スケベ提督と元ブラック鎮守府   作:ルフレオ

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弥生と夜中

 

 夏も近い夜、弥生は提督と一緒に眠る為にいつも通り部屋を抜け出した。

 

 

(…誰もいない…よね?……ヨシ!!)

 

 

 いつだったかにされた天龍の怖い話の恐怖もすっかり消え去り、暗闇への恐怖も薄れてしまっていた。

 

 が、それ抜きにしても弥生は提督と添い寝をする事がやめられなかった。

 

 

 皆への遠慮とちょっとしたプライドが邪魔をして中々甘えられない不器用な弥生にとって、提督を独り占めして思いっきり甘えられる添い寝の時間はかけがえのないものになっていた。

 

 だから弥生は部屋を抜け出す時は常に細心の注意を払う。

 何故ならば、人知れず毎晩のように提督に甘えている事を夕立あたりに知られてしまっては『弥生だけずるいっぽい!』と夕立も突撃してくるだろう。

 そうなってしまえば、間違いなく弥生だけの至福の時間は終わりを迎える。

 

 例えいつかはバレるとしても、その時までは二人っきりの時間を長く味わいたい…そんな平和な独占欲が弥生の中に生まれていた。

 

 

 

 が、弥生だけの時間はとうとう終わりを迎えることになった。

 

 

 人知れず提督の部屋へ向かう弥生。

 しかし、その日は後ろをつける一つの影があった。

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

(そろそろ弥生が来る頃か…)

 

 寝巻きに着替えた提督はエアコンのスイッチを押した。

 少しカビた臭いが鼻につく。うん、クサい。

 

「前にやった大掃除の時にもこの部屋は後回しにしてたしな…。明日掃除しとこ」

 

 

 コンコン

 

 

 ふと司令室を叩く音が聞こえた。

 多分弥生だろう。

 

「はいはい、誰かな?」

 

「あ…、シ、司令官…。今日も一緒にいいですか…?」

 

 

 う〜〜ん……!!いじらしい子だな〜!!弥生は!!

 

 ニヤケてしまいそうな表情筋を両手で叩き、ドアノブに手をかける前に気を引き締める。

 さてさて、今日の弥生はどんな幼女専用装備を身に付けてるのかな?

 

 

 ドアを開くと、黒いネコが刺繍された白のパジャマに身を包んだ弥生が、一回り小さな枕を両手で抱えて恥ずかしそうに上目気味に見つめていた。

 

 はい、カワイイ!

 

 

「今日も来たか。まぁ入んな」

 

 

 

 もう少しドアを大きく開けて弥生を中へ入れようとしたその時だった。

 

 

 

「弥生に近付くなぴょおおおんんん!!!!」

 

「え?」

「え?」

 

 

 どこに隠れていたのか、卯月が突然俺の腹に体当たりをしてきた。

 

 

 が、自分のへそより少し高い程度の身長しかない幼女の突撃を受けても大したダメージは受けない。

 それでも諦めずにお腹に顔を埋め、ポカポカと両手で俺を叩く卯月の姿はむしろめちゃくちゃ可愛くて癒しにすら感じた。

 

「う、うーちゃんは負けないぴょん!!弥生は早く逃げるぴょん!!早く!!」

 

「いや、逃げるのはむしろ卯月の方でしょ」

 

「何言ってるぴょん!!」

 

「卯月、落ち着け」

 

 

 肩を掴むと、卯月は一瞬震えた。

 少し間を空けると、お腹に突撃するのをやめてゆっくりと顔を上げて俺と目を合わせた。

 そしてそのうち落ち着いてきたのか、それとも恥ずかしくなってきたのか、段々と顔が赤くなってきた。

 

「卯月。いきなりどうしたんだ?」

 

「そ、その…弥生が司令官に、酷い事されると思っちゃって…」

 

「俺が? 大丈夫だ。俺はひどい事はしないよ」

 

 スケベはするがな。

 

 

「心配してくれたんだ、ありがとう。でも卯月、新しい司令官は優しい人だよ。

 昔みたいに、鞭で叩いたりなんてされないから」

 

「う、うーちゃん早とちりしちゃったぴょん…?」

 

「ははは!!そうだな!

