ポケットモンスター虹 ~Harmonized Green~   作:裏腹

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02.ピュアカラーズ

 ひりつく空気が、翼の風切りに煽られ、ただただ流動する。

 土煙はやんわりと舞い上がり、戦いの残滓となって先刻の激闘の度合いを物語る。

 黒竜と鳥が睨み合うブレイクタイム。双方のトレーナーがするのは、背中越しのコンディションチェック。

「ごめんなさい。もう少しだけ、頑張って頂戴」

 コスモスはサザンドラのダメージレベルを確認し、戦闘続行可と判断する。多くの電撃をもらいこそしたが、効果は今ひとつ。強靭な竜の鱗は、そう簡単に貫かれない。

 

「(やられたわね)」

 

 されど、コスモスは内心を曇らせる。要らぬ傷を作ってしまったことに、だ。

 エースで一気に勝負をかけてくる腹積もりと読み、火力とフィジカルで押したが、実際に向こうが取ってきた戦術はその真逆――俊足を用いての攪乱。

『相棒=決め手』という先入観を利用されたのだ。

 そんなものは傾向でしかなくて、真理なんかとは程遠い――考えれば、単純なことだったのに。

 

「コスモスのヤツ、珍しく苦戦してやがるな」

「各地方のリーグを総なめにする、あのイリスちゃんのライバルだもの。想定はしていたけれど……」

「けれど……、なんだ?」

「あまりにも、サンダースは危険だ。ここで逃がしてしまったのは痛恨のミス――と、いったところかな」

 

 ジニアの問いに、ハルシャは神妙な面持ちでこくり、と頷く。

 四天王の中でも、とりわけ他者の才を見出す彼女には、その脅威が如実に伝わっていた。

 

「“すばやさ”が頭一つ抜けているが、あのサンダースは全てのステータスが高水準に纏まっている、いわば万能型だ」

「万能ってぇことは、何でもできるってぇこと。ポケモンの基礎スペックの高さは、そんままやれることの多さに直結するってぇ寸法よ」

「先発となって多くの技を使わせ、序盤から情報を引き出す『斥候』。不利な戦いでも、最低限の損失で着実に削って味方に繋ぐ『中継ぎ』。終盤に出て、味方が削った手負いを持ち前のスピードで一掃(スイープ)していく『締め(クローザー)』――なんでもござれときた」

「特定の相手や役割を持たず、作戦と状況に合わせて臨機応変に立ち回り、チームを補完をする遊撃手……謳っちまえば一瞬だけど、そいつを果たせるポケモンが一体どんだけいるってんだよ……」

 

 思い思いを口走る観客をよそに、ミントはピジョットに次なる指示を行う。

 

「“見た”わね? サザンドラ(アレ)を倒すのは、あなたの役目――――任せたわよ」

 

 凛とした視線を送れば、返答は完了。インターバルはほどほどに、

 

「“ぼうふう”!」

 

 ピジョットが先手を仕掛けた。

 

「“あくのはどう”、かき消して」

 

 ハリケーンにも迫る規模で起こすつむじ風だが、それでもまだ、サザンドラのパワーを上回れない。

 そのどす黒い波動をぶつければ、簡単に相殺される。

 鈍い音と衝撃の余波が戦場を包み込む。もくもく立ち込めるあくエネルギー由来の黒煙――それを、切り裂いて。

 

飛び立て(テイクオフ)!」

 

 大鳥は雄々しき翼を広げ、勇ましく飛翔する。

 制空権は握らせない。コスモスの指示を待たずしてサザンドラも上昇すると、天高く逃げるピジョットの背後を捉え、ドッグファイトの様相を取る。

 耳朶をくすぐる加速と、風切りの音。乗ってきた――――。

 

「五時方向、距離六〇メーター、風向き北東、風速概算六メーターパーセック――――空戦機動(コンバットマニューバ)、ゴー!」

 

 狙いを付けてすかさず放つ“あくのはどう”。

 

転回(ロール)!」

 

 捻りは大胆に。体幹でぐるりと身を回せば、すり抜ける黒弾。

 

旋回(スライド)!」

 

 ひらり流れる赤い鶏冠。左翼アップの右翼ダウン。緩やかな下降に伴う回避。

 

「“フェザーダンス”散布!」

 

