見た目が踏み台だからと言って、中身も踏み台だとは思うなよ? 作:蒼天 極
海鳴と呼ばれる街に住む魔導師の者たちからキリエと夜天の書を回収した私は、キリエの治療のために拠点にしている場所へ帰還していた。
「ただいま帰った」
「えぇ、おかえり……き、キリエ!?」
キリエに駆け寄る肉体を持たないイリスをすり抜けて、近くのソファに寝かせてやる。
そして宮坂麗央から貰い受けていた装置を用いて彼女を回復させる。
「……ほう? 素晴らしい装置だ。まさか失った右手が戻ってこようとは」
「まさかあのキリエがここまで大怪我をさせられるなんて……」
「……宮坂麗央が桃崎ひなと特別仲が良いのは我々は知っていた。彼女に怪我をさせた時点でそうなる事は想像がついただろう」
怪我をしたくないならとっととエルトリアに逃げ帰るなり、自首するなりすれば良い。だがキリエはそれをよしとせず、あれだけの怪我の中を執念一つで闇の書を強奪して見せたのだ。
それについては素直に賞賛に値する。天晴れだ。
…………だが。
「こやつも可哀想な娘だ。イリスの本当の目的も知らず、傀儡として使われている。たとえ永遠結晶を見つけたとて父親は助けられないと言うのに……。この子も貴様にさえ出会っていなければ今頃父親のことも自分なりに整理をつけていただろうに……。もっとも、傀儡なのは私も同じだがな」
「……心配しなくても、永遠結晶を手に入れたらキチンとか解放してやるわよ。アンタもキリエもね。だからキリエに真実を教えようなんて思わない事ね」
「もちろんだとも、私の命はお前に握られている。……まぁ、
「死にたいなら役目を果たした後に勝手に死ねば良い。どうせ後ちょっとで解放されるんだから文句を言わずに命令をこなしなさい」
……勝手な女だ。
こんなやつに使われると分かっていれば、
過去の私の行動に後悔の念を抱いていると、ソファに寝かせていたキリエの瞼が開く。
「……ん」
「あ、キリエ……目が覚めた!? 良かった……」
「イリス、イルマ……。そう、イルマが助けてくれたのね。ありがとう」
「……例には及ばん。与えられた役割をこなしただけだ」
「……相変わらず固いわねぇ。そこは笑いながらどういたしましてって言うのよ? 私達は友達なんだから」
先ほどまでの冷たい顔とは打って変わって、明るく振る舞いながらそう宣うイリス。
よくもまぁ思ってもいない事が言えるものだと、内心感心してしまうな。
◇
あくまでも私の肉体は人によって作られたもの。だが、エネルギー補給は人間であった頃と変わらず経口補給だ。
闇の書と魔心を手に入れたが、行動に移す前に栄養補給ということで、事前に買っておいた栄養商品を齧る。
「食いしん坊のキリエじゃちょっと足りないんじゃないの〜?」ニヤニヤ
「だ、大丈夫よ! この世界のカロリーメイトって、これ一つで身体に必要な栄養素を手軽に補給できる優れ物なんだから!!」
「正確にはこれは栄養補助食品。食事を摂った上で足りない栄養素を摂取するものだから、これのみを食べると栄養不足に陥るだろう」
「だってさ! 足りないならいつでもご飯買いに行って良いからね?」ニヤニヤ
「い、イルマは余計なこと言わなくていいの!!」
キリエが文句を言ってくるが、事実なのだから仕方があるまい。
栄養はしっかり補給しておかねば肝心な時に動かなくなる。故にそんなに意地を張らずに色々食べれば良いが、キリエはこうなると頑固だから聞き入れようとはしないだろうな。
「……キリエ、後悔してない?」
「なんで?」
「酷い目にあって、お姉ちゃんとも喧嘩しちゃったでしょ? 私の言うこと聞いたの、後悔してないかなって」
利用しているだけなのに、よくもまぁこんな事が言えるものだ。
あくまでも理解者である事、良き友人である事を演じる事で、利用されていると気づかれにくくするためなのだろうが……。ふむ、それだけじゃないのか?
