『青葉、見ちゃいました!』
重巡 青葉の代名詞とも言うべきこの言葉。
ついに舞鶴鎮守府でも青葉の口から出る事になったのだが、一体何故、一体誰に向けて言われたのか?
その成り行きを語るには少し過去に戻らなければならない。
〜〜〜
その日はとても暑い日だった。
あまりの暑さ故、熱中症になる事を心配した提督が、その日の任務は全て中止にし、皆それぞれの自由時間を楽しむ事になったのだが…。
「神通〜暑ちぃ〜…」
「…ふぅ、確かに暑いですね」
今日の秘書艦である神通と共に、司令室で提督が書類と向き合い、執務に取り組んでいた。
しかし、その執務室にはまだエアコンが配備されていない。
いまだ扇風機の風だけで耐え忍んでいるのだ。
ただでさえ海の近くで日が照りつけるため、熱されやすい鎮守府の環境。
別に何もしなくても汗が垂れてくる。
もはやサウナだ。
裸になってもまだ暑いと感じるレベルである。
「神通も付き合ってくれてありがとうよ。
でももう作業終わるし、先に部屋戻って涼んできな?」
この舞鶴鎮守府では、食堂や大広間、艦娘の個人部屋も含んだほぼ全部屋にしっかりとエアコンが配備されている。
が、修練場と司令室にのみ、エアコンはまだ配備されていない。
修練場はともかく、司令室にエアコンがない理由は単純に提督が後回しにしたから遅れてるだけだ。
そのため、エアコン無しで夏の日差しを直で受ける司令室はそりゃもう、ムンムンの熱気がこもってサウナ同然になっているのだ。
「お気遣いありがとうございます。
ですが、提督が苦しんでる中、秘書艦である私がのうのうと休む訳にもいきません」
(それに、提督と二人っきりの時間ですもの…)
「真面目だねぇ…。ちょっと待っててくれ。
これだけ終わったら食堂へ行こう」
提督は急ピッチで作業を進める。まだ暑さで集中が途切れてしまわないうちに、やれるところまではやっておきたいのだ。
〜〜〜
〜提督視点〜
「よっっしゃー!!!終わったぞー!!!」
「お疲れ様です。提督」
書類の山を片付けた俺に、冷たい麦茶を神通が差し出す。
嬉しそうに麦茶を受け取り早速口に運ぶと、いつの間にか自分が汗だくになっていた事に気が付いた。
自分でも気付かないうちに水分を失っていたのだな。こりゃ熱中症どころか脱水症状の危険もあるかも…。
ふと神通を見てみると、神通の額にも大粒の汗が張り付いてるのが見えた。神通の事だから自分の体調管理はしっかり出来てると思うのだが、こいつは隠れて無理をする癖があるからな。
「神通もありがとな。一緒に飯食いに行こうぜ」
「分かりました」
そう言った神通は、空になったコップを片付けようと俺に向かい手を伸ばす。
俺もついコップを差し出して神通に預けてしまったが、それがよくなかった。
神通といえどもやはり熱にやられてしまったらしく、コップを落として割ってしまったのだ。
「も!申し訳ありません!!」
「おっとと!!いいっていいって!!
塵取り持って来てくれ!
素手で触ったら切っちまうぞ」
「わ、わかりました!!」
二人で割れたガラスを片付けている時、神通の額からまた一つ汗が零れ落ちる。
神通の息も荒くなっており、心なしか、少し目の焦点が合っていないように感じる。
もしや、と思って神通の額に手を当ててみる。
「ひゃっ!て!提督!?」
「すごい熱だ…。少し休め。熱中症の可能性がある」
「そ、そんな事は…!」
「昔から自分の事になると鈍感な奴だったな。
早く服を脱げ」
「ふえぇっ!!?」
「ほら、これ水。間宮に連絡して氷も持って来てもらうか。
落ち着いたらエアコン効いたとこ移動するぞ」
「えぇ、あ、あゥぅ…!!」
神通に思わず服を脱げなどとセクハラでぶん殴られてもおかしくないセリフを吐いてしまった気が、今はそれを気にしない。
「ご、ご迷惑をおかけします…」
神通は観念したようで、自身の上半身のみ制服を脱ぎ、サラシ一枚の姿になって胸元に手を持っていく。
サラシを巻いていても胸元には確かな膨らみが…。
……前から思ってたけど、こうして見ると神通って意外とおっぱい大きいんだな…。
肌も綺麗だし、汗で張り付いた髪が妙にエロくて…。
……うん、今はそんな事言ってる場合ではないな。
だから治まれ、我が息子よ。
神通の身体が少しでも冷えるよう、冷やしてあった麦茶の容器を神通の脇に当てて動脈を冷やす。
神通はものすごく恥ずかしそうにしていた。
まぁ、汗かいた後の脇の下を異性に見られるなどうら若い乙女には耐えられんかもしれん。
だが今はそんな事言ってる場合ではないのだ。
「大丈夫か?気持ちいいか?」
「は、はい…(恥、恥ずかしい…)気持ちいいです。
でも、まだちょっと暑いです」
「分かった。
…ごめんな。俺がお前を付き合わせたばっかりに」
「いえ…、私が好きで側にいただけですから」
(多分、私は熱があるというよりは提督に急接近した事が原因で顔が熱くなってただけだと思いますけれど…。
だ、黙っておきましょうか。至福の時間ですし…)
熱中症になった(と思われる)神通を介抱する俺。
言われるがまま、半裸で介抱される神通。
そして、司令室の外。
カメラ片手にピンク色のポニーテールを揺らす一人の重巡の姿があった。
『青葉、見ちゃいました!』
〜〜〜
その日の晩、青葉は自室にこもって書面の制作に勤しんでいた。
「いやぁ〜、お昼はとんでもない瞬間に出くわしちゃいました!