 鮮やかなローリング軌道を描きながら、羽毛を撒き散らす。

 ばしゅ、ばしゅ。白く煌めくそれは、飛行機雲よろしく軌跡となって、後方から襲い来る波動を防いだ。

 顔に張りつき、おまけの目眩まし。高速追尾が仇になる。

 

「ダメじゃない、敵から目を離しちゃ」

「!」

「こういう使い方も!」

「しまっ――!」

「あるのよ!」

 

 た。腕で振り払ったコンマの隙。それだけあれば十分だ。

反転(リバーサル)」――後方奪還の魔法。

 急上昇、そのまま円を描けば相手の背後。

 

「覚えときない、空の王は私たち!」

「サザンドラ!」

「叩き込めええーーーーッ!」

 

 俺を称えろ、崇めろ、奉れ。咆哮と気流の唸りが交じり合い、振り向く間すら与えぬ最大出力の“ぼうふう”が、満を持して暴虐の黒竜へと天罰を下す。

 

「まだッ!」

 

 馬鹿にするな、我らは最強だ。巨大な渦に身をズタズタにされながら、されど意地(プライド)一つで放つ“あくのはどう”。三つの口はそれぞれが別方向を向き、内側から竜巻を三分割した。

 晴れた視界で切り返す、銀色の光線。

 

「“ラスターカノン”!!」

「避けて!」

「当てなさい!」

 

 三方へ拡散させる大出力の照射。フェンスを焼き、地面を焦がし、空気を切り裂き、あてもなく暴れ回る。

 あちこちに向く、その出鱈目な軌道を読み切るのは歴戦の猛者でも不可能だ。

 無論、ミントのピジョットも例外ではなかった。刃にも似た光が翼を掠めた刹那、コスモスは目を見開く。勝負をかける。もはや今だ、ここしかない。

 

「“りゅうせいぐん”!」

 

 (まじな)いに連れられ、星が再び落ちてくる。

 竜族特有の蒼黒のエネルギーが、隕石の形を成して降り注ぐ――。

 

「ま、また大技!」

「一回目はサンダースのスピードと、技の弱点を衝いてようやく防いだ技だが……」

「結局パワーではサザンドラが勝ってる! ぼうふうでも防げないよ、どうするのミントさん!?」

 

 沸き起こる周囲とは裏腹に、ミントは叫ぶでも、うろたえるでもなく、ただ、じっと、その白昼に輝く星々を眺めていた。

 

「……――なきゃ、ダメか」

 

 ぼそり。呟き、指をさす。それこそがピジョットを向き直らせる合図。

 アイコンタクトのパターンで、次にすべきことはわかってる。だから主も皆まで語らない。

 

 

「ピジョット、“りゅうせいぐん”」

 

 

 ジョーカーを切れ。彼女は瞳でそう言った。

 

「な――」

 

 鳥ポケモンの、ドラゴンわざ。

 最初は幻聴を疑った。それでも、事実と受け容れるしかなかった。

 ピジョットの後方から押し寄せる、数多の破滅の輝きを見てしまったのなら。星が断末魔を上げながら、土くれと化していく光景を目の当たりにしたならば。

 それは、紛れもない流星群――。

 

「打ち落とせ」

 

 最後に見たのは、強烈な閃光だった。

 降り注いだ互いの星が、一息に互いへとなだれ込んだ。

 膨大な衝撃と、地響き。もはや天災と変わりない。

 客席に設置されたバリアがなければ、観衆さえも危なかったほどだ。

 暫く無音が続いた後に、粉塵が晴れた。

 抉れた大地に落ちていたのは、サザンドラ。

 

「サザンドラ、戦闘不能」

 

「よくやってくれました。ゆっくり休んで」動かぬ黒竜をボールに下げながら、期待する。ピジョット戦闘不能の報せは、なし――両成敗という訳にはいかなかったらしい。

 技そのものの焼け傷、飛散した瓦礫からなる裂傷を抱えながらも、その鳥は視線と気を確かに保っていた。

 マントの要領で広げた翼によって身を包み、盾にしたのが功を奏したらしい。そして、何より。

 

『りゅうせいぐんは、その火力と引き換えに、撃つたびに“とくこう”の力が弱っていく』

 

