「ンッフフ〜ン♪」
時刻はヒトヒトマルマル(午前十一時)
駆逐艦 五月雨は上機嫌で鎮守府の廊下を進んでいた。
行き先は同じ白露型の姉に当たる時雨ちゃんの部屋。
今日は白露、村雨、時雨、夕立、五月雨の白露型でお茶会をする約束をしているんです!
離れ離れだった姉妹と出会えたんですもの。
出会いを祝してちょっとしたお祝いを開いても違和感はないし、足取りだって軽くなります。
しかし、その軽い足取りが五月雨のドジを招いちゃいました。
コケッ
「ウワァッ!!!」
向かう道中、五月雨は一人で足を躓かせて派手に転んでしまいました。その時に少し膝小僧を擦り剥いてしまって、血が出始める。
「痛タタタ…!!だ、誰にも見られてませんよね…!?」
さりげなくあたりを見渡してみる。
あたりに自分以外の誰かがいる様子はない。誰にもこんな情けない痴態を晒さずにすんだことがせめてもの救いだと、大きく息を吐きました。
「うぅ…。白露に絆創膏もらわないと…」
今日のお茶会の目的が一つ増えた。
痛む足を抑えながら、五月雨は時雨ちゃんの部屋へと向かいます。
〜〜〜
予定より少し遅れてしまった。痛む足を気遣って、少し引きずりながらやってきたせいだろう。
「ごめんね、ちょっと遅れちゃいました…」
「あ、五月雨やっと来たー!!
…って、膝んとこ怪我しちゃってるじゃん!!
どうしたのよ!!」
部屋に入ると膝の怪我に気付いた白露がすぐに心配して駆け寄ってきてくれました。
「ちょ、ちょっと転んじゃって…絆創膏貰えませんか?」
「もぅー!仕方ないなぁ!!」
口ではそう言いつつも、白露ちゃんはなんだか嬉しそうに救急箱を引っ張り出します。
「白露、ここ一応僕の部屋なんだけど?」
「細かい事は気にしない!」
時雨ちゃんが不満そうに白露ちゃんを睨んでいます。
親しき仲にも…いや、姉妹艦の間にも礼儀あり。
どれだけ距離が近い方でも、人の部屋をそんなに漁るものではありませんからね。
時雨ちゃんの不満気な表情はもっともです。
「て、あれ?
もしかして絆創膏切らしてる?」
「あ、もしかしたらそうかも。
一昨日、翔鶴さんに使っちゃったからね」
「ヌアッ!!ダメだよ〜時雨!!
こういうのは常にいくつかストックしておくもんなんだから!」
「それはその通りなんだけど…、人の部屋を勝手に漁る子に説教なんかされたくないよ」
そりゃそうだ、と白露ちゃんと村雨ちゃんは笑った。つられて時雨ちゃんもはにかむように笑う。
「提督さんが持ってたりしないっぽい?」
「あ、そうだね。提督に聞いてみようか」
え?提督さん?
「え!?提督から頂くつもりなの!?」
「うん、持ってれば分けてくれそうなもんだよ」
「て、提督に失礼ですよ!」
でも、やはり提督からそういった施しを受ける事に慣れていない私達はやはり躊躇われます。
提督から絆創膏を頂こうなんて話に大湊組の私と白露ちゃん、村雨ちゃんは反射的に拒否しちゃいましたが、時雨ちゃんと夕立ちゃんは優しく笑顔を浮かべて大丈夫、と言ってくれます。
「平気だよ、僕達は顔に落書きした事だってあるんだから」
時雨ちゃんは恥ずかしそうに笑う。
「えぇぇぇ!!?それでもお咎めなしだったの!?」
「い、いや流石に怒られたよ…………夕立が」
「ぽい!ホントになんで時雨は怒られなかったっぽい!」
落書きがバレた日、時雨も共犯だと白状したのに、何故か夕立だけが提督にお仕置きの落書き返しをされた。
とはいえ、水性マーカーだらけの真っ黒な顔でなんだかんだ楽しそうに提督と夕立が一緒になって大笑いしていたのを時雨がちょっとだけ羨ましがってたという。
「ま、まぁそんな人だからさ、とりあえず訪ねてみようか。
提督ならイヤな顔はしないはずだから」
……正直、まだ少し怖いところがあります。
でも姉妹艦の時雨ちゃんと夕立ちゃんを信じて、私達は司令室へと向かいました。
〜〜〜
司令室へと、到着した私達。
まだ緊張した面の私達とは反対に、夕立ちゃんが待ちきれずに司令室に突撃していく。
「提督さーん!!」
「うぉ!?夕立か!ビックリした!!」
司令室の机を飛び越えて突撃する夕立ちゃんを軽々と受け止めて椅子の上で真正面から抱き合う提督。
ふ、普通あんな抱きつき方したら後ろに倒れると思いますけど…。
「いきなり突撃してくんなってば…!!」
「えへへ〜、ごめんなさいっぽい……っぽひッ!///