 でも弥生を守ろうと立ち向かって来たのは偉いぞ!」

 

 卯月の頭に手を置いて、髪のセットを崩してしまわないよう、流れに合わせて優しく撫でてやった。

 卯月のトレードマークである緋色の髪はサラサラだと勝手に思っていたが、触れてみると案外ゴワゴワとしていて傷んでいる。

 この鎮守府で保護している間に風呂は入ってるはずなのだがな…。

 

 

 頭を撫でられた卯月は少し驚いていたが、撫でられる事自体には抵抗がないのか、撫でる手を興味深そうに見上げるだけで何か行動を起こすでもなく、大人しくしている。

 

 三回ほど撫でてやり、手を離そうとする。

 すると卯月は咄嗟にその手を掴んで、もう一度自分の頭に持っていった。

 そのままもう一度だけ撫でてやると、卯月は気持ち良さそうに目を閉じ、自然と笑顔になった。

 

 

 元々卯月は甘えんぼうな艦娘なのかもしれない。

 

「撫でられんの、好きなのか?」

 

「ぴょん…あ!!

 き、気持ちよくて、好き…です」

 

「…卯月。

 大湊の提督に、語尾でなんか言われたのか?」

 

「え、あ…」

 

「だとすれば、それはもう気にするな。

 俺の艦隊ではそんなこと気にもしない」

 

 それこそ『ぽい!』をつける駆逐艦だって居るし、『クマ!』をつける軽巡だって居る。

 今更『ぴょん!』が増えても咎めたりするものか。

 

 

「…エヘヘ!司令官大好きぴょん!」

 

 

 おォォん!!!カワイイィィィィ!!!!!

 卯月の大好き宣言はSAN値へのダメージがすごい!

 卯月本人はその場のノリで言った軽い感じの大好きなんだろうが、それでこの威力を叩き出せるのはもう兵器だ。

 うーちゃんが自覚してるのかは分からんが、この子完全に今俺を殺しに来てたね。

 

「お世辞でも嬉しいよ。

 さ、それより今日はもう消灯だ。早く部屋に戻れ」

 

「は〜い!弥生も早く戻ろうぴょん!」

 

「え…?あ、えと…」

 

 毎晩司令の隣で眠ってる事を知られたくない弥生はいきなり追い詰められてしまい、助け舟を期待して俺の方をチラリと見やった。

 

 俺は弥生と目が合い、目元で優しく頷いた。

 

「弥生は少し手伝って欲しい事があるんだ。

 後で部屋に送るから、卯月は先に戻ってな」

 

「ぴょん?だったらうーちゃんも手伝うぴょん!!

 うーちゃんにも出来る事はあるぴょん!?」

 

「え!?えぇと…、い、いや特にないぞ?」

 

「そもそも何をする気ぴょん?」

 

「あ、あぁー…それはだなー…」

 

 しまった、言葉に詰まる。

 あまり深く考えずに言い逃れをしてしまった。思わずたじろいでしまった俺を卯月は不審に感じ、疑いの目を向ける。

 

「なんか、怪しいぴょん…。

 弥生は本当に司令官に叩かれたりしてないぴょん?」

 

「それは本当だよ…」

 

「じゃあ、弥生は何しにここまで来たぴょん?

