「う〜〜〜ん」
球磨は悩んでいたクマ。
悩みの種は姉妹艦である多摩だクマ。
一ヶ月前、提督からの連絡で遠方海域にて妹がドロップしたと聞いた時は思わず心躍ったクマ。
提督も気を利かせてくれたのか、多摩の教導艦に球磨を指名してくれたクマ。
ただ、任せてくれたはいいんだけど少し問題も起きたクマ。
今日も今日とて、その問題を解決する為に昼の明るいうちからずっと部屋に引きこもって出てこない多摩の個人部屋の前にやってきたクマ。
部屋の前に到着し、荒い鼻息を一つ吐く。
今日こそはと強い決意を胸に、大きく息を吸ってデカい声を上げた。
「お〜〜い!多摩〜!!昼飯食いに行くクマー!!」
「にゃ〜。後で行くから、球磨姉は先に行っとくにゃ〜」
「おめぇ昨日も一昨日もそう言って姉ちゃんが飯食い終わってからノコノコとやって来やがったクマ!!
今日こそは姉ちゃんと一緒に飯食うクマ!!分かったらさっさと出てくるクマ!!」
そう。
問題とは、多摩と何か行動を共にした事が一度もない事クマ。
もちろん教導艦として接してる以上は普段の訓練や座学みたいな、任務上での付き合いは当然行っているクマ。
でもその程度の上辺っ面の付き合いだけクマ。
多摩はそれ以上の関わりを何故か持とうとしてくれないクマ。いやもちろん絶対に皆と仲良くしなくちゃいけないとかそういう訳ではないクマ。
ただ、同じ鎮守府で三食を共にする仲間クマ。
仲のいい友達や関わりの深い仲間位は作っておかないと、自分が生活し辛くなるだけクマ。
特に、球磨なんかはただ一人の姉ちゃんなんだクマ。
せめて心くらいは開いてほしいクマ。
姉ちゃんだって、妹に嫌われるのは寂しいんだクマ。
「多摩の方から出てくるまで姉ちゃんタコでも動かねーぞクマ!!
分かったら今すぐ出てくるクマァ!!!」
「球磨姉、タコじゃなくてテコにゃ」
「うるせークマ!!!」
しっかり揚げ足は取りやがってクマ!!
「にゃ〜…。分かった分かったにゃ〜」
こうなった姉は意地でも意見を通そうとする事を知る多摩は観念したのか、意外にあっさり部屋を出てきた。
出てきた多摩の姿は粗末なもので、制服は乱れて髪もボサボサ。目元は半分閉じかかっており、明らかについさっきまで昼寝をしていた奴の特徴だ。
「姉ちゃんがまじで怒る前に出てきたのは褒めてやるクマ!!」
「もうすでに怒ってるにゃ」
「うるせークマ!!!」
半分寝ている多摩を先導し、二人で間宮食堂へと向かうクマ。
間宮食堂に到着するとそこはいつものように賑わっていたクマ。ウキウキしながら注文する者や雑談に華を咲かす者。
タイミングがよかったようで注文口は空いていた。相変わらず眠たそうな多摩と一緒に並んで今日の日替わり定食であるアジフライを注文する。
「少々お待ち下さいね」
間宮はここで料理をする事が本当に楽しいようで、任務終わりの艦娘達にわざわざ手作りのお饅頭を持ってくる事さえあるクマ。
意外にも、提督へ要望した回数が最も多いのは間宮だそうクマ。
要望内容は全て不足する調理器具の調達。
提督も間宮の料理熱心な姿には感服し、ものの一日で全て取り揃えたクマ。調理器具が揃ったおかげで間宮の料理の味とスピードは格段に上がった。それは他の艦娘達にも好評だったみたいでたくさんの『ありがとう』が提督に届いたみたいで、大層喜んでいたクマ。
多摩と一緒に今日の日替わり定食のアジフライを食べる。
サクサクとした衣に味のしっかり染み込んだ身がついて文句なしに美味いクマ!
多摩は魚が好物だという情報は間宮から入手済みクマ!
こんな美味えモン食った日にはいくら多摩といえども、満開の笑顔に…
「球磨姉、多摩は眠いにゃ」
ならなかった。
「おめぇ最近寝過ぎだクマ!!一日中寝てんじゃねぇかクマ!!」
「一日は言い過ぎにゃ〜…。
多摩だってちゃんと働いてるにゃ」
「最近はどこ行ったクマ!!」
「川内に連れられて夜戦行ってたにゃ」
「姉ちゃんが悪かったクマ。存分に寝てこいクマ」
「そうするにゃ」
まさか夜戦明けだったとは知らなかったクマ。そ、そういえばここしばらくは夜戦が確かに多かったクマ。
もしかしてそのたびに多摩はメンバー入りしてたクマ?
だとすると姉ちゃんはここ三日間は夜戦明けでグッスリ眠っていた多摩を無理矢理叩き起こしていた事になるクマ…?
い、いや適当な事言って抜け出す為に多摩が姉ちゃんに嘘ついてる可能性もあるクマ。
「夜戦があったなんて知らなかったクマ。ごめんクマ。
今日は姉ちゃんが変わってやるから、多摩は眠っとけクマ」
もし多摩が嘘をついていて夜戦に行っていないとするならば、多摩と交代するなんて言った姉ちゃんを止めようとするはずクマ。
化けの皮をはがしてやるクマ!!
