「司令官がお望みならば、如月、頑張っちゃいますよ?」
聞くものが聞けば即憲兵事案になりそうな意味深なセリフを吐くのは睦月型二番艦の如月。
曲者揃いの睦月型の中でもある意味最強クラスの存在感を放つ彼女だが、この舞鶴鎮守府では提督の存在のせいでその誘惑キャラが薄くなりつつあった。
それを危惧したのか、元々の性格からなのか如月はとうとう俺の目の前でそんな危ないセリフを吐いた。襲われても文句を言えんぞ?
だが今この状況でならば、そんな事言われても全く気にならない。
え?どんな状況かって?それはな。
「うん、お望みだから早くジャガイモ切ってくれないか?」
「はーい♪」
厨房でカレー作ってる状況だ。
俺は如月、睦月と一緒に間宮の厨房を借りてカレーを作っていた。
大湊名物の海軍カレーの味がどうしても忘れられず、間宮の手を借りながらよく作りにきているのだ。
正直あの味の完全再現をする気ならば、間宮に食材を渡したらそれで終わりなのだけれど、間宮が作るのではなく自分で再現してこそ意味があるというもの。
で、ほんの気まぐれでカレーを作ってたら如月と睦月に見つかり、こうして一緒にカレーを作ってるというわけだ。
「にゃ〜、提督ぅ…タマネギ代わりに切ってくれないにゃしぃ…?」
「さては目に染みたな?ちょっと泣いてんじゃねぇか」
涙目になった睦月に代わってタマネギを切ってやる。俺も少し目に染みたが、睦月が大方切ってくれてたので被害は少なくて済んだ。
「えへへ…!提督大好きにゃしぃ!!」
「およ?俺も大好きだぞ!」
「あれあれ〜?睦月ちゃんったら司令官の事狙ってるのかしら?」
「っ!!?そ、そんなつもりはないにゃあ!!」
如月のからかうような言動に振り回される睦月。
どちらが姉だか分かりゃしない。
いやしかし…こうしてしばらく二人の料理過程を見ていたが…。
睦月は料理苦手そうだけど、如月は中々手際いいな。
こうして睦月をからかってる合間にもずっとジャガイモを細かく切り分けて作業をすすめている。なんとなくのイメージ的にそうなんじゃないかと思ってたけど、やっぱり料理上手なのかな?
「次はにんじんだな。睦月やってみるか?」
如月は料理が出来るようだし、しばらくは放っておいても大丈夫そうだ。
如月には悪いけど、料理に慣れてなくて危なかっしい睦月の方を注意する事にした。
今まで見てた感じ、睦月も料理に慣れていないだけで手先自体は器用なものだった。教えた事はすぐに実践し、他の作業をする如月や俺の邪魔にならないように位置取りを考える余裕もある。
包丁の持ち方はまだまだ危ないので見ていなきゃだが。
「ど、どうやって切ればいいの?」
「まず半分に切ってだな。
その後は平らな面を下にして、一口サイズの細かい形に適当に切ってけばいいぞ」
いわゆる乱切りというやつだ。
「一口サイズ…。司令官の口はどの位のサイズにゃ?」
「え?いやいや俺じゃなくて睦月のサイズでいいんだぞ」
「ダメにゃしい!睦月は司令官に食べてほしいから司令官のサイズじゃないとダメにゃしい!」
………え?天使がいるんだけど?
「俺の口は苺一粒位だ。
なんなら直接手を突っ込んで測ってくれても」
「それは遠慮するにゃし」
食い気味に断られた。
そして睦月が適当ににんじんをカットしてる横で、如月もジャガイモを切り終えたようだ。
すると如月は男を誘惑するような流し目で俺にすり寄るとカットされたジャガイモの一番小さいサイズのモノを手に取り、俺の口元にまで持ってきた。
「司令官〜?はいあーーん♡」
駆逐艦でありながら妙に艶めかしい雰囲気を纏う如月がイタズラな笑みを浮かべて少しずつ距離を詰めてくる。
もうはっきり言おう。エロい。
男を騙すような怪しい目つきがエロい。
若干はだけた胸元から覗くピンクのブラがエロい。
普通にしたら届かないから一生懸命背伸びして俺の口元に手を伸ばす姿がエロい。
あぁ、ここに睦月がいなければすぐさまベッドに連行してやって『お前をあーーん♡してやるぜぇ…!!』になるところだ。
睦月、よくやったな。
お前のおかげで妹は純潔を散らさずにすみそうだ。
もちろん、そんな事毛ほども考えていない睦月はすぐ隣でひたすらにんじんを切り分けている。
あぁ、片方は睦月という名の天使。
かたや片方は如月という名の小悪魔。
同じ睦月型の姉妹なのに何故こうも違うのか。
まぁどっちもクソ可愛いんだがなぁ!!!
