泣き虫サクラが幻想入り   作:夢中さん

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Vol.8

 

 

 

 

 

 

「侵入者にgreetingとは、瀟洒なメイドですね」

 

ならばこちらも、と腕を大きく振るい頭を垂れる。

 

体勢が低くなった状態で顔だけを向け、ニマァ、と笑う。

 

対しメイドも不敵に笑う。

 

双方、種は異なれど笑う、片や傲慢と、片や嬉々と。

 

 

「マイネームイズサクラ。クライベイビー・サクラ」

 

「………私の名は十六夜咲夜。冥土の土産にお伝えします」

 

 

これはこれは、と思わず拍手を響かせる。

 

パン、パン、パン、パン………少しそこらを歩きながら、手を叩く。

 

鳴り終えると、背中を向けた状態から踵を返す。

 

そこには相も変わらず歪んだ笑みが広がっていた。

 

「ジョークには聞こえませんね」

 

「お答えします。"お嬢様"に貴方を生きて返さぬよう言い付けられております」

 

「よって貴方と良好な関係を築く必要性は無いと」

 

「ほぅ。それはそれは、奇遇ですね」

 

「奇遇…………?」

 

「私もキミ達を生かす気はない。精々余力を残さず全力でかかってくることをお勧めします」

 

「………プッ………アッハハハハハハハハッッ!!!」

 

 

暫くの間彼女は笑い続け、その様子を口を閉ざしたサクラは見つめていた。

 

そして笑いが収まると、懐からナイフを取り出し、空に舞い上げたかと思えば、全て指の間で挟み取った。

 

ギラリと殺意の籠った眼光をサクラに浴びせた。

 

 

 

「串刺しか微塵切り、さぁ選びなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、腹部を見てみると、ナイフが一本突き刺さっていた。

 

───いた、というより、ナイフが腹部に到達するまでの道のりが見えなかったと言おう。

 

まるで時間でも飛ばされたかのよう………不可思議だった。

 

 

「貴方に選択権があるとお思いで?」

 

「……………」

 

「あら、先程の威勢は何処へやら…………」

 

 

突き刺さったナイフを引き抜き、満遍なくその刃を観察し始める。

 

いたって普通のナイフ、切れ味の良い戦闘向きのナイフだった。

 

いずれしろ、あともう少し…………まだ眼が眩む。

 

「我慢比べですね。これは。それまでの」

 

「貴方主語が足りないわ。言っている意味がことごとく意味不明」

 

「いずれわかります。さて、こんなものではないでしょう?」

 

「…………馬鹿ね、貴方」

 

 

瞳がまた赤く光ったその刹那、咲夜の体は彼の懐へ潜んでいた。

 

ナイフだけでなく、己の体までも移動させるのかと、サクラは驚きを顕にさせる。

 

逆手に持ち替えたナイフを頸動脈へ一閃輝かせる。

 

すんでのところでその手首を抑え、ギリギリと二人の力が拮抗して────否。

 

「!」

 

押されていた、咲夜の体全体が。

 

だが力では敵わないことは彼女の想定内、そしてまんまと罠にはまってくれた、受け止めてくれたこの哀れな男にクスクスと笑っていた。

 

「幻符『殺人ドール』」

 

「!」

 

「まだまだね。二時間前に出直しな」

 

言い残した瞬間に消える咲夜の体、その代わりに現れるナイフの海。

 

青、赤、緑のナイフが不規則に廊下内を暴れ回る。

 

特に緑のナイフは壁を反射し、一本一本が全く軌道が読めぬ代物。

 

常人は何も分からぬまま滅多刺しになって終いだが、ことサクラに関しては例外であった。

 

 

「…………お見事」

 

 

滑稽そうに拍手をする理由は、彼のナイフの捌き方にあった。

 

自分の血で濡れたナイフ一本で眼を、心臓を、股間を、急所になり得る重要な部位全てを受け流していた。

 

しかしあくまで急所───急所を守る隙に迫るナイフの数は凄まじく、ぐずぐずとサクラの体に染み込んでゆく。

 

桜柄の作務衣は着々と色鮮やかな、薔薇色へと染ってゆく。

 