前々から怪しいとは思ってましたが、まさか神通さんと司令官があんな関係だったとは!
これはすぐにでも記事にしなくてはいけませんね!」
青葉が向かい合うパソコンには『青葉は見た!提督と神通の禁断の関係!?』という表題である事ない事吹聴しまくったとんでもない記事が製作されていた。
表に出れば間違いなく提督と青葉の首が飛ぶであろう危険極まりない書面だ。
「やはりカメラはいつでも携帯しておくものですね!
っと、いけないいけない、忘れないうちに…!!」
青葉は鞄の中からビデオカメラを取り出し、中のSDカードを取り出してパソコンに繋げた。
カードの中には提督と神通が仲良くお茶を飲む写真、暑さに耐えながら二人で書類に向き合う写真だったりといった平和なものもあったが…。
青葉の目当ては暑さで顔が紅潮した神通に優しく手を当てる提督、提督の目の前で服を脱ぐ神通といったなかなか危ない写真の方だ。
「ンフフ〜!!
自分でもよくこの瞬間を収めたと言いたいですね!」
「えぇ、本当によく撮りましたね」
「はい!明日の青葉新聞は盛り上がりますね!
神通さんもそう思いませ…ん………、、、か?」
いつの間にか、青葉の自室に誰かが侵入しています…。
い、いえ…ついさっき名前言っちゃいましたし、後ろを振り向かなくても分かります。
この落ち着く綺麗な声と深海棲艦に向けるべき強烈な殺気は間違いなく神通さんです。
鎮守府最強の軽巡 神通さんです。
「さて、この新聞を一体どうするおつもりなんですか?」
震える青葉の肩に手が乗せられて無言の圧力が襲ってくる。
さっきから冷や汗が止まりません。
「あ、え、えぇ〜っと、これはですね…?」
「命が惜しいのでしたら、自分が何をするべきかは…お分かりですよね?」
「ご!ごめんなさいぃぃ!!すぐに写真消しますから!」
「いえ、消す前に一枚ずつ印刷して私に下さい」
「はいただいまぁぁ!! ……って、え?印刷?」
「はい、あなたがどんな写真を撮ったのかしっかり把握しなくてはいけませんからね。
撮った写真は全て印刷して下さい」
はえ?ど、どうして?
ま、まぁ、写真を印刷するだけならすぐに出来る。
言われるがまま、とりあえず一枚ずつ印刷して神通さんに手渡した。
「…はい、確かに。データは消しましたか?」
「はい!バッチリ消しました!!」
「そうですか。
…それにしても、本当によく撮れてますね。
写真に免じて、今回は見逃しますよ」
「は、はひ…」(コ、怖かったァ…)
神通さんは印刷した写真を大事そうに抱えると青葉の部屋からすぐに退出していきました。
そして、青葉の部屋から退出していった神通は部屋を離れて廊下を歩く最中、大事に抱えた写真の一枚を手に取る。
神通と提督が二人で書類に勤しむ写真だ。
ごく平和な一枚の写真で別になんの問題もない。
「……ッフフ、提督とのツーショット写真♪」
神通は嬉しさを隠し切れていない、少女全開の可愛らしい笑顔で自室へと向かった。
神通が青葉の部屋に現れたのは、青葉の盗撮現場を目撃した衣笠に告発された為。