スケベ提督と元ブラック鎮守府   作:ルフレオ

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今回も大湊編です。
前、中、後の三話のつもりでしたが、実質四話ですね。

あぁ、自分の無計画さを恨む。


大湊の過去と未来

 

 

 大湊の提督を憲兵に引き渡すと、俺は集会所へと皆を集めた。

 

 神通には俺のすぐ後ろで待機してもらい、ステージ上に立つ俺の前には大湊所属の艦娘が敬礼をして並んでいる。

 

 

駆逐艦

 睦月 如月 白露 村雨 五月雨 

 文月 陽炎 不知火 野分 嵐

軽巡洋艦

 川内 那珂

重巡洋艦

 青葉 衣笠

正規空母

 翔鶴 瑞鶴

給糧艦

 間宮

 

 以上、計十七名。

 

 皆まだどこか暗い表情をしている。まぁそんなすぐに切り換えれるものでもないか。

 

 

「まずは皆、今日までご苦労だった。

 君達のおかげであの提督を捕えられた。あの提督がお前たちの前には現れることは二度とないだろう。

 

 また、それに伴いこの警備府の解体が決まった。施設自体が大分古くなってきたし、他に人員を回した方がいいという上の判断だ。

 基本的には皆別々の場所へ配属される予定なんだが、もし希望する場所があるなら優遇してくれる。

 

 行きたいとこあるなら希望を紙に書いて提出してくれ。

 以上、質問あるか?

 あ、あともう一つおまけに言っておくと、俺が今持ってる舞鶴鎮守府、めっちゃ人手不足なんだわ」

 

 

『!!!!』

 

 挨拶を終えると集会所全体に分かりやすく動揺が広がった。

 

 ちょっと露骨すぎる勧誘だったけれど、舞鶴がめっちゃ人手不足というのは嘘ではない。

 現在は近海海域や低難度の海域攻略しか行っていない為、少ない人員でも問題なく回せているがいずれかは人数を揃える必要のある大型作戦や遠方海域の攻略なども視野に入れなくてはならない。

 

 もし少ない戦力を割いてまで長期作戦に参加しなくてはならない事態になった場合、万が一敵が鎮守府にまで攻め込んで来た時、対応し切れなくなる可能性がある。

 舞鶴鎮守府の未だ解決し切れていない問題の一つである人手不足は最優先で解決しなくてはならないのだ!!

 

 

「あ、あの!希望を出したら、絶対にその鎮守府に行けるんですか!?」

 

 村雨が期待の強い眼差しを向ける。村雨の質問に大湊の子達は飛びかかる勢いで食いついた。

 

「絶対とは言い切れん。が、可能性は高いかな」

 

「で、でしたら!村雨は舞鶴鎮守府への異動を希望します!」

 

 村雨がいち早く手を挙げ、それに続けて白露と睦月も手を挙げた。

 

「わ!私も希望します!!」

「睦月もにゃしぃ!!」

 

 

 元気な駆逐艦はやはり行動が早いな。

 村雨達が手を挙げた事で他の子達も主張をしやすくなり、続々と手を挙げる。

 ある者は元気よく、ある者はおずおずと力無く、ある者は周りを見て空気に流されるようにゆっくりと。

 やがて最終的には在籍する十人の駆逐艦全員と給糧艦の間宮が手を上げる事になった。

 

 手を上げなかったのは、軽巡以上の艦娘達だった。

 

 

「…川内姉さん達は、いいんですか?」

 

 神通がとても寂しそうに首を傾げ、川内達に話しかける。

 存在は知っていても、今まで一度も会った事がない姉妹艦の川内と那珂。ようやく巡り会うことの叶った彼女はこのまま川内達と一緒に鎮守府に戻るつもりだったのだろう。

 まさか、川内達からそれを拒否されるとは思いもしなかったようだが。

 

 

「…あぁ〜、私らはね。

 ほら、私らって結構強い方だし、別に舞鶴じゃない他の鎮守府でもやっていけれるだろうからさ」

 

「那珂ちゃんは他に行きたい所があるからさ〜♪

 神通ちゃんに会えなくなっちゃうのは寂しいけど、自分のやりたい事を追いかけるよ!」

 

「それは、戦いの事じゃないですよね?」

 

 

 その鋭い声の主は不知火だった。

 

「!!!

 も、もちろん!戦いもするけど、アイドル活動だってやめないよ!

 沈んでいった皆だって、那珂ちゃん達の為に戦ってくれたんだもん!!」

 

「そうですか。ちなみに戦いは私達への償いのつもりですか?」

 

 不知火は冷たい眼で那珂を…いや、川内や青葉、翔鶴といった大湊の主力と呼ばれたメンバー達を睨む。

 不知火特有の鋭い眼は主力部隊を怯ませてしまうほどの力があった。そんなものに親の仇ばりに睨まれるとあってはいかに那珂といえども心中穏やかではいられないだろう。

 

「…もちろんそれもあるけど、それだけじゃないよ。

 那珂ちゃん達も沈んでいったあの子達に謝りたいの。だから、一匹でも多くの敵を沈めて、他の誰かが沈まないようにする事が、一番の償い」

 

 

 その言葉は那珂一人だけの意見ではないらしい。

 川内も翔鶴も青葉も、皆一様に下を向いて辛そうな表情を浮かべている。

 自分達の代わりに沈んでいったあの子達への償い。

 それがただ深海棲鑑を沈め続ける事だというのか?

