見た目が踏み台だからと言って、中身も踏み台だとは思うなよ? 作:蒼天 極
圧倒的数の暴力でユーリを撃退したが、達成感なんてものはなく重苦しい空気が当たりを包んでいた。
「……なぁヤマト」
「なんだ?」
「なんかさぁ……ユーリ……ユーリちゃんにすごく悪い事したよな俺ら」
「言うな。俺も心が痛くて泣きそうなんだから……」
だよなぁ。俺は基本敵には一切躊躇なくボコボコにする事が出来るタイプだけど、それは相手がクズであったり大切なモノを傷つけられたときだけ。
操られて無理やり戦わされた可哀想な子供をボコるのは流石に心が痛いのですよ。
それはみんなも同じだったようで、誰もが複雑そうな顔をしているし、リーン姉さんに至っては戦闘に参加出来ずに目を背けていた始末だ。
ま、まぁリーン姉さんいなくても明らかなるオーバーキルではあったし、昔馴染みが傷つけられるのは見ていられないだろう。故にリーン姉さんを責めるつもりは微塵もない。
「ま、まぁ無力化する事が出来たからええよ。早いとこ保護して休ませてあげよ」
「ひなも全力で癒すよ」
煙が晴れてユーリがキチンと無力化できたかを確認……よし、ちゃんと気絶してくれてる。
だが気絶したユーリちゃんを取り囲む様に夜天の書のページが辺りを舞っていた。まるで彼女を守るかの様に。
「……おい、行くぞ!」
「御意」
「はーい」
そしてユーリが意識を失ったのを確認して降りてきた、はやて、なのは、フェイトのそっくりさん達。
…………。
「一応聞くが……」
「なんだ?」
「彼女に近づいてどうするつもりだ?」
いくらイリスが独断で好き放題始めてから動きが無かったとは言え、一応コイツらはイリスの一味だ。
ユーリちゃんに近づけて、これ以上彼女を傷つけられたら目も当てられない。故にしっかりと釘を刺しておかなければならない。
……まぁここまでボロボロにした俺が言ったところで、おまいう? なんだけどな。アッハッハ!!
「ふん、どうしたもこうしたも無い。我らには記憶がないが、何故か此奴の事を私は知っている。心配だ。だから様子を見に来た」
「本当だな?」
「嘘をついて何になる?」
「…………」
はやてのそっくりさん……ディアーチェを名乗るこの目に悪意はない。これは本当の本当に心配してるのか?
「レオ君、姉やんは大丈夫や。もしユーリに酷い事したら私が躾けるからな」
「おい小鴉!? 貴様我に何をする気だ!?」
「あ、これは大丈夫そうだな」
オリジナルのはやてとここまでの漫才を繰り広げられるなら彼女は大丈夫。配下みたいに控えてる二人は……ま、大丈夫だろ。多分。
ディアーチェは気絶したユーリちゃんの下へ向かうと、リーン姉さんと一緒にユーリちゃんに呼びかける。
「おい、ユーリ! 起きろ、起きぬか!!」
「ユーリ、目を覚ましてくれ!!」
「……ん」
二人の呼び声が届いたのだろう。ユーリは静かに目を開ける。
「ユーリ、大丈夫か? どこか辛いところは……?」
「……リィンフォース? それにディアーチェ……? ならこっちの二人はシュテルとレヴィ? それに……」
「八神はやて。夜天の書の主です」
夜天の書の主、はやてを見つけるとユーリは辛そうに身体を起こして一枚のページを取り出し彼女に手渡そうとする。
「はやて、お願いがあります! ディアーチェ達をどうか……それにあの子……イリス──」
直後、はやて達では気づかない速度でイリスが急接近しているのに気がつく。
丁度いいや。ちょっかいかけるタイミングに合わせて、カリバーでぶった斬ってやろ。
そう思いカリバーを抜いた次の瞬間、俺の隣にいたヤマトが既に行動を起こしていた。
「いい加減にしろ、このクソやろう!!」
「ぐぅ!?」
イリスのブレードがユーリちゃんを串刺しにする直前、ヤマトがグラディウスで彼女の剣を弾くと同時に鳩尾に爪先蹴りを突き刺す。
おおぅ、普段この手の不意打ちには後手に回ってしまうヤマトが先に行動するなんて……。
「……あんた、さっきから邪魔ね」
「やかましい。さっきから好き勝手言いまくって、傷つけまくって……。やりたい放題しやがって。……もういい。言霊のこういう使い方は絶対にしたくなかったけど、お前なら良いや。【妨害貫通】そして……【イリス、消え「待てヤマト」……レオ?」
ヤマトが言霊で何かしようとしていたのを、イリスに細心の注意を払いながら止める。
「ヤマト、今言霊で“イリス、消えろ”って言おうとしただろ?」
「……だったら何だ? コイツは人を傷つけるのをやめない! ユーリを守るためならこうするしかないだろうが!!」
ヤマトがこっちを向いたタイミングでイリスが動こうとしたため、彼女の手に持っていたブレードをMブラスターで弾き飛ばした後にそれを左手に装備していたアルカンシェルで撃ち抜く。
彼女の手から離れアルカンシェルの光線を浴びてしまったブレードは、光り輝くと地面に落ちる前に跡形もなく消えてなくなった。
「動かない方がいいよ。次はお前に当てるから」
「くっ!!」
きっとイリスを見つめる俺の目は絶対零度と言わんばかりに冷たいものだろう。