 同じ技の直撃を受けても立っていられた最大の理由が、これだ。

 サンダース戦で放った一回――あれが明暗を分けた。

 

「本当に、削りに徹して……最初からりゅうせいぐんを撃たせるつもりで、サンダースを出していたというわけですか」

「イグザクトリー。サンダースで倒しきれるのが一番だけれど、ドラゴンタイプは基礎能力が高い子が多いでしょ。つまり、持ち前のパワーで一対一を制するのに長けた種族……いくらエースだからって、そんな相手に突っ張るほど思い上がっちゃいないわ」

 

 それにね――ミントは続けた。

 

「どのみち、前もってりゅうせいぐんを撃たせるという条件はマストだった」

 

 ピジョットの記憶が、試合前のミーティングに遡る――。

 

『今回のあなたの仕事は、サンダースで削った初手を、確実に持っていくこと。その後、できるなら次、そのまた次と抜いていく……ま、相手が相手だから、そんなに甘くはいかないんでしょうけど』

 

 ハイスペックだらけのドラゴンタイプに一対一で挑めば、確実に押し負ける。

 

『でも、基本プランは一緒。全員リレーで戦うこと。各々が各々の為、後に繋がる展開を作る。いいわね?』

 

 その上で与えられた自分の役目、それは。

 

 

「――“オウムがえし”?」

「そうだ。それが、ピジョットの“りゅうせいぐん”のからくりだ」

「目の前の相手の、発動済みの技を一つコピーする技だべ」

「そうか、ドラゴンの弱点はドラゴン! だから……!」

「相手の技を真似る事は、時と場によって最強の行動になる。竜は竜殺しを行う……こと今回は、うってつけだった」

 

 

 味方が引き出した、相手の必殺の一撃を模倣(コピー)し、ごぼう抜きしていく――対ドラゴン編成に於いての最強の矛となること。

 

「ものまね、まねっこ、へんしん、スケッチ――コピーする技は色々ありますが、基本的にそれらで真似られた技は、元から劣化した状態で出力されるはず。けれど、あれは本来の威力そのままでした……何故」

「さあね? “私だから”じゃない?」

「……見事です」

 

 驕りきったその言葉も、いじらしく笑ってみせるその表情も。返しようがない。咎めようがない。

 眼で見て、体でなぞる。この一点に心血を注いだ、ただそれだけのこと。

 返る言葉は、いつだってシンプルなもの。血の滲む努力だけ。でも、それが一番揺るぎない。何より最も恐ろしい。

 自分とて、精進の自負はあるが――真っ直ぐでいて穢れの無い、最高純度のそれをバトルで見せられたのは、久しぶりのことだった。

 至れぬ純色(ピュアカラー)を前に、竜乙女の純心も打ち震える。

 

「どう、お姫様? 降参してもいいけれど」

「ご冗談を」

「上等」

 

 強者の躍動は、不撓の魂を呼び覚ます。険しいその戦意、未だ潰えず。

 

「勝負は、これからです」

 

 コスモスサイドから、二番手が繰り出された。

 それは聞き覚えのない鳴き声を上げ、見覚えのない姿でファイティングポーズを取った。

「知らないポケモンだ」と騒然とする会場。無理もない。

 

「公式戦に出すのは、初めてね」

 

 それはコスモスが水面下で育てていた、秘蔵っ子であるが故に。

 深いブルーグレーの体色に、鎧のような強固な皮膚に覆われた頭部。そのまま闘志を表す前傾姿勢は、どことなく特撮作品の怪獣を髣髴させる。

 だが、それより何より目を引くのは、背中から生えた巨大で堅牢で鋭利な(ひれ)。まるで剥き出しの大剣でも、背負っているかのような――。

 

「お願いします、“セグレイブ”」

 

 氷竜ポケモン“セグレイブ”が、主の願いを背負って、荒々しく吼えた。

 勢い付いての突破か、敵討ちか。顔ぶれが揃い、第二戦は恙なく始まる。

 

「(データなし……ね。ラフエルでもあまり見かけないから、仕方ないか。戦法を悟らせない為ってとこかしら)」

 

