った頃、リムルとジャスは互いに行動を別ちジャスは一人で集落周辺の大森林の中を一人彷徨っていた。先のイフリートの件もあっての事なのか、本来は生物多様性に富んでいるこの大森林も今は静寂の帳に包まれている。

 

 

「...やっぱ、人の身体を手に入れたってなったらやる事は一つだろうよ。 」

 

 

ジャスは今まで自分の中に存在していた悪魔としての力を使い人間の擬態を成功させた。だがそれはジャスとリムルにとってはある共通の疑問を再起させる起因でもあり、転生者である彼らが前世では当たり前の如く持っていたある感覚の有無についてだった。それは....

 

 

(───飯が美味いかどうかを確かめないと俺の気が済まん...!!!)

 

 

人間ならば誰しもが持っている五感の一つであり、主にそれは食を経る事でその感覚が顕著に働くという感覚である()()だ。

 

リムルとジャスはスライムと悪魔という異形の種族であった為にリムルは料理を食べようとも料理を取り込んでしまい食の楽しさを味わえる事が無く。ジャスは悪魔状態の時は肩から生えている刃が腕に突き出ている為に食べようとも食べれない状態が続いていた。そんな食の楽しさに恵まれなかった二人が今、こうしてその悦の波に浸れる可能性を見出したのがこの人間擬態なのである。

 

ちなみに、ジャスは前世では結構グルメだったので食の楽しみについては人一倍敏感である。

 

 

 

「...そうと決まりゃ、鹿でも熊でも狩って持ち帰るか。丁度三枚おろしに出来そうな刃もすぐあるしな。 」

 

 

ジャスに備わった刃は大抵のものなら何でも斬れる。それは生物でも生物じゃないものにも有効であり、熊や鹿といった原生生物にも一度刃が入ってしまったら真っ二つにするまで止まらないのが彼の刃であるが...彼はジュラの大森林における生態系を全く把握していないので熊や鹿が居るというのも完全な推測である。それもその筈、彼は巨大妖蟻(ジャイアントアント)の様な赤い甲殻を纏ったデカい蟲みたいな魔獣とイフリートとのタイマンでしか交戦経験が無いので大森林の生態系については彼にとっては不明瞭なものである。

 

 

「 もし巨大妖蟻(ジャイアントアント)みたいな奴しか居なかったら、虫の肉を食う事になんのか...俺、虫の捌き方とか知らねぇぞ... 」

 

 

ジャスに朧げながらも嫌な予感が走る。此処は異世界であり、どんな事が起きようともさして不思議な事では無い。なので虫や見た目がグロテスクな生物達がわんさか居る森である可能性が浮き出てしまった為、下手をこいたら異世界転生して最初の料理が巨大妖蟻(ジャイアントアント)の丸焼きとかいう可能性も十分あり得るのだ。それはジャスにとっては大分忌避したい事であった。

 

 

( ... やべぇどうしよ。全くそういうの考えた事無かったぞ俺 。)

 

ジャスは一人で思考をフル回転させる。巨大妖蟻(ジャイアントアント)の丸焼きという未来を回避する為にどうしたら良いかを全力で思案する。単独で根性でまともな生き物を探してしまっては効率が悪く、ジャスにとってもそれで食の楽しみの時間を簒奪されるのはどうしても回避したい事だ。だからこそジャスは時間もかからず、そしてマトモな生き物を探し出せる方法を編み出そうとジャスの脳のリソースがソレに集中すること数十秒─────。

 

 

 

 

 

──────────ジャスに電流走る !!!

