見た目が踏み台だからと言って、中身も踏み台だとは思うなよ? 作:蒼天 極
それから数日後、夏休みの宿題をひなちゃんやアリシアちゃんに教えながら手早く終わらせたタイミングで騎士カリムからの呼び出しを受けて、聖王教会へ出向いていた。
「ごめんねレオ君、今日は来てくれてありがとう。本当なら私から出向かないと行けないんだけど、忙しくって……」
「いやいや、気にしないでください」
特にいくつかある聖王教会の一つであるここは、騎士カリムの管轄だけあって俺が魔王の子孫だと知っても誰も態度を変えることなく接してくれるから気楽なのだ。
「それでどうしました?」
「レオ君が破壊した聖剣リディルについてちょっとね……」
その言葉と共に別のシスターが見事にへし折れた聖剣の刀身と柄を持って来た。
いくら緊急事態だったとは言え聖剣を破壊したのは不味かったかな……? これ曲がりなりにもロストロギアだったみたいだし、破壊したのが罪に問われるって言うなら上手いこと言って最高評議会に罪を被せなければ……
俺が頭の中でどう罪を被せるかと思考していると、急に騎士カリムが頭を下げる。
「ごめんなさい」
「な、なんで頭下げるんですか?」
「この聖剣リディルはね。元々聖王教会で管理していた聖王の遺物の一つなの」
「え"」
それはいよいよやばいのでは?
ただでさえ魔王の子孫だと警戒されてるってのに、聖王教会が守って来た聖王様の遺物を破壊したって本格的に敵対行為じゃ無いですかやだー!
なんでそんなものを最高評議会の脳みそ共は持ち出したんだよクソッタレ!! ……ん?
最高評議会の脳みそ共は持ち出した……?
「なんでそれを最高評議会が持ってたんです? 盗まれた?」
「いいえ、最高評議会に対する取り調べで彼らが吐いたんだけどね」
なんでも俺が拷問の為に入力していたプログラムをそのままにして帰ったことで、吐かないならこのプログラムを起動すると脅して情報を吐かせることに成功。
最高評議会は聖剣について聖王教会の大司教から貸し出して貰ったと吐いたらしい。
「そして聖王教会の魔王の子孫否定派……言ってしまえば過激派の筆頭だった大司教の身柄を抑えて取り調べをした結果……最高評議会から魔王に対する切り札として貸して欲しいと言われたから貸したって……」
「あー、あの剣俺対策だったんですね。それにしては防衛に回してたけど」
大方魔王に対する切り札と言うのは方便でそのまま借りパクする気だったのかもな。
まぁそれでも俺がきっかけになったのは確かな様だ。
「本当にごめんなさい。上層部を説得するなんで言って何もできなかった。そのせいで危険な目に遭ったわよね……」
「大丈夫ですよ。言っちゃなんですが……この剣にうちの先祖は煮湯を飲まされたみたいなんで、破壊したことで先祖もよくやったって言ってくれるでしょうし。……と言うか聖剣破壊した件については大丈夫なんですか? 聖王教会の遺産の一つを魔王の子孫が壊したって……」
「あぁ、それについては大丈夫。確かに過激派が宣戦布告だって騒いでたけど、これを機に聖王教会も大司教を始めとした過激派に対して徹底的に責任の追求をする事にしたの」
いくら魔王の子孫である俺が聖剣を破壊したと言う事実があっても、元を正せば俺を傷つける目的で聖王教会が最高評議会に聖剣を貸し出したから。
今回の事態を重く受け止めた教皇様が、大司教についてはロストロギアの横流しの件で管理局に突き出し、過激派一派については破門する事を決定したらしい。
「だから聖剣が破壊されるキッカケを作ったのは過激派なのだから、レオ君に責任を追及するのはお門違いって言うのが聖王教会の判断よ」
「そう言ってもらえると助かります」
「そして今回の一件を受けて教皇様から聖王教会全体に通達があったの」
魔王の子孫である俺について、聖剣を単騎で破壊したのは相当な脅威であるのは事実だが、聖王教会と歩み寄る姿勢を見せている為、これ以上の敵対行為を働くことの一切を禁止する。
「うん。その通達はもっと早く出してくれたら嬉しかったかな?」
「教皇様は中立だったんだけど、聖剣を破壊した件についてビビったんだと思うわ。我が上司ながら情けない……」
騎士カリムは頭を抱えてそう言う。どうやら教会は教会で苦労している様だ。
まぁ何はともあれ、これで教会関連が俺にちょっかいを出してくる事は無くなったわけだ。
はっきり言って対応すんの面倒くさかったし、これなら気兼ねなくここにも遊びに来れるだろうからマジでラッキー。
「それでここからが本題なんだけどね」
「え、今のが本題じゃ無かったんですか?」
騎士カリム曰く、いくらこれから俺にちょっかいを出すのを禁止にしたとしても、今までやられた分はチャラにはならない。
だからこそこれから俺が聖王教会を敵対視する可能性があり、慰謝料やらなんやらでケジメをつけて今のうちに和解をしておきたいと言うのが聖王教会の考えらしい。
「別に俺は気にしてないんですけどね。ちょっかい出した奴らはもれなく論破したり、殴り倒したりしてもれなく再起不能にしてますし」
「そういう訳には行かないのよ。それに聖王教会自体の考えを抜きにしても、今まで行動の一つ一つを指摘されて嫌な思いをした上に、結果的に命の危機にも脅かされたのだから、その分の補填は受ける権利があると思うの。私達に出来る事ならなんでも叶える。言って頂戴?」
なんでもなんて言っては行けませんよ。
身体はガキンチョ、心は紳士な俺だったから良かったものの、もし変な奴になんでもなんて言ったらとんでもない事になりまっせ?