 警戒の中、先に動いたのはセグレイブ。

 口から、溶岩をも凍らせるとされる冷気を吐き出すと、周囲が忽ち白に染め上げられる。

 じわじわと空間を冷やし、時間をかけて充満した靄は、最終的にセフレイブの全体像を覆い隠し、影すらも掴ませないほどの濃さとなった。

 空から狙いを絞らせない為――ミントはこの行動の意図を汲み取る。

 遠い空との撃ち合いを嫌う動き。これは地対空を行う、即ち空中戦ができず、且つ機動力の無いポケモンであることを示す明確なヒントであった。

 

「何をしてくるか、知ったこっちゃないけど」

 

 ミントは、すぐさま旋回しながら様子見していたピジョットに“ぼうふう”を指示。

 

「視覚の阻害に頼らなくちゃ、戦えないんでしょう!」

 

 地上一帯に向けて放射されたハリケーンが、鈍い音を上げながら靄を、そしてその先のセグレイブを破壊せんととぐろを巻く。

 

 ――――いや、違う。

 

「ピジョット!」しかしミントの本能が、瞬間的な胸騒ぎが、警告を出した。

 その時のことだ。猛スピードで突っ込んできた“何か”が、ピジョットの翼を掠めたのは。

 ぶわ、と後追いの風に煽られて崩れかけたバランスを取り直す。過ぎ去った存在を視認したのは、数秒後。

 涼しい顔をしているが、コンマ数秒遅れていれば、とても羽毛数枚などという犠牲では済まなかった。

 

「外れた……やはり、まだ調整の余地がありそうね」

「……――ああ、そう」

 

 にやり。何が起こったか、ミントは真っ先に知覚した。

 靄を切り裂き、竜巻を割り、セグレイブが真正面から突撃してきたのだ。

 

「ほへぇー……“きょけんとつげき”か」

「な、なんだそれ。聞いたことないぞ」

「そらそうだべ。セグレイブにしか使えない技だべっから」

「どんな技なの?」

「そらもう、シンプルビームなんかよりも、うーんとシンプルな技よ」

 

 口から冷気をジェット噴射し、それを推進力にして剣状の背鰭を叩き込む。早い話が背中を向けた突進。

 だがその勢いは凄まじいもので、セグレイブの重量、鰭の鋭利さと相まって、一撃必殺にも等しい威力を叩き出す――。

 

「最初の冷気は、構えの動作を気付かせないためね」

「結果的に、避けられましたが」

「オーケー、わかりやすくて助かるわ」

 

 ミントが導き出した結論は、火力押し。

 サザンドラが高いとくこうを以て“特殊”面での火力を担うなら、このセグレイブは並外れたこうげきで“物理”面の火力を担っている。

 大方、パワータイプのポケモンを集中させ、超火力で粉砕していく、そんな選出をしたのだろう。

 そうとわかれば、もう遠慮の必要もない。

 

「予備動作に時間がかかるなら、その暇を作らせなければいいだけ。“ぼうふう”!」

「セグレイブ、防いで。続けて“つららばり”」

 

 大技を撃たせる前に、速攻で片づけるという意思表示が、トルネードという形を成してぶつかっていく。

 どすどす、と地面を鳴かせながら助走をつけてのローリング。

 長大な尻尾を振り抜けば、空気中の水分で作られた氷柱が完成。数本あるそれらは風に乗り、ピジョットへ一目散に飛んでいく。が、

 

「“フェザーダンス”」

 

 一度の回避も、反撃も、想定内のかわいいもので。

 悠々とした舞いから放たれた羽毛は、おちょくるように氷柱を相殺し、やがて会場全体に雪のように降りしきる。

 見下ろす先の、見上げるだけの氷竜へ再び放つ、つむじ風。今度はかわせず、両腕で身を庇った。

 ヒットしたこの隙を我が物にし、これでもかと“ぼうふう”を乱射――無数の風でセグレイブを釘付けにしてしまう。

 

「セグレイブ!」

 

 コスモスの声は虚しくもかき消され、セグレイブには届かない。たて続けに起こる気流で、立っているのもやっとの状態にまで陥ってしまった。

 ワンサイドゲームを通し、ミントの疑念は徐々に確信に変わっていく。

 

「(鈍重で速さはないし、技の威力も“きょけんとつげき”以外は大したものじゃない。こおり・ドラゴンというタイプは不利だけど……こっちの技で全部処理できてる。“きょけんとつげき”さえ撃たせなければ、勝てる。何より)」