 

「だから言いましたのに。さ、休んでいる暇はありません」

 

 

当然のように宙に舞い、ナイフを放る。

 

そのナイフは速さや遅さ、角度や突如の出現や、まさに変幻自在の連鎖であった。

 

そんな中でも目前に迫るナイフを透かす───捌く。

 

 

「!」

 

 

躱す───掴む───弾く───逸らす───折る。

 

 

「んー……………もう少し後か……」

 

 

掴む───翻す───引く───屈む───叩く。

 

 

「あと少し…………ここか……………?」

 

 

暗闇の中でも、延々と目を開いていれば、いずれ全く見えなかった空間も、物の種類や柄さえも見抜ける眼。

 

目が慣れる───眼が無くとも、暗闇の中に光は映る。

 

こちらに接近するナイフを暗闇の中、サクラは見抜く。

 

殺気なんて抽象的なものではなく、ナイフを通して流れる微弱な空気の変化、生じる風音、全てがたった今…………

 

 

「……………ッ」

 

 

ポタ………ポタ…………血に染め上げられた男が今、両耳に手を添え、ニヤリと笑った。

 

 

 

「グッドモ~ニ~~~ング…………」

 

 

 

男の気配が明らかに変わったことを咲夜は察知。

 

まるで己の手の内を全て見抜かれたかのような、己の透明感。

 

十六夜咲夜が力む──その証拠が今、咲夜の頬に垂れる一筋の汗として現れていた。

 

 

「見えたッッッ」

 

 

ドスンッッ───一歩踏み出すと、咲夜は一歩引いた。

 

何故下がっているのか、彼女は自分でも分からずにいたが、この妙な気持ち悪さに動揺していることは理解した。

 

何かこの男が進化した訳でもないはずが、少し変わった雰囲気だけで戦況が大きく覆された気がした。

 

物は試し。

 

男の背後に移動してからの心臓裏抜き。

 

自身の心臓を目にし、寒気に怯えながら死ぬが良い。

 

 

「……………?」

 

 

サクラの背後に降り立った瞬間、見えたのは天井で。

 

自身の体は不自然に宙へ舞っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ…………なに…………?」

 

宙返りから地面へ降り立ち、顔面を抑える。

 

たらりと垂れる鼻血と、押し付けられたような鈍い痛み。

 

蹴られた───背後に立ったその瞬間に。

 

 

「瞬間移動の類いかと思いましたが、どうやら違う」

 

「ナイフの動きが明らかに不自然。遅かったり、速かったり、消えたり、現れたり、およそ物理の運動能力を超越している」

 

「さしずめ…………"時を操る能力"………かな?」

 

 

今確かに、咲夜の体がブルりと震えた。

 

身体のダメージと言動が何一つ比例していない。

 

 

コイツ 本当に人間……………ッッ!?

 

 

───なんて、言うとでも思ったのだろうか。

 

十六夜咲夜はそれでも尚、人間技だと鷹を括った。

 

時が止まる…………今。

 

 

 

 

「「「…………」」」

 

 

 

 

風、音、空気、生物、あらゆる存在が刹那、十六夜咲夜を除く全ての時が止まる。

 

息を吐き、垂れる汗を鮮やかに拭い、髪を振るう。

 

すんっ、と普段の笑みに戻した咲夜は近付く。

 

ピタリとも動かない、大きな肉人形へ。

 

 

「上出来ね」

 

「人間にしては、良くやった方………まさか私の能力を戦闘中に暴くとは」

 

「聞こえないだろうけどお礼に教えてあげる。この時間停止の唯一の弱点。それは───」

 

 

ブンッッ───サクラの脳天にナイフを振り下ろす。

 

しかしその刃はすんでのところで止められた。

 

否、ナイフが自ら停止したのである。

 

ナイフから手を離すと、それは宙でピタリと止まっていた。

 

何故止めた?何故止まる?それは時間が止まるという事象にこそあった。

 

 

「時間を操ると言えど、運命は変えられない」

 

「そしてこの止まった時間の世界は、十六夜咲夜という私の世界」

 

