〜司令室〜
司令室の中央に据えられた椅子に座った軍服姿の提督。
隣には今日の秘書官である夕立(!)
そして提督の前には赤城、神通、球磨の三名が一列に並び、それぞれがそれぞれの表情を浮かべていた。
代表者として一歩前に進み、しっかりとした受け答えを見せる赤城。
どことなく落ち着かない雰囲気で何故かずっと下を向いている神通。
そして、面食らったように間抜けな顔であんぐり大口を開ける球磨。
「勝手な願望なのは理解しています。使用した資材等は戦果でお返しします。神通さんとの演習をどうか認めてはいただけませんか?」
「許可しよう。別に演習をする事は問題ない」
「ありがとうございます」
「あぁ…それとついでに聞きたいんだが、赤城。駆逐艦の様子はどうだろうか?というのも、最近鎮守府近海の海域攻略を行う道中の駆逐艦の被弾が目立ってきていてな。なにか気になる事はないか?」
「そうですね…。まだ数度共に闘った程度の者の弱い証言ですが、皆動きが固いのが気になります。海の上に立つ事にまだ恐怖しているような印象を受けました」
「……そうか。…まだ精神的な恐怖が残ってる、という事だろうか」
……………いやいや、
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや
お前……誰、クマ…?
「いやお前誰クマアアアァァーーーー!!!?!?」
球磨は思わず叫んだクマ!!
いやだってこの提督普段とイメージ違いすぎるクマ!!
あのアホ面下げてセクハラを繰り返してどっかの駆逐艦に『クソ提督!』と言われても強く言い返せないあのダメ男は一体どこに行ったんだクマ!!
球磨が知ってる提督と全く同じ顔をした別人はショックを受けたような顔になり、一つ咳払いをした。
「失礼だな、俺は俺だ」
「ウソだ!!?球磨の知ってる提督はこんな真面目な男じゃねー!!」
「おい!語尾が消えてるぞ!」
隣から笑い声が聞こえたので見てみれば神通と赤城がクスクスと笑っている。
今気が付いたが、隣に立ってる夕立も腹抱えてゲラゲラと爆笑してるクマ!!!
「提督さんが誰!なんて言われてるっぽい〜!!」
「アハハハハ!!!ヨ、予想通りのリアクションすぎて…!!お腹痛いイィィ!!」
何笑ってんだクマァ!!?!まさかこれマジクマ!?
現実なのかクマ!!?!?
「提督は職務となると真面目になるんですよ」
「神通よ、まるで普段は不真面目みたいな言い方だな」
「違いませんよね」
いや、真面目になるとかそのレベルじゃねークマ!!
「ここまで変わるもんクマ!?」
「少なくとも、司令室で執務に追われている時はいつも鋭いお顔をされてましたよ」
「え!? 俺…怖い顔してんのかな…」
あれ?まさか自覚ねークマ?
「オーラを感じたクマ。提督の立場に名前負けしていない強い覇気を感じたクマ」
「マジかよ…。じゃあ俺普段から真面目モードだったらワンチャンモテたり!?」
「ダメです!!」
神通が突然叫び、その場の全員が注目する!
「え?…なんで……?」
「あ…あぅ、あ…!!あの!い、いえその…!!」
とりあえず提督が疑問を口にする。
叫んだ神通はリンゴのように赤くなり、提督はなんだか分からずにただ困惑の表情を浮かべるばかり。
そして、その隣では赤城が肩を震わせている。多分…いや間違いなく笑いを堪えてる。
「ち!違います違います!!た、ただその…えと、あの…あ、駆逐艦の子達!!は、その、えと…!普段の、優しい提督の姿で通ってますから!イ!今更、キャラ変をしたら混乱を招くと思ったので…!!」
文法がデタラメクマ。
どんだけ焦ってるんだクマ。落ち着けクマ。
「お?それもそうか…。ま、俺も素の方が断然喋りやすいしな」
「ぜ、ぜひ!そうしてください!」
神通は今の一瞬で演習でもしたのかってくらい汗をかいて顔も真っ赤に染まったクマ。
ふと見れば夕立は恥ずかしそうに目線を逸らしているし、赤城は相変わらず肩を震わせて笑いを堪えているクマ。
平然としているのは球磨と提督だけ。
ていうか、今の神通は一体なんだクマ?
あんなに狼狽える神通、今まで見た事ないクマ。
「ととと、とにかくお話は終了しました!これにて失礼します!!」
「あ、あぁ」
神通は無理矢理会話を終わらせると赤城と球磨の手を掴んで強引に執務室を出ていこうとするクマ!
ちょちょちょ!!手放せクマ!!痛ぇクマー!!
「神通さん、司令官に対してさっきの態度はいただけませんよ?」
「……反省しています」
「てか、最後のあれはなんだクマ?なんたってあんな挙動不審になったクマ。神通らしくねークマ」
「あぅ…、そ、それは…」
「神通さんは提督の強烈すぎるギャップの虜になってるんですよ」
「赤城さん!!」
慌てふためく神通の事など目にも入らぬ、とばかりに得意気にドヤ顔を決めてる赤城。
神通の顔がさっきと大差ない位赤く染まっていくクマ。
ハッハアァァーン?
鈍感な球磨お姉ちゃんにも分かっちゃったクマよ?
「なるほどなるほどクマ。神通はあの提督にホの字になってるクマね?」
「違います!!!」
「そういう事です!」
「赤城さん!!」
どれだけやめろと恨み言を言っても聞く耳持たずに話を続ける赤城。
もはや神通は恨みったらしい視線をぶつけ、殺気を込めた睨みを効かせる事しか出来ない。
「なるほどな。あの提督のバカ丸出しな普段とさっきみたいな執務中のギャップにやられたんだったら、提督が普段も真面目モードで暮らそうなんて言った時に食い気味に拒絶したのも納得がいくクマ」
「ギャップ萌えが無くなってしまうのもそうですが、同じようにやられてしまうライバルをこれ以上増やしたくなかったんでしょうねぇ」
「で、ですから……私は別に!!」
と、口では抵抗する神通だが、二人の中では自分が提督が好きだという話はもう覆らない事実として定着してしまっていた。
もう…神通は諦めて吹っ切れるしかなかった。
「この事に気付いてるのは私らだけクマ?」
「ここの鎮守府内でしたら、あとは夕立ちゃんが知ってますよ。この鎮守府所属の子達と、肝心の提督本人は全く気付いていなさそうですが。あ、以前の鎮守府出身の子でしたら全員知ってます」
「えぇぇ!?!?待っ!待って下さい!!なんで全員が知ってるんですか!!?」
「皆気付いてましたよ。もはや周知の事実でしたから。神通さんが提督をお慕いしているというのは提督がスケベである事と同じくらい常識でした。
「神通は意外とプライベートがポンコツクマな」
そ、そんな…、誰にも言わずに隠してきていたのに…。
この想いはこのまま海の底まで持っていこうと思っていたのに…。
「海の底どころか素手の潮干狩りで掘り出されて全国の食卓に並べられてしまったのですね」
「なんで心の中まで読んでるんですか!!!」
Q:なんで神通は想い人に砲撃をするの?
A:ソレはソレ。これはこれだから。