て、提督さん!!今お尻触ったっぽい!!」
「いっ!?バ、バレたか!!」
「むぅぅーー!!提督さんスケベっぽい!!」
さり気なく夕立ちゃんのスカートに右手を這わせる提督。
その手を捕まえた夕立ちゃんは少し赤い顔になりながら、プクーッと頬を膨らませて提督を睨みつけている。
怒った夕立ちゃんは提督のほっぺを左右に引っ張った。
「痛ててて!!!ごめんごめん!!」
「お仕置きっぽいぃ〜!!」
どさくさに紛れてお尻を触られた夕立ちゃんはご立腹の様子で、提督にお仕置きという名目で力任せにほっぺを引っ張り続けてます。
それでも提督さんの膝の上からはどこうとしないあたり、本気で怒ってる訳ではなさそうです。
さて、夕立ちゃんは私達もいる事をすっかり忘れてるみたいですね…。
見かねた時雨ちゃんが一つ咳払いをして、提督と夕立ちゃん二人だけの空気をリセットする。
「夕立、怒るのも分かるけど、今はそれよりも、」
「あ、時雨ごめんっぽい…」
夕立ちゃんはまだ座っていたいような、名残惜しい目をしながら提督のお膝元から離れた。
「突然押しかけちゃってごめんね。
それでなんだけど、提督は絆創膏とか持ってないかな?」
「お?あるけど…?」
「あ、よかったら一つ貰えないかな?五月雨が怪我しちゃってさ」
いいぞ、と一つ返事で提督は机の下に潜り込むと救急箱を取り出した。
普段から足元に置いているんだろう。
「はい、ついでだし、手当てしてやるよ」
提督の何気ない一言に思わず驚いた村雨ちゃんがすぐに反応しました。
「ふえっ!?さ!流石に、提督にそんな事は…!」
「いいっていいって。五月雨、怪我を見せてみろ」
「え!で、でも…!!」
「提督さんだから、怖がる事ないっぽい!!」
い、いやむしろ提督だからこそなんですけど…
「し、失礼しますね…」
五月雨は、提督の膝の上にチョコンと座りました。
提督はギョッとした表情になると、すぐに笑いをこらえるように肩を震わせ出す。
「え、えっと…五月雨?
俺は、椅子に座って欲しかったんだけど…」
提督が指差す先にはもう一つ椅子が置かれていました。
「はひゃっ!!!?ご!ごめんなさいぃ〜!!」
慌てて飛び出す五月雨。
でもついつい慌てすぎちゃって足元がおぼつかず、ついにはまた転んじゃいました。
さらにその時、机の上の書類を地面に散らばらせてしまいました!
「あああぁぁ〜〜〜!!!!!!
ほ!本当に本当にごめんなさいぃ〜!!」
「ハハハ!!!いいっていいって!!」
提督は怒る様子もなく、注意すらもせず…それどころか五月雨の頭を優しく撫でてくれました。
あ、あれ?
以前の警備府では拳骨が飛んできても可笑しくないのに…
「皆も拾うの手伝ってくれないか?」
「え?あ、は!はい!!」
白露ちゃんと村雨ちゃんも慌てて飛び散った書類をかき集めて、その中身を確認して種別毎に分別し出しました。
時雨ちゃんと夕立ちゃんもすぐに書類を拾い出し、二人して嬉しそうに微笑み合っています。
「お、怒らないのですか?」
五月雨は思わず口に出していました。
提督は少し微笑むと、もう一度五月雨の頭に手を置きました。
「うん、怒らない」
見上げた先に映るのは、優しそうな笑顔を浮かべる提督と私を撫でる大きくてゴツゴツしている男の人の手でした。
あぁ、本当だ。以前の警備府の提督とは全然違う。
本当に、優しい人なんだ。
以前も似たような光景を見た。
大湊の提督に戦場に送られて奇跡的に生還出来た日、よく生きて帰って来たな!と頭を撫でられた時です。
でも、あの時の提督の目は濁っていました。
次の戦場に送る駒が一つ増えた。だから褒めてくれた。
それだけだったんでしょう。
だから、あいつの手は心底気持ち悪かった。
たくさんの仲間を沈めて来たあいつの血みどろの手で触れられるのが、恐ろしくて敵わなかった。
でも、この人の手は違った。
同じ白い軍服。
同じ角度で伸びる手。
同じように見つめる顔。
なのに、違う。
この人になら、いい。
もっと触れてほしい。褒めてほしい。
五月雨はそう思った。
「あ、もちろん怒ってないけど、代わりにちょっとスカートめくってパンツ見せてほしいなって」
「神通さぁぁぁぁんんん!!!!!!」
「いや待って時雨!!!」
………訂正です。
ちょ〜〜っとだけ、提督さんに触られたくないなって思っちゃいました。
神通には見つからずに済みました。
やったね。