ブレードを原子一つ残らず消し飛ばすアルカンシェルの威力を見たイリスはこちらを睨みながら再び動きを止めた。
「さて、ヤマト。ユーリを守るためならイリスを殺しても良いって事だけど……ま、この手の問答に答えはない。だからイリスを殺すってのもユーリを守るのに立派な手段だ」
「なら…………!!」
正直ヤマトのこの選択は悪くないと思う。
夜天の書や魔心レプリカを所持している上に、ユーリちゃんのコントロール権を握っているこいつをこの世から消せば、夜天の書や魔心レプリカは俺らの元に帰ってくる上に、ユーリちゃんやどっかに行ったイルマも自由の身。事件も解決といい事ずくめだ。
……だからこれは俺の我儘だ。
「でも親友の俺からすれば、お前らには人殺しになってほしくないんだよな。……こんな仕事だ。いつかタチの悪い犯人を撃ち殺さなきゃならないときがあるだろうし、今がその時なのかも知れない。…………でも、頼むから俺の目の前で一線を越えないでくれ。なんか嫌だ」
……まぁ、お前は過去に言霊で俺を殺したことあるけど、あれは死んだのは俺だししかも事故だからノーカンだノーカン。
別に人を殺すと言う一線を越えるなって言ってる訳じゃなくて、親友が人殺すのを見るのが嫌だから、俺の目の前で人を殺すなって言ってるだけだし。
「ひなもなんか嫌!!」
「私もよ。レオも言ったけどこんな奴の為に手を染める必要はないわ!!」
「殺す以外で捕まえる方法があるはずだよ?」
「みんなでイリスをボッコボコにしてそれでしまいでええやん?」
「はやてちゃんに賛成なの!」
なのはちゃん達も俺の味方をし始める。ヤマトは俺やなのは達を見ていたが、やがて大きくため息をついて呆れた様に笑う。
「……何だよそれ。お前事件とかでムカついたら犯人拷問したり、最悪殺そうとするくせに……お前が言うなよな?」
「だよな、お前が言うなだよな。それについては自覚がある。だからこれはただの我儘だ」
「……ったく。それで、止めさせたからにはイリスを捕まえる考えがあるんだよな?」
「あるよ。アルカンシェルで脅す。あ、因みに俺は躊躇なく引き金引けるから、よく考えて行動しなね?」
「おい。俺が殺すのを止めておいて、お前は殺すって流石にそれはないだろ?」
ヤマトがツッコミを入れる横でイリスはギロリと俺らを睨む。
……動きがないってことは降参……いや違うな。何か企んで──
直後俺の真下から水柱が立ったかと思うと、そこから現れたのはイルマ。
「おっと!」
「サメに食われかけていたと言うのに人使いが荒い……」
咄嗟にカリバーに持ち替えて海中から不意打ちを仕掛けて来た、何故かさっきよりもボロボロのイルマを迎え撃つが、アルカンシェルの射程から外れた一瞬の隙にイリスは懐から夜天の書と魔心レプリカを取り出すと、夜天の書の魔力と魔心の魔力で俺らを吹き飛ばしやがった。
そしてイリスは動かないユーリちゃんに近寄る。
「い、イリス……私は」
何か言おうとするユーリちゃんを無視して、予備のブレードを彼女の腹に突き立てるイリス。
「……喋らないで。嘘はもう聞きたくない!」
「がっ……あぁ……」
ユーリちゃんは吐血し、はやてに渡そうとしていた紙も燃やされてしまう。
「ユーリちゃん!?」
「くそ、ヤマトから助けてやったってのに恩知らずな……「これは貰っておこうか」うおっとマジかよ!?」
ユーリちゃんをまた傷つけられたことで動揺してしまったのが行けなかった。
イルマはカリバーを弾くと、そのまま流れる様にアルカンシェルを強奪していった。
「イルマ、それを寄越しなさい」
「……ほら」
イルマからアルカンシェルを受け取ったイリスは、それを容赦なく俺達に向ける。
「これで形成逆転ね。これは良いものだわ、一撃で排除できるなんてね」
「やっべー、アルカンシェルが盗まれちまったぞ。どーしよー、どーしよー……なんてな」
「っ!?」
バカめ、盗難対策はバッチリなんだよ。盗んだものがなんでも使えるとは思わない事だな!!
ニヤリと笑って指パッチン。直後、アルカンシェルがそこそこ強い爆発を起こす。
それにしても惜しい、直前で気づいてアルカンシェルを投げてなかったら爆発に巻き込めてたのに。
「……ほんと油断ならないわね。まぁいいわ、少し予定が狂った。立て直さなきゃ」
「イリス、ユーリを離せ!!」
「良い加減にせぇや!!」
イリスの行動に激昂したディアーチェとはやてが襲いかかるが、再び夜天の書の力を使って二人を吹き飛ばす。
そしてイリスは勝ち誇った笑みを浮かべて来やがった。
「便利な本に水晶よね。用済みになるまで使わせて貰うわ!!」
「……宮坂麗央。どうやら私はまだ働かされる様だ。……だが次で最後だ。準備しておくように」
「ユーリ……ユーリ!!」
二人はそういうと、夜天の書に内包されて転移魔法を使ってユーリを連れて撤退してしまった。
「……あーあ、今回俺が大戦犯かましちまった」
ヤマトを止めなければ事件は解決していたはずなのに、俺が止めてしまったせいで大敗北してしまったのだった。