「提督がいいって言うならお願いにゃ」
〜〜〜
「構わないぞ。そろそろ多摩には休暇をとらせようと思ってたしな」
「………提督。
多摩はいつから夜戦してんだクマ」
「え?五日前」
ちょうど姉ちゃんが誘い始めた位にドンピシャクマ。
「………最近、多摩の調子は悪そうだったクマ?」
「あぁ、確かにそういう報告は上がってきてたな」
………多摩。ごめんクマ。
知らなかった事とはいえ、夜戦明けで眠たかったであろう妹を毎朝叩き起こしていた事実が中々応えた球磨はお詫びも兼ねて一日だけ多摩と交代する事になった。
おかげで今日一日気持ち良く眠れる事となった多摩は再び引きこもると、そのままうんともすんとも言わなくなった。
文字通り、死んだように眠っているのだろう。
「うぅ〜!!やらかしちまったクマ〜…!!」
「さっきから浮かない顔だけど、何かあったの?」
第三者の目には球磨が落ち込んでいるように見えたのだろう。
球磨と同じく、夜戦の部隊の一員である嵐が球磨の独り言に反応をした。
駆逐艦に心配をかけてしまうとは、一生の不覚クマ。
「ちょっと多摩と上手くいってなくてな。
というか、嵐が夜戦に参加してるのは意外だったクマ」
「あ、あぁ〜…。そりゃ、川内さんに言われちゃな…」
嵐はチラリと前方を見る。
視線の先では川内が陣形の事など考えてもおらず、自由気ままにそこら中を駆け回っていた。
「フウゥゥーー!!!
やっぱり夏といえども夜の海上は冷えるねぇ!!」
「せ、川内さん!!せめて隊列は乱さないように…」
「へーきへーき!!
さっと見た感じ、周囲に敵影は確認出来ないから!」
「そ、そういう問題じゃないですよ!!
連携も出来なくなりますし、士気にも関わってくるんですから!」
五月雨の言葉も届かない。夜間だというのにも関わらず、限界をぶち破った川内のテンションは止まることはない。
多摩は毎日このテンションに付き合っていたクマ?
こんな疲れそうな奴と毎夜一緒にいたんだったらそりゃ死んだように部屋で眠るクマな。そして球磨はそんな多摩を叩き起こしてたんだクマな。
多摩への罪悪感がさらに強まった。
「夜戦の時、多摩は疲れてる感じじゃなかったクマ?
だとしたらそれは球磨のせいクマ。
球磨が多摩を毎日叩き起こしてたから…」
すると、嵐は少し納得したように首を縦に振った。
「確かに疲れてる感じだったな。
まぁ、それは皆一緒だったし、大して気にしてなかったよ」
「主にあれのせいで…」と、一言付け足すと嵐は川内の方を睨んだ。とはいえ、肝心の川内は視線に気付かなかったようで変わらず楽しそうに先導を続けていた。
その時、横で航行を続けていた野分が不思議そうに首を傾げた。
「どちらかと言うと、多摩さんは元気な方でしたよ?
それこそ球磨さんのお話をよくしてますね」
「んなっ!?その話詳しく聞かせろクマ!!」
「うわっ!!?びっくりするじゃないですか!!」
野分は吹き飛ぶ勢いで詰め寄ってきた球磨に思わず取り乱すが、すぐに自分を取り戻してポツリポツリと語り始めた。
「今日は球磨姉が部屋に起こしに来てくれた、とか球磨姉が多摩の分まで昼食頼んでくれてた、とか。
本当に球磨さんの事が大好きなんだなぁ…って思います」
「……ッフフフ。そうかそうか…!!
つまり多摩は姉ちゃんの事を嫌ってる訳じゃないクマな!?」
「あ、あぁ…まぁそれは確実でしょうけど」
思わずガッツポーズを決めた。
妹相手に慣れないご機嫌取りを続けてきた甲斐があったってもんクマ!!
その日、元々やかましい軽巡とテンションの上がった軽巡は夜戦終了後、何故か砲撃を鎮守府上空に向かって行った。
爆散した砲弾の音は鎮守府中の艦娘達を寝不足に陥らせる事となった。
〜後日〜
「多摩〜!!起きるクマ!!
昨日はよく寝てるはずだから起きてんのはバレバレだクマ!!」
いつものように球磨は多摩を起こしに部屋の戸を叩いた。
だが、心の持ちようは普段とは違うクマ。昨夜、野分が言ってたことが本当ならば、多摩は姉ちゃんに少なからず心を開いてくれているという事クマ。
今は態度に出ていないだけなのかもしれない。だからこそ、やる事は今までと変わらないクマ。
時間をかけていくクマ。
そしていつの日か、球磨と多摩だけじゃない。
球磨型姉妹全員で、同じ釜の飯を食う事。
それが、姉ちゃんの夢なんだクマ。
その日はすぐに多摩が部屋から出てきた。
球磨の上機嫌な顔とは打って変わって、普段の比じゃないくらい不機嫌な顔で。
「ク、クマ…?な、何怒ってんだクマ?」
「球磨姉がうるさくて…眠れなかったんだにゃ…!!!」
多摩の声には明らかな怒気が含まれていた。
そして、その手には展開された艤装の砲塔が…。
「た、多摩…?
なんで姉ちゃんに砲口向けてるクマ…?
向けるのは提督だクマ?」
司令室からくしゃみが聞こえたような気がした。
「フシャアァァァァーーー!!!!」
「なんでだクマアァァーー!?!??!?!」
多摩の砲撃を直撃した球磨は修理ドックへ放り込まれる。
そして、多摩を含む、舞鶴鎮守府の艦娘達が昨晩散々悩まされた球磨と川内の砲撃音や騒音もない静かな環境の中、一人ドックに浸かる球磨は気持ちよさそうにいびきを掻くのであった。