 

 

 

「 そういや、リグルが狩りをする...つってた様な...ほんでリムルが今日は宴だって騒いでたな...。もしかしたらリグルの狩りについてけば良いんじゃね...? 」

 

 

 

正に僥倖。ジャスは数多ある自身の記憶から天啓とも呼べる場面をそこに引っ張り出したのである。リムルは人間としての基本的な肉体構造や感覚を得た事によって自身にも遂に味覚が備わったのでは無いかと興奮気味に叫んでいた。そしてリグルドには今日は宴だとこれもまた興奮冷めぬ様子で語っていたのをジャスはその眼に収めていたのだ。そしてジャスは狩りに出掛ける前のリグル達とリムルが顔合わせしている現場にも訪れており、その際にゴブタがリムルに不敬を働いてしまって全力で腹パンをされている光景も彼は苦虫を噛み潰したかの様な表情で見ていたのだった。なぜこんなことを今になって思い出したのか、そしてなぜ今まで忘れていたのだろうか。

 

 

 

 

「──こりゃ、俺も宴をするハメになるわな。 」

 

 

そしてジャスの脳裏には勝ちという二文字が浮かび上がる。ジュラの大森林に古くから住み着いているリグルやリグルドといったゴブリン達ならばこの地に生きる生物の情報はいやと言うほどに叩き込まれている筈。それに追従していけば効率的に食用の獲物をゲット出来るという算段である。宴でたらふく食う自分の姿が脳裏を過った後にぼんやりと進めていた歩を速くした。

 

 

「 そうとなっちゃ、探すしかないな。こればっかりは感に頼るしか無いんだがな.....まあなんとかなるだろ。 」

 

 

ジャスは身体の中にある悪魔としての感覚をフルで活用して狩りの最中であるリグルの姿を探し出そうと入り組んでいる森の中を揺蕩う様に進む。人間のソレとは違う悪魔の身体能力は正に異形というに相応しい性能をしており、特にそれが顕著に現れたイフリート戦を経た今では自身の生まれ変わって得た圧倒的な膂力と研ぎ澄まされた五感に対して圧倒的な自信を持っていた。ジャスの楽観的な発言はそれ故である。

 

 

そしてジャスは聴覚や視覚を際限なく活用して居場所を特定しようとそのセンサーを張り巡らせた。歩いて行く最中で微小な音さえも見逃さぬ様に真剣に集中しながら辺りを見渡して行く。

 

 

 

 

 

 

───そして、数刻後...ジャスの悪魔の感覚センサーにある音が鮮烈に聞こえるのをキャッチする。しかしその音は動物の鳴き声でもリグルたちの語らいの声でも無い、もっと異質で不気味なものであり...。

 

 

 

 

 

 

 

 

肉が切り裂かれる音と、人々の叫び声だけがそこに響いていたのだった。

 

 

 


 

 

 

 

 

ジュラの大森林には多種多様な種族が存在するが中でも牙狼族の様に知能や高い力を持った種族も存在する。大森林では牙狼族や大鬼族(オーガ)、蜥蜴人族《リザードマン》などの強力な魔物達が跋扈する地でもある為、ゴブリンなどの低位の種族らが彼らの争いに巻き込まれるかもしくは仕掛けられるかなどをされるとホブコブリンとして進化を果たしても淘汰されてしまうだろう。中でも大鬼族と呼ばれる者達は魑魅魍魎が跋扈するこの地においても絶対の地位を確立した種族でもあり、彼らと闘える相手はジュラの大森林という所で見れば限りなく少ないと感じざるを得ないだろう。この世界の不変の理である弱肉強食に則って絶対的な君主となった彼らと闘う事は大抵の者達ならば死を意味するだろう。

 

 

───特になんらかの理由で手負いの獣の様に半狂乱となって種族間を問わずに問答無用で人々を傷付ける様になっているのならば尚更である。

 

 

「 ... つ、強い ...っ !!! 」

 

 

ホブゴブリンであるリグルら狩人達は今、大鬼族(オーガ)達との交戦をさせられていた。リグルの目の前に居るのは六人の大鬼族であり、六人の大鬼族からはまるで慈悲すらも許さぬ様な冷酷無比な視線を貫いていた。そして彼らの強さを証明するかの様に彼らの足元にはリグルともう一人の狩人であるゴブタを除いた全てのゴブリンらが倒れ伏しており、それは彼らの奥底にある恐怖を掻き立てられるのには充分なものだった。

 

 

 

(───今は、ランガ様が凌いでくださっているが、それもいつ続くか..!!!)