 死ぬまで戦い続ける事だというのか?

 

 …そんなものは償いとは言わない。ただの自己満足だ。

 

 

 沈んだ子達は、生き残った那珂達の死を望んでるのか?

 

 

 否。

 

 

「妹達は…、浜風達はそんな事を望んでいません」

 

 不知火は変わらずに冷たい眼で那珂達を睨みつけている。

 浜風…確か、陽炎型の十三番艦の艦娘だったな。陽炎と不知火の妹であり、野分と嵐の姉でもある。

 

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 それは、浜風が沈む前日の月明かりの綺麗な夜の事だった。

 沈む前日、不知火は浜風に砂浜へと呼び出された。

 

 『明日、私は沈みます。メンバーの那珂さんと翔鶴さんはきっと私が沈んだら悲しんでくれるでしょうね。

 …不知火姉さんに言伝をお願いしたいんです。

 もし、あの人達が沈んでいった艦娘達の事を想うあまりに、それが足枷になってしまっていたら…伝えて下さい』

 

 

 〜〜〜

 

 

 

「『たまにだけでも思い出してくれたらそれでいいから』との事です」

 

「そんな……」

 

 

 不知火の言葉に主力艦の子達には動揺が広がっている。

 

「不知火には…沈んだ子達の心の内なんて分かりません。

 ですが…、きっとあなた達を恨んでなんていませんよ。

 だって皆さん、優しいではないですか」

 

「そ、そんな訳ない…!!

 私達は、皆を…見殺しにしてきた…」

 

「結果だけ見るならそうかもしれません。

 ですがそうであろうとなかろうと、沈んだ艦娘達の事を、妹達の事を弔う気持ちがあるなら死に急ぐような事はしないで下さい。

 

 生きて下さい。笑って下さい。幸せになって下さい。

 ()()()()()()あなた達が、幸せになって欲しいんですから」

 

 

「!!!」

 

『一番辛かった』

 その言葉は那珂達の心に刺さった。仲間の死を誰よりも近くで見届けてきた主力艦の心に、深く刺さった。

 

 

 

「ほらほら二人とも。正直に、ね」

 

 駆逐艦の波の中から陽炎に背中を押された野分と五月雨が一歩前へと進む。

 その先には瑞鶴がいた。

 

「あ…の、野分」

 

 遠方海域攻略の際、野分から冷たい言葉をかけられた瑞鶴は野分が近づいて来たことに思わず怯んでしまう。

 しかし、恐れてるのはどちらかというと野分と五月雨の方だった。

 

「あの…皆さん。さっきの任務中ではひどい事を言ってしまって、申し訳ありませんでした」

「私も、冷たく当たっちゃってごめんなさい」

 

 野分達から謝られると思わなかった瑞鶴は驚いた。

 

「い、いいのよ!全然気にしてないから!」

 

「それと…、私、皆さんが毎日沈んだ艦娘達のお墓をお手入れしてる事、知ってます」

 

「野分も知ってました。

 それにあの司令に対しても、私達を守る為に幾度となく言い争った事も」

 

「そ、それは…」

 

「野分達も、沈んだ艦娘達も、誰も皆さんを恨んでなんていません。

 だからどうか、自分を許してあげてください」

 

 

 瑞鶴の目から一粒の涙が溢れた。

 涙の我慢はしなかった。けれど涙だけは拭った。泣いてる姿なんて見られたくない。

 

 野分の言葉は、瑞鶴達の荒んだ心を癒やした。

 

 

 心のどこかでずっと自分自身を許せない自分がいた。皆を守るといいながら誰も守れなかった上に、いつもいつも何事もなかったように帰投する自分が許せなかった。

 

 そんな自分が幸せになるなんて選択肢を取ってはいけないと思っていた。思っていたから、全員が舞鶴への異動を拒否したのだ。

 でも、野分はそれは違うと言ってくれた。死の直前だった事で気性が荒くなっていた事とはいえ、冷たい言葉をぶつけた野分が、だ。

 

 幸せになってよいのだ、と。もう背負う事はないのだ、と。

 

 ずっと欲しかった言葉をかけられた瑞鶴達は、自然と泣き崩れてしまっていた。

 

 

「ウ、ウゥッ…!!」

 

 

 瑞鶴の泣き声が口から漏れた時、俺は少しだけ微笑むと神通の背を叩いてその場から離れた。

 向かう先は、執務室。備え付けの通信機を目指す。

 

「あら?どうして逃げたんですか?提督」

 

「人聞きの悪い事を言うな。

 俺は女の子の涙が苦手なだけだよ」

 

「やっぱり逃げたんじゃないですか」

 

「やかましいわ。

 それよりも神通。大本営に連絡だ」

 

「…フフ、なんと?」

 

「舞鶴が増員だ。

 卯月を加えて、駆逐艦が十一隻に給糧艦が一隻

 

 軽巡、重巡、空母が二隻ずつってな」

 

 

 

 

 

 

 

 その日、大湊警備府の地獄は終わった。

 

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