「お、サンキューな。如月」
思わず飛びかかりそうになった自分を理性で抑え込み、如月が指でつまみ上げていたジャガイモを口でそのまま受け取った。
「ッハハ!流石にちょっと硬いな」
如月が手渡しでくれたジャガイモは食べやすい大きさにカットされていても、やはり炒める前だと少し硬かった。
あれ?そういや洗浄されてるとはいえ、ジャガイモって生で食って大丈夫なのかな?
まぁ胃に入れば一緒だし大丈夫だろ。
「うぁ……ッハ…ァ…え?」
?
ふと如月を見ると様子がおかしい。
息してるかも怪しいくらい硬直してしまってる。なんだか顔も赤いし、気のせいか汗もかいている。季節は夏だし、暑さにやられたか?
「どうした如月?熱でもあるのか?」
「ヘェッ!!?ダダダ!!だ!大丈夫です!!」
いや大丈夫ではなさそうだが。
「おいおい大丈夫か?
医務室行ってくるか?」
「ほえぇっ!!?大丈夫です!大丈夫ですからぁ!!」
そ、そうか…?
でも神通のように無理して熱中症になられても困るしなぁ。
せめて水くらいは取らせてやるか。
「じゃあせめて水だけでも、な?」
「あ、あぁ…そ、そうですね。いただきます」
と、冷蔵庫からペットボトル入りの水を取り出した俺は如月を見てふと思いついた。
「あ、俺が飲ませてやろっか?」
「にゃひぃ!?司令官がですかぁ!!?」
にゃひぃって…睦月かお前は。やっぱり姉妹だなぁ…。
「さっきお前が食わせてくれたからな。お返しだよ」
「だ、大丈夫です!如月は一人で飲めますから!」
「ダメだ。俺だってさっき恥ずかしかったんだから、お前だってやってもらう」
「う、ウソォ…」
如月は観念したようで恐る恐る口を開けた。
如月の口内はとてもキレイなものだった。
整った歯並びに磨き残しのない白い歯。ピンク色の舌が恥ずかしそうに左右に動く。そして何より、だ。
如月自身が熱中症(?)になっているせいなのか、単に赤くなってるだけなのかは不明だが、赤く染まった頬と目元を潤ませてこちらに口を大きく広げる如月の姿はなんというか…官能的というか、いかがわしい事してる気分になるというか…。
うん、彼女の口に指…じゃなくて、俺の主砲を(殴
「はいあーーん♡」
わざと如月の言い方に寄せて口にペットボトルを咥えさせた。誰にも支持される事のない萌え声であろう。
如月はそれをンッ、ンッ、と艶めかしい声を出しながら飲む。
その姿を見て俺はつい口に出してしまった。
「いや、エロ」
「ングゥッ!!ッゲホ!!!ゲホ!!!!」
如月が思わず咳込んでしまった。
申し訳ない事をした。
「ごめんごめん!!大丈夫か!?」
「ウ、ウゥゥッ…!!!」
如月が口元を抑え、涙目で俺を睨みつける。
さ、流石に怒ったかな…?
なんか俺がヤらしい事した後みたいな雰囲気になってるけど水飲ませただけだからね?
「シ…司令官の…!!
司令官のエッチイイィィィーーー!!!」
如月はそのまま厨房から出ていってしまった。
残されたのは呆然とする俺と、にんじんを切り終えたので次の指示を待っている睦月の二人となった。
「……提督。如月に何したの?」
「いや、水を飲ませただけなんだけど」
まだカレー完成してないのに、如月は出ていってしまった。あの様子ではもう戻ってこなさそうだ。
仕方ないのでカレー作りを再開することにしたが、その前に一つ言っておきたいことがある。
「エッチなのはお前じゃああぁぁァァァァァ!!!!!」
俺はエッチではない!俺はスケベなのだ!!
その日の夕食は睦月特製の海軍カレー(甘口)でした。