「その相手の運命と世界に干渉することは出来ない。時間停止中に投げたナイフは"解除後に刺さることを期待する"しかない」

 

「けどそれで十分。それで無問題。相手にとっては突然、目の前に無数のナイフが出現し、何も理解出来ぬまま死ぬという理不尽」

 

「私の勝利は動かない。私の"理"は絶対よ」

 

 

男を見上げ、己の手の内を明かし切る。

 

さて、どうしようか、捌き切れぬナイフの数を用意するのなんて実に容易なこと。

 

しかし何となく、此処で仕留めなければいけない気がした。

 

四面楚歌───捌くのなんて不可能、隙間も作らぬ絶対死のナイフが男の四方八方を囲んだ。

 

ナイフとの距離はざっと30cm程度。

 

時を停めずとも避けるのなんて不可能、それを突然目の前に晒されてしまえば、後はもう───死あるのみ。

 

 

 

「───逆転は無い。貴様の負けだ」

 

 

 

サクラの体は、特別な策を講じる訳でも無く、ただ無慈悲に無数のナイフを受け入れた。

 

よろ、よろ、とよろめき、紅い床を赤い血が上書く。

 

やにわに両膝を付き、どちゃりとうつ伏せに倒れ伏した。

 

 

「……………予定より少し時間がかかってしまったわ」

 

「3分………ふふっ、予定では10秒だったわよ」

 

 

笑みを残し、顔に付いた血を拭い、踵を返す。

 

良い運動をしたと、決して己の瀟洒を汚さずに仕事を終える。

 

しかし疑問に残るのが、何故この男を生きて帰さぬよう自身に言い付けたのか。

 

これならば、あのお方も多少は興味を持ちそうなものなのに。

 

だが命ぜられた使命を果たすのが我ら従者の役目。

 

事の真相は後回し、殺せと言われたのなら、誰でも殺す。

 

それが十六夜咲夜という存在の意義であった───。

 

 

 

ガシッッ

 

 

 

「!?」

 

 

男から目を離したその瞬間、手首に凄まじい圧力を感じた。

 

手首には色黒い、巨大な掌が巻きついていた。

 

 

「哀しみがある………愛もある…………しかし」

 

 

ギリギリと歯ぎしりをした、後に叫ぶその言葉。

 

 

 

 

陵辱がないでしょッッッッッ

 

 

 

 

「…………りょ」

 

 

ガコンッッ───おかしな音が響いた。

 

その音は彼女の肘から聞こえ、戦慄す。

 

肘を外されたのである。

 

身体の構造を全知するサクラにとり、手首を掴んだ状態から肘の間接を外すことなどあまりに容易。

 

それから更に肩の間接を外す。

 

咲夜の右腕は、あらぬ方向へと外れ曲っていた。

 

 

「私から勝利をもぎとり陵辱するのですッッッ」

 

「全てを奪い去るのですッッッ。奪って絶望させるのですッッッ」

 

「ッッ!!!」

 

 

焦燥に駆られた表情で、残った左手でナイフを振り下ろす。

 

だがそれも掴まれ………ガコンッッ

 

咲夜は両腕の関節を外された。

 

衝撃のあまり、よろりと後ろへ倒れ込む。

 

どさりと地面に寝転がる咲夜を、サクラは怒りの表情で見つめていた。

 

───全てを掌握せん能力を持ちながら、私を解放することも出来ない役立たず。

 

タツミマコトの足元にも及ばないッッッ

 

 

「いらないッッ、いらないッッ、いらないッッッ!!!」

 

「カハッッ!」

 

 

踏みつける、何度も、何度も、何度も。

 

気の済むまで、気の済まない気持ちを投げつける。

 

咲夜は最中、何とか時間を止めに入る。

 

無論、時間は止まり、サクラの猛攻も止まる。

 

 

「はぁ………はぁ…………くっ」

 

「油断した………お嬢様に何と言えば…………」

 

 

「……………!?…………はな、離せッッ」

 

 

己の足首を踏みつけ抑えられ、身動きが取れない。

 

如何に時間を操れようと、捕えられれば関係ない。

 

 

「…………………ッッ」

 

 

何と皮肉なことか。

 

止まった時間の中でなら自分は無敵、最強と断じていた世界が今では、恐怖へと転じていた。

 

この時間停止を解除した瞬間、浴びせられる猛攻。

 

解きたくないのに、解かなければ、何も進まない!!!