 

 

 

リグルの視界には牙狼族の族長の息子でありながらもリムルの忠犬として仕えている巨大な角の生えた狼のランガが六人の大鬼族を一気に相手取っていた。だが大鬼族は一体ずつがただでさえ怪力無比でとてつもない才覚を秘めている。それ故に嵐牙族(テンペストウルフ)として進化を果たしたランガでさえも苦戦を強いられる闘いになっていたのだった。

 

 

「 ... ... 悔しいが、リムル様のお力が無ければ ... ランガ様が危ない....!!! 」

 

 

 

リグルはホブゴブリンとして進化を果たしてはいたが、それでも尚大鬼族の強さとは比べものにならない程だった。リムルがいざという時の為に連れていたランガがここの最高戦力、つまりリグルが大鬼族に立ち向かっても足下に倒れ伏している自身の仲間達と同じようになるだけだった。

 

 

───だが、このままではランガが負けてしまう。ただ自分たちが行っても、同じ様にやられてしまうだけでは無いか。そんな敗北から来る否定的な考えがリグルの脳を過ぎる。必死に争うランガを前にリグルが剣を握り締めたままそこに立ち尽くしていると....

 

 

 

 

「 うおおおおおおおおおおおおっっっスぅぅっ!!!!!!!!! 」

 

背後からリグルの隣を駆け抜ける様に何者かがランガの元へと雄叫びを上げながら走り出すゴブリンが居た。───ゴブタだ。小柄ながらもその身軽さを活かしながら白髪の翁を彷彿とさせる大鬼族へと蛮勇を振りかざす様に突撃して行く様子を見てリグルは全ての邪な考えが遮断された様な感覚を覚えた。

 

 

「 っ ... !!! アイツは何も考えないで良く突っ走るよ...!!全く!!! 」

 

 

リグルはゴブタの蛮勇とも言えるその行為に自分の中に眠っていた戦士としての誇りを思い出した。それはかつて牙族族と戦った自身の兄と同じく、たとえ自らが疲弊しきって相手の方が強力であれども自らの誇りを捨てずに闘い抜いた兄の背中をリグルは思い出し、自らを奮起させた。

 

そして何よりも、自分達を村の滅亡という魔の手から救い出して名前を与えてくれた主人に報いる為にリグルの剣を握る手は強くなる。

 

 

 

「 ぉおおおおおおおおおっっっっ !!!!!!!! 」

 

───そして、リグルはゴブタの後に続く様にランガの元へと駆け寄って行き、六人の大鬼族を分断させようと紫髪の女性の大鬼族へとその剣を振り翳した。

 

 

ギィンッッ !!!!!!!

 

 

リグルの片手剣の大上段の振り下ろしに大鬼族の棘鉄球が受け止める。そして大きな金属音を鳴らし火花を散らしながら二人は互いに一歩も譲らぬまま鍔迫り合いが始まって行く。だがリグルが全力で受け止めているのに対して紫髪の大鬼族はまだ余力を残しているかの様にその顔はまだ冷徹なままだ。

 

 

( こうも簡単に受け止められるか ... !!!! )

 

 

互いに譲らぬ鍔迫り合い。一挙手一投足が王手になり得る緊迫した鉄と鉄の真正面からの衝突。だがここで紫髪の大鬼族が全力を出してリグルを殺ろうと片手で握り締めるモーニングスターを押し出してしまえばリグルの詰みは確定するだろう。

 

 

───だが、ここで非常事態(イレギュラー)が発生する。

 

 

 

「 うぎゃああああっっっっ !!!! 」

 

 