 

 ピジョットには“オウムがえし”がある。

 

「――――“きょけんとつげき”!」

 

 がくり。それは、待ち望んだ好機。

 幾層にも積まれて圧し掛かる空気の渦が、まるで重力のようにセグレイブを大地に縛りつける。

 やがてバランスを崩して、いよいよ付いた片膝を、ピジョットは見逃さなかった。

 まず、羽ばたく。

 空を大きく叩いて、反動を味方に急加速。

 素早く翼を折り畳み、後方へ――空気抵抗を極限まで減らす姿勢を取れば、自ずと身体は剣へと変わりゆく。

 嘴は切っ先に。胴は刃に。翼は鍔に。尾羽は柄に。足は柄尻に。その輪郭が、一つの竜殺しの剣(バルムンク)を形作る。

 風のひしゃげる音も、歪む光も、何もかも構うな。前を見ろ。目を逸らすな。ただ進め。勝利(ジーク)を阻む者へ至り、切り裂いて、討ち倒せ。

 

 

 貫け――!

 

 

 繋がる景色の向こうで、蒼黒の剣は折れていた。

 もっとわかりやすく言うのならば。

 

「“こおりのつぶて”」

 

 きゅうしょに あたった!

 大ダメージと引き換えに、全てをかなぐり捨てて放つ無謀とも言える一撃――加えて額を前方へ剥き出しにした状態。その最中に、反撃を受ければどうなるか。そんなことは誰でも容易に想像が付く。

 無防備になる一瞬に、小回りが利く先制技の速射。

 石ころみたいな氷の欠片一つも、ピジョットには致命傷だった。

 虚ろな目と、混濁する意識。崩れる剣のポーズと、飛行フォーム。ふらふらと不規則な軌道を描き前に進む様は、コントロールを失った戦闘機そのもの。

 

「ピジョット、起きて! 立て直しなさい! ピジョット!」

 

 目を丸くしている場合ではない。ミントは最後の可能性に賭け、必死に呼び掛けるが、

 

「“きょけんとつげき”」

「っ……!」

 

 淡々とした冷ややかな声音が、現実を突きつける。その意識は、ついぞ戻ることはなかった。

「ピジョット、戦闘不能」どすり。背鰭を向けて待つだけのセグレイブに自ら突っ込み――ピジョットはノックアウトされる。

 

 

「今のは……えっと、何が起こったの?」

「“きょけんとつげき”は決まれば威力こそ絶大だが、出す前も、出した後も、何なら出している最中も隙を曝す。まさしくハイリスクハイリターンの技」

「出す前は、剣の状態を作るための、構えの動作。出した後は、体勢の立て直し。出してる最中は――脇目もふらずに高速で仕掛ける、猪突猛進の突撃。コスモスちゃんは、その隙に付け込んだ」

「相手が仕掛けてくるまで防戦に徹し、無防備になる特攻の瞬間、隠し持っていた小技を合わせた」

「モッさんからすりゃあ、一瞬の隙さえ作れりゃよかったわけだかんな。ひたすら我慢して、手の内を隠した……一枚上手だったべ」

 

 

 串刺しのピジョットを、背中から振り下ろすセグレイブ。ぐったりとしたまま動かないのが、瀕死の証。ミントは何も言わず、ただボールに戻った戦友を数秒見つめ、ホルダーに収めた。

 

「失礼、私も、それなりの食わせ者だったようです」

「みたいね。私でも、あなたくらいの時はもう少し可愛げがあった」

「いいえ、可愛らしいですよ――今でも。変わらず。十分に」

 

 コスモスの紫水晶のような瞳に、平素の温かさは無かった。

 情も、驕りも、迷いもない――ただ静謐と乱暴なまでの闘志を湛え、仇為すものを蹂躙する、絶対的捕食者の眼。ぎらぎらと鈍く輝く、本気で色を奪い去る者の、あまりに冷酷すぎる眼光。

 見る者によっては、もはや人のものでないとすら言わしめる。

 

「ずいぶんマシな(ツラ)になったじゃない……すまし顔より、ずっといいわ」

 

 (ドラゴン)が、目の前の獲物に牙を剥く――――。

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