 

 

ガキッッ

 

 

「「!!」」

 

 

今度は目の前が真っ暗になった。

 

そしてうつ伏せにされている───状況はまさにまな板の上の鯉であった。

 

うつ伏せの体勢に変えられた咲夜の上にサクラは跨り、のしかかる。

 

更に咲夜の左腕を目元へ回し、背中へ極める。

 

ツボを抑えられ、完全に極められた十六夜咲夜。

 

暗闇の中、身動きが取れず、更にはあの巨漢に跨られている状況。

 

屈辱、怒り、哀しみ───を差し置いて、膨れ上がった感情は恐怖だった。

 

 

「ママの味わった苦しみ、貴方も知りなさい」

 

「待つことの苦痛……………貴方も知るのですッッッ」

 

「グハッッ!!!」

 

 

あの白く、程良く発達した綺麗な脚が、折られた。

 

正しくは膝の部分の裏側を踏みつけられ、確かに響く骨が折れる音。

 

「左の膝が破壊されましたね。もう逃げれません」

 

「そして……………続いて右膝」

 

「アッがっっ!!?」

 

「さァ、次はどこに来るかな?」

 

ピエロも凌ぐ恐怖の笑みで咲夜を見つめる。

 

対し闘争の最中、大半が笑顔であった咲夜の顔は青ざめていた。

 

幻想郷では弾幕勝負、もといスペルカードルールで闘うことが基本。

 

本当の闘い、所謂、何でもありの勝負は初めてという訳では無かったが、咲夜は負け無しだった。

 

時を止めるなどという能力があれば、誰でも手も足も出ない。

 

故に、こんな"痛み"を、こんな"恐怖"を知らなかった。

 

未知なモノは何であれ、誰であれ、怖がるもの───

 

 

バリッッ

 

 

「前歯でしたか。これは予想外でしたねェ」

 

「ヒ…………!」

 

前歯の大半を引き抜くよう折り、その美を一瞬で破壊する。

 

咲夜の顔は意志とは反し、カタカタと震え始めていた。

 

 

「人というものはねサクヤ。待つことを嫌います」

 

「一定の時間毎に、痛みを与え続けると───」

 

 

バカッッ

 

 

「あカッッ」

 

 

咲夜の脳天を拳で殴りつける。

 

その一撃が顔全体に強ばっていた"欠片の理性"を破壊し、全てが漏れた。

 

涙が、血が、汗が、全てが噴き出した。

 

 

「このように、痛みより寧ろ待たされる時間に恐怖する」

 

「ひ………ぃ……………!」

 

「更には、ここにカウントダウンを追加すると、また面白いことになる」

 

「JUST 10 SECONDS……………10………9………8…………」

 

「!………っ!………ッッ!」

 

 

10秒のカウントダウンを無情に呟く。

 

最初は理解出来なかった咲夜も、秒数が減るにつれ、段々と理解が追いついてきていた。

 

7………6…………5………4………3………2………1………

 

 

 

「0」

 

 

ベリッッ

 

 

「アぁぁッッ!!!」

 

 

毛髪を掴まれ、引き抜かれた。

 

頭部の一部から、あの白銀の髪色が消える。

 

たった10秒ずつ、十六夜咲夜の美が削られてゆく。

 

十六夜咲夜の"瀟洒"が、消えてゆく。

 

 

「10…………9…………8…………7…………6…………」

 

「ひ…………ぁ………ぁ…………ぁ……………ぃ…………!」

 

「5………4………3………2………1………0」

 

 

メグッッ───胃を貫くような拳を打つ。

 

咲夜の口から吐瀉物が流れ出る。

 

 

「10………9………8………7………6………5………4………」

 

「っ、っ、っ、っ、っ、っ」

 

「3………2………1………………0」

 

 

メリッッ───太ももの肉をちねり、引きちぎる。

 

 

「きゃぁぁあぁあぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

「10………9………8………7………6………5…………」

 

 

咲夜は思わず時間を停めた。

 

そして必死に暴れる、暴れる、暴れる………解けない。

 

胸の奥深く、見えない矢で射抜かれるようなこの感覚。

 

 

今では決して見せなくなっていた、泣き叫び。

 

 

次の時間停止と共に、解放された。

 

 

「4…………3…………2…………1…………0────」

 

 

 

やめてッ"ッ"ッ"ッ"ッ"

 

 

 

「…………」

 

 

 

もう………やめ"て…………!