まぁそれはさておいてどうするかねぇ? 騎士カリムはこの世界に転生してからの仲だから関係が拗れるような事は言いたくないし……。
あ、そうだ。無難に慰謝料請求しても良いけど、この際政敵を減らしてしまうのもありかもしれない。
「それなら紙とペンを貸してくれません?」
「分かったわ」
カリムからペンと紙を受けとる。
サラサラサラ〜っと。
「それじゃあこれを教皇様に渡して下さい」
「分かったわ。……ところでなんて書いたの?」
「大した事は書いて無いですよ。今後聖王教会は本局や次元航行部隊と一緒になって地上本部の締め付けに一切加担しない事をね」
「締め付けってなに?」
「え?」
「ごめんなさい。私才能だけでこの地位に来ちゃったから正直政治についてはあまり詳しく無いのよね……」
あー、大丈夫っすよ。俺も才能ありきで地上本部の後継者になってるんで。
それに騎士カリムの仕事はレアスキルの発動による預言書の作成と、古代ベルカ言語の解読。そしてこの支部の管理なのだから政治に疎いのは仕方のない事だ。
「締め付けって言うのは地上本部の防衛費を削減する事。そして優秀な人材を本局が引き抜く事です」
「え!? でもそんな事をしたら地上本部が弱っちゃうじゃない!? 何でそんな酷い事を……」
「本局が地上本部に力を持たせない様にして、反乱を起こさせない為なんですよ」
地上本部は地上にあるが故にやろうと思えば本局を管理世界から閉め出すことができる。地上の防衛や武装を充実させておけば本局は地上に降りることもままならない。
そうなると本局の食糧はすぐに底をつき、一ヶ月がそこらで壊滅するというわけだ。
「そ、そうなのね。確かに本局は次元の海にあるから物資の補給が出来ないのは致命的だわ」
「でもね。これのやりすぎも良くないんですよ。地上本部に防衛費を渡さない。優秀な局員は引き抜く。……やり過ぎた場合どうなるか分かります?」
「え?」
その結果、本来地上を守るはずの地上本部は上手く機能しなくなり、犯罪件数の増加や復興費も防衛費に入っている関係上クラナガン郊外の廃棄区画が出来た。
これでよく民衆が本局に対して不平不満が無かったのかが分からない。
「そ、それって一年前のクラナガンそのものじゃない!?」
「そうですね。俺がバッテリーデバイスを開発した事で今はある程度解決してますけど、本局や次元航行部隊はそれを理由に更に防衛費を減らそう……それどころかバッテリーデバイスの所有の上限まで定めようとしている。はっきり言ってやりすぎなんですよ。だから聖王教会を締め付けに加担させない事で、ある程度本局や次元航行部隊の派閥の力を削ぎ落とすってわけです」
海に力が偏り過ぎたら管理世界が荒廃して、陸に力が偏り過ぎたら反乱が起きる。バランスが大事とはこう言う事なのだ。
そこら辺もしっかり手紙に書いたから、教皇様が権力の亡者でない限りは納得して下さるだろう。
「と言う事でこの手紙お願いします」
「分かったわ。私が責任を持って届けさせてもらうわ!!」
納得した表情の騎士カリムにしっかりと手紙を預かってもらい、今日のところは海鳴市に帰還するのだった。
聖剣についてとレオ君のいつも言っているバランスが大事と言う思想についての説明会でした。