 うーちゃんだって弥生の部屋から扉を開く音がして足音が聞こえたりしなかったら後をつけたりしないぴょん」

 

 あぁ、だからお前弥生の後をつけてきていたのか。

 卯月は元々この鎮守府の出身らしいし、弥生とも仲が良いので部屋は隣同士の方がいいだろうと思って意図的に部屋は隣同士にしていた。

 しかしそれが弥生の足枷になるとは思いもしなかった。

 

「それは…その」

 

「うーちゃんには言えない事ぴょん…?」

 

「そういう訳じゃ……。

 う、うぅぅぅ…!ぜ、絶対誰にも言わないでね…」

 

「うーちゃんは口の固い子だぴょん!!!」

 

 それはどうだか…。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

「な〜〜んだ!!!そんな事ぴょん!?」

 

「そ、そんな事とは何…!!」

 

 洗いざらい全部話した弥生に対し、卯月は拍子抜けとばかりに大きく溜め息をつき、不満気に口を尖らせて思いっきりむくれた。

 

「うーちゃん、てっきり弥生が司令官に〇〇〇〇とか〇〇〇〇されてるのかと思っちゃったぴょん」

 

「女の子がそんな事言っちゃいけません!!」

 

 卯月はイタズラに笑うと、弥生に可愛らしく舌を出した。

 

 

「フッフッフ!!

 弥生が司令官と一緒に寝てる事、皆にバラしてやるぴょん!」

 

「!?ちょっと卯月!!それは話さないって約束…!!」

 

「そんな約束したぴょん?

 うーちゃん忘れちゃったぴょーん!」

 

 卯月は素早く立ち上がると司令室の戸を開き、一目散に部屋の外へと抜け出す。

 

「あ!卯月待ちなさい!!」

 

 

 逃げ出した卯月を慌てて追いかける弥生は卯月の後を追って司令室の戸に手をかけ、慌てて飛び出した時だった。

 

 

 

「ウッソぴょおおぉぉーーーーんん!!!!」

「キャア!!?」

 

 両手を目一杯広げて突然大声を出して現れた卯月。

 それに思わずびっくりした弥生は腰から崩れ落ちた。

 

 

「ぷっぷくぷーー!!!

 うーちゃんに騙されちゃったぴょーん!!」

 

 

 どうやら、卯月は部屋を飛び出してすぐに戸の横に陣取り、弥生が飛び出してくるのを見計らったようだ。

 こうやって、弥生を驚かせる為に。

 

 

「う、卯月ーー!!!」

 

 

 

 

 その後、怒り狂う弥生にしつこく追いかけ回された卯月が真っ暗になった中庭に飛び出した所で、艦娘寮から出て来た武蔵の雷が落ち、ようやく嵐が止まった。

 

 

「お前達今何時だと思っているんだ!!

 川内じゃあるまいし!!真夜中に騒ぐんじゃない!!」

「今アタシさり気なくディスられた!?」

 

「ぴょええ…ごめんなさいぴょんん…」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 

 

 武蔵にみっちり怒られた二人は、また俺の部屋にやってきた。

 

「司令官〜…。さっきはごめんなさいぴょんん…」

 

「騒がしくしちゃって、すみません」

 

「お、おう…」

 

 

 その後ろでは武蔵が仁王立ちで構えている。

 察するに、俺の部屋で騒いでた事がバレて直接謝罪をしろとでも言われたのだろう。

 

「相棒も気をつけるんだぞ。

 ただ甘やかすのは誰の為にもならないのだからな」

 

「あぁ、肝に命じる。いつもすまないな」

 

「いいという事だ。これも軍の秩序のため。

 お先に失礼するよ」

 

 

 武蔵が部屋を出て、寮へと戻るのを確認すると弥生と卯月の頭を撫でた。

 

 

「お前ら今日は同じ部屋で寝ること。

 朝までには仲直りしておくこと」

 

「ぴょん!?」

「え!?」

 

「これは命令だ」

 

 俺はもう一度二人を撫でてやると観念したのか、渋々といった様子で弥生は部屋の外へと出た。それに続いて卯月も部屋を出る。

 

「・・・弥生、さっきは嘘ついちゃってごめんぴょん」

 

「弥生も、ついカッとなっちゃって…ごめんなさい」

 

 

 

 うんうん、この調子なら心配いらなそうだな。

 

 

 

 そう結論付けることにした俺は、二人を部屋へと送ると、そのまま部屋で眠りについた。

 

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