 

 

 

「…………」

 

 

 

私の………負けよ"……………!

 

 

 

その言葉の羅列は、館全域へ広がった。

 

拘束は解かれ、咲夜の背から離れる。

 

立ち上がり、震えが止まらぬ様子の咲夜の前でかがむ。

 

咲夜の目線は何処も見ず、地面へ瞳孔を震わせていた。

 

そして神妙に、サクラはポツリと呟いた。

 

 

「もう一度───もう一度高らかに謳いあげなさい」

 

「誰の目から見ても分かる敗北。と言ってもキミと私しかいませんが」

 

「この………毛髪を一本引き抜いた瞬間、大声で叫ぶのです」

 

 

 

ギブアップッッッ

 

 

 

「いいね」

 

「~~~~~~~~~~ッッ」

 

 

涙ぐむ咲夜と、カウントダウンを再開させるサクラ。

 

咲夜の瀟洒が、気位が、心身が、たった今、破壊されようとしていた。

 

 

 

「3………2………………ワンッッッ」

 

「きぶあっ」

 

 

 

キュキュキュキュキュキュッッ

 

 

 

「!」

 

 

"蝙蝠"が窓の外で大量に舞う。

 

すると窓にバンバンと突進し、数百にも昇ろうという数が集まった刹那───

 

 

パリンッッ

 

 

窓を突き抜け、サクラの目前で人型に形成し始める。

 

おぞましい存在感を感じた。

 

暗黒で、闇深くて、それでいて美しくて、幼くて…………

 

思わず、おかしな笑いを吹き出してしまった。

 

 

 

 

「はじめまして、ヴァンパイア」

 

 

 

 

髪はブルーベリーのような色、人形のようなドレスを身にまとった幼女。

 

普通とは異なるのが、噛みつかんとする二本の鋭い歯。

 

サクラの目からはまさに"吸血鬼"のそれにしか見えなかった。

 

そんな彼女は何故か、笑っていた。

 

 

「はじめまして。そしてさようならだ」

 

「貴様は私の従者を破壊した。お前ここから生きて出られると思うなよ。ぶち殺すぞ人間ヒューマン

 

 

凶器にも勝ろう爪を突き付けられる。

 

そしてくつくつと肩を揺らし、迎えた。

 

 

「おぉ、恐ろしい恐ろしい。こんなに恐ろしいヴァンパイアに目を付けられては話も出来ませんねェ」

 

「しかし、そちらがそうするのならこちらもこうしよう───拮抗状態を作るとしようッッ」

 

 

 

バチンッッッ

 

 

 

泣き虫サクラ、初めて行う復讐劇、その轟音を開始の狼煙とした。

 

そして終始外さなかった眼鏡を、今投げ捨てた。

 

 

 

バタンッッッ

 

 

 

「……………出血多量か」

 

 

目前で倒れ伏す男を前に、少女はふと考え込む。

 

そして恐怖の面持ちで気絶する咲夜を一瞥し、微笑んだ。

 

 

「いつでも殺そうと思えば殺せたものを………」

 

「けど咲夜。"生きて帰すな"とは、殺せ、という意味では無いわよ?」

 

「"生きた状態で此処から出すな"───そう、言ったのよ」

 

「自我を壊されど、やはりお前は瀟洒なメイドだったな」

 

 

役目を果たした従者にそう告げ、男に視線を変える。

 

そしてこの、今まで見てきた"運命"の中で最も稀有な道を辿る者に、手を伸ばした。

 

 

「ふふ………此処で"死ぬ"か否か………運命は貴方次第」

 

 

 

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