生々しく肉が切り裂かれる音と共にゴブタの悲痛な断末魔が響き渡る。そしてその視線の先にはゴブタの血を纏った白髪の大鬼族が持つ白樺の鞘に収められた剥き出しになった刀身が露わになっており、それがリグルの視線に映り込んでしまった。

 

 

「 ゴブタ!!!!!!!!! 」

 

 

同郷の仲間の悲痛な叫び声にリグルは咄嗟にその名前を呼んでしまう。そして僅かだがリグルが剣に込めていた意識をゴブタの方へと移してしまい刹那の間だがリグルが紫髪の大鬼族にかける力が弱まってしまう。

 

 

そして、大鬼族はその生まれた一瞬の隙を見逃さなかった。

 

 

 

ミシッ...!!

 

 

「 しまっ ... !!!!! 」

 

リグルが気付いた時には時既に遅く、紫髪の大鬼族が彼の片手剣にかける力を更に強くした。そして大鬼族のその膂力にリグルが耐えられる筈もなくリグルは大鬼族の押し出す力に完全に負けてしまい後方へと吹っ飛ばされてしまう。

 

 

「 ぐっ ... !! 」

 

その押し出す力に耐えられなかった剣も力の反発によってリグルの手から弾かれる様に飛んで行き地面に突き刺さる。そして起き上がってすぐに体勢を整えようとした後、リグルの前には紫髪の大鬼族のモーニングスターが眼前に突き出されていた。

 

 

そしてその大鬼族は最初から最後まで寡黙を貫き、鬼の冷たい視線をリグルに浴びせながら何も出来なくなってしまったリグルにトドメの一撃を繰り出そうと突き出していたモーニングスターを振り上げる。

 

 

( ───ここまでかっ ... !!!!!! )

 

 

リグルの心情の中で募る悔恨の念は誰にも伝わる事なく、大鬼族のモーニングスターはリグルの身体めがけて一直線に純粋な力のみで仕留めようとするのが見える大上段を大鬼族は取った。

 

 

 

 

(すみません ... リムル様 ... ジャス様 ...。俺はどうやらここまでみたいです....)

 

 

紫髪の大鬼族の棘鉄球が迫る。迫る。迫る。まるでその一連の光景がスローモーションかの様にリグルの眼にはその勢いが酷く遅く感じた。

 

そして紫髪の大鬼族のモーニングスターが彼の急所を的確に捉えて一撃を喰らわさんとするその光景にリグルは静かに眼を瞑る──────。

 

 

 

 

 

()()()()

 

 

 

 

 

 

おい。

 

 

 

大鬼族の動きが止まる。ランガの猛攻も、大鬼族達の怪力無比な攻撃も全てがその一言で静止した。リグルの前には振り下ろさんとされていた棘鉄球がそこにあり、自身を圧倒した紫髪の大鬼族もその声がした後に寡黙を貫いたその表情が崩れる様に眼は大きく見開いてその場で静止する。声がした方へと振り向けば大鬼族よりも強く、リムルと同等の存在である自身のもう一人の主君がそこに立っていた。

 

 

その者はスライムでは無く、悪魔の様な風貌をした者だった。その者は身体に存在する刃で全てを切り裂いて行き、それはまるで自分達に正義とは何かとその問いと同時に答えをそこに導き出す様な存在。そしてリムルとは違い、その身体が全て恐怖によって包まれた圧倒的な実力者。

 

 

だがリグルにとって、このタイミングでのその者の到来は彼にとってはその恐怖すら霞んで見える程の救済者と形容したくなるほどの奇跡の瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

「 これは一体、どういう状況だ。クソガキ共 」

 

 

 

全てが静止した世界の中で人間の皮を被った悪魔の声だけがそこに木霊する。そして大鬼族と悪魔の最悪な邂逅はここから始まったのだった。

 

 

 

正義の裁定(蹂躙)が始まる──────────。

 

 

 




 

年越し前に必死に絞り出しました。...来年はちゃんとしたペースで投稿しますんですいません許してください!何でもしますから!!
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