頑張れよ、提督。
「よし、神通。行くか」
「はい。了解です」
俺と神通は問題の大湊警備府へと到着した。
卯月は舞鶴鎮守府に置いてきた(ぴょん!?)
聞いた話によると卯月は遠征任務中に、他の艦娘達と上手く連携して任務中に轟沈したという扱いになっているという。
と、なると連れてくる訳にはいかん。
大湊に突然現れていきなり正門の戸を叩き、高らかに挨拶をしてやると慌てて軍服姿の中年の男が現れた。
大湊の敷地内にいる艦娘が慌てて男に対して敬礼をしていた事から、この男が大湊警備府の提督と見て間違いないだろう。
中年の男は門の外で待機してる俺の姿を見るなり、慌ててそばで敬礼をしていた艦娘 村雨に命じてすぐに扉を開かせた。
俺が誰なのか位は知っているようだ。
門を潜るとすぐににこやかに微笑み、握手を求めて来た。
正直、艦娘を粗末に扱うようなおっさんの手なんて握りたくもなかったが、虐待の事は何も知らないという体で来てる以上は求められた握手には応じなければならない。
「初めまして、影波提督。私が大湊警備府の提督です」
「えぇ、こちらこそ。
突然の訪問にも対応頂き、ありがとうございます」
大湊の提督への嫌悪感からか、思わずトゲのある言い方になってしまった。
大湊警備府の調査を円滑に進める為にもなるべく良好な関係を築いておきたいので、意識した言葉選びをしなくては…。
ちなみに、影波とは本作の主人公である提督の本名である。
言葉の響きが暗いので、本人はこの名前で呼んでほしくないそう。艦娘の皆さんは提督と呼んであげてね。
「提督のお噂はかねがね聞いております。
なんでも、以前勤めておりました佐世保鎮守府においてはわずか十年で新海域を七箇所も発見し、姫級(最強クラスの深海棲艦)を六体も葬ったとか」
「ありがとうございます。ですが、私は大した事はしておりませんよ」
「またまた、ご謙遜を」
いや謙遜ではない。マジだ。
俺はマジで大した事はしていない。
大した事をしたのは佐世保の艦娘だ。
新海域を発見したのは遠征の駆逐艦なり、海域攻略の編成部隊なりが予想以上に働き者だったからに過ぎない。
姫級潰したのは主に神通、鳳翔、大和の主力部隊だ。
大前提として、俺は大和達三人以外の佐世保にいた艦娘達の事を弱いだなんて思っていない。
いやむしろ他の鎮守府に在籍してる一般艦娘よりかは全然強い方だと信じてる。
あ?俺が親バカ?なんとでも言うがいいわ。
だが、それでもこの三人の強さは頭一つ抜けていると言わざるを得ない。
大本営に呼び出された為、俺が鎮守府を留守にしてた時を狙って攻め込んできた(何故情報が漏れてたのかは現在も不明)姫級とかいう最強クラスの深海棲艦を俺の指揮なし+三人だけで二体も沈めたという話を大淀から聞いた時は俺の存在意義を自問したものだ。
「し、しかし…一体どうして突然参られたのですか?
ここまでかなり距離があったでしょう?
舞鶴は未だ復興途中だと聞いておりますし、資材や兵力の支援ならばこの大湊より佐世保鎮守府の方がより優れてたでしょうに」
「カレーを食べにきました」
「・・・・・・は?」
「お恥ずかしい話、自分はカレーに目がなくって。
ここの海軍カレーが一番美味いと評判でしたので、一度食べにきた次第です」
「……………。
…ハッハッハ!!それはとんだ迷惑提督ですな!!」
「いやはや…返す言葉もありません」
大湊の提督は豪快に笑い飛ばしながら握手を続ける手をようやく離し、鎮守府の中へと案内してくれた。
食堂へ向かうその道中、艦娘と一人もすれ違わなかった。
ただの一人とも、だ。
まぁ、とはいっても正直別に珍しい事ではない。
遠征に出ている、新海域の開拓、近海の見回り等の理由から、大勢の艦娘が鎮守府を留守にしていても不思議ではない。
食堂へ向かう道中、提督はこちらにたくさんの質問をしてきた。
『戦艦の運用で気をつける事は?』
『夜戦突入時、オススメの魚雷は?』
『味方艦が中破した場合は?』
提督という割に随分初歩的な事を聞いてくるのだな。
そういった初歩的な事を俺が一体どう対応してるのかを聞く為なのか、それとも普通に対応が出来ないから参考に聞いてるだけなのか…。
……ただ、少し話してみた印象としては気さくなおっさんって感じだな…。
正直この人が艦娘達にブラック提督と呼ばれて恐れられてるなんて、とてもじゃないが信じられない。
「ただ今、食堂では艦娘達が食事の真っ最中です。
少々騒がしいかもしれませんが、ご了承下さい」
そう言うと、大湊の提督は食堂の扉を開いた。
するといきなり飛び込んできたのは…
「いっちばーん!!」
「違うにゃ!!睦月がいっちばーん!にゃしぃ!!」
「二人とも食べる早さなんて競っても…」
何故か空になったトレーを持って言い争いを始める白露と睦月、そしてそれを呆れたように見守る如月。
食堂では至る所で艦娘達が美味しそうに今日の昼食なのであろうラーメンをすすっている。
醤油ラーメンかな?普通に美味そうだ。
カレーもいいけど、他人が食ってるの見てたらラーメン食いたくなってくるよな。
て、いやいや違う違う。
(あ、あれ?なんか普通に楽しそうじゃね?)