哀れなキリエはこれがイリスの演技であるとは気が付かずに、彼女の額を小突く。
「イリスは私にチャンスをくれたの。覚えてる? 初めて会った日のこと」
「もっちろん! キリエがまだ内気で大人しくてボッサボサな癖っ毛だった時の事!」
その後キリエとイリスは昔話に花を咲かせる。
何も知らずにここだけ見ると、年相応の少女達なのだがな。
「おっと、ごめんね。イルマを置いてけぼりにしちゃって」
「別に構わない。……ところでキリエよ。闇の書を手に入れて、魔王の心臓も揃った。あとはお前がいなくとも私たちでやれる」
「……え? な、何言ってるのよイルマ? これは私のわがままなんだから、私がやらなきゃ……」
「宮坂麗央からの伝言だ。次はあの程度では済まさん、自首するか更なる地獄を見るかを選ぶが良い」
「っ!?」
あそこまでボコボコにされたのだ。キリエはあの時を思い出したかのように顔を真っ青に染める。
それを見たイリスがキリエに見られないように私を睨むが、私とイリスでやれるのは事実。ならばこれ以上何も知らない小娘を犯罪に悪用する必要もあるまい。
私としても嘘に踊らされていた娘が、嘘に気づかぬまま退場してしまうような趣味の悪い歌劇は好かないのだ。
「悪い事は言わない。このままエルトリアへ帰り、朗報を待つと良い。もう一度言うがお前は宮坂麗央に目をつけられているぞ。次は殺されるかもしれぬ」
「……嫌よ。確かにあれは痛かったし苦しかったけどあくまで自業自得。それにパパを助けるって言うエゴを通すためならあの程度また我慢して見せる。……お願い、最後まで私にも手伝わせて!!」
「それにイルマは強いし、イルマがそのレオ君と戦えば問題ないわよね。私はこんなんだからイルマがキリエを守ってあげてよ」
……ダメだったか。
だがイリスも妥協案かは知らないが、キリエを宮坂麗央から守るようにと私に命令を下したし、何かあれば私が守る事もできるだろう。
「……これ以上は止めても無駄か」
「ごめんね。それと心配してくれてありがとうイルマ。……さ、やっちゃいましょ! 鍵の呼び出し!」
「うん」
机の上に置いてあった闇の書をイリスが手に取る。魔王の心臓はここでは使わないようだ。なんでも最後の最後で使うのだとか。
「フォーミュラ、エミュレート……アルターギア、闇の書」
イリスが闇の書をフォーミュラでハッキングすると、闇の書の奥の奥深く、システムの根幹に眠っている何かを取り出そうとする。
「コードロックを解除、管理者権限にアクセス。鍵の場所は構造の奥の奥……」
直後闇の書から次元震が起きるほどではないにしてもそこそこな規模の魔力の奔流が発生する。
こうなる事を予測して事前に離れていた私は問題なかったが、近くにいたキリエは魔力の波に押されて少し後ずさる。
その後しばらく魔力の奔流に抗っていると、闇の書から一枚のページが抜き出され、それは紫焔へと姿を変える。
「封印の鍵、起動!」
イリスの掛け声と共に紫焔は大きく燃え上がったかと思うと、やがてそれは安定化、紫の焔の周りを赤い炎と青い炎が飛び始める。
「こ、これが永遠結晶への……鍵?」
「えぇ。おはようロード」
『……我ハ何故ココニ? 思イ出セン』
「あなたは王様、古い魔導書の中で眠らされていたの。あなたの周りを回っているのが、あなたの大切な臣下」
『臣下……』
「私たちはあなたに失われた力を取り戻すチャンスをあげたいの。永遠結晶に眠る、無限の力を」
『永遠結晶……無限ノ力……』
「取り戻す為の力も貸してあげる」
イリスはそう言うと、複数枚のページを紫色の焔へとくべる。
それは焔に飲み込まれたかと思うと、それは闇の書の現マスター八神はやての外見に姿を変えた。
「これって……」
「闇の書の現所有者のデータをインストールしたわ。悪くないでしょ? キリエ、八人のデータを……」
「うん」
キリエの手に装着された端末から闇の書のページに、それぞれの魔導師のデータを入力していく。
それらのページは燃え上がり、炎に姿を変えると、そのうち三つは赤い炎へ、もう三つは青い炎へ、残った二つは八神はやての姿をした王へと入っていく。
「二人にもインストール。そして王様にも追加でインストール」
海鳴の魔導師達のデータをインストールした王様達は、赤い炎は高町なのはの姿に、青い炎はアリシア……いや、背丈的にはフェイト・テスタロッサへと姿を変えた。
どうやら見た目は適当に選ばせたみたいだが、性能面においては魔導師達の能力を一部引き継いでいるっぽいな。
「……我が臣下、シュテルとレヴィ」
「色々思い出した?」
「あぁ、思い出した。あらゆる望みは我が手の中に……世界の全ては我が腕の中!!」
直後、王様は先ほどよりも更に強大な魔力を発生させる。
あまりに膨大な魔力量は、おそらく遠目から見れば闇の柱が立っているほどだろう。
「無限にして無敵の王に……我はなる!!」
「な、なんかすごい子達ね」
「そう言えばこの世界のワンピースとか言うアニメでも海賊王に俺はなると言っていたな。王ともあろう者がパクりとは情けない」
「そんなわけないでしょ。偶然よ偶然。あの子達は鍵……大切な鍵……」
そう言ってイリスは目を細めた。
……王が魔力の柱を発生させたせいで、ここが包囲されるのも時間の問題だろう。
早いところ移動……いや、永遠結晶を回収せねばな。
宮坂麗央。果たしてお前に、命令に逆らう事の出来ない私ごときを止める事が出来るか……見させてもらうぞ?
魔導師組は9人いる為、マテリアル娘達にはデータが三人分ずつ入っています。(見た目は原作のままなので悪しからず)
ディアーチェ:はやて、ひな、すずか
シュテル:なのは、ヤマト、アリサ
レヴィ:フェイト、レオ、アリシア
と言ってもインストールされたのは、あくまで見た目と戦闘データだけなので、レオやヤマトなどのやべえほどの魔力量やチート能力は持っておりません。