「提督?どうかなさいましたか?」
「あ…、い、いえなにも」
予想外の光景に驚いたが、それを大湊の提督に悟られる訳にはいかない。
ふと後ろを見ると神通は全く動じた様子を見せず、ただ興味深そうに辺りを見回し、すれ違った駆逐艦の野分には優しく微笑みを返していた。
流石は神通。ポーカーフェイスまで上手いとは。
ちなみに、何故神通はポーカーフェイスが上手いのかというと提督と一緒の空気にいる事でニヤけてしまいそうな表情筋を普段から必死に抑えているからである。
「間宮。海軍カレーを二つだ」
「少々お待ち下さい」
大湊の提督が厨房で一人忙しく働く給糧艦 間宮に注文を投げかける。
間宮はカレー二つの注文を受け取るとすぐに調理を開始した。そう時間はかからないだろう。
「ねぇねぇ?あなた神通さん…よね?新しくドロップした子?」
「あ、いえ…私は舞鶴鎮守府から、少し私用で訪ねただけですよ。私の提督が大湊のカレーを食べたいと、少々強引に来ましたが…」
「ウッソ!?舞鶴からって結構距離あるわよ!凄いわね!
…って自己紹介遅れちゃった!私は陽炎!よろしくね!」
「神通です。改めてよろしくお願いします」
「ところであなたに会わせたい人達がいるの!」
陽炎はそう言うと遠くに向かって手を振った。その先には陽炎の姉妹艦である不知火が小さく片手を上げて了解と返事を返している。
そして、不知火は扉の外へ向け、僅かに頷くとその扉からいきなり二本の手が伸び、何故か親指を立ててグッドマークを作った。
伸びた二本の手はこちらを挑発するようにしきりに手を振り続け、その存在をアピールし続けている。
振られている腕は両方とも右腕だったので少なくとも二人はいる。
そして、その伸びた腕には長い黒手袋と同色の黒小手が装着されていた。
ちょうど、神通が着けているのと同じものだ。
「……まさか」
神通は思わず立ち上がり、その扉へと一歩、一歩と近づいていった。
「那ッ珂ちゃんでーーす!!」
「川内お姉ちゃんでーす!!」
すると二人の艦娘が一気に飛び出した!
彼女達の姿は、神通から涙を誘発させるのには十分だった。
涙など見せない…誰よりも強く、己に厳しい神通が艦娘ではなく、ただどこにでもいる普通の姉妹に戻れるのだから。
「川内姉さん…!!那珂ちゃん…!!」
「初めまして…なのかな?
ま、いいや!!これで川内型全員集結だね!!」
「那珂ちゃんのアイドルグループ結成だね!!」
「ーーーーッッ!!!」
我慢ならなくなったようで、神通は二人の元へと走り出した。
二人も神通のタックルを受け止めると、すぐに抱き締めた。奇跡の三姉妹の再会を喜び、辺りに神通のすすり泣くような声が響く。
俺はその光景を大湊の提督と共に微笑ましく見守っていた。
「奇跡的ですね。
まさか、あの三人が一堂に集まるとは」
「そうですな。しかし…彼女達はとても仲が良いのですね」
「・・・えぇ、仲良しですよ。あの三人は」
俺は神通にわざと背中を向け、厨房に立つ間宮に向かう形でカレーを食べ始めた。
神通はきっと、弱い姿を俺に見られたくはないだろう。
誰よりも強く、気高い姿を見せる神通にとって、弱い部分を見せるのはきっと恥ずかしい事だと思うから。
もちろん、神通は提督にならば弱い姿どころかもっとイケナイ部分だって